【厳選】ママスマ編集部 おすすめ書籍を紹介

新たな生活に踏み出したシングルマザーの私たち。しかし、足元を見ればお金、教育、仕事、養育費などなど、不安と悩みは尽きません。それらの悩みに対し各方面の専門家、そして先輩たちが、書籍を通してたくさんの知恵を提供してくれています。ママスマ編集部では、そんな知恵とアドバイスの詰まった書籍を厳選、内容を抜粋して紹介してまいります。

無料塾

学習塾に通うには、すごくお金がかかるよね。通常のコースだけでなく、夏期講習、冬期講習、それに合宿なんかもある。中学三年生が一年間通えば、三十二万円もかかるといわれている。もちろん、高校の入学金や授業料は別だ。

塾に行けば、テストでいい点数をとることができて、レベルの高い高校へ進学できる。もし塾に行かなければ、落ちこぼれてしまう。

そんなふうに考えている人はいないだろうか。

もし君が将来をあきらめてしまっているのだとしたら、すごくもったいない。君にはお金のことは心配しなくても、塾で勉強できる環境があるからだ。その場所が、無料塾なんだ。

無料塾の目的は、二つある。

一つは、勉強を教えること。元学校の先生、塾講師の経験者、あるいは教えることが大好きなおとな。そういう人たちが仕事の合間をぬって、君に勉強を教えてくれるんだ。テキストも寄付で買っているのでお金はかからない。塾によっては、無料の勉強合宿まである。

二つ目の目的は、居場所をつくること。まずしい家庭の親は、仕事でいそがしくて家にいないことも多い。そんな家庭の子どもにとって、居場所は必要だ。無料塾では勉強以外にも、ボランティアがいっしょに遊んでくれたり、相談にのってくれたりする。夜、親が帰ってこなければ、彼らに連絡をすれば助けてくれる。無料塾は、勉強を教えてくれる場であり、子どもたちの居場所でもあるんだ。

僕の友だちで、無料塾をつくった人がいる。その人のことについて話したい。

彼女は家庭内暴力の家で育った。特にお母さんが彼女をしょっちゅうどなったり、手を上げたりしていた。それで彼女は中高生時代には家にいるのがイヤになり、夜の街をフラフラとするようになった。その中で、性的な犯罪に巻きこまれたこともあったそうだ。

ただ、彼女は勉強はできたので国立大学へ進学し、卒業後は会社で働くようになった。

彼女はそれなりに楽しい社会人生活を送っていたけど、心の奥底には中高生のころの悲しい思い出があった。自分は運よく大学へ行き、会社に入ることができたけど、そうじゃない子どもはたくさんいる。なんとかその子たちの手助けをしたい。ある日、彼女はそう考え、友だちといっしょに無料塾をつくった。会議室を借りて、地元の小学生から高校生までを呼んで勉強を教えたんだ。

無料塾の生徒になる条件は、「家庭の収入が低いこと」「親の許可があること」だ。

最初は三、四人だったが、友だちから友だちへ広がり、あっという間に何十人もの人が集まるようになった。

それと同時に、ボランティア先生の数も増えた。会社で働いているおとなや大学生が、ヒマな時間にやってきて教えはじめた。地域の人からの寄付もあり、テキストはタダ、子ども食堂と同じように、食事やおかしを出すことができるようになり、夏にはバスを借りきっての合宿も行われた。

子どもたちのほうも、先生をたよりにして、いろんな相談をするようになった。学校でいじめられている、高校に進学したいけどお金がない、部活の道具が買えない、だれだれが好きで告白したい、親とケンカしてしまったので帰る場所がない……。彼女は子どもたちの願いを聞いてあげようと、アパートを借りてフリースペースをつくり、いつでも彼らが遊びにこられるようにした。

彼女はこう言っていた。

「子どもたちにたよりにしてもらえて、すごく楽しいです。何より、子どもたちに必要だと思ってもらえることがうれしい。これからもずっとボランティアでやっていきますので、どんなことでも相談してもらいたいって思います」

君たちの中には、相談すればおとなに迷惑をかけるのではないかと不安に思っている人もいるだろう。でも、無料塾や子ども食堂にいるおとなっていうのは、君たちにたよりにしてもらい、なんでも相談してくれることが、一番のやりがいなんだ。君が相談をすればするほど、彼らは喜ぶ。

だからこそ、遠慮なんかしないで、どんどん彼らをたよってほしいと思う。


人生の歩きかた図鑑

石井光太(いしい・こうた)
1977年、東京生まれ。『物乞う仏陀』でデビューし、国内外を舞台したノンフィクションを精力的に発表。『レンタルチャイルド』『浮浪児1945-』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『漂流児童』など、子どもの問題を扱った作品も多い。児童書に『ぼくたちはなぜ、学校に行くのか。』『みんなのチャンス』『幸せとまずしさの教室』『君が世界を変えるなら(シリーズ)』などがある。他に小説など著書多数。

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