養育費を決めるうえで、重要な参考資料となる養育費算定表。令和元年に16年ぶりの養育費算定表の改定が行われました。「これから養育費を増やせるの?」「さかのぼって養育費を変更できる?」など、シングルマザーのみなさんは疑問が尽きないことでしょう。

今回は、養育費算定表改定にともなう疑問を解決するため、改定内容や増額の方法、手順をわかりやすく解説します。記事を読み終わるころには、養育費の増額請求に向けて、具体的に行動を起こせるようになっているはずです。

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16年ぶりの養育費算定表改定で、養育費は増額された?

令和元年12月に、16年ぶりに養育費算定表が改定されました。新しい養育費算定表は、裁判所のホームページで公表されています。

養育費とは、離婚をした際に親権等を獲得しなかった親が支払う養育・教育等にかかわる費用のことです。養育費の支払いは親としての義務であり、法律上も支払義務が認められています。養育費を受け取れるのは、原則として子どもが20歳になるまでの期間です。

必要な養育費の金額は個々のケースによって異なるため、元夫婦が話し合いで決めることになります。養育費算定表はその際に目安として用いられることから、重要な資料といえます。

養育費算定表の金額は、養育費の支払義務を負った親が、子どもと同居していたと仮定した場合に、どのぐらいの生活費を子どものために使っていたかを基礎収入(収入から税金等を差し引いたもの)と生活費指数をもとに計算し、それを両親の基礎収入割合に応じて按分し導いた金額です。今回、基礎収入の算定方法(収入から控除する税金等の割合)と生活費指数が見直されたことで、養育費算定表が改定されました。

新しい養育費算定表が公表されたことで、多くのケースで養育費が増額されることとなりました。特に支払義務者の年収が高い場合は、毎月数万円単位で養育費が増額されることもあり得ます。一方、支払義務者の年収が低い場合は、養育費増額の対象とならないケースもあります。

養育費算定表の見方を解説!新しい養育費のケーススタディ

養育費算定表を見るときは、まず子どもの人数や年齢に応じた表を参照し、養育費の支払義務者の年収と、養育費の受取権利者の年収に応じて、目安となる金額を確認します。

新しい算定表をもとに、いくつかの養育費のケーススタディを紹介します。

<12歳の子1人のケース>
・支払義務者(給与所得者):年収2,000万円
・受取権利者(給与所得者):年収325万円
・養育費:20〜22万円/月

<15歳以上の子1人、14歳以下の子1人のケース>
・支払義務者(自営業):年収802万円
・受取権利者(自営業):年収203万円
・養育費:16〜18万円/月

<14歳以下の子2人のケース>
・支払義務者(給与所得者):年収400万円
・受取権利者(給与所得者):年収200万円
・養育費:4〜6万円/月

養育費の目安は、支払義務者や受取権利者の年収によって大きく変わります。

まずは新しい養育費算定表を見て、支払義務者の年収と自分の年収をもとに、養育費の金額をチェックしてみましょう。

算定表を見るときは、相手の勤務先や勤続年数をもとに、大体の年収を見積もりましょう。具体的に金額を決める際には、相手に年収の開示を求めることができます。相手が年収を開示してくれない場合や、嘘をついていると感じた場合は、調停委員や弁護士を通じて年収の開示を求めることができます。

 

増額請求はできる?増額の根拠を具体的に紹介

すでに養育費を受け取っている場合でも、今後の養育費については増額の交渉をすることは可能です。しかし、何もしなくても増額されるというわけではありません。新しい算定表を参考にしつつ、あらためて交渉や調停を行う必要があります。

また、「算定表が改定されたから」という理由で養育費を増額することはできないと考えられています。何らかの生活上の変化があり、養育費の増額が必要になったという根拠を示したうえで増額請求することが重要です。そのため、養育費を増額したいなら、増額の根拠を明確にしておきましょう。

たとえば、増額の根拠としては、次のようなものが考えられます。

・私立高校に入学するなど、進学によって教育にかかる費用が増えた
・塾や習い事、部活動などにかかる費用が増えた
・病気やケガで医療費が必要になった
・両親の介護やリストラ、倒産などやむを得ない事情によって、養育費の受取権利者の収入が減少した
・物価の上昇により、当初定めた養育費で生活を続けることが困難になった

実際に養育費を増額できるかどうかは個々の状況によるので、あくまで参考としてとらえてください。

しかし、たとえ数万円でも養育費が増額されれば、生活状況は大きく改善します。養育費を20歳まで受け取ると仮定して、子どもが14歳のときに月3万円養育費が上がったとすれば、トータルで216万円もの金額を受け取れることになります。

養育費を増額請求するときに確認したい2つのポイント

続いては、養育費の増額請求を成功させるために押さえておきたいポイントを2つ紹介します。

増額の根拠を明確にする

養育費を増額請求するときは、増額の根拠について理由を整理したうえで、どのくらいの金額が必要なのかを数字で明確に示すことが大切です。

相手と交渉する際には、数字を裏付ける資料も準備しましょう。離婚前にほとんど子どもの養育に携わっていなかったり、離婚後時間が経っていたりするケースでは、教育にどのくらいの金銭的負担が生じるのか、相手は理解していないことがあります。

そんな相手が養育費の増額請求を受けたときにまず思い浮かべるのは、「子どもを理由にぜいたくをしようとしていないか?」「無駄遣いが多いのでは?」といったことです。必死に子育てしているシングルマザーからすると、理不尽に感じるかもしれません。

しかし、相手が子育てに関しては素人で、家計についてほとんど知識がないことを前提に交渉した方が、話がスムーズに進むことが多いのも現実です。「このぐらい常識だから、理解しているはず」という思い込みは捨てましょう。

たとえば、学費がわかる資料や、塾代や習い事代の請求書、通院日時と医療費をメモしたノートなどを用意すれば、相手にも増額が必要な理由が理解できます。通帳のコピーをとり、該当する引き落とし箇所以外を修正液で消して再度コピーをとり、提示するのも効果的です。

公正証書を作成する

交渉によって相手が養育費の増額に応じた場合は、その内容を公正証書として残しておきましょう。公正証書とは、公証人が公証役場で作成する文書です。公証人は、法務局に所属しており、中立公正な立場から公証事務を担っているため、正証書は裁判でも有力な証拠として採用されます。

公正証書を残しておかないと、相手が増額後の金額で支払ってくれなかった場合、すぐに対策を打つことができません。

公正証書を残しておけば、相手が支払いを拒否する場合、給料などの財産を差し押さえることも可能になります(ただし、「履行を怠った場合は強制執行に服する」という執行認諾文言の付いた公正証書に限られますのでご注意ください。よくわからなければ、公証人や弁護士に相談しましょう。)。また、公正証書を作成することで、口約束と比べて相手も義務感を強く感じます。心理的な影響も大きいといえるでしょう。

養育費の増額交渉をするときは、公正証書を作成することを含めて相手に納得してもらい、公証役場で間違いなく手続きすることが大切です。

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過去にさかのぼって養育費を請求することは可能?

養育費が改定され新算定表が公表されたことで、あらためて養育費に世間の注目が集まっています。

「新しい算定表ができたのだから、過去の算定表に従って計算していた養育費を、新しい算定表で計算しなおして請求できるのでは?」と考える人もいるかもしれません。

また、これまで養育費のことがうやむやになっていたけど、新算定表をもとに新たに養育費について取り決めを行い、過去の分もさかのぼって請求したいと考える人もいるでしょう。

しかし、養育費算定表が改定されたことで、過去の養育費を計算し直して請求することは認められていません。あくまで、過去の分は当時取り決めた金額が適用されます。今後、増額請求をして認められた場合、その後の養育費は増額した金額で受け取れます。

また、うやむやになっていた養育費を過去にさかのぼって請求するのも、難しいケースがほとんどです。過去にさかのぼって養育費を請求できるのは、合意した金額が未払いになっている場合などです。

しかし、離婚後数年経っていても、これから先の養育費については、相手に請求することは可能です。

離婚時には相手に会う負担感から養育費について取り決めをしないままになっているケースは少なくありません。しかし、子どもが成長するにつれ、教育にかかわる費用の負担はシングルマザーの肩に重くのしかかってきます。

今回の養育費算定表の改定をきっかけとして、相手に連絡をとり、養育費に関して交渉を持ちかけてみるのも1つかもしれません。

過去にさかのぼって請求するのは難しいからこそ、養育費の増額が必要となるような生活上の変化が訪れた場合は、速やかに養育費の増額に向けて動き始めましょう。

忙しくてそんな時間はとれないというシングルマザーも多いと思いますが、仮に養育費を数万円増額できれば、長い目で見ると数百万円単位で受け取れる金額に違いが出てきます。その分子どもにかけられる金額も多くなります。そのため、なんとか時間を見つけて養育費の増額交渉に着手しましょう。

動き出すなら今がチャンス!シングルマザーは養育費を再検討しよう

養育費算定表が公表されたことで、自動的に養育費が増額されるわけではありません。しかし、もともと必要な生活費が足りずに苦労していたシングルマザーにとっては、朗報です。今回の養育費算定表の改定をきっかけとして、増額の根拠を明確にして請求すれば、養育費を増額できる可能性があります。

まずは裁判所のホームページで養育費の目安を確認し、交渉や調停に向けて動き始めましょう。「交渉や調停に労力を割きたくない」と思うシングルマザーも多いかもしれません。しかし、養育費が毎月数万円変われば、生活は大きく変わります。

養育費はさかのぼって請求されることが認められていないことからも、動き出すならいまがチャンスです。必要に応じて専門家にも相談しながら、養育費について再検討してみてください。


平沼 夏樹

【監修】平沼 夏樹
弁護士。第二東京弁護士会所属。京都大学総合人間学部卒業、立教大学大学院法務研究科修了。離婚、労働、企業法務分野MGを歴任。横浜オフィス支店長、支店統括としての実績が評価され、現在は、リーガルサポート部GMとして、30名を超えるパラリーガルの業務統括及び、離婚分野MGを兼務する(2020年8月現在)。一般民事(主に離婚事件)に関する解決実績を数多く有する。また、企業法務についても幅広く経験。担当したMBOに関する案件(「会社法判例百選第3版」掲載)をはじめ、企業法務についても幅広い業務実績を持つ。知識、経験に基づく、専門家としての対応のみならず、一人間として、依頼者それぞれの立場・心情を理解し、コミュニケーションを重視した対応を心掛けている。【取扱分野】離婚・男女問題/企業法務・顧問弁護士/遺産相続/労働問題/インターネット問題/債権回収/詐欺被害・消費者被害