シングルマザーのお金に関する悩みのひとつに「年金」があります。毎月保険料を支払うことが難しい人もいれば、将来受け取れる金額について不安に思う人もいます。そこで、本記事ではシングルマザーの年金に関する内容を中心に、免除方法、将来受け取れる年金を増やす方法などを紹介していきます。
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目次
シングルマザーは年金の支払いが免除される?
シングルマザーはひとりで子どもを育てながら仕事をしていることがほとんどであるため、国民年金の保険料を納めることが難しいケースがあります。厚生労働省の「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果の概要」によると、シングルマザーの平均就労年収は200万円とあり、その中から毎月1万6,600円(令和3年度)の保険料を支払うことはかなり大きな負担であると考えられます。
もしもシングルマザー向けの年金保険料の支払い免除制度があれば、それを活用することで生活に余裕が出てくる可能性がありますが、そういった制度は用意されているのでしょうか。
実は、シングルマザーやシングルファーザー向けの年金保険料免除制度というのは、特別に用意されているわけではありません。ただし、減額・免除要件に当てはまれば、保険料の納付を減額、または免除してもらうことができます。
参考:厚生労働省 – 平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果の概要
そもそも年金(国民年金保険料)の免除制度とは
国民年金保険料の免除制度とは、収入の減少や失業などの理由で保険料を納付することが難しい場合に利用できる制度です。保険料が納付できないからといって未納のまま放置してしまうと、老後に受給できる年金額が少なくなってしまったり、病気やケガで重度の障害を負った場合に障害基礎年金を受給できなくなったりします。
そのため、納付できない事情がある場合は「国民年金保険料免除・納付猶予制度」の手続きをとる必要があります。なお、免除や猶予を受けている期間であっても、年金の受給資格期間(※)には算入されますが、通常通り納付していた場合よりも老後の年金受給額は減額されてしまいます。この場合、後に詳しく説明しますが、免除期間の保険料を後払い(追納)することで年金受取額を増やすことができます。
※受給資格期間……年金を受ける際は、保険料納入期間や加入者期間などの合計が一定年数以上必要で、この期間のことを「受給資格期間」といいます。日本の公的年金制度では、受給資格期間は10年とされています。
年金の免除を受けるための条件
国民年金保険料の免除を受けられるのは、「法定免除」に該当する場合と、自分で申請する「申請免除」の場合があります。法定免除に該当するのは、生活保護の生活扶助を受けている人や障害年金を受給している人です。
一方、申請免除は所得が低く納付が難しい人で、所得に応じて「全額免除」「4分の3免除」「半額免除」「4分の1免除」の4つに分かれます。なお、ここでいう所得とはシングルマザー個人だけのものではなく世帯の所得で判断されるため、たとえば所得の高い親と生活している場合は免除申請できない可能性があります。
参考までに、免除制度に該当する所得基準を紹介します。前年所得が次の計算式で計算された金額の範囲内であることが条件となります。
免除の種類 | 所得基準 |
---|---|
全額免除 | (扶養親族等の数+1)×35万円+32万円 |
4分の3免除 | 88万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等 |
半額免除 | 128万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等 |
4分の1免除 | 所得168万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等 |
参考:日本年金機構 – 保険料免除・納付猶予の承認基準(所得の基準)
ちなみに、同じ世帯の親の所得が高く免除制度の対象外となってしまう場合は、「納付猶予制度」の条件に当てはまるかどうか確認してみましょう。所得条件はシングルマザー自身のもののみで判断できます。
令和3年度分から未婚ひとり親・一定の所得額以下だと「全額免除」に
平成31年度の税制改正により、令和3年度分の個人住民税から「児童扶養手当を受給中で、前年の合計所得金額が135万円以下の未婚のひとり親」も非課税措置の対象になりました。それに伴い国民年金保険料の免除基準も改正され、これまで対象者であった障害者・寡婦に加え、所得が135万円以下のひとり親も保険料全額免除の対象となっています。
以前は離婚・死別のシングルマザーしか全額免除を受けられませんでしたが、税制改正により結婚歴のない未婚のシングルマザーも全額免除の対象となっています。
シングルマザーの年金|夫と離婚した場合
離婚によりシングルマザーになった場合、婚姻期間中の元配偶者の厚生年金・共済年金の保険料納付実績を夫婦間で分割できる制度があります。元夫が会社員だった場合は厚生年金、公務員だった場合は共済年金(厚生年金)となり、婚姻期間中にかぎり妻も一定割合納付したものとして記録を分け合い、それぞれ自分の年金として受給することができます。
そもそも年金分割制度とは、夫婦間の不公平を解消するための制度です。たとえば、元夫が会社員で妻が専業主婦であった場合、働いて収入を得ていたのは元夫ですが、妻も元夫を支えていたという実績があります。そのため、「婚姻期間中の元夫の年金納付実績も分割すべき」という考えに基づいています。ただし、分割できるのはあくまでも厚生年金や共済年金であり、国民年金などは対象外となるため注意が必要です。
年金分割制度には「合意分割制度」と「3号分割制度」のふたつがありますので、それぞれの内容について確認していきましょう。
合意分割制度
合意分割とは、年金分割割合を夫婦間で決めることができる制度で、厚生年金を多く受給できる側に対して受給額が少ない側が請求します。請求できる上限は50%ですが、話し合いで結論が出ない場合は裁判により割合を決定します。
ただし、分割するのは片方の厚生年金記録だけとは限らず、共働きでふたりとも厚生年金記録がある場合はそれぞれが等しくなるように分割されます。たとえば、結婚期間中の厚生年金記録が、夫5,000万円、妻3,000万円だったとします。この場合、ふたりの厚生年金記録を等しくなるように分割すると合意すると、夫から妻へ記録が移されるのは1,000万円になります。
なお、合意分割制度の対象となるのは平成19年4月1日以降に離婚をした場合で、請求期間は離婚した日の翌日から2年以内です。離婚と同時に決める必要はありませんが、早めに合意しておくと良いでしょう。
3号分割制度
3号分割とは、国民年金の第3号被保険者(専業主婦)が元夫に対し、平成20年4月1日以降に専業主婦であった期間の元夫の厚生年金記録の2分の1を分割するよう請求できる制度です。合意分割のように分割について夫婦で合意をする必要はなく、分割割合は2分の1ずつと決められています。
平成20年4月1日から離婚する日までずっと専業主婦だった場合は、3号分割制度のみの利用ですが、最初は働いていて厚生年金に加入していたものの途中から専業主婦になった場合は、合意分割制度と3号分割制度を併用することになります。
なお、3号分割制度を利用できるのは平成20年5月1日以降に離婚をした人で、分割の対象となるのは婚姻期間中の記録のみです。また、請求期限は離婚した日の翌日から2年以内です。
シングルマザーの年金|夫と死別した場合
夫との死別でシングルマザーになった場合は、前章で説明した分割制度ではなく、遺族年金というかたちで年金を受給することができます。
遺族年金が支給される
遺族年金は、国民年金または厚生年金保険に加入していた夫が死亡した場合に、遺族が受け取れる年金のことをいいます。夫が自営業や個人事業主などの第1号被保険者だった場合は「遺族基礎年金」を、会社員や公務員などの第2号被保険者だった場合は「遺族厚生年金」を受給できます。
1.遺族基礎年金
遺族基礎年金を受給するためには、夫や妻、子どもが次の要件を満たしている必要があります。
➀夫の加入要件:いずれかを満たしている
・国民年金の被保険者期間に死亡した
・日本国内に住んでいて国民年金の被保険者だった人が60歳以上65歳未満で死亡した
・受給資格期間(被保険者期間)が25年以上ある
なお、1番目と2番目どちらも該当する場合は、死亡日の前日までに保険料納付済期間が国民年金加入期間の3分の2以上あることも必要です。ただし、死亡日が令和8年3月末日まで、かつ、65歳未満で死亡した場合は、死亡日が含まれる月の前々月までの1年間に保険料の未納がなければ受給できます。
そして、夫だけでなく妻や子どもについても次の要件を満たしている必要があります。
②遺族基礎年金を受給できる人:夫に生計を維持されていた次のいずれかの人
・子どもがいる妻
・子ども
ここでいう子どもとは、18歳になった年度の3月31日までの子どもで、一般的には高校3年生を卒業するまでの子どもが該当します(障害を持っている場合は20歳未満です)。
ここまでをまとめると、夫が国民年金の被保険者期間中に死亡し、保険料は3分の2以上の期間納付済で、高校3年生を卒業するまでの子どもがいるシングルマザーであれば、遺族基礎年金を受給できることになります。
③受給金額
子どもがいる妻が受け取る場合、以下の金額を受給できます。
780,900円+子の加算額(※)
※子の加算額:1人目および2人目→各224,700円、3人目以降→各74,900円
2.遺族厚生年金
遺族厚生年金も、夫や妻、子どもが所定の要件を満たしている必要があります。
➀夫の加入要件:次のいずれかを満たしている
・厚生年金保険の被保険者期間中に死亡した
・厚生年金の被保険者期間に初診日がある病気・けがで、初診日から5年以内に死亡した
・障害厚生年金を受給中に死亡した
なお、1番目と2番目が該当するケースでは、遺族基礎年金と同様に3分の2以上の保険料納付期間があることも要件となっています。
②遺族厚生年金を受給できる人
・妻(年齢は不問。ただし30歳未満で子のない妻は5年間のみの受給となる)
・子ども(年齢要件は遺族基礎年金と同じ)
そのほか、父母、孫、祖父母も受給範囲内に含まれています(父母や祖父母は55歳以上)。
③受給金額
夫が受給できる予定だった老齢厚生年金の約4分の3の金額
離婚後に元夫が死亡した場合について
離婚後に元夫が死亡した場合はどうなるのでしょうか。まず、遺族基礎年金は元夫に生計を維持されていたことが条件ですので、離婚した妻は受給資格がありません。しかし、子どもが元夫から養育費を受け取っていて、なおかつ高校3年生を卒業するまで(障害を持っている場合は20歳まで)であれば、受給する資格があります。
ところが、遺族基礎年金にはもうひとつのルールがあり、子どもに生計を一にする親(母親)がいる場合は支給停止とされています。つまり、受給資格のある子どもでも母親と同一の生計にある状態であれば受給することができないのです。
では、遺族厚生年金はどうでしょうか。遺族厚生年金は遺族基礎年金よりも受給対象者が広く設定されていますが、受給できる優先順位は次のように決まっています。
➀妻(配偶者) ②子ども ③父母 ④孫 ⑤祖父母 |
遺族厚生年金も元夫に生計を維持されていたことが条件なので、最優先順位の妻は対象外となりますが、子どもが養育費を受け取っており高校3年生を卒業するまでの年齢であれば受給権を持つことができます。遺族厚生年金にはこれ以外のルールはないので、子どもは元夫が受給できる予定だった金額の約4分の3を受給することができます。
年金の免除申請と必要な書類について
国民年金保険料を免除してもらいたい場合は、自分で申請手続きをとらなくてはなりません。未納のまま放置すると、年金を受給するときに受給資格を満たしていなかったり、受取額が減額されたりしますので注意しなければなりません。
【申請先】
住んでいる自治体の市区町村役所の国民年金担当窓口(郵送でも可)
【申請に必要な書類】
・国民年金保険料免除・納付猶予申請書
・年金手帳または基礎年金番号通知書
・本人確認書類(運転免許証など)
・個人番号確認書類(マイナンバーカード、個人番号通知カードなど)
一般的に必要な書類は上記のものですが、前年または前々年の所得を証明する書類などが必要なケースもありますので、窓口に出向く前に電話で確認すると良いでしょう。
なお、申請免除・納付猶予の手続きは原則として毎年必要です。申請免除・納付猶予は7月から翌年6月を1年度としているので、翌年以降も免除等を希望する場合は7月以降に手続きをしましょう。
シングルマザーが将来受け取れる年金を増やすには
これまで説明してきたように、経済的な理由で国民年金保険料の納付が厳しい場合は免除や猶予をすることができますが、将来的に年金額が減少してしまうのは避けたいものです。では、シングルマザーが将来受け取れる年金額を少しでも増やす方法にはどのようなものがあるのでしょうか。主な方法をふたつ紹介しますので検討してみてください。
免除されている分を追納する
先にも触れましたが、免除や猶予を受けていた分の保険料を追納することで、老後に受給できる年金額を増やすことができます。ただし、追納できるのはさかのぼって10年以内のものに限るため、免除や猶予制度を利用した際は家計に無理のないよう早めに追納することをおすすめします。追納の手続きは年金事務所の窓口で対応しています。
なお、追納した国民年金保険料は、年末調整や確定申告の際に申告すると「社会保険料控除」として所得税や住民税が軽減されます。
厚生年金に加入する
現在、国民年金のみに加入している場合は、厚生年金に加入するのもおすすめの方法です。具体的には、正社員として勤務するか、パートでも一定の条件を満たしていれば社会保険の加入対象者になるため厚生年金に加入することができます。パートが社会保険に加入できる条件は次の通りです。
【令和4年3月現在の条件】
・従業員が500人を超える会社である(500人以下でも労使の合意があれば加入可能)
・週の所定労働時間が20時間以上である
・雇用期間が1年以上見込まれる
・月額賃金が8万8,000円以上である
・学生ではない
なお、令和4年10月からは次のように改正されます。
【令和4年10月からの条件】
・従業員が常時500人を超える→100人を超える
・雇用期間が1年以上見込まれる→2か月を超えて見込まれる
ほかの要件は同じです。
このように、正社員だけでなくパートであっても社会保険に加入できる条件が緩和されているので、条件に該当するような働き方を検討するのも良いでしょう。
◆シングルマザーの転職や資格取得については以下の記事で紹介しています。ぜひ参考にしてみてください。
└シングルマザーの転職は難しい?タイミングや企業を選ぶコツ
└シングルマザーにおすすめの資格!国の支援制度を利用しよう
シングルマザーは年金制度を正しく知って手続きしよう
年金について不安を感じているときは、まず年金制度について知ることから始めてみましょう。免除・猶予制度といった保険料の納付負担を減らせる制度や、受給できる年金について理解することができます。年金は万が一の際や老後の生活費に大切なものなので、きちんと手続きをとることを忘れないようにしてください。