厚生労働省「平成28年度全国ひとり親世帯等調査」によれば、シングルマザーの平均的な年収は243万円です。いろいろな制度を活用するなどして何とか生活できたとしても、結婚している間、専業主婦だったりパート勤務で厚生年金に加入していなかったりしていたという方は、将来の年金生活に不安を感じているのではないでしょうか。そこで本記事では、離婚をしたときの年金制度について、そして、年金額を増やしていく方法を解説します。

離婚するときは、もちろん年金も分けられる

離婚するときは、婚姻期間中の、元夫の厚生年金や共済年金加入による年金額を分割できる制度があります。年金分割には、“合意分割制度”と“3号分割制度”の2種類があります。

▽離婚時における年金分割の制度

制度 内容
合意分割制度 2007年4月1日以降に離婚などをしたときに、夫婦が合意によって婚姻期間中の夫婦それぞれの厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)を分割して公平にすることができる制度
3号分割制度 2008年5月1日以降に離婚などをしたときに、夫婦間で合意がなくとも2008年4月1日以降の婚姻期間中に国民年金の第3号被保険者(会社員や公務員等に扶養されている配偶者)であった一方へ、相手の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)を2分の1ずつに分割することができる制度

 
3号分割は、夫婦間の合意がなくとも年金分割ができる制度ですが、「2008年4月1日以降の年金積立分」に対してしか適用がありません。そのため、2008年4月1日より前に婚姻した夫婦の場合には、3号分割だけでは年金の全てを分割することができず、合意分割も必要となります。

逆に、2008年4月以降に婚姻した夫婦や、2008年4月以降に厚生年金や共済年金に加入した夫婦は3号分割のみで年金分割することができます。

それでは具体的なケースを見てみましょう。

【2009年に婚姻し、2019年に離婚・婚姻期間は10年(120月)】
・元夫(昭和21年4月2日以降生まれ):厚生年金加入、標準報酬月額30万円
・元妻:専業主婦

このケースでは2008年以降に結婚しているため、厚生年金に加入している夫に扶養されている妻は「3号分割制度」を利用して年金分割することができます。対象期間(婚姻期間)中の、夫の厚生年金記録の“標準報酬月額30万円”、が2分の1ずつに分割されます。

標準報酬月額15万円として、対象期間の老齢厚生年金額を概算すると、次のようになります。

元妻が受け取れる老齢厚生年金額:15万円×5.481/1,000×120月=9万8,658円

 
「5.481/1,000」は、年金額を算出するための報酬比例分の乗率です。これは夫の生年月日によって決まります。

【参考】日本年金機構 – 老齢厚生年金(昭和16年4月2日以後に生まれた方)

年金分割を利用しない場合、妻は老齢厚生年金を受け取れませんが、利用した場合、将来の老齢厚生年金額が年額で9万8,658円増えることになります。ただし原則として離婚後2年以内に申請する必要があり、年金額は独身時代や離婚後も含めた自身の厚生年金の加入期間などによっても変動します。

また、離婚後であっても遺族厚生年金を受け取れる場合もあります。先ほどのケースに少し手を加えた事例を見てみましょう。

【2009年に婚姻し、2019年に離婚・婚姻期間は10年(120月)】
・元夫(昭和21年4月2日以降生まれ):厚生年金加入、標準報酬月額30万円、離婚した後、再婚(事実婚)せずに死亡
・元妻:18歳未満の子または障害等級1級か2級にある20歳未満の子がいる。元夫から養育費を受け取っているなどの生計維持関係がある

遺族厚生年金は、死亡した人が子の生計を維持していた場合であれば、その子に対して支給されます。そのため、上記例のように離婚後であっても、元夫婦の間に子どもがいて、死亡した元夫から養育費を受け取って生活していた場合には、遺族厚生年金を受け取れる可能性があります。

ちなみに、遺族基礎年金は、生計を同じくする母があるときはその間支給が停止されるため、受給することができません。

元夫が亡くなった場合、遺族厚生年金は次のようになります。

遺族厚生年金=(30万円×5.481/1,000×300月)×3/4=36万9,968円
 
※元夫の厚生年金加入期間が25年に満たないため300月での計算が適用

 
子は36万9,968円の遺族厚生年金を年額で受け取ることができます。なお、以前は、遺族厚生年金などの公的年金を受給している人は、児童扶養手当を受給できませんでしたが、平成26年12月以降は、年金額が児童扶養手当額よりも低い人はその差額を受給できるようになりました。

該当するのではないかと思われる方は、年金事務所へお問い合わせください。

年金保険料が払えないときはどうすれば?

公的年金制度には、国民年金、厚生年金、共済年金の3種類があり、日本国内に住所のあるすべての方が加入することになっています。婚姻期間中に元夫の扶養だった方は、離婚によって扶養からはずれるので、国民年金の第1号被保険者となり国民年金保険料を納めなければなりません。

専業主婦からパート勤務をはじめた、などで収入が一定額以下の場合は、払えないからとそのままにせずに保険料免除の申請をしましょう。免除が認められると、保険料を納めていなくても、その期間の年金額の2分の1は将来に受け取ることができるのです。

国民年金保険料の免除制度には、法定免除と申請免除があります。法定免除に該当する方は、生活保護の生活扶助を受けている方、障害基礎年金ならびに被用者年金の障害年金(2級以上)を受けている方、ハンセン病療養所などで療養をしている方となり、国民年金保険料の全額が免除されます。この期間中の老齢基礎期間の2分の1で計算されます(2009年3月までは3分の1)。

申請免除は免除される保険料の割合により、全額免除、4分の3免除、半額免除、4分の1免除の4種類あり、その期間の年金額は以下の通りです。

▽国民年金保険料の免除の種類

免除の種類 年金額
全額免除 2分の1(2009年3月までの期間は3分の1)
4分の3免除 8分の5(2009年3月までの期間は2分の1)
半額免除 8分の6(2009年3月までの期間は3分の2)
4分の1免除 8分の7(2009年3月までの期間は6分の5)

 
現在の申請全額免除の基準は、前年所得が「(扶養親族等の数+1)×35万円+22万円」以下であることです。

申請免除は、ご本人だけでなく、世帯主の所得や配偶者の前年所得が一定以下であることが要件ですので、該当するかもしれないと思われる方は、お住いの市・区役所や町村役場の国民年金担当窓口あるいは年金事務所へお問い合わせください。

将来の年金額を増やすためにできること

保険料免除の承認を受けた期間の保険料は、10年以内なら後から納めることができます。このことを追納といいます。また納めた保険料は社会保険料控除の対象になるので、所得税や住民税が安くなります。しばらく経って生活が落ち着いたら、追納して年金額を満額に近づけましょう。

パート勤務の方なら勤務先で厚生年金に加入することを検討してはいかがでしょうか。また、個人事業主の方なら付加保険料を納める、国民年金基金に加入するなどの検討、iDeCoや個人年金など税負担を軽くしながらさらに老後資金を貯めることができる制度もあります。

公的年金制度には老齢年金、障害年金、遺族年金の種類がある

公的年金には、老齢年金、障害年金、遺族年金などの種類があり、免除が承認された期間は、納付期間と同様に見なされ、障害や死亡などの不測の事態にも年金を受けることができます。また、将来の生活資金については、長い期間をかけて準備していくことが大切になります。

離婚をすると収入も大きく変わるため、生活設計を新たにしなおさなければならないことでしょう。足元の生活はもちろんのこと、ご自身の年金についてもしっかりと確認してみましょう。


平沼 夏樹

【監修者】平沼 夏樹
弁護士。第二東京弁護士会所属。京都大学総合人間学部卒業、立教大学大学院法務研究科修了。離婚、労働、企業法務分野MGを歴任。横浜オフィス支店長、支店統括としての実績が評価され、現在は、リーガルサポート部GMとして、30名を超えるパラリーガルの業務統括及び、離婚分野MGを兼務する(2020年8月現在)。一般民事(主に離婚事件)に関する解決実績を数多く有する。また、企業法務についても幅広く経験。担当したMBOに関する案件(「会社法判例百選第3版」掲載)をはじめ、企業法務についても幅広い業務実績を持つ。知識、経験に基づく、専門家としての対応のみならず、一人間として、依頼者それぞれの立場・心情を理解し、コミュニケーションを重視した対応を心掛けている。

【取扱分野】離婚・男女問題/企業法務・顧問弁護士/遺産相続/労働問題/インターネット問題/債権回収/詐欺被害・消費者被害

>>所属団体のサイトを見る