養育費は、子どもの成長のために必要なお金です。子どもを引き取らなかった側から、引き取って育てていく側に対して支払う義務があります。でも、もし元夫が支払ってくれなかったら……?どんな手段が取れるのか、詳しく解説します。

たった4年で80%が養育費を受け取れなくなります。

しっかり決めても受取れていない現状があります。

養育費を確実に受取る方法に養育費保証があります。

 

養育費の不払いは犯罪?罰則はある?

(画像=sirikorn/stock.adobe.com)

養育費の支払いは「義務」とされています。では、養育費を支払わないことで、罰則はあるのでしょうか。

じつは単に「養育費を支払わない」というだけでは犯罪にはなりません。当然、罰金や処罰などもありません。ただ、近年は養育費を確保しやすいようにする取り組みが活発になってきています。

養育費を支払わないことを理由に、財産の差し押さえをすることができるのです(調停・審判・判決もしくは、執行認諾文言の付いた公正証書により養育費の支払いについて約束がなされている場合に限ります)。2020年4月の民事執行法の改正で、元夫の財産を開示させやすくなり、裁判所の呼出に対して出頭しない場合や嘘の報告をした場合は「6か月以下の懲役または50万円以下の罰金」に問えるようになりました。

 

養育費を受け取れない場合、何ができる?

元夫が養育費を支払ってくれない場合に取れる手段を、順番に見てみましょう。

養育費を受け取れない場合の手段1:催促する

まずは元夫に「きちんと養育費を支払ってほしい」ということを伝えて、話し合うのが基本です。金額だけでなく、振込先の銀行口座や期日など受け取りに必要な情報を共有しましょう。

ただ、「元夫とはもう関わりたくない」「催促しても支払ってくれない」ということもあるでしょう。そんなときは次のステップに進みます。

養育費を受け取れない場合の手段2:内容証明郵便を送る

支払ってほしい旨を口頭で伝えるのではなく、きちんと送付日時や内容まで記録に残る文書(内容証明郵便)で送るということです。自分で書いて送ってもいいですが、専門家(弁護士)に依頼してもらうのがおすすめです。

元夫と直接連絡を取らずに済みますし、送る内容も漏れなく隙なく、自分に不利になることがない法律上正しい文章で書いてもらえます。元夫も、弁護士の名前で書類が届くことで、対応してくれる可能性が高くなるでしょう。

養育費を受け取れない場合の手段3:裁判所を通す

内容証明郵便を送っても支払ってくれない場合は、裁判所に行くことになります。いきなり裁判を起こすわけではなく、その前に「調停(ちょうてい)」の申立てをすることもできます。

・調停
調停とは、裁判とは違い、第三者(裁判所の調停委員)があいだに入って夫婦双方の言い分を聞き、お互いが納得できるように調整してくれるものです。裁判より手続きが簡単で費用も安く、元夫と会わずに済ませることも可能です。

・審判
調停でもうまく話がまとまらない場合や相手が裁判所に現れなかったりした場合は、次の段階である「審判」に進みます。審判では、双方の主張をもとに裁判官が判断することになります。

・履行勧告
調停や審判で養育費の支払いが決まったのに、まだ支払ってもらえない場合は、裁判所から元夫に「履行勧告(約束通り支払うよう通告)」してもらうこともできます。裁判所からの通知となるため、より高い心理的なプレッシャーも予想され、行動を起こさせることが期待できます。

養育費を受け取れない場合の手段4:給与や財産を差し押さえる

養育費請求の最終段階です。3の段階を経るか、離婚時に公正証書(執行認諾文言の付いた公正証書に限ります。)を作成していれば、「差し押さえ」に踏み切ることができます。相手の勤務先や銀行口座がわかったら、裁判所が給与の一部や自動車などの財産を強制的に徴収して、あなたに支払う養育費にあててくれます。

養育費を払わずに済まされるのはどんな場合?

養育費の支払いは義務ですが、「支払いが免除される」ケースも存在します。たとえば以下のような場合です。

・自分が再婚して、再婚相手と子どもが養子縁組した
基本的に、再婚後に養子縁組をしている状態の場合、子どもを養って育てていくのは元夫ではなく再婚相手の役目であるとみなされるようになります。そのため、再婚相手に子どもを育てていけるだけの収入がある場合は、養育費の支払いが免除になることがあります。

・元夫が無収入になった
養育費を払ってほしくても、そもそも相手に支払い能力がなければできません。養育費の支払いは「子どもに親と同じ生活水準を保障する」という意味があるとされていますが、相手が無収入ではこの「同じ生活水準」も期待できません。養育費の金額の目安となる裁判所の算定表でも、相手の収入がゼロの場合に受け取れる養育費は「0〜1万円」とされています。

 

支払う養育費を増やす・減らすことはできる?

養育費の金額は、双方の事情に応じて増額や減額の請求をすることができます。ただ、一度決めた養育費を変更するには正当な理由が必要です。

養育費の増額請求ができるとき

養育費の金額を上げてほしいときは「増額」の請求をすることになります。一般的に、増額の理由として認められるのは次のようなケースです。

  • 子どもにかかる費用が増えた
  • 自分の収入が減った or 元夫の収入が増えた

養育費の減額請求ができるとき

逆に、次のようなケースでは元夫から「支払う養育費の金額を下げてくれ」と言われることもあるかもしれません。

  • 自分が再婚して、再婚相手と子どもが養子縁組した or 元夫が再婚して子供ができた
  • 元夫の収入が減った or 自分の収入が増えた

養育費の増額請求の方法

養育費を増やしてほしい場合、まずは元夫に連絡を取り、話し合って決めるのが基本です。話し合いができたら、その結果を書面で残しておくようにしましょう。理想的なのは公正証書を作成しておくことです。

もし話し合いがうまくいかない場合は、養育費を受け取れないときと同じように、内容証明を送ったり家庭裁判所で調停を申し立てたりすることができます。

減額請求されたらどうする?

「養育費を減らしたい」と言われても、納得できなければ拒否したり反論したりすることもできます。話し合いが折り合わない場合、増額請求とは逆で、元夫から内容証明が送られてきたり調停を申し立てられたりするかもしれません。

相手に法的な手段を取られて不安なら、味方になってくれる弁護士を見つけるなどして対策しましょう。

泣き寝入りしない!養育費はしっかり請求しよう

本当は養育費を受け取る権利があるはずなのに、元夫が支払ってくれないからと泣き寝入りしてしまうシングルマザーも少なくありません。でも、法律を味方につけて正式な手順を踏めば、受け取れるようになる可能性は大いにあります。

各自治体の養育費相談支援センターや無料法律相談など、金銭的な余裕がなくても相談できる場所もあります。子どものために、あきらめずに請求してみてはいかがでしょうか。

また、養育費は一時のものではなく、将来にわたって長期間で支払われるものです。本記事で解説したように、支払う側の都合により支払いが滞るなどのリスクがあります。あらためて養育費の設定をするときは、養育保証サービスを利用するなど、今後の支払いが保証されるよう手立てを講じることをお勧めします。


平沼 夏樹

【監修】平沼 夏樹

弁護士。第二東京弁護士会所属。京都大学総合人間学部卒業、立教大学大学院法務研究科修了。離婚、労働、企業法務分野MGを歴任。横浜オフィス支店長、支店統括としての実績が評価され、現在は、リーガルサポート部GMとして、30名を超えるパラリーガルの業務統括及び、離婚分野MGを兼務する(2020年8月現在)。一般民事(主に離婚事件)に関する解決実績を数多く有する。また、企業法務についても幅広く経験。担当したMBOに関する案件(「会社法判例百選第3版」掲載)をはじめ、企業法務についても幅広い業務実績を持つ。知識、経験に基づく、専門家としての対応のみならず、一人間として、依頼者それぞれの立場・心情を理解し、コミュニケーションを重視した対応を心掛けている。

【取扱分野】離婚・男女問題/企業法務・顧問弁護士/遺産相続/労働問題/インターネット問題/債権回収/詐欺被害・消費者被害

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