2013年に創設した「日本シングルマザー支援協会」の代表として、女性の自立支援のため精力的に活動されている起業家の江成道子さん。自らもシングルマザーとして5人の子どもを育てあげた経験から、様々な支援プログラムでシングルマザーの抱える課題に向き合い、徹底的な伴走体制で多くの女性を自立へ導いてきました。「自立にはメソッドがある」と語る江成さんに、その道筋をお聞きしました(語り:一般社団法人 日本シングルマザー支援協会 代表理事 江成道子)。
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目次
自立ってそもそもなに?それは、世帯主として“自分の稼ぎで家計を回せる”ことです
−日本シングルマザー支援協会の概要についてお聞かせください
すべてのシングルマザーの自立支援を行なっています。具体的には定期的なメ−ルマガジンの配信、就職・転職支援、コミュニティの提供、コミュニケ−ション力を身につけるための教育などです。
会員数は約6,500人で、毎月150〜200人の入会申し込みがあります。会員の5割が関東圏で、そのうち1,000人ほどが東京在住です。そのほかは地方都市を中心に、日本全国に会員がいます。
事務局のスタッフをはじめ、協会独自の支援プログラムを学んで資格を取得した「ひとり親コンシェルジュ」が常時100人の個別相談を行なっています。
−江成さんが考えるシングルマザーの自立とは、どのような状況でしょうか。
世帯主として、自分の稼ぎで家計を回せることです。シングルマザーの平均年収は約200万円と言われていますが、私たちは、まず年収300万を超えましょうとお話しをしています。
ただ、相談者は1人ひとり状況が違うので、収入を増やすことがどうしても難しい人もいる。であれば、限られた収入でどう幸福度の高い生活を送るか、その人にとって何が一番幸せなのかを一緒に考えることもあります。仕事か、住宅か、精神面なのか、相談者によって最も必要としている支援は様々ですから。
自立を阻む最大の壁は「恐怖心」
−自立に必要なのは、経済面に限らないということでしょうか。
シングルマザーの8割が経済面に不安を感じているので、そこは一番大きな問題として解決していかなければいけないところです。でも、経済的な自立は、精神的な自立がないと難しいのです。
「貧困の連鎖」という言葉がありますが、私は「マインドの連鎖」もあると考えています。親がネガティブだと、子どもにも連鎖します。人は自分の欲しい言葉を言ってくれる人の話しか聞いていないもので、周囲の人に「無理」「やめた方がいい」と否定的な言葉をかけられると、「私には無理だ」と否定的な気持ちに陥ってしまうんですね。
「いいじゃない、やってみたら」と言ってくれた人のことは、誰も覚えていない。そのネガティブなマインドが作用して、就活を乗り越えて働けることになったのに、採用を辞退してしまう方もいるんです。
−それはなぜなのでしょうか?
企業側に選ばれたとたんに、仕事で失敗するんじゃないか、できない自分がバレてしまうんじゃないか、という不安や恐怖心にとらわれるんですね。沸き起こった感情に翻弄されて、感情のままに行動してしまう。
協会としては、相談者の企業への面接同行も行っているのですが、帰宅後に1人でいると否定的な考えに陥ることが多いので、先手を打って「家に帰ると、仕事を始めるのが怖くなるよ」と言っておきます。そしたら、「やっぱり怖いと思いました」って連絡が来ます。先に「怖くなる」ことを知っていることで、感情的に行動してしまうことを避けられるわけです。
「プレッシャーゾーン」を知って、恐怖心を受け入れる
私が作った言葉なんですが、この逃げ出したくなるタイミングを「プレッシャーゾーン」と呼んでいます。すごく便利な言葉で、あっという間に協会内にも浸透しました。プレッシャーゾーンが来ることをあらかじめ伝えておくと、立ち向かう覚悟ができるんですよ。「勤務初日に子どもが熱出すけど、プレッシャーゾーンだから」とか(笑)。
何が起こるかわからないから、怖いのは当然なんです。それは悪いことじゃなくて、自分の恐怖心を認めるチャンスなんですね。この怖いと思った自分を受け止めて乗り越えないと、手に入れたい未来は来ないんだということに気づいてもらう。
まずは恐怖心をしっかり受け止めることと、ポジティブマインドの捉え方などを、協会のマインドアップ教育で教えています。
新型コロナウイルス感染症の流行拡大であらためてはっきりしたなと思ったのが、恐怖は人の動きを止めてしまうということです。みんな家の中にこもって動かなくなってしまいましたよね。不安や恐怖は人の行動を大きく制限してしまうことがよくわかります。
シングルマザーが収入を上げるスリーステップ
−江成さんは自立にはメソッドがあるとされています。具体的にお聞かせください。
収入アップには3つのステップがあります。
まずステップ1が「自分を知る」というものです。実は、支援の中で一番大切なのはストレス回避をすることだと考えています。「自分を知る」第一歩として、「ストレスを知る」という項目があるのですが、ここで自分が何に強いストレスを感じるのかを理解します。ストレスを理解すると、職業の適性を見極めることにもつながってきます。
この「自分を知る」のに続いて、自分の理想の生活はどのくらいお金が必要なのかを見つめ直す「お金を知る」があり、どう仕事に打ち込んでいくかを学ぶ「働き方を知る」があります。
- ▽シングルマザーの自立メソッド:ステップ1
- ・自分を知る
・お金を知る
・働き方を知る
続くステップ2は、いわゆる人材紹介会社の業務と同じ、仕事のマッチングや見学会参加などの就職支援ですね。ステップ3は就職した後の定着支援です。会社にしっかり根を下ろし、働き続けるための支援を1年かけて行います。
- ▽シングルマザーの自立メソッド:ステップ2
- ・就職支援:人材紹介、見学会の開催、個別カウンセリング
- ▽シングルマザーの自立メソッド:ステップ3
- ・定着支援:働き続けるための支援。おおよそ1年間実施
−定着支援に1年かけるとは手厚いサポートですね。支援の内容はどんなものですか?
会社に貢献するために何ができるかを、一緒に考えます。営業職に就いたけれど、商品の売り方がわからないという声があれば、商品を一緒に勉強して売り方を提案したりもします。営業先を出る時は、「また来ます」と必ず一言添えるように指導したりと、営業トークの基本までサポートしています。
シングルマザーと企業の双方に意識改革を促す
−そこまで定着支援を行うということは、残念ながら離職されるケースも多いということでしょうか。
支援している方々を見ていると、人間関係の悩みからすぐに離職してしまう人が多いです。そして、たとえ辞める理由が職場内の関係にあったとしても、“本当の事”は誰にも言わず、親の介護や子どもを理由にして辞めてしまうんです。
そのため、その問題を掘り起こして、企業側に改善を求める活動も行っています。各営業所で起こっている問題を、本部が把握できていないこともよくありますし、実は企業側も、人材の定着や働き方改革という面で、営業所など現場で起こっている“本当の事”を知りたがっている。協会から働きかけた結果、女性活躍推進部を設けた企業もありました。
−とても心強いですね! 社会に出た時、こんな支援があったらよかったのに、と思います。
そうなんです。支援をしていると、「こんなこと誰も教えてくれなかった」と言う声をたくさん聞きます。やはり自分1人ではなかなか解決しない、生き方、働き方の問題って多いと思います。自分を客観的に知ることについてもそうですし、何が原因か教えてもらえずに採用を打ち切られたり、就職活動がうまくいかない原因もわからないままになっています。
そこを客観的に解決するのと同時に、新しい挑戦には新たな恐怖心がつきものなので、恐怖心に対応できるようになるまで伴走するのが私たちの役割だと思っています。
50歳の自分を思い描き、いま動き出そう
−相談者が自立に至ったケ−スをお聞かせください。
離婚後、3人の子どもと実家に住みながら12年間パ−トで働いていた30代の相談者さんがいました。生活には困っていないけど、将来への不安と子どもの学費がかかる時期になって、もう少し収入を増やしたいと連絡して来られたのです。
収入を増やすには正社員を目指したい。しかし、まず長年勤めた職場を辞める覚悟が持てないんですよ。会社側も、仕事ができてお給料の安いパ−トさんを失うのは痛手なので、引き止めますし。「収入アップを目指すなら、動くのはいま」と励まし続けました。
そして、末子が22歳になった時のシミュレ−ションをしました。児童扶養手当などの公的支援がなくなり、子どもの学費も払い終わった時、パ−ト代の十数万の収入だけで十分なのかどうか。一緒に考えてみました。
就活にあたっては、より高度な社会性を身につけるために、身なりの整え方やしゃべり方のコミュニケ−ション教育も受けてもらいました。
さらに彼女は、「でも」が口癖だったんですね。これの改善を目指しました。ご家族も「でも」と言うたびに10円罰金というル−ルを作ってくださって、「でも」と言えない環境を作ったそうです(笑)。そうして入社した会社では、なんと年収350万を達成し、いまも元気に勤続しています。
−支援の充実がよくわかるエピソ−ドですね。末子が22歳という設定も想像しやすいです。
年を重ねるほど、負のマインドの連鎖を断ち切るのが難しいんです。新しいことに挑戦しようとすると、同時にいままでそれをやってこなかった過去の自分を否定することにつながってしまう。45歳以上の相談者は、まさに足がコンクリ−トに埋まったような、身動きがまったく取れなくなっている方が多いですね。
だから私は、相談者の皆さんに50歳が1つの分岐点だとお話ししています。そこまでに安定収入を得られる職に就けば、ある程度キャリアも積めるし、年収も伸びる可能性がある。さらに子どもの教育費を払い終われば、お給料の大半を自分の老後のために貯めておけます。
自立まで2〜5年かかると考えて、35歳〜40代のうちに始めれば間に合います。50歳の自分とその後の将来を具体的に思い描くことは、とても大切だと思います。
苦しい状況下で始まった、新しい支援の形
−コロナ禍で、支援のあり方や相談者に変化はありましたか?
講座などがすべてキャンセルになり、ぽっかりと時間が空いた非現実的な日々でしたよね。そんな時だからこそ、未来を考える時間にしようと呼びかけていました。
コロナ禍で唯一よかったのは、海外のような寄付文化が、やっと日本にも根づき始めたことです。今回、各方面から協会に寄せられた寄付金で、将来性と向上心のあるママに生活支援金を出しながら、プログラムや講座を受けてもらうことができました。こうした支援がこれからも定着していくとよいですね。
すべての女性が自立を目指して動き出す時代へ
−江成さんのことについてもお聞きしたいと思います。協会を立ち上げられた経緯は?
私は二十歳から、それこそシングルマザーになった時もずっと営業職だったんですが、子どもが多いのでなかなかうまく働けない時期がありました。頑張っているのに成果が出ないという思いを抱えながら、それこそ朝から晩まで働いていました。
生活保護は受けなかったんですが、後になって行政と仕事をした時に、当時であればかなりの額が支給されていたことを知って驚きました。自分で働いて、その額にたどり着くまでに何年かかったことか!(笑)。受給していたら、そこまでがむしゃらに働くこともなかったでしょうね。
生活がやっと安定した時、ここまで来るのに何がこんなに大変だったんだろう、と振り返るようになりました。そんな折、自立に成功したシングルマザーが集うランチ会を主催したのですが、お話をしているうちに、方法論こそないものの、みな苦労しながら同じような道を歩んできたことがわかりました。そこで、自立にはメソッドがあるんじゃないかと気づいたんです。
いつかは起業したいと思い、資格取得などの準備を進めていたので、自分も当事者であるシングルマザーの支援をやろうと思ったのは自然なことだったと思います。
−公的支援に頼らず、がむしゃらに働いた時期が協会の設立に繋がったのですね。最後に、自立を目指すシングルマザーの皆さんへ、メッセ−ジをお願いいたします。
支援を続けていると、これからはシングルマザーだけでなく、すべての女性がある程度自立をする必要性があると強く思います。自分と、自分の将来を大事にしてください。そのために、何ができるかを前向きに考えてほしい。私たちも一緒に考え、支援し続けていきたいと思います。
江成道子
一般社団法人 日本シングルマザー支援協会 代表理事。シングルマザーサポート株式会社代表取締役社長、一般社団法人グラミン日本顧問、武蔵野学院大学講師。2013年7月に一般社団法人日本シングルマザー支援協会を設立。自らシングルマザーとして5人の姉妹を育てながら、シングルマザーの自立支援活動を続ける。講演多数。2018年6月に、フォーブスジャパンの「新しいイノベーション!日本を担う99選」に選出される。2018年12月、TEDxNihonbashiにスピーカーとして登壇。
一般社団法人 日本シングルマザー支援協会