夫婦での暮らしに嫌気がさして「別居生活」をはじめ、やがて離婚する――。このような形で離婚された方は少なくないと思います。しかし、深く考えずに別居をしたつもりでも、離婚時には「離婚前の別居の有無」が影響してきます。別居するのとしないのとで、どのような違いが生じるのか、メリットやデメリットとともに解説します。

離婚前に別居することの重要性

まずは、離婚前の別居にはどんな意味があるのか知っておきましょう。

離婚前の別居の意味

「もう我慢できない!離婚したい!」と感情的に別居を考える方もいれば、「ちょっと距離を置いて頭を冷やしたい……」という方もいるでしょう。離婚前に別居するかどうかは、自分や家族の関係性や気持ちに大きく作用するだけでなく、実は法律上も影響があります。

別居の有無が特に大きく影響するのが、「離婚するかどうか夫婦でもめたとき」と「離婚によって2人の財産をそれぞれにわけるとき」です。

詳しくは後述しますが、離婚でもめた際、別居期間が長いと離婚が成立しやすくなります。また、離婚時に行われる「財産分与」や生活費の請求などの際は、“いつから別居していたか”は相手から受け取る金額の計算の根拠になります。

別居するかどうかは、感情で判断するものと思うかもしれません。ですが、法律を味方につけて自分に有利な方向に話を進めるための手段となる場合もあるので、冷静に考えるのが得策です。特に、子どもがいる場合は、その子の今後に大きく影響する可能性もありますので慎重に進めましょう。

別居の有無で変わること1:離婚の認められやすさ

では、別居することで何がどう変わるのか、具体的に見ていきましょう。

なぜ別居で離婚の認められやすさが変わるのか?

離婚は、基本的に夫婦の合意があって離婚届を提出できればいつでもできます。

ただ、相手が「離婚したくない」と言って折り合いがつかず、裁判所で決着をつけることになった場合、「調停」「審判」「裁判」など法的な手続きを踏んで結論を出すことになります。裁判になったとき、別居期間が長い方が離婚を認められやすいのです。

なぜかというと、法律上、離婚する理由となるもの(法定離婚事由)は次の5つとされています。いずれかに該当する場合は裁判所が離婚を認める判断をしやすいのですが、離婚前の別居は「5.その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」の1つの要因とみなされる可能性があります。

1.配偶者に不貞な行為があったとき(例:不倫)
2.配偶者から悪意で遺棄されたとき(例:生活費を家計に入れない)
3.配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
4.配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
5.その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき(例:DV(家庭内暴力))

「離婚前に長期間別居している」という事実は、客観的に見てすでに結婚生活が破綻している状態であるともみなすことができます。そこから、離婚するに値する正当な理由があると考えられます。

別居期間の目安は5年

先述のとおり「離婚前に長期間別居していると離婚が認められやすくなる」のですが、では具体的にどれくらいの期間が「長期間」に該当するのか疑問に思うかもしれません。

この「長期間」は、法律で具体的な基準が定められているわけではありません。その家庭の状況などを踏まえて裁判所が判断することになります。ただ、過去の判例を見ると「5年」以上だと認められやすいようです。

別居期間が長ければ長いほど認められやすくなります。離婚したい場合はひとまず5年を目安として生活設計を考えてみてはいかがでしょうか。

ちなみに、先述の法定離婚理由に該当する場合は5年以内でも離婚が認められるケースが多いです。ただし、自分が不倫をした側やDVをした側など結婚生活を破綻させた側(有責配偶者)の場合は、5年以上別居していたとしても、離婚請求が認められる可能性は低くなります。

「離婚の認められやすさ」から見た別居のメリット&デメリット

離婚したい方にとっては、別居し始めて年数を重ねることで離婚を実現しやすくなるのはメリットでしょう。相手に「自分は現状を嫌だと思っている」「離婚したい」という明確な意思表示にもなります。

まだ離婚までは考えていない方にとっては、別居は諸刃の剣です。別居することを伝えて実際に家を出ることで、相手が考えや行動を改めてくれるかもしれません。ですが、別居を決め手に、相手が「離婚しよう」と協議離婚を切り出してくることも十分に考えられます。

別居の有無で変わること2:離婚にまつわるお金

もうひとつ、「お金」の面でも別居の有無や期間が影響してきます。主に「財産分与」と「婚姻費用」にかかわりますが、それぞれについて見ていきましょう。

別居と「財産分与」の関係

離婚するとき、それまで夫婦2人で築いてきた財産を公平に分けるための制度が「財産分与」です。離婚後2年以内であれば、片方は他方に対して財産を分けるよう請求することができます。

相手が稼いだお金で購入したものや相手の単独名義になっているものでも、結婚後に自分が家事を担当して支えるなど2人が協力した結果として得られたものだと認められれば、財産分与の対象になります。

どれくらいの財産が受け取れるかは基本的に夫婦の話し合いで決めることになりますが、うまくいかない場合は裁判所で決着をつけます。その場合、2分の1ずつ分割することになるケースが多いです。

ただ別居しているとなると、通常「2人で協力している状態」とはみなされません。つまり、別居した後に相手が手に入れた財産については、原則として財産分与を受けられないということです。

別居期間中の「婚姻費用」

別居期間中、夫婦のうち収入が低い方は、収入が高い方に対して「婚姻費用」を請求することができます。婚姻費用とは、婚姻期間中の生活費や子どもを育てていくための養育費などのことです。法律上、「夫婦は互いに協力し扶助しなければならない」と定められているため、別居中であっても、夫婦である限りこれらの費用負担を分散する義務があるとされています。

請求に応じてもらえない場合や金額をいくらにするかでもめた場合は、裁判所で「調停」という手続きも可能です。調停では、第三者(調停委員)が2人のあいだに入って双方の話を聞き、お互い納得いく結論が出せるよう提案やアドバイスをしてくれます。

別居期間によって必要となる生活費は変わりますので、当然、請求すべき婚姻費用の金額も変わってきます。早めの請求がカギです。

裁判所の公式サイトでは「算定表」として、婚姻費用や養育費の目安となる金額が公表されています。相手や自分の収入、子どもの数や年齢などによって相場が変わってきますので確認してみましょう。
【参考】裁判所 養育費・婚約費用「平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について」

「お金」の面から見た別居のメリット&デメリット

お金の面で見ると、別居は家計にダメージを与える要因にもなりますので、特に自分だけの収入で食べていくのが難しい方にとっては慎重に行うべきでしょう。別居先の家賃や家具代のほか日々の生活費が必要ですし、仕事を継続できなくなるなら、退職と転職のあいだに無収入の期間ができるかもしれません。

婚姻費用や財産分与の請求ももちろん可能ですが、相手がすぐに話し合いに応じて実行してくれない可能性もあります。裁判所を介してさまざまな手続きを経ることになると、どうしても手元にお金が入ってくるまで時間がかかってしまいます。

また、盲点になりやすい点として、別居すると相手の財産の内容や不倫の証拠など、自分に有利に交渉を進めるための情報をつかみにくくなるのもデメリットといえるでしょう。

別居するときのポイントと注意点

別居にあたって、気を付けるべきポイントはいくつもあります。

別居は始め方も大事

別居の始め方を間違えてしまうと、慰謝料を支払う事態になる可能性があります。「正当な理由がないのに同居を拒否する」「家から出て不倫相手と暮らし始める」「何も告げずに突然いなくなる」などは避けたいところです。

これらの行為は法定離婚事由の「2.配偶者から悪意で遺棄されたとき」に該当する判断される場合があり、そうなると別居した側が不利になります。別居する理由を明確にして、別居の開始時期や別居先の住所などを伝えて合意を取っておくのが無難です。

ただ、DV被害を受けているなど、住所を知られると危害を加えられる可能性がある場合は例外です。自分や子どもの身を守ることを優先しましょう。

別居するときに住民票を移しておくと、「別居している」という証拠になります。離婚の意思が固いなら、期間を確実にわかるようにして、あとからトラブルになることを防いでスムーズにお金の請求ができるようにしておきましょう。

子どもがいる家庭の場合の注意点

「別居したいけど、子どものことを考えると悩んでしまう」という方も多いと思います。子どものいる方が別居を考える場合、次の3点に気をつけましょう。

・親権
親権とは子どもを教育・看護していく権利のことです。離婚したら両親のどちらか一方が子どもの親権を持つことになります。子どもと暮らしている方が親権を得やすくなりますので、今後も子どもを引き取って育てていきたいなら、子どもを連れて別居するのがよいでしょう。ただし、相手に何も言わず勝手に連れ去るのは避けましょう。

・子どもの学校
子どもと一緒に家を離れる場合、新しい居住地によっては子どもの転園や転校が必要かもしれません。転園や転校には手続きが必要ですので、住民票を移しておきましょう。転校するとなると、子どもにとって精神的な負担になることが想定されますので、きちんと説明して守ってあげて、できる限りショックを和らげてあげたいところです。

・児童手当
児童手当を受け取るのは、「父または母で生計中心者である人」とされています。原則、夫婦のうち収入が高いほうです。ただ、もし自分の方が収入が低い場合でも、子どもと一緒に別居することになれば「子どもと同居している」という事実の方が優先され、受給者となりえます。

受給者を変更したい場合、市区町村役場で手続きができます。住民票の移動や離婚協議中であることがわかる書類の提出などが求められますので、自治体のホームページなどでよく確認しておきましょう。自治体によっては、子連れで別居している期間が長ければ、まだ離婚していなくても「ひとり親」と同様の支援を受けられるようにしています。

別居したほうがよいケース

別居のメリットがデメリットを上回る可能性が高いのは以下のような人です。別居が有効手段となりやすいので、ひとつの選択肢として検討してみるとよいでしょう。

・DV(家庭内暴力)の被害を受けている
・自分は「離婚したい」、相手は「離婚したくない」と思っている

まとめ:別居するかどうか、正しい知識を持って判断しよう

「頭に来たから勢いで別居」という方もいますが、できれば別居する前に、それによって何がどう変わるのか、自分に不利になることはないのか、よく考えてから実行に移すのがおすすめです。メリット・デメリットを知り、自分はどう行動を取るべきなのか冷静に判断しましょう。