子どもを連れて離婚するとき、必ずといっていいほど問題になるのが「養育費」です。離婚のときに養育費の取り決めができていないケースも多く、離婚後に法的手段で決着をつける人も少なくありません。そこで今回は、養育費の不払いと対抗するための手段として使える「調停」について解説します。どんなときに調停が検討されるのか、また、調停を行う裁判所へはどのように持ち込めばいいのかなど、実際に調停を行うための知識をまとめます。

養育費は裁判ではなく調停・審判によって決められるケースがほとんど

夫婦間の話し合いで養育費の取り決めができない場合、調停や審判によって決められる場合が多いです。調停や審判は、裁判と何が異なるのでしょうか。

裁判と調停、審判の違い

裁判や調停、審判などという言葉を聞いて、みなさんはどのような状況をイメージするでしょうか。おそらく、人と人と意見を述べあい、話し合っているような様子をイメージする人が多いことかと思います。それぞれ、意見交換を行う場であることに違いはないので、話し合いの場というイメージは間違いではありません。

とはいえ、厳密には裁判と調停・審判は似て非なるものです。それぞれの特徴を、以下にまとめてみました。

▽裁判と調停、審判それぞれの特徴

種別 特徴
裁判 公平な立場にある裁判所・裁判官のもとで、物ごとの白黒をつける
調停 家庭裁判所で開かれる。嘱託を受けた弁護士など、2名の調停委員が話し合いの中心となって、話し合いを元に答えを導いていく手続き
審判 調停で話がまとまらない場合に、家庭裁判所の裁判官により強制的に結論を出す手続き

養育費の取り決めは、基本的に白黒つけるための事実関係の争いがないため、調停や審判によって決められるケースが一般的です。一方、離婚裁判の場合は、事実関係を行いながら白黒決着をつけることが求められます。離婚協議と合わせて養育費の取り決めを行う場合は、裁判で決着をつけるケースもあります。

裁判のメリットとデメリット

裁判の最大のメリットは、公平にかつ完全に決着することです。絶対的な効力を持つ“法”が適用されるため、当事者同士の力関係に左右されません。また、裁判の場合、公平性を保つため基本的に公開されるという特徴もあります。

裁判でははっきりと“勝ち負け”が決まってしまうので、後述の調停と比べると、その後の当事者同士の人間関係に影響を与える可能性があるというデメリットが生じやすいです。また、調停とは異なり最終的な判断は裁判所に委ねられています。

調停・審判のメリットとデメリット

調停では、当事者それぞれから個別に意見を聞き、物事を解決へと導いていきます。話し合いが基本となるため、当事者の誰か1人でも合意しなければ不成立となるのです。

調停のメリットは、裁判に比べて迅速かつ簡単に行えるところ。また裁判のように当事者同士が対立して問題を解決するのではなく、話し合いを重ねて答えを見出していく、すなわち当事者に最終的な意思決定が委ねられているため、満足感を得やすいというメリットがあります。当事者同士が納得して話し合いを終えることができるため、調停後もお互いの人間関係に悪影響を与えにくいといえるでしょう。

また、調停および審判の場合は、家事事件として家庭裁判所で非公開のうちに処理される点も裁判と異なっています。

デメリットは、裁判とは違って当事者同士の力関係が現れやすいということ。お互いの力関係が、調停の場の雰囲気に影響するケースも珍しくありません。また、調停で双方の意見が不一致となった場合は審判手続きに移行し、家庭裁判所が一切の事情を考慮したうえで審判を下すことになります。

通常、養育費問題について法的解決を求める場合、調停からはじまります。

【参考】裁判所 – 養育費請求調停

調停が検討されるケースとは?

養育費を取り決めるために開かれる調停は、どのような状況のときに検討されるのでしょうか。ひとつずつ見ていきましょう。

養育費の額が夫婦の話し合い(協議)だけで決まらないとき

養育費をいくら支払うのか・支払ってもらうのかは、なかなか夫婦の話し合い(協議)だけで決まるものではありません。養育費の額については当事者同士の協議が重視されますが、協議だけで決まらないときは家庭裁判所に申し立て、「養育費請求調停」を行うこととなります。

養育費を増額してもらいたいとき

すでに養育費を受け取ってはいるものの、その後の事情に変更があった場合(子どもが進学した場合など)も、家庭裁判所に申し立てて調停を行うことが可能です。増額を依頼するために開かれる調停は、「養育費増額調停」とも呼ばれています。「養育費(請求・増額・減額等)調停申立書」をみると、増額を請求する“事情”として次の選択肢が用意されています。

▽養育費の増額請求の申立てとなる事情
・申立人の収入が減少した
・相手方の収入が増加した
・申立人が仕事を失った
・再婚や新たに子ができたことにより申立人の扶養家族に変動があった
・申立人自身・子にかかる費用(学費/医療費/その他)が増加した
・子が相手方の再婚相手等と養子縁組した
・その他

上記のケースを見てわかるように、養育費の増額は生活に大きな変化が現れたときに認められるものです。特に日々の生活に変化がないにも関わらず養育費の増額を求めるのは、不可能だということを知っておきましょう。

【参考】裁判所 – 養育費(請求・増額・減額等)調停の申立て

元夫側が養育費の減額を申し出てきたとき

養育費支払い義務者である元夫が養育費の減額を申し出てきた場合は、まず話し合いが行われることとなります。話し合いで減額を拒否した場合は、元夫側が「養育費減額請求調停」の申し出をしてくる可能性が高いといえるでしょう。

養育費は、シングルマザーにとって子どもとの生活を維持するためになくてはならないものなので、その金額を安易に下げられてしまうと生活が成り立たなくなる可能性もあります。

まずは、当事者同士の話し合いからスタートすることが大前提ですが、話し合いで解決に至らない事態を見据えて、調停への備えを行っておきましょう。

養育費請求調停はどのようなステップで進む?

次は、シングルマザーが申し立てるケースの多い「養育費請求調停」の進め方について解説していきます。養育費がなかなか取り決められないと悩んでいる人は、調停申し立ての予習として確認しておいてください。

ステップ1:家庭裁判所への申し立て

養育費請求調停は、家庭裁判所へ申し立てを行うことからスタートします。申し立てに必要な費用や書類の提出・調停手続きに必要な書類の提出が済めば申し立てが完了となります。申し立てに必要な費用や書類については、後ほど詳しく解説しますので、確認してください。

ステップ2:調停スタート

申し立てが完了し、家庭裁判所から連絡される調停期日になると、いよいよ養育費請求調停がスタートします。第1回目の調停では、裁判官1人・調停委員2人からなる「調停委員会」が当事者それぞれの意見を聴取。その後、当事者同士の合意に至るまで、月に1回ほどのペースで調停が開かれます。

ステップ3:話し合いで合意に至れば調停終了

数回の話し合いを経て、当事者同士が合意すればその時点で「成立」となり調停は終了。調停で決まったことがまとめられている書類(調停調書)が発行され、完了となります。早い場合だと、調停スタートから3ヵ月以内で合意に至る場合もあるようです。

ステップ4:話し合いで合意に至らなければ審判開始

話し合いを重ねても、お互い意見の折り合わなかった場合は「不成立」となります。不成立に至った時点で調停は終了し、審判へと移行。裁判官が双方から聴取した事情や、提出された資料など事情を考慮しながら、審判を下します。

一方、審判へと進む前に申立人が申し立てを取り下げれば、その時点で調停は終了。この場合、相手方の同意は必要ありません。

養育費請求調停の申し立てにかかる費用と必要な書類

養育費請求調停を申し立てるには、必要な費用と書類を用意しておかなければいけません。どれくらいの金額がかかって、どんなものを用意しておかないといけないのか、主な提出書類を確認しておきましょう。

収入印紙代と連絡用の郵便切手代

申し立てには、子ども1人につき1,200円分の収入印紙が必要となります。2人以上の子どもを育てている場合には、子どもの人数×1,200円となるので注意しましょう。

また、書類のやり取りを行なうための連絡用郵便切手も用意が必要となります。郵便切手代金については、各裁判所によって必要な枚数と額が異なるため、申し立てを行う家庭裁判所の公式Webサイトを確認してみてください。

【参考】裁判所 – 養育費請求調停各地の裁判所一覧

申立書3通

申立書は、申し立てを行うためのいわば申込書のようなもの。申立書は、裁判所の公式Webサイトからダウンロードして印刷するか、裁判所の窓口にて入手可能です。窓口で販売されている申込書なら、はじめから3枚複写になっているため、1度記入するだけで3枚の申立書を用意することができます。

申立書は、記入箇所の上部にも注意書きがあるように、裁判所から相手方へ送付される書類です。そのため、自分用・相手方用・裁判所用と3枚用意が必要となります。

対象となる子どもの戸籍謄本

未成年者の子どもがいる場合、その子どもの戸籍謄本が1通必要となります。戸籍謄本を用意するとき、全部事項証明書の欄にチェックを入れ忘れないよう、注意しましょう。また、3ヵ月以内に発行されたものでないと無効となってしまうため、戸籍謄本の発行日も確認しておいてください。

申立人の収入に関する資料

調停中には、養育費が必要であることを証明するために、申立人の収入に関する資料が必要となります。源泉徴収票の写し・給与明細の写し・確定申告書の写し・非課税証明書の写しなど、直近の収入を証明するための書類を手元に揃えておいてください。

子どものために納得のいく養育費を

離婚をしてシングルになったとはいえ、元パートナーにも子どもを育てるための努力はしてもらわなければいけません。そもそも養育費は、子どもの受け取る権利です。理解不足のまま、支払われないということが起こらないよう、養育費の不払いにはしっかり対応したいところです。

調停で決着がつかないなら、審判や裁判の申し立てを行い、公平な立場からジャッジしてもらうのもひとつの方法かもしれません。調停へと踏み切るためのステップを頭に入れて、納得のいく額の養育費を受け取れるよう一歩を踏み出してみましょう。