「慰謝料は離婚をすると必ずもらえるもの」と思っている人もいますが、離婚をしても慰謝料をもらえないケースはあります。本稿では、離婚の慰謝料を請求できるケースとできないケースについて解説します。加えて、慰謝料の相場や請求方法についてもお伝えします。

監修:弁護士 白谷 英恵

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離婚の慰謝料とは?

離婚の慰謝料とは、離婚によって受けた精神的苦痛に対する賠償金のことです。「精神的苦痛を受けた人」が「離婚の原因を作った人」に対して請求できます。

「慰謝料は女性が受け取るもの」と誤解されているケースもありますが、そのような決まりはありません。妻が離婚の原因を作った場合は、夫から慰謝料を請求されることもあり得ます。

離婚の慰謝料を請求できるケース・できないケース

離婚の慰謝料は、離婚に伴って必ず発生するものではありません。場合によって、請求できるケースとできないケースがあります。本章では、それぞれのケースについて具体的にお伝えします。

離婚の慰謝料を請求できるケース

離婚の慰謝料を請求できるのは、以下のようなケースです。

不貞行為
DV(身体的な暴力)
モラハラ(精神的DV)
悪意の遺棄
性交渉の拒否

それぞれについて詳しく説明します。

・不貞行為
不貞行為とは、いわゆる不倫のこと。つまり、婚姻関係にある人が第三者と性交渉などを行うことです。ただし、不貞行為がある前から夫婦関係が破綻していた場合には、慰謝料を認められないこともあります。

・DV(身体的な暴力)
DVで慰謝料が認められるのは、継続的かつ重度の暴力があった場合です。逆に、夫婦喧嘩の際に1回平手打ちをされたことがあるという程度の暴力では、慰謝料が認められることは難しいかもしれません。

・モラハラ(精神的DV)
モラハラとは、相手を精神的におとしめることです。こちらも継続的に行われているケースでは慰謝料が認められる場合があります人格を否定するような暴言を日常的に繰り返したり、1日中電話やメールなどをして束縛したりといった行為がモラハラにあたります。

・悪意の遺棄
悪意の遺棄とは、正当な理由なく夫婦としての義務を果たさないことです。「生活費をわたさない」「健康なのに働かない」「働かず、家事や育児にも協力しない」といったケースが該当します。

▶悪意の遺棄について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
弁護士が解説|悪意の遺棄とは?

・性交渉の拒否
性交渉についての考え方や事情は夫婦によっても、個人によっても異なるものです。当然、法的に一律の基準があるわけではありません。しかし、法的な離婚原因として認められる場合もあるため、性交渉の拒否に対して慰謝料を請求できることは知っておきましょう。

離婚の慰謝料を請求できないケース

一方、離婚の慰謝料を請求できないケースもあります。

性格の不一致
自分が離婚原因を作ってしまった場合

ひとつずつみていきましょう。

・性格の不一致
性格の不一致を理由に離婚するケースでは、「どちらか一方が悪い」と法的に判断することはできません。そのため慰謝料の請求はできないとされています。

・自分が離婚原因を作ってしまった場合
自分が離婚原因を作ってしまった場合も、慰謝料を請求することはできません。むしろ、自分が請求される立場になってしまいます。

なかには、自分が離婚原因を作ってしまったが、その原因を作ったのが配偶者だったというケースもあるかもしれません。たとえば、自分が不貞行為をしたのは事実だけれど、その原因となったのは配偶者からのモラハラだったといったケースです。このような場合は、相手から慰謝料を請求されるかもしれませんが、自分からも慰謝料を請求できます。

離婚の慰謝料の相場はどのくらい?

裁判所で判断される離婚の慰謝料の相場は10万円~300万円程度です。ただし、離婚原因によっても相場に差があります。以下の表に原因別の慰謝料相場をまとめました。

原因 慰謝料の相場
不貞行為 50万円~300万円
DV・モラハラ 10万円~300万円
悪意の遺棄 数十万円~300万円
性交渉の拒否 0円~100万円

表を見ると、同じ原因であっても慰謝料の相場に幅があるのがわかります。慰謝料の相場は、法律で基準が定められているわけではありません。それぞれの事情を考慮し個別に判断されることになるため、同じ離婚原因であっても受け取れる慰謝料に幅があるのです。

なお、請求する慰謝料に限度額はありません。請求者が自由に金額を決められます。

しかし、あまりに高額な慰謝料を請求してしまうと、金額の決定までに時間がかかってしまい、なかなか離婚できないといったことも考えられます。無用なトラブルを避けるためにも、離婚の慰謝料の相場を知っておくことは大切です。

子どもがいるなら慰謝料とは別に養育費を請求できる

離婚時点で社会的・経済的に自立していない子どもがいる場合、慰謝料とは別に養育費も請求できます。そもそも養育費とは、子どもの衣食住に必要となる費用や教育費、医療費などの子どものための費用です。親権者であるか否かに関係なく、親であれば支払う義務があります。

養育費は、離婚で受ける精神的苦痛を賠償する慰謝料とは意味が異なりますので、子どもがいる場合は慰謝料とは別に請求できることを頭に入れておきましょう。

もしかすると相手から「養育費は支払うが慰謝料は支払わない」と言われることがあるかもしれません。しかし、養育費と慰謝料は別ものです。養育費を支払えば慰謝料が免除されるわけではありません。相手の言い分を鵜呑みにするのではなく、正しく判断することが必要です。

離婚慰謝料の請求には「証拠」が重要

慰謝料を請求するには「証拠」が重要な役割を果たします。それは、慰謝料を請求する際に、離婚の原因が事実であることを証明しなければならないからです。離婚原因別の証拠例を以下の表にまとめました。

離婚原因 証拠の例
不貞行為 ・ラブホテルに出入りしている写真・動画
・肉体関係があったことを示す写真、メール、LINE、SNSなどのやりとり
・ラブホテルの領収書
・友人らの証言を記録した音声
・不貞行為を自白した際の音声
DV・モラハラ ・DVやモラハラの状況を記録した動画、音声
・DVによるケガを治療した際の医師の診断書
・警察などへの相談記録
・行われた日付や被害の内容を記録した日記、メモ
・第三者の証言を記録した音声
悪意の遺棄 ・生活費を渡していないことがわかる家計簿、銀行の通帳
・「なぜ急に出て行ったの?」などと聞いているのに、まったく返事がないメール、LINEの履歴
・悪意の遺棄の内容を記録した日記、メモ
性交渉の拒否 ・性交渉を拒否する言動を記録した音声
・最後に性交渉を行った日付の記録
・配偶者と性交渉について話し合った内容を記録した日記、メモ

上記の例からもわかる通り、スマートフォンなどで撮影した写真や動画、音声などのデジタルデータも証拠となります。けれども、デジタルデータは加工や編集が簡単にできるため、証拠としての力は弱い場合もあります。

デジタルデータを証拠とする場合は、スマートフォンの画面を別のカメラで撮影したり、音声データを別のレコーダーに録音したりすると、証拠としての力が強くなります。

離婚の慰謝料を請求する方法について

本章では、離婚の慰謝料を請求する方法について、以下の3つの場合にわけてお伝えします。

・話し合い
・離婚調停
・離婚裁判

話し合い

通常、夫婦で離婚について話し合う中で、慰謝料についても協議します。慰謝料については、以下のような内容を話し合います。

・慰謝料の支払いに応じるか否か
・慰謝料の金額
・慰謝料を支払う方法

これらについて夫婦間で合意できれば、慰謝料に関する話し合いは完了です。なかには、分割での支払いや、現金以外の資産での支払いに応じることが必要なケースもあります。

夫婦の話し合いで合意できたら、トラブルを防ぐためにも、合意の内容を書面に残しておきましょう。可能であれば、公正証書にしておくことをおすすめします。強制執行認諾文言付き公正証書を作成しておくと、相手が慰謝料を支払ってくれない場合に強制的に回収できます。

ちなみに公正証書とは、公証人に作成してもらう公文書です。合意内容を記した書面を公正役場に持参すると作ってもらえます。作成には費用と時間が必要ですが、トラブルを防ぐ法的効力がありますので、検討してみるとよいでしょう。

▶公正証書についての詳しい内容は、こちらの記事をご覧ください。
公正証書の作成方法|作成のメリットと流れを弁護士が解説!

なお夫婦の話し合いで、離婚については合意できたものの慰謝料について合意できなかった場合は、裁判所に慰謝料請求を提訴することができます。裁判となると法的な知見が必要ですので、弁護士など専門家への相談も検討する必要があるでしょう。

離婚調停

夫婦の話し合いで、慰謝料についてだけでなく離婚についても合意できない場合は、離婚調停の手続きを行うことになります。調停では、調停委員が夫婦それぞれから話を聞き、お互いが納得できるよう落としどころとなる解決を探ります。

調停で慰謝料について決める場合は、調停委員に自分の主張を伝えることが必要です。主張を認めてもらうには、相手が離婚原因となる行為を行ったことを証明しなければなりません。証拠を集めておくと有利でしょう。

離婚裁判

離婚調停が不成立になった場合は裁判を起こし、離婚をするのかどうか、またその条件についても裁判所に判断してもらうことになります。そうなると、調停のときよりもより厳格な立証が求められます。専門家である弁護士に依頼するのもひとつの方法です。

慰謝料の請求には「時効」がある

慰謝料請求の時効は離婚成立から3年です。慰謝料を請求しないまま離婚をしたとしても、離婚から3年以内であれば元配偶者に慰謝料を請求できます。

ちなみに不貞行為があった場合には、不倫相手にも慰謝料を請求できます。不倫相手への慰謝料請求は、「不貞行為があったこと」と「不倫相手の名前や住所」を知ったときから3年というのが原則です。

不貞行為があったことに気付かなかったり、なかなか不倫相手を特定できなかったりするケースでは、不貞行為があった日から20年は慰謝料の請求が可能となっています。

離婚の慰謝料で悩んだら専門家へ相談してみよう

離婚の慰謝料相場や手続きなどをお伝えしてきましたが、「よくわからない」「難しい」というのが正直な気持ちかもしれません。法律が深くかかわることですので、そのように感じるのも当然でしょう。困った場合は、1人で抱え込まず、専門家である弁護士に相談してみるのもひとつの方法です。新たな人生を前向きにスタートさせるためにも、自分が納得できるよう行動してみてください。


白谷 英恵

【監修】白谷 英恵
弁護士。神奈川県弁護士会所属。同志社大学商学部卒業、創価大学法科大学院法学研究科修了。離婚・男女問題、相続問題などの家事事件を中心に、交通事故や刑事事件など、身近な法律問題を数多く取り扱う。家事案件をライフワークとして、役所での女性のための相談室の法律相談員や弁護士会での子ども人権相談の相談員、相続セミナーなどにも積極的に取り組む。

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