母子家庭でも私立高校への進学をあきらめる必要はありません。現在私立高校の授業料には国からの補助がありますし、そのほかにもさまざまな支援制度があるからです。本稿では、2020年4月からはじまった私立高校の授業料無償化についてわかりやすく解説します。私立高校へ進学する際に、母子家庭が利用できる支援制度についてもみていきましょう。

たった4年で80%が養育費を受け取れなくなります。

しっかり決めても受取れていない現状があります。

養育費を確実に受取る方法に養育費保証があります。

 

母子家庭でも私立高校へ行かせることができる

私立高校に対して「設備や授業は充実していそうだけれど、その分お金がかかりそう」といったイメージをもつ人は多いのではないでしょうか?

文部科学省が平成30年に実施した調査(※)によると、私立高校と公立高校の授業料の差額は1年で約20万円でした。「子どもには十分な教育を受けさせたい!とはいえ、経済状況を考えると私立高校に通わせることは難しい……」とジレンマを抱えているシングルマザーの方もいることでしょう。

ですが現在、私立高校への進学を支援するさまざまな制度があり、母子家庭でも安心して私立高校へ行かせることができるようになっています。

そのひとつに、2020年4月からスタートした「私立高校の授業料実質無償化」があります。これは新設された制度ではなく、既存制度の見直しによって実現したものです。次章からは「私立高校の授業料実質無償化」についてくわしく解説します。

※参考:文部科学省 – 平成30年度子供の学習費調査の結果について

「私立高校の授業料の実質無償化」とは?

私立高校の授業料の実質無償化に関する内容や支援金の支給条件、支給額などについて具体的にお伝えします。

正式名称は「高等学校等就学支援金制度」

一般的には「高校の授業料実質無償化」とよばれますが、制度の正式な名称は「高等学校等就学支援金制度」です。高校の授業料を支援する制度として、2010年からスタートしました。

この制度ができたことで、公立高校の授業料は実質無償となりました。もちろん公立高校に限った制度ではないため、私立高校に通う場合も利用は可能でした。しかし、支援金の額が少なく、私立高校の高い授業料に充てるには不十分だったため、私立高校に進学する際の経済的負担は依然として大きかったのです。

そのような背景から制度が見直され、2020年4月からは支援金が増額されました。その結果、私立高校の授業料もカバーできるようになり、私立高校の授業料実質無償化が実現したのです。

支給条件・支給額について

高等学校等就学支援金の支給条件は以下のとおりです。

・日本国内に住所がある人
・高校(高専・高等専修学校などを含む)に在学している人
・世帯収入が一定以下の人

ここでは「世帯収入が一定以下の人」という条件についてくわしく解説しましょう。世帯収入の判定には以下の計算式が使われます。

保護者などの課税標準額 × 6% ― 市町村民税の調整控除額

この計算式で算出された額が30万4,200円未満なら、就学支援金の支給対象となります。15万4,500円未満なら、上限の年39万6,000円が支給されます。

高等学校等就学支援金の支給が受けられるのか、おおまかな収入の目安を知りたい人は以下の表を参考にしてください。

  11万8,800円/年の支給対象 39万6,000円/年の支給対象
子1人(高校生) 約1,030万円以下 約660万円以下
子2人(高校生・中学生以下) 約1,030万円以下 約660万円以下
子2人(高校生・高校生) 約1,070万円以下 約720万円以下
子2人(大学生・高校生) 約1,090万円以下 約740万円以下
子3人(大学生・高校生中学生以下) 約1,090万円以下 約740万円以下

なお、計算式で必要な「課税標準額」や「市町村民税の調整控除額」は、マイナポータルHPなどから確認できます。正確に算出したい人は、マイナンバーカードを手元に用意してマイナポータルHPにアクセスしてみてください。

高等学校等就学支援金は申請後、国から都道府県を介し学校に交付され、授業料に充てられます。保護者の銀行口座などに振り込まれる仕組みではありませんのでご注意ください。

申請方法

高等学校等就学支援金を申請するのは高校に入学してからです。紙で申請する方法とオンラインで申請する方法の2パターンがあります。

紙で申請する方法 学校から「受給資格認定申請書」を受け取り、マイナンバーカードの写しなどを添えて提出する
オンラインで申請する方法 学校から配布されるID・パスワードで「高等学校等就学支援金オンライン申請システム e-Shien」にログインし、申請する

学校によってはオンラインでの申請ができない場合もあります。申請方法は学校の指示に従いましょう。

「私立高校授業料実質無償化」の注意点

「私立高校の授業料実質無償化」には、知っておくべき注意点もあります。

まず、高等学校等就学支援金の額が、家族構成や収入などによって異なるということです。就学支援金の支給対象ではあるものの、私立高校授業料の全額に充てられるほど支給されないケースもあります。

また、就学支援金の上限は年39万6,000円です。私立高校によってはこれよりも高い授業料がかかる場合があります。その際、たとえ支援金の上限を支給されたとしても、差額分は各家庭で負担することになります。「私立高校授業料実質無償化」といっても、すべての支給対象者の授業料が無償となるわけではありませんので知っておきましょう。

それに加え、就学支援金が支給される時期が、学校によって異なることにも注意が必要です。支給されるまでは授業料を全額支払う必要がありますので、ある程度のまとまったお金は必要でしょう。

高等学校等就学支援金制度は「私立高校授業料実質無償化」とよばれることからもわかるとおり、授業料のみが支援の対象です。けれども、高校に行くには授業料以外に、教科書代や課外活動費、制服代などさまざまな費用がかかります。これらの費用については就学支援金制度の対象ではないため、各家庭で負担しなければなりません。

とはいえ母子家庭の場合は、高等学校等就学支援金以外にも利用できる支援制度が複数あります。それらの制度を利用すれば、授業料以外の負担も軽減できるかもしれません。母子家庭が使える支援制度については、次章で解説します。

その他に母子家庭が使える私立高校支援制度とは

高等学校等就学支援金制度以外に母子家庭が使える支援制度には、以下のようなものがあります。

・高校生等奨学給付金制度
・母子父子寡婦福祉資金貸付金制度
・教育一般貸付 (国の教育ローン)
・教育支援資金
・各都道府県の支援制度

ひとつずつみていきましょう。

高校生等奨学給付金制度

高校生等奨学給付金制度は、高校生がいる低所得世帯を対象に、授業料以外の学費を負担してもらえる仕組みです。たとえば、教科書代や入学学用品費、修学旅行費などが該当します。

子どもが通う高校が国公立であっても私立であっても、支援を受けることが可能です。ここでは、私立高校に通う場合に受けられる高校生等奨学給付金の額を紹介します。

生活保護受給世帯【全日制等・通信制】 年額5万2,600円
非課税世帯【全日制等】(第一子) 年額13万4,600円
非課税世帯【全日制等】(第二子以降) 年額15万円2,000円
非課税世帯【通信制・専攻科】 年額5万2,100円

なお非課税世帯の目安は年収204万4,000円未満ですが、ケースによって異なる場合があります。くわしく知りたい人は、源泉徴収票など所得がわかる書類を役所に持参し相談してみるとよいでしょう。

参考:文部科学省 – 高校生等への修学支援 高校生等奨学給付金

母子父子寡婦福祉資金貸付金制度

母子父子寡婦福祉資金貸付金制度は、厚生労働省が主体となっておこなう貸付事業です。20歳未満の子どもを養育している母子・父子家庭がお金を借りられます。

この制度はさまざまな目的で利用できますが、子どもが私立高校に通う場合は以下の2つの資金を借りることができます。

  借りられる金額 目的
修学資金 月額最大5万2,500円 授業料・書籍代・交通費などに必要な資金
就学支度資金 最大42万円 就学に必要な制服などの購入資金

いずれも無利子で借りられ、償還期間は20年です。申請や問い合わせは、お住まいの自治体の福祉担当となっています。

参考:内閣府男女共同参画局 – 母子父子寡婦福祉資金貸付金制度

教育一般貸付 (国の教育ローン)

教育一般貸付 (国の教育ローン)は、日本政策金融公庫が主体となっておこなう貸付事業です。さまざまな学校に対応しており、日本学生支援機構の奨学金とも併用できるという特徴があります。

利用条件は、扶養している子どもの人数と世帯年収によって異なります。子どもの人数と世帯年収による条件は以下のとおりです。

子どもの人数 世帯年収
1人 790万円以下
2人 890万円以下
3人 990万円以下

自宅から私立高校に通う場合に借りられる金額は、子ども1人につき上限350万円です。自宅外から通学する場合は、上限が450万円になります。母子家庭は優遇対象となっているので、通常より低い金利や保証料でお金を借りることが可能です。

教育一般貸付 (国の教育ローン)は貸付制度ですので、上の年収に満たない場合であっても、審査に通らなければ利用することはできません。安定した収入がない場合は「返済が難しい」と判断され、利用できないこともあります。とはいえ、自己判断はNGです。利用したい場合はひとまず申請してみましょう。

申込み手続きはインターネットで行えるほか、日本政策金融公庫や銀行、信用金庫などでも可能です。

参考:日本政策金融公庫 – 教育一般貸付(国の教育ローン)

教育支援資金

教育支援資金は、社会福祉協議会が主体となっておこなう、低所得世帯を対象とした貸付事業です。収入要件などを満たし、審査に通ればお金を借りられます。

高校の場合、月額上限5万2,500円を教育支援費として借りられます。授業料のほか、教科書代や修学旅行費、制服や体操着などの費用に充てることができます。なお、私立高校に入学する際には入学金などまとまったお金が必要となりますが、入学金に困る場合は「就学支度費」として50万円まで借りることも可能です。

この制度は都道府県ごとに詳細が異なります。お住まいの都道府県の社会福祉協議会から詳細を確認してください。全国の社会福祉協議会のリンクはこちらのホームページに掲載されています。

各都道府県の支援制度

都道府県によっては独自の支援制度を設けている自治体があります。ここでは東京都と広島県の場合を紹介しましょう。

東京都では、授業料の一部を支援する「私立高等学校等授業料軽減助成金」の制度が設けられています。世帯年収が約910万円未満の場合、国の就学支援金と合わせて、都内私立高校の平均授業料相当年額の46万9,000円を上限に支援してもらえる制度です。

また、世帯年収が約910万円を超える場合であっても、扶養する23歳未満の子が3人以上いる場合は、子ども1人あたり年額5万9,400円を助成してもらえます。

参考:東京都 – 私立高等学校等の学費負担軽減に係る支援について

また広島県では、独自の制度として「授業料等軽減補助金制度」があります。こちらも国の就学支援金に上乗せして支援してもらえる制度です。

世帯年収が約270万円の場合、入学時納入金を18万円まで、授業料などを月5万円までの範囲で全額助成してもらえます。また世帯年収が約270万~約350万円の場合も、授業料などは月5万円までの範囲で全額支援の対象です。ただしこの場合、入学時納入金は一部自己負担になります。

参考:広島県 – 令和4年度 私立高等学校授業料等の負担軽減について

私立高校無償化は養育費に影響する?

「私立高校の授業料実質無償化が養育費に影響するかどうか」を断言することはできません。法律などに明記されているわけでもなく、まだ判例などもないためです。少し状況は異なりますが、「公立高校の授業料無償化が養育費に影響するかどうか」については判例がありますので紹介します。

この裁判は、原告が「公立高校の授業料無償化が始まり、生活費は減少したのでは?」との考えから、「(相手方へ支払う)婚姻費用は減額されるべきではないか?」と主張したものです。これについて最高裁判所は「高校授業料無償化は養育費の額に影響を与えない」と判断し、婚姻費用の減額を認めませんでした。その理由は以下の2点です。

➀高校無償化は私的扶助を補助するものとして考えられるべきであるから
②本件において、公立高校の授業料は婚姻費用の中でもそれほど大きな割合を占めていないと推測されたから

この判例が今後のひとつの参考になると考えられます。現時点では、私立高校の授業料実質無償化が養育費に影響するとは考えにくいでしょう。

▶養育費が減額されるケースについては、こちらの記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
養育費の減額を求められた!減額が確定する例・しない例は?

母子家庭でも私立高校をひとつの選択肢に!

私立高校への入学を希望する子どもがいる場合、高等学校等就学支援金制度のほか、私立高校への進学を支援するさまざまな制度が利用できます。母子家庭が優遇的に利用できる制度もありますので、子どもが希望する場合、私立高校への進学もひとつの選択肢として検討してみてはいかがでしょうか。