母子家庭を支援する公的な制度には、さまざまなものがあります。今回は、シングルマザーが活用できる税金や保険料の優遇制度を、一覧にまとめて紹介します。大切な我が子を育てるために、避けては通れないのがお金の問題です。賢く制度を活用し、生活を充実させましょう。
目次
母子家庭の平均年収は243万円!父子家庭より金銭的に苦労しているケースが多い
厚生労働省の「全国ひとり親世帯等調査(2016年)」によると、母子家庭の平均年収は243万円です。父子家庭の平均年収420万円と比べると、金銭的に厳しい家庭が多いことがわかるでしょう。また、同調査の母子世帯の預貯金額は、50万円未満が39.7%と最も多く、厳しい状況がうかがえます。
母子家庭と父子家庭で年収に違いが出る理由として、結婚や出産を機に退職や休職を選択する女性も多く、その後のキャリアを築きにくくなっていると考えられます。また、ひとり親世帯に限らず、男性と女性には依然として平均年収に差があります。
こういった現状を踏まえ、政府は母子家庭に対して、税制優遇や保険料の減免など、さまざまな支援制度を設けています。生活を守るため、こういった公的な制度を賢く活用しましょう。
母子家庭には所得税・住民税の税制優遇がある
税制優遇1:所得税
「ひとり親」の場合、所得税の控除を受けられます。控除には、「一般の寡婦」と「特別の寡婦」の2種類があります。寡婦とは、死別または離婚後に婚姻をしていない人、または夫の生死が明らかでない一定の人を指し、ここでは扶養親族である子どもがいる人を指します。
具体的には、以下の①~④の要件を満たした「ひとり親」は、35万円の所得控除を受けることができます(「ひとり親控除」と呼ばれています)。
①婚姻をしていない、あるいは配偶者が生死不明
②生計を同じくする子どもがいること
③合計所得金額が500万円以下
④事実上婚姻関係にあると認められる者がいないこと
なお、以前は「寡婦控除」という制度が適用されてきましたが、令和2年度税制改正により、寡婦控除制度の見直しが行われ、新たに「ひとり親控除」が新設されました。そのため、令和2年分以後の所得税については「ひとり親控除」が適用されることになります。
給与の源泉徴収において「ひとり親控除」の適用を受けるための手続は、原則として、改正前の寡婦控除の適用を受けるための手続と同様となります。
窓口に行くなど、特別な手続きは必要はなく、年末調整の際に職場で配られる「扶養控除等申告書」で申告しましょう。
※なお、令和2年分の「扶養控除等申告書」には「ひとり親」欄がないため、手書きで記載するか、令和3年分の扶養控除等申告書を修正して提出することになります。勤務先の指示に従って対応してください。
税制優遇2:住民税
住民税には、所得(給与から必要経費を引いた額)に応じて課税される「所得割」と、全員に一律に課税される「均等割」があります。
母子家庭で、前年中の合計所得が135万円以下(年収でいうと204万4,000円未満)だと、住民税は非課税になります。所得割も均等割も発生しません。
また、扶養親族がいる場合は、所得が135万円超だったとしても、非課税になるケースがあります。市区町村ごとに条例で定められた金額がありますので、源泉徴収票等、所得がわかる書類を持参し、役所に相談しに行きましょう。
母子家庭には、国民年金、国民健康保険、保育料に減免制度がある
減免制度1:国民年金
収入が少なく国民年金保険料を納めるのが難しい場合、国民年金の免除や猶予を受けられます。これは、母子家庭に限らず利用できる国の制度です。窓口は役所にあるので、前年の収入状況がわかる資料を持参して、担当者に相談しましょう。
ただし、免除・猶予に該当した場合も、将来受け取れる年金額は、国民年金保険料を全額払った場合と比べて少なくなります。
免除に該当した場合、将来受け取れる国民年金の年金額は、免除の程度に応じて減額されます(ただし、10年以内に追納を行えば、全納と同じ年金額を受け取れます)。猶予に該当した場合、将来受け取れる年金額への反映はありません。猶予の場合は、あくまで猶予期間前後に支払っていた保険料をもとに、将来受け取れる年金額が決定されます。
免除・猶予の手続きをせずに、国民年金を滞納してしまうと、最悪の場合、将来年金をすべて受け取れなくなってしまうことがあります。また、病気や事故で働けなくなった場合、本来は障害基礎年金を受け取れますが、未納だと支給対象にならないことがあります。
「滞納しても何とかなるだろう」と考えるのは危険なので、支払が滞る場合は、速やかに減免手続きをしましょう。
減免制度2:国民健康保険料
正社員で勤めている場合は、勤務先の社会保険に加入します。しかし、パート・アルバイトで働いており社会保険の加入条件を満たしていない場合や、勤務先が社会保険の適用事業所でない場合、自営業として収入を得ている場合などは、国民健康保険に加入することになります。
国民健康保険料は、所得に応じて計算される所得割額と、加入者一人ひとりが均等に負担する均等割額があります。所得割額は所得に一定の料率をかけて計算するため、所得が少ない場合、大きな負担にはなりません。
一方、均等割額についても、世帯の所得が一定以下の場合、法律で定められた軽減措置が適用されます。軽減措置が適用される所得基準と軽減割合は、下記の通りです。
▽国民健康保険料の均等割における軽減措置適用の所得基準と軽減割合
所得基準 | 軽減割合 |
---|---|
43万円以下 | 7割減 |
43万円+(被保険者×28.5万円以下)+(給与所得者等の数-1人×10万円) | 5割減 |
43万円+(被保険者×52万円以下)+(給与所得者等の数-1人×10万円) | 2割減 |
国民健康保険料は、住んでいる地域や年収、家族構成によって金額が変わります。国民健康保険料のシミュレーションシートを公開している自治体も多いので、HPで確認してみましょう。
また、自治体によっては、独自の減免制度を設けていることもあります。たとえば、倒産や解雇といった理由で失業状態にある時、保険料の一部が軽減されるといった制度があります。自治体によって減免制度の内容は異なるため、まずは所得がわかる資料を役所に持参して相談しましょう。
減免制度3:保育料
母子家庭になり、世帯年収が変わると、保育料が減額になる場合があります。母子家庭になって世帯年収が変わった時は、役所で相談し、保育料を再計算しましょう。自治体によっては、保育料が無料になるケースもあります。
保育料に関する取り組みは自治体によって異なるため、住む場所を決める際に、自治体の支援制度を参考にするのも1つです。
公的な母子家庭の支援制度を賢く活用しよう
母子家庭で活用できる公的な支援制度を幅広く紹介しました。忙しくて手続きに行く時間がないと感じる人も多いかもしれません。しかし、申請が遅れると適用できなくなるケースもあるため、速やかに手続きすることが大切です。まずは、前年・本年の収入がわかる資料を持って、お住まいの役所の窓口で相談しましょう。

弁護士。第二東京弁護士会所属。京都大学総合人間学部卒業、立教大学大学院法務研究科修了。離婚、労働、企業法務分野MGを歴任。横浜オフィス支店長、支店統括としての実績が評価され、現在は、リーガルサポート部GMとして、30名を超えるパラリーガルの業務統括及び、離婚分野MGを兼務する(2020年8月現在)。一般民事(主に離婚事件)に関する解決実績を数多く有する。また、企業法務についても幅広く経験。担当したMBOに関する案件(「会社法判例百選第3版」掲載)をはじめ、企業法務についても幅広い業務実績を持つ。知識、経験に基づく、専門家としての対応のみならず、一人間として、依頼者それぞれの立場・心情を理解し、コミュニケーションを重視した対応を心掛けている。
【取扱分野】離婚・男女問題/企業法務・顧問弁護士/遺産相続/労働問題/インターネット問題/債権回収/詐欺被害・消費者被害