これまで支援が行き届きにくかった「未婚の母」も、制度改正などで利用できる公的な支援の幅が広がりました。どんな支援を受けられるのか、離婚してシングルマザーになった方とは違う、「未婚」シングルマザーの支援制度のポイントについても解説します。

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「未婚の母」は増えている?

厚生労働省では、全国の母子家庭に「母子家庭になった理由」について調査しています。直近20年ほどのデータを見ると「未婚の母」と答える人の割合が増加傾向にあることがわかります。「離婚」が横ばい、「死別」が減少傾向であるのと対照的です。

▽母子家庭における「未婚の母」の割合

(画像=厚生労働省「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」をもとに筆者作成)

全国の母子家庭の数は約123万世帯と推計されていますので、その8.7%=約11万人が「未婚の母」ということになります。未婚のシングルマザーが増えていることで、そういった家庭に対する支援制度も見直され、少しずつ拡充されつつあります。

 

子育てのための支援制度

子育てはただでさえ大変なことが多いものです。さらにシングルマザーとなると、家事も仕事も育児も1人でこなす必要があったり、子どもが小さいと働きに出にくく収入が低かったりして、日々の暮らしに余裕がないという方も少なくありません。

未婚のシングルマザーは年齢が若い方が多いこともあり、特に経済的に困窮しやすい状況にあります。そんな状況を乗り越えられるようにするため、国や自治体などはさまざまな支援を用意しています。

ただ、自分で申請手続きをしないと使えない支援も多いので、積極的に情報を集めて行動することが大切です。未婚のシングルマザーが受けられる可能性がある支援には、次のようなものがあります。

ひとり親でなくても対象になるもの

まずは、ひとり親でなくても「親」であれば受け取れる可能性がある給付や手当をご紹介します。

・出産育児一時金
出産したとき、健康保険から42万円が受け取れて、出産時の病院の支払いに直接充てることもできます。出産時の費用は病院にもよりますが40万円〜50万円が平均ですので、この一時金でほぼまかなえるかもしれません。

・出産手当金
出産で会社を休んだら、お給料の約3分の2程度を、健康保険から受け取れます。出産日以前42日〜出産の翌日以後56日目までが対象です(双子以上の場合はさらに長くなります)。派遣社員やアルバイトで働いている場合も条件を満たせば受給対象になります。

・育児休業給付金
出産後、育休を取ったときも雇用保険から給付金を受け取れます。手続きは原則として勤務先が行うので、問い合わせてみましょう。金額の目安はお給料の67%(育休開始から半年後以降は50%)で、受け取ったお金には税金がかかりません。健康保険料や厚生年金保険料の支払いも免除されます。

・児童手当
子どもが中学校を卒業するまでもらえる手当です。お住まいの自治体に「認定請求書」を提出、申請します。3歳未満の子は1ヶ月あたり1万5,000円、3歳〜小学校修了までは1万円(第3子以降は1万5,000円)、中学生は1万円です。毎年6月、10月、2月に支給されます。

ひとり親なら対象になるもの

次は、「ひとり親」なら対象になる支援制度です。離婚、未婚、死別などの理由を問わず、親が1人の場合は次のような給付や手当が受けられます。

・児童扶養手当
児童手当とは別に、ひとり親家庭に支給されるのが「児童扶養手当」です。お住まいの自治体に申請をします。金額は収入や子どもの数によって異なりますが、子どもが1人の場合は最大で月額4万3,160円支給されます(2020年4月現在)。

・ひとり親世帯臨時特別給付金
児童扶養手当を受け取っている家庭や、新型コロナウイルスの影響で収入が激減したひとり親家庭などを対象に支給されます。児童扶養手当を受給していれば、別途の申請は不要です。収入が激減した人は申請することで5万円が受け取れます。

・母子家庭自立支援給付金
シングルマザーのスキルアップや就業を支援するための給付金です。対象の教育訓練を受けるとその経費の60%が支給される「自立支援教育訓練給付金」、そして、看護師や介護福祉士などの資格を取るために学ぶ場合に支給される「高等職業訓練促進給付金」の2種類があります。後者は最大で月14万円受け取れます。

実施主体は各都道府県・市・福祉事務所設置町村となります。受給のためには対象となる訓練などを事前に相談するとよいでしょう。

・ひとり親家庭高等学校卒業程度認定試験合格支援
高卒認定の試験合格を目指す講座の受講費用をサポートしてくれる制度です。ひとり親家庭なら親も子も対象になります。金額は受講費用の4割、合格時には受講費用の2割、合計6割(最大15万円)までサポートしてもらえます。こちらも母子家庭自立支援給付金と同様、実施主体は各都道府県・市・福祉事務所設置町村となります。

・母子父子寡婦福祉資金貸付金
この制度を使えば、無金利または低金利でお金を借りることができます。たとえば事業開始資金、進学資金、スキルアップ資金、医療介護の資金などに利用でき、内容によっては数百万円単位での貸付も可能です。全国の都道府県、指定都市又は中核市にて実施しているので、お住まいの自治体に問い合わせてみましょう。

・住宅に関する支援
自治体により内容が異なりますが、ひとり親のための住宅手当や、県営住宅や母子生活支援施設などに安く入居できる制度があります。家賃の支払いが厳しいという方は住んでいる自治体のホームページや広報誌などでチェックしてみましょう。

自治体によっては、このほかにも親も子も対象になる医療費の助成や、ベビーシッターやホームヘルパーの利用代金の補助、子どもの学習支援などを独自で行っていることもあります。

 

未婚のシングルマザーへの支援

ひとり親家庭に対する支援は、「未婚」でも対象となるケースが多くなっています。2020年には税制改正があり、いままで対象ではなかった「未婚のひとり親」も控除が適用できる(税金の負担が軽くなる)ように変更されました。

・未婚のひとり親に対する寡婦(寡夫)控除の見直し:「ひとり親控除」
合計所得金額が500万円以下のひとり親は、所得税について35万円の控除が適用されます。職場の年末調整や確定申告の際に忘れずに申告しましょう。

経済的に厳しいときに頼れる制度

「親」「ひとり親」「未婚の母」といったカテゴリーに関係なく、収入が少ないなど経済的に生活が苦しいときに頼れる制度も多数あります。

・国民健康保険、国民年金、水道料金など各種免除
収入が低いなどお金に余裕がなくて生活が苦しいときに申請すれば、国民健康保険料や国民年金保険料の猶予や免除、上下水道料金の減免、公営交通の無料乗車券などが利用できることがあります。自分で判断して滞納してしまう前に、支払先に相談してみましょう。

・生活困窮者自立支援制度
生活保護の前段階ともいえる制度です。家賃相当額が支給される「住宅確保給付金」のほか、家計相談、子どもの学習支援や居場所づくり、就労訓練支援などがあります。そのため、お金がなくても衣食住を確保して社会に復帰できるようにするためのサポートが受けられます。厚生労働省により全国に相談窓口となる自立支援機関が設置されています。必要なときは、地域の相談窓口へ相談してみましょう。

【参考】厚生労働省 生活困窮者支援制度 制度の紹介

・生活保護
働きたくても働けずに切羽詰まった状態などの場合は、生活保護を受けるという選択肢もあります。支給金額は自治体や家族構成にもよります。たとえば東京都区部に住む母子世帯(30歳、4歳、2歳)なら18万9,580円が基準と公表されています。家賃や医療費、出産費用、入学準備金なども扶助してもらえます。

ここまで紹介した制度以外にも、都道府県や市区町村など各自治体が独自に支援策を用意していることがあります。シングルマザーの支援を行うNPO法人や相談センターなどもありますので、困ったことがあってもあきらめずに、自治体のホームページや広報誌などで役に立ちそうな情報を探してみましょう。

未婚でも養育費は受け取れる?

「養育費(よういくひ)」とは、子どもの成長のために必要な費用のことです。子と離れて暮らす親が、子のために子を引き取った親に支払う義務があります。

養育費を受け取った人の平均受取額は1ヶ月あたり約4万4,000円です。このお金が毎月あるのとないのとでは、家計のやりくりを考えたとき大きな差になるでしょう。未婚の場合でも、相手から養育費を受け取ることはできるのでしょうか。

未婚の母でも養育費を受け取ることは可能!ただし認知が必要

結論から言うと、未婚の母でも養育費を受け取ることはできます。入籍していたかどうかは、養育費の受け取りに関係がないからです。ただし、相手に「確かに自分の子だ」と認めてもらう(認知してもらう)必要があります。

・認知とは
未婚の母が養育費を受け取るときのハードルとなるのが「認知」です。子の父親に「自分の子」だと認知してもらうことで、戸籍に父親の名前が載り、法的に「親子」として認められるようになります。

親子関係が発生すれば、それに基づいて「子を扶養する義務」が発生し、養育費を支払う義務も発生します。

相手と話し合ったうえで「認知届」を役所に提出してもらう必要があります。ですが、それを相手に求めても「その子は自分の子ではない」と言い張るかもしれませんし、そもそも音信不通の状態になっているという方もいるでしょう。そういった場合は、家庭裁判所の調停・審判や訴訟という手続を用いて、最終的には強制的に認知させることができます。

認知をしてもらうことで、養育費を受け取る権利や相続権が認められるようになる反面、子が大きくなったときに父親を扶養する義務も発生するなどデメリットもありますので、よく検討しましょう。

・認知や養育費のことで悩んだらどうすればいい?
養育費を受け取りたいと思っても、認知してもらうべきなのか、その手続きはどうすればいいのか、養育費の支払いを拒まれたら、支払いが途中で途絶えたら、と悩んでしまうこともあると思います。

認知や養育費の請求には法的な知識も必要です。「難しい」と感じたら、地域のひとり親家庭支援センター、養育費相談センター、法テラスなど、専門家が無料で相談に乗ってくれるところを頼ってみましょう。

養育費をより確実に受け取るには

養育費の話し合いができたら、合意した内容を公正証書という書面に残す、養育費保証サービスを利用するなどの対応をしておきましょう。そうすることで、相手からの支払いが途絶えても対処しやすく、困りにくくなります。

未婚の母が利用できる支援制度をフル活用しよう

未婚の母として生活していくとき、精神的にも経済的にも心細いことがあるかもしれません。ですが、近年シングルマザーに対する支援制度は増えつつあります。今後も新たな制度が登場するかもしれません。

支援制度を利用すれば、支出を抑えたり収入を上げたりして、家計のやりくりをより楽にすることもできるでしょう。子どものためにも、自分が受けられる支援や相談できる場所を確実に把握して、うまく活用していきましょう。


平沼 夏樹

【監修】平沼 夏樹
弁護士。第二東京弁護士会所属。京都大学総合人間学部卒業、立教大学大学院法務研究科修了。離婚、労働、企業法務分野MGを歴任。横浜オフィス支店長、支店統括としての実績が評価され、現在は、リーガルサポート部GMとして、30名を超えるパラリーガルの業務統括及び、離婚分野MGを兼務する(2020年8月現在)。一般民事(主に離婚事件)に関する解決実績を数多く有する。また、企業法務についても幅広く経験。担当したMBOに関する案件(「会社法判例百選第3版」掲載)をはじめ、企業法務についても幅広い業務実績を持つ。知識、経験に基づく、専門家としての対応のみならず、一人間として、依頼者それぞれの立場・心情を理解し、コミュニケーションを重視した対応を心掛けている。

【取扱分野】離婚・男女問題/企業法務・顧問弁護士/遺産相続/労働問題/インターネット問題/債権回収/詐欺被害・消費者被害

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