離婚の理由はさまざま。そして、その後の人生も選択と決断の毎日です。先行きに不安を覚えたり、失敗して落ち込んだりすることもあるかもしれません。少し詰まってしまったら、この企画に相談にいらっしゃいませんか?自ら5人の子どもを育て上げた日本シングルマザー支援協会代表の江成道子さんが、本音で、真剣に、あなたの悩みに答えます。

今回のご相談は、離婚後の就職活動でつまずきを感じてしまった方からのご相談です。シングルマザーの職探しにあたっては、どのような心構えが必要なのでしょうか。

今月の相談:働くのは、“生活のため”ではいけませんか?

実家を拠点に就職活動中で、ハローワークに通っています。先日、担当の方に「何のために働くのか」と聞かれました。その問いに対し「生活のため」と答えた私は、担当の方から「就職以前の問題だ」とお叱りを受けてしまいました。

「次回はその話から始めましょう」といわれ、ビクビクしながら帰宅しました。いったい何が悪かったのでしょうか?

ただでさえ先のことが不安なのに、生活のために働くことも否定され、心が折れそうです。このまま就職活動しないわけにはいきませんし、働く目的も「生活のため」のほかに見つかりません。どうすればよいのでしょうか?

▽相談者の情報
・離婚/・現在の職業:主婦/・年齢:41
・子どもの数(性別・年齢): 2人(息子・12歳と8歳)
・経緯: 大学卒業後ハウスメーカーの受付窓口で6年勤務し、結婚と同時に退社。その後は専業主婦として、13年家事と育児に専念

回答:生活のために働くことは間違っていません。就活にあたり現実を見つめ、働く覚悟を確認しましょう

まず、生活のために働くということ自体は間違っていません。ご相談の内容だけではハローワークの方の真意はわかりませんが、シングルマザーは自分の力で家族を養うという「覚悟」が必要になるので、そこが曖昧だと受け取られたのかもしれません。

相談者さんは、一般的には、就職が厳しいといわれる年齢です。加えて、3年も経てば上のお子さんは中学卒業を迎えるため、高校、大学と教育費を準備しておく必要があります。

その状況で、ただ「生活しなきゃいけないので、何かよい仕事はありませんか?」というスタンスで窓口に相談にいらしたとしたら、どうでしょう。担当の方も「本当にこれからの生活を自力で整えていけるのだろうか……」と、叱るというより心配する気持ちから声をかけたとも想像できます。

実際、目先の生活だけに追われて仕事に就いても、長く続かないことが多いです。生活の質も向上しません。

ですので、まずは就職活動を続けるにあたり意識したいこと、知っておきたいことについてお伝えします。

相談者へのアドバイス1:心の重荷を下ろすため現状を受け入れ、未来について考えてみる

叱られてビクビクしながら帰宅したとのことですが、動揺したのは覚悟がないことの表れではないでしょうか。相談者さん自身がどこに向かうべきか、わかっていないからだと思います。

もし離婚の事実を受け止めきれていないようなら、そこから始めましょう。不本意ながらひとり親になったならば、いまの生活に理不尽さを感じるのは仕方ありません。ただ、子どもがいる以上は前に進まなければいけません。

離婚の事実を受け止めるには、まず離婚を「誰かのせい」にしないことが大切です。離婚はどちらか一方が完全に悪いということはあまりなく、結婚生活の中でお互いに不満を作ってきた結果です。まず、その事実を理解し、受け入れましょう。

それから、お子さん2人と、この先どうやって生きていくかを話し合ってみてください。お子さんが大学まで行くなら、相談者さんが55歳になるまで教育費はかかるので、将来を見据えたお金の計算もしておかなければいけませんね。

また、住む場所のことも考えましょう。実家には子どもたちとずっと住み続けられるのか、出なければならないならいつ頃なのか、確認してみましょう。もしご兄弟がいれば将来的に相続問題が出てくる可能性もあります。

一見、面倒に聞こえますが、そうやって現実と向き合うと、実はすごくラクになるんです。過去を振り返ったり、現状を「誰かのせい」だと思うことに心を割く余裕はなくなります。自分と子どもの人生のために、現実と未来を見つめる作業をしましょう。

相談者へのアドバイス2:お金の動きを知って、数字で物事を捉えてみる

数字で物事を考えることが得意でない人が多いかもしれませんが、実生活においてはとても大切です。「10年後の家計や子どもの教育費なんて考えられない」という人も、実際にシミュレーションしてみると「そんなものでいいんだ」とか、「10年あれば準備ってそんなに難しくないですね」と思える人の方が圧倒的に多いです。

養育費を月5万円受け取っていれば、それを10年貯めただけでも600万円になりますし、児童扶養手当が4万円くらいだとすると年間48万円を10年貯めれば480万円になります。子どもの大学資金を貯めるうえでも、気持ちが楽になりますよね。

いま児童扶養手当や養育費を生活費に組み込んでいるなら、あなたが稼ぐべき金額は、それらを含まずに家族3人の生活に必要な額です。仮に月額20万円が必要だと計算できたなら、ハローワークに行って「月に20万円稼げる仕事を紹介してほしい」と相談してみてもよいでしょう。

計算と同時に、そこに向かって自分で貯金する意志を持つことも大切です。「お金が余ったら貯金しよう」という方が多くいますが、意識しないとお金は余らないもの。おすすめしているのは、その月に入るお金、浮くお金を費目ごとに計算しておき、費目単位でまるごと貯金する方法です。

たとえば、実家暮らしの方は、毎月家賃が浮いていますよね。家賃分として一定額を決め、それを貯金に充てるのです。養育費や児童扶養手当については、これもぜひ貯金としましょう。これらを貯金できるような収入を得ることが、就職活動の目標となるわけです。

そして、このように、収入をすべてシミュレーションし、プラスアルファの収入は最初から貯金に回す方法を採ると、お金の動きも明確になりますし、貯金もしやすくなります。

相談者へのアドバイス3:望みは他者ではなく自分へ。よき相談先を見つけたい

現実や未来を見つめる作業が、「自分の限界を知るようで怖い」と思っているのなら、それは誤解です。

自分と向き合わないというのは、つまり他者に期待しているということ。「親が頼れたら……」「元夫がもっと養育費をくれたら……」「国がもっと支援してくれたら……」と、他者に解決を求める人ほどイライラして不満や不安が増えていきます。それでは、自分の思い描いた未来を実現することは難しいでしょう。

ぜひ、他者に期待するのではなく、自分にもっと望みを託してください。自分と向き合い、自分の中の何かを変えようと動いてみると、意外と未来はひらけてくるものです。

この自分自身と向き合うことは、現実にお金の収支を整理してみることから始められるので、実際はそれほど難しくありません。しかし、自分の考え方を変えることはなかなか難しく、きっかけをつかみづらいと思います。ですので、あなたに寄り添って、意識を変えるお手伝いをしてくれる場所を見つけてください。

たとえば、相談者さんの話に耳を傾けてくれる人や相談場所を探しましょう。自分にとっての苦しみや恐怖は何なのか、人と対話をすることであらためて理解できる場合もあります。お金をかけなくても、各自治体に積極的に話を聴いてくれる相談員はいますし、無料相談を行っているひとり親支援団体もたくさんあります。よかったら、日本シングルマザー支援協会へご相談いただいてもよいと思います。

ただし、人には相性があります。それはハローワークも同じです。ひとりの担当者の反応に一喜一憂せず、相性が悪いのなら担当者や相談先を変えてみてもよいかもしれません。無料で相談できるところをいくつか当たってみて、自分に合う人を探していくのがよいと思います。

まとめ:41歳はまだまだ若い!継続して働ける職場を見つけましょう

子どもの数が多くても、生活に困っていないシングルマザーがいらっしゃいますが、その方々には、ある傾向があります。それは、新卒で入社した会社にずっと勤め続けている人が多いということです。まさに「継続は力なり」ですね。もちろん新卒入社でなくとも、長期にわたって働けばある程度の生活の基盤は構築できます。

そして、相談者さんもまだまだ若いです。いまは65歳が定年の会社も増えていますから、41歳で就職しても、あと24年は働けます。24年といえばおよそ四半世紀。新卒入社ほどではありませんが、結構長いと思いませんか。

41歳という若さを生かすためにも、まずは現実をしっかり見つめ、具体的な収入のビジョンを持って、働く覚悟を持ちましょう。必要なら地域の相談窓口や、支援団体に相談しましょう。そして、長期で働ける仕事、そして会社を見つけることが何より重要です。現在と未来を見つめる作業から、自分の判断基準や軸を明確にして、就職活動に臨んでください。

江成道子

江成道子
一般社団法人 日本シングルマザー支援協会 代表理事。シングルマザーサポート株式会社代表取締役社長、一般社団法人グラミン日本顧問、武蔵野学院大学講師。自らシングルマザーとして5人の姉妹を育てながら、シングルマザーの自立支援活動を続ける。講演多数。
一般社団法人 日本シングルマザー支援協会