結婚しないまま子どもができて親になった、いわゆる「未婚の母」の方も、離婚してシングルマザーになった方と同じように相手の男性から養育費を受け取れる可能性があります。

ただし、待っているだけでは何も始まりません。養育費をきちんと受け取るには、行動を起こしていく必要があります。この記事では、「未婚の母」の方が養育費を受け取るための方法や対策を詳しく解説していきます。

未婚の母でも養育費は受け取れる

養育費は、子どもがこれから成長していくために必要な教育費、食費、医療費などのためのお金です。子どもと離れて暮らす親から、子どもを今後育てていく親に対して支払われます。

未婚の母でも養育費を受け取っている人はいる

未婚の母でも養育費を受け取ることは可能です。ですが、実際に受け取れている人は少ないのが現状です。厚生労働省の調査によると、未婚の母の場合「相手から養育費を受け取ったことがない」という方が約8割にのぼっています。

参考:厚生労働省「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告

養育費は話し合いで決めるのが基本

養育費を「受け取れていない人」と「受け取れている人」では何が違うのでしょうか。大きな差のひとつが、養育費についての取り決めができているかどうかです。

具体的な金額やいつまでどうやって支払うのかなど、養育費に関するルールは当事者間で話し合って決めるのが基本です。先ほど紹介した調査で、「養育費の取り決めをしていた未婚の母」に絞って受け取り状況を見てみると、以下のようになります。

参考:厚生労働省「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告

先ほどのグラフとの違いは、一目瞭然でしょう。過半数の方が、養育費を現在も受け取っていると回答しています。きちんと相手と話し合ってルールを決めておくというのは、とても有効な方法です。

そうはいっても、「相手と話し合いができる状況ではない」「話し合いをしたがうまくいかない」という方もいるでしょう。また、「ルールを決めていたのに支払ってもらえない」という場合もあります。そんなときの対処法については後ほど解説します。

養育費の相場と金額の目安

そもそも養育費とは、いくらくらいもらえるものなのでしょう。先述の調査では、養育費の平均は「月額およそ4万4,000円」となっています。このお金があるかないかで、家計のやりくりのしやすさが大きく変わる方は多いはずです。

ただし、養育費の金額は、自分と相手の収入や子どもの数なども加味する必要がありますし、もちろん話し合いの結果次第です。具体的に相手にいくら請求したらよいかわからないという方は、目安となる金額が「養育費算定表」として裁判所の公式サイトに掲載されていますのでチェックしてみましょう。
参考:裁判所「平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について

未婚の母と、離婚してシングルマザーになった人との違いは?

「未婚の母」と「離婚してシングルになった人」で差が出るのが、相手が法律上も子どもの「父親」となっているかどうかです。「結婚→出産→離婚」となった場合は、基本的に「元夫=子の父親」になりますが、未婚の状態で出産した場合は、相手に「子どもの父親」であることを認識してもらうことからはじめることになります。

未婚の母が養育費を受け取るためのポイントは「認知」

未婚の状態で出産する場合、相手に「子の父親である」と認めてもらうことで、法律上の父子関係を成立させることができます。これを「認知」といいます。

認知があるかどうかは、養育費を受け取るときの大きなポイントになります。認知が済んでいて法律上も父親であることが確定しているのなら、たとえ入籍していなくても、その父には子を養っていく扶養義務があります。つまり養育費を支払う必要があるということです。

相手が認知してくれない場合は、子どもには法律上の父親がいない状態になります。戸籍の「父」の欄は空欄です。なかには、この状態で養育費を払ってくれる男性もいると思いますが、認知済みで扶養義務がある状態に比べると、認知なしで養育費を受け取るのはハードルが高くなりがちです。

認知のメリットとデメリット

相手に子どもを認知してもらうことには、メリットもあればデメリットもあります。やみくもに認知を求めればよいわけではありませんので、ここで整理しておきましょう。

メリット
「父親が認知する=父子関係が成立する=扶養義務が発生する=養育費を支払う義務が発生する」と、すべてつながっています。認知を受けられた場合は義務となるため、認知がない場合より相手に養育費を請求しやすくなります。

また、認知されれば、子どもは父親の相続人になれます。将来父親が亡くなって財産を遺していた場合、子どもに受け取る権利が発生します。

デメリット
法律上の親子関係があれば、親には子を養う義務があります。これは、実は逆も同じで、もし子どもが一人前の大人に成長したあとで父親が生活に困っていた場合、子が父親の生活を支える義務も発生します(民法877条1項)。

認知されることで子の戸籍に父親の名前が載ることになるため、それが嫌だと感じる方もいるかもしれません。また、相手が既婚者の場合は認知を求めたことで不倫がばれて、相手の妻から慰謝料を請求されてしまうといったケースもあるようですので注意しましょう。

認知にはどんな手続きが必要?

認知することにお互いが合意できたら、相手(父親となる人)に市区町村役場で認知届という書類を出してもらうことになります。印鑑や父親の戸籍謄本、免許証などの本人確認書類なども必要ですので、自治体のホームページなどで事前に確認しておきましょう。

ちなみに、まだ妊娠中の状態でも認知は可能です。「胎児認知」といい、子どもが生まれたときに効力が発生します。

認知してもらえないときはどうすればよい?

認知してほしいのに相手が拒否する、もしくは話し合いができないなどの場合は、次のような手段があります。

認知調停
調停(ちょうてい)とは、裁判所で行う手続きです。第三者である「調停委員」が2人の言い分をそれぞれ聞いて、落としどころを見つけて合意できるよう導いてくれる制度です。裁判よりもかんたんな手続きで行うことができ、費用も抑えられます。

強制認知(裁判認知)
調停でもまだお互いが納得する結論に至らない場合は、裁判を起こすことも可能です。裁判ではお互いの主張やDNA鑑定などを通して裁判官が結論を出します。裁判で父子関係が認められれば、たとえ相手がずっと拒否していても認知にこぎつけることができます。

養育費を受け取るためにできる5つの行動

最後に、相手から養育費を受け取るためにできる行動と対策について整理しておきましょう。

行動1:相手との話し合い

まずは相手と話し合いができる状況なのか判断しましょう。なかには、相手に妊娠を伝えた瞬間に音信不通になってしまったという方やDV被害を受けていて危険を伴うという方もいます。

話し合いができそうなら、認知するのかどうか、養育費を支払ってくれるのかどうかを確認します。養育費は以下の項目について決めておくのが理想的です。

・いくら支払う?
・いつ支払う?
・支払いの頻度は?毎週?毎月?毎年?
・いつまで支払う?
・どうやって支払う?振込先は?

行動2:話し合いの結果を書面に残す

話し合って決めた内容は、必ず書面に残しましょう。口約束はトラブルの元です。自分たちで用意して書類をつくってもよいのですが、ベストなのは「公正証書(こうせいしょうしょ)」を作成することです。

公正証書は、自分たち2人ではなく第三者である法律の専門家に作ってもらう公的な書類です。全国にある公証役場で公証人という法律のプロが作成・保管するため、法的な証拠能力が高く、紛失や改ざんの心配もありません。

また、合意内容を記した書面があれば「養育費保証サービス」を利用できる可能性が高まります。これは、相手が途中で養育費を払ってくれなくなったら保証会社が代わりに立て替えて支払ってくれるというサービスです。

公正証書の作成も養育費保証サービスも利用にはお金がかかりますが、その費用を全額補助してくれる自治体も徐々に増えています。お住まいの自治体の状況を、調べてみましょう。

行動3:話し合いができないときは調停

認知でも養育費でも、話し合いがうまくいかなければ裁判所に「調停」を申し立てましょう。

調停では別々に入室して、相手に会ったり反論されたりすることなく、自分の意見をすべて専門家に聞いてもらって話を進めることも可能です。通常の話し合いが難しい場合でも利用しやすいでしょう。調停でも話がうまくまとまらない場合は「審判」に移行することもできます。

行動4:養育費の支払いが滞ったときは裁判所へ

「相手が養育費に関して決めたルールを守ってくれない」「最初はきちんと支払ってくれていたのに、途中で途絶えた」などの場合も、あきらめる必要はありません。

相手に連絡したり、支払ってほしいという内容の内容証明郵便を送ったりすることもできますし、それでも反応がないようなら最終手段として「強制執行」という手続きもあります。強制執行を行うには、公正証書(執行認諾文言のあるもの)、調停で解決したときに作成される調停調書、審判の審判書などが必要ですが、相手の給料や家、車など財産を差し押さえて、強制的に養育費の分を徴収できる可能性があります。

行動5:悩んだり困ったりしたときは相談する

認知や養育費の請求には、法律など専門的な知識が必要となることも多いです。悩んだときは、以下のような相談先を頼ってみましょう。無料で相談できるところもあります。

・自治体の養育費等相談機関(養育費相談センター、ひとり親家庭支援窓口、母子寡婦福祉連合会など)
・自治体の無料法律相談
・法テラス
・法律事務所

「未婚の母=養育費を受け取れない」はウソ!子どものために行動を起こそう

結婚せずに産んだ場合でも、養育費を受け取っている人は存在します。そもそも話し合いをしていない場合や、うまくいかなかった場合でも、まだできることはあります。

子どもの未来のために、さまざまな支援制度なども活用しながら対策してみてはいかがでしょうか。養育費は過去にさかのぼって請求することが認められない場合もあるため、早めの行動が肝心です。


平沼 夏樹

【監修】平沼 夏樹
弁護士。第二東京弁護士会所属。京都大学総合人間学部卒業、立教大学大学院法務研究科修了。離婚、労働、企業法務分野MGを歴任。横浜オフィス支店長、支店統括としての実績が評価され、現在は、リーガルサポート部GMとして、30名を超えるパラリーガルの業務統括及び、離婚分野MGを兼務する(2020年8月現在)。一般民事(主に離婚事件)に関する解決実績を数多く有する。また、企業法務についても幅広く経験。担当したMBOに関する案件(「会社法判例百選第3版」掲載)をはじめ、企業法務についても幅広い業務実績を持つ。知識、経験に基づく、専門家としての対応のみならず、一人間として、依頼者それぞれの立場・心情を理解し、コミュニケーションを重視した対応を心掛けている。

【取扱分野】離婚・男女問題/企業法務・顧問弁護士/遺産相続/労働問題/インターネット問題/債権回収/詐欺被害・消費者被害

>>所属団体のサイトを見る