今回インタビューするのは、女性重機オペレーターの東香織さん。二児の母であり、シングルマザーである東さん。男性優位の世界で、子育てと仕事の両立の壁にぶつかりながらも、今では重機を縦横無尽に操るプロオペレーター。そんな東さんは今、建設業界に革命を起こそうとしています。ここに至るまでの異色なストーリー、想いを赤裸々に語ってもらいました。

目次
仕事のきっかけは、パート先横の工事現場
―東さんは離婚されているとの事ですが、当時の状況、心境をお聞かせいただけますか?
離婚は33歳の時ですね。当時、下の子が小1、上の子が小5でした。離婚について私はあまり悩まず、もう一択でした。というのも、自分の父と母の関係が良くなく、母の苦労を小さい時から見てました。とにかく働きづめの母だったので、、、
私も下に弟、そして11離れている妹がいるので、兄弟の面倒をみていました。苦労している母を見ていて、子供ながらに「なんで離婚しないんだろう」ってずっと思っていたんですよね。だからこそ、私は子供達の父親の事を悪く言うのであれば、もう離婚しようって。
―子供にとっても良くないな、とご自身の経験から思われたということですね。
はい。離婚を決めてからは、もう落ち込む暇もなくて。いかに子供との生活を守るか、必死でした。落ち込むよりも「絶対やったる!!」と燃えてましたね。
―決めた瞬間から変わりますよね、迷っているより絶対いいと思います!その時仕事はされていたんですか?
仕事はしていました。今の仕事なんですけど、まだ独立はしていなかったですね。
―東さんには仕事のお話をすごく聞きたくて!!!なぜこういう仕事を?どちらかというと男性社会というか、女性であまり見かけないので、、、きっかけは何だったんですか??
きっかけは、下の子が1歳になってないぐらいの時に掃除のパートに行ってて。生活に困っていたわけじゃないんですけど、少しだけ私も稼げればいいかな位の気持ちでパートを始めたんですよ。そしたら職場の隣が工事現場だったんですよね。もうお掃除そっちのけになっちゃって!
―仕事中に工事現場をひたすら見ていたってこと??
そうなんですよ、見たらほんと一目惚れじゃないですけど、もう頭いっぱいで集中できないぐらい。お掃除ではなくて、その工事現場を見に行ってるくらいにハマってしまって、、、
―ちょっとした気持ちでいったパート先で運命の出会いがあったということですね。現場を見て「この仕事したい!!」ってスイッチが入ったってことですよね?
いや、まさかっていう気持ちがあったんですよ。私がこんな全く興味を持ってなかった世界に、、ダメだよなってセーブする気持ちがありながらも、すっごい見たくなっちゃって!
―作業工程を??
そうですそうです!綺麗になっていく工程とかです。おっきい重機が入ってきて掘るんですよ。とにかくメチャクチャ大きい!で、ダンプの土を綺麗に均したりそんな動きを見たことなくて!間近で見たら、2階から1階を見る感じなんで全部が見えるんですよ、全体の動きが。で、毎日変わっていく、、、すっごく楽しいなって。現場のカッコよさに虜になってしまって。
けどその時はまさか自分が乗るという考えには至ってなかったんです。けど「一体どんな人が乗っているんだろう?」って気になってきて。そしたらある日テレパシーが通じたみたいに、重機からおじさんが降りてきたんですよ。それが意外にも小柄の人がでてきて!あの人でも乗れるの!?みたいな。
―ガタイの大きい人が乗っているイメージありますよね。
そう思うじゃないですか、そしたら意外にも小柄だったので、、私にも出来るかも!って。扉が開けたじゃないですけど、もう「やりたい!」って思考になっちゃったんです。そんな時、その運転手さんとコンビニで会って、声をかけたんです。私が逆ナンしたんですよ(笑)私の顔見て、あ!みたいになって、、いつも見てるから(笑)「実はその仕事したいんですけど」って話しました。 本当に言ってんの!?みたいな反応でしたね。
―ちょっと冗談だと思っちゃいそうですよね。
そしたら「そんなに乗りたいんだったら、資格取ってくれば乗らせてやるよ」って言われたんです。だから「えっ!乗らせてくれるの!?じゃあすぐ取ってきます!」って。
さっそくの壁「子供の預かり先」問題

資格取得には重機の講習を受ければ5日間でとれるんですけど、8時間みっちり。当時子供が小さいから一時保育でパートに行ってたんですけど、週5で連続とれる一時保育がなくて、、、もう最初で壁にぶち当たりました。
―子供の預かり先ですね、、、
そこでもう1つの条件である大型特殊免許があれば、5日間から3日間とか2日で短縮できる。まず先に取りに行きました。一時保育の範囲で行けたので、週1ぐらいでコンスタントに行って、「これどうやって乗るんですか?」みたいな状態で教習所行って、、、扉の開け方から全部教わりました。機械の名前すら知らないけど、とりあえず受かりたいから乗るみたいな。結果、5回で受かりました。
―すごいですよね、だって全く未知の世界で受かったってことですもんね。
その後資格をとれたものの、次の難関が就職先。保育園が決まってなかったので。資格取得の報告を運転手さんにしたら、その人の会社は現場に出なくなる会社だから、おすすめしないと、私の就職先を色々と当たってくれました。本当に良い人で全力でやってくれました。けれどやっぱり主婦ということもあるし、子供も小さいからなかなか見つからず、、、。
―働ける時間も制限ありますよね、、、
最終的にはそこの運転手さんの会社にやっぱりお世話になることになって。たまたま事務員を探してるっていうのと、ユンボ(油圧ショベル)がすぐ近くにあるんですよ。ずっと動かしてるユンボじゃなくて、 お客さんが土を捨てに来たら、ちょっと作業する。だから事務作業と兼業できる人を探してるから、おいでって言ってくれて。
―下積みじゃないけど、いい環境ですね。
はい、初歩を覚えるにもってこいな環境で。けど仕事は9割事務なんですよ。でもやっぱり興味のあることだから、覚えたいじゃないですか。で、その時は「ユンボ乗らしてもらえるならなんでもやります」って面接行ってるから、もう事務も全力でやって。そこで2年間事務をやって、その後はもっと広い置き場に行きました。
ダンプが土を持ってきたり、積む場所があるんですけど、 すっごい広いんですよ!1万坪ぐらい。そこに大小様々な重機がいっぱいあって。4年間は、そこで重機仕事をやりながら、やっと事務からも抜けられて、、、現場のことはわからないけど、そういうストックヤードの仕事はわかるので、 そこで経験を積んだ感じですね。
―どうでしょう、男社会のイメージがあるのですが、、、理解とかどうでした?例えば子供が急に熱を出したとか。
その会社はとても理解がありました。それこそ当時は夫が火曜日休みだったんですが「旦那さんと仲悪くなったら困るから、火曜日休みをあげる」みたいな。
―すごい!ほんと「人」がいい会社なんでしょうね。
ほんとそうですね。で、日曜と火曜で週休2日で働いていたんですが、なんかそれだと自分の中で罪悪感が出てきちゃって、、、自分だけ優遇されてるじゃないけど、なんか違うなって。本格的に忙しくなってきたこともあって、最後の数年は完全に日曜日だけ休みにして働きました。
次なる壁「小1の壁」にぶちあたる

―でもほんとにいい会社で、環境に恵まれてたってことですね。
ほんと恵まれていました。置き場スタートっていうのは女性に向いているな、と。9時入りの17時上がりだったので。
―あんまり他社ではそういう形態はないって事ですか?
ないんですよ、、、私に憧れて、オペになりたいって女の子がいるんですが、やっぱり子供がいてまだ小さいと、働ける先をなかなか探せなくて、、、
―そうなんですね、その世界に入りたい!って思っても、時間の問題があったりと、、、東さんはラッキーだったんですね。
ほんとそうですね。私自身も子供が保育園のうちはなんとかなったけど、小学校にあがったときは、どうしよう、、、と。近い現場だったら8時入りなんですけど保育園だったら7時に預けて行けるじゃないですか。小学校はそうはいかない。
―小1の壁ってやつですね。
そうそう、ほんとすごく大変でした。おまけに当時いきなり離婚して、引っ越しもして、それから学校も始まってと、、、子供もまだ交通ルールもわからないで突っ走ったりとかするので、ほんと不安で、、、。ママ友に朝見送ってもらったり、学童のお迎えが間に合わないときは行ってもらったりと助けてもらってました。
―ママ友の協力とかがあって、ほんとなんとかっていう感じですね。
いつこの積み上げてきたものが崩れるかっていう精神状態で、ほんとなんとかっていう感じ。特に長期休みですよね、、、毎日お弁当持って1人で行かせるって1年生には難易度高いじゃないですか。
―小1の壁で働き方を変えたり、なかには仕事を辞める方もいますよね。東さんも壁にぶち当たりながら、仕事を続けたということですね。その後、独立されてますがとても勇気がいることだと思いますが、、、独立はずっと考えていたことなんですか?
そうですね。やはりうまくなりたい、成長したい、となると現場に出るしかないんですよ。あとはいろんな人の動きをみたいなっていうのと、全て自分の責任になるわけじゃないですか。それってすごくやりがいあるなって。しかも事務経験から経理も分かるじゃないですか。単価や請求方法など全部わかるので。
―積み上げてきた経験ですね!やはり経験するって大事ですね。
トイレがない!?男性社会で働くこと

―そこまで来るのに、子育てとの両立で大変だったということですが、これは男性が多いならではの職場だな、って何かありますか?
汚い、とかトイレない、、、トイレがなかったんですよ。広い置き場に4年間行っていた時、最初の1年はトイレがなくて。
―えっ?よく現場に簡易トイレみたいのありませんか??
いや、それさえなくって、、、男の人はその辺でできる。あとは運転手さんって外に出ていくじゃないですか。だから別にトイレはいらないんですよね。私は置き場に常駐しているので、隠れて用を足す、、、社長が見かねて、もう香織ちゃん来たから電気引こうって、小屋を立てて休憩所もできて!
―東さんがいることですごい変わっていったんですね!
はい、香織ちゃんが来たおかげでトイレが出来て良かったって言われました。
―トイレもですが、、、やっぱり男性が多いなかで「えっ!?」って見られませんか?
そうですね、「こんな女来たけど大丈夫か!?」みたいな先入観がやっぱりあるじゃないですか。けど、そこでめちゃめちゃ上手かったらギャップが凄いと思うから私は逆に得してると思うんです。
―確かにギャップ効果でプラス!
そこを目指している途中です。まだまだうまくはないんで。
―最初「なんでこんな綺麗な方がこんなお仕事を!?」って凄く気になってしまって。東さんをみてやりたい!という女性が増えていったらすごく嬉しいですよね。
過酷なこともへっちゃらなくらい、仕事が楽しい

嬉しいですね。女性が増えれば、多分トイレも普通にあると思うんですよね。トイレもそうだし、働く環境もですね。子供が出来た時はやっぱり時間の融通が必要でしょうし、、、。現場って、「8時‐17時」で、朝礼に間に合わないんだったら、もう入れられませんっていうスタイルだから、まずそれが女性は無理じゃないですか。
―時間厳守できっちりしてそうですよね。
10時からぶっ通しで3時までとかで保育園預けて来れるような働き方もあればいいのになって。
―やっぱり時間の問題ですよね、子育てしてると。
全然内容は女の人でもできることもいっぱいあるし、建設業って29種類あるって言われてて、私はオペだけど、どのオペかによっても違うんですよ、全然。解体のオペさんなのか、土木のオペさんなのか、やることが本当に違うから、 そういうのでも、やっぱり人それぞれ悩みもあるし。
―もっと広がればいいですね。特に女性は全然詳しくない。私も本当初めて聞きましたもん。あまり知られていない世界ですよね。
こんなに楽しいのにもったいないなって思う!でもやっぱり環境は過酷なんですよ。紫外線とか粉塵とか、汗かくし、、、
―やっぱり過酷なこともあるってことですね。
そうですね。でもそれなんてへっちゃらっていうぐらい楽しいから、仕事が!
⇒後編(シングルマザーのリアルVoiceインタビュー Vol.4 後編)では、建設業界の問題や変えていきたいという想い、さらに母である東さんの子供達への想いといったプライベートな一面もお話してもらいました。