夫婦が別居をする理由には、大きくわけて「関係修復のため」と「離婚をしたいため」のふたつがあります。しかし、別居はその場の勢いだけで決めてしまうことはおすすめできません。この記事では、別居することの効果や注意点、事前に準備しておくことなどについて詳しく解説していきます。

監修:弁護士 平沼 夏樹

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離婚に向けて「別居」することは必要?

離婚したいと思ったときは、まず別居を考える人が多いでしょう。離婚を考えるほどのパートナーとはこれ以上一緒には生活できないため一刻も早く別居したい、という気持ちはよく理解できます。

しかし、離婚する際には必ず別居をする必要はあるのでしょうか。また、別居する夫婦は別居を選択する理由として「関係修復のため」と「離婚をしたいため」のふたつだと冒頭でお伝えしましたが、それぞれの詳しい内容や、別居が離婚に影響を及ぼすふたつの「意味」についても解説していきます。

一般的に夫婦が別居する理由として挙げられるもの

夫婦が別居を選ぶ際は、一般的に「関係修復のため」もしくは「離婚するため」のいずれかが理由であることが多いです。

➀関係修復のため
現在、夫婦間がうまくいっていないときなど、一定期間離れて生活をすることでお互いの気持ちの整理をつけるために別居をするケースがあります。必ずしも離婚を前提としているわけではなく、主に次のような理由で別居という方法を選択することが考えられます。

・パートナーと話し合う前に自分の気持ちを落ち着いて整理したい
・顔を見ると感情的になってしまうので距離を置いて冷静になりたい
・別居を申し出ることで、パートナーが反省したり歩み寄りを見せたりすることを期待したい
・離婚せずに関係修復する方法を考えたい など

このように、決して離婚したい気持ちが固まっているわけではなく、パートナーとの関係修復のために時間や距離を置きたいときに別居という選択がなされています。

②離婚するため
別居をするもうひとつの理由は、離婚に向けて動き始めるケースです。離婚するとなると、子どものことや財産分与のことなど、離婚前に決めておかなくてはならないことがあります。

通常、話し合いが完了するまでには日数を要することが多いため、その間一緒に暮らしているのはお互いに大きなストレスになることがあります。離婚に向けての話し合いが始まったら、生活の場を別々にして話し合いのときだけ顔を合わせるようにすれば、離婚に関する取り決めもスムーズにすすめられる可能性があります。

別居には重要なふたつの意味がある

このように別居をする理由は家庭によりさまざまですが、実は、「別居」自体には離婚する際に重要なポイントとなる要素がふたつあります。ひとつは調停離婚や裁判離婚の際の判定基準で、もうひとつは離婚における協議事項のひとつである「財産分与」についてです。

➀離婚について夫婦でもめている場合

夫婦が両方とも離婚に合意していれば離婚はそれで成立しますが、一方が離婚したくてももう一方が離婚したくないと考えているケースは少なくありません。この場合、お互いの話し合いによる「協議離婚」では離婚することが難しいため、調停による「離婚調停」や裁判による「裁判離婚」にすすむことが一般的です。

そして、この裁判離婚において「別居の有無」が大きなポイントになってきます(調停でも別居の有無や別居時期を提出書面に記載するなど、別居の有無が1つのポイントになります)。

まず、裁判で離婚が認められるには、民法第770条「裁判上の離婚」(※)で決められている5つの離婚理由のいずれかに該当する必要があります。具体的には、パートナーの不貞行為、悪意の遺棄(後に詳しく解説します)、生死不明、強度の精神病などが主な離婚理由として挙げられていますが、その中に「婚姻を継続し難い重大な事由」という項目があります。

「婚姻を継続し難い重大な事由」とは、簡単にいうと「夫婦関係が破綻している」ということを意味し、裁判では夫婦関係が破綻(修復不能な状態)しているかどうかについて「別居の事実があるかどうか」を重要な考慮要素にしているのです。つまり、夫婦が別居しているということは、夫婦関係が破綻しているとみなされるひとつの要因になるということです。

ただし、別居しているからといって必ずしも夫婦関係が破綻しているということにはなりません。先にも解説したように、別居には冷静になる期間を置きたいというケースもありますし、仕事の都合で単身赴任しているようなケースなどもあり、離婚を前提としていない場合は破綻しているとは判断されないことがあります。

参考:民法第770条「裁判上の離婚」

②離婚時に財産分与する場合

離婚の際には、夫婦間で「財産分与」をすることになります。財産分与とは、結婚生活中にふたりで築いてきた財産を離婚時に分割することをいい、一方の名義である財産もふたりの共有財産とみなされ分割の対象となります。なお、財産分与は原則として、半々ずつに分割されることが多いです。

ただし、財産分与に含まれるのは、あくまでも結婚生活中にふたりで築き上げた財産であり、別居生活中にそれぞれが築いた財産は共有財産には入らず、財産分与の対象外となります。財産分与の対象となる財産は原則として別居開始前(厳密には上に書いた「夫婦関係の破綻した時期」)までの財産が対象、ということです。このように、離婚の際に話し合われるもののひとつである財産分与については、「離婚を前提とした別居がいつから開始されるのか」が大きなポイントになるのです。

ちなみに、別居中の生活費については「婚姻費用」として相手に請求することができます。夫婦はそもそもお互いが協力して生活を維持していくという義務(扶養義務)があり、通常の生活を維持するための費用をお互いに分担することが法律で定められています(※)。

別居している場合であっても婚姻関係は続いており、扶養義務があるため、収入が少ないほうが多いほうへ生活費を請求することができます。なお、婚姻費用については後ほど詳しく解説します。

参考:民法第760条「婚姻費用の分担」

離婚前に別居したほうがいいと考えらえるケース

離婚前に別居をするかどうかは家庭の状況により異なるため、必ずしも離婚前に別居が必要になるわけではありません。しかし、パートナーが離婚に応じてくれない、パートナーからDVを受けている、子どもが虐待を受けているといったケースだと、場合によって別居を検討する必要があるでしょう。

パートナーが離婚に応じてくれない

自分は離婚したい意思が固まっていても、パートナーが離婚したくないと主張する場合は、離婚を実現させるために別居が必要になるでしょう。すでに説明したとおり、夫婦関係が破綻していると調停や裁判で認めてもらうためです(ただし、別居することで破綻がただちに認められるわけではないことには注意が必要です)。

また、別居することで、「これ以上あなたとの生活を維持していくことは無理です」という強い意志を相手に伝えられる可能性もあります。

パートナーからDVを受けている

パートナーからDVなどを受けている場合は、できるだけ速やかに別居する必要があります。自分の身を守るために、まずは物理的な距離をとることが大切です。パートナーと離れて安全な場所を確保してから、対等な話し合いの場を設けると良いでしょう。

子どもが虐待を受けている

子どもがパートナーから虐待を受けている場合も、早急に別居をする必要があります。子どもの心身がこれ以上傷ついてしまわないように、今すぐにでも別居を検討すべきです。

別居中の生活費について

パートナーとの別居を決断しきれない人の中には、別居中の生活費について心配している人もいるでしょう。特に、これまで専業主婦で収入がなかった人や、子どもを連れて出ていくのを考えている人にとっては、生活費の不安が付きまとうものです。

しかし、先にも説明したように、別居とはいえ夫婦であることには変わりがないため、収入の多いほうに対して(たいていの場合は妻が夫に対して)生活費を請求することができます。また、相手が支払いに応じない場合は裁判所へ調停を申し立てることも可能です。では、別居中の生活費について詳しく説明していきます。

相手に生活費(婚姻費用)を請求できる

夫婦は、たとえ別居していても、お互いに協力して扶助し合うことが法律で定められているため、別居中の生活費も分担することとされています。婚姻費用は収入の多いほうから少ないほうへ支払うものなので、これまで専業主婦で収入がなかった人、扶養の範囲内で働いていて十分な収入がない人は、パートナーに生活費を請求することができます。

しかし、毎月いくら支払ってもらえるかについては、パートナーの合意を得ることが難しいことがあります。原則としては夫婦の話し合いで決めることであるものの、うまく合意に至らない場合は調停を申し立てて家庭裁判所で決めることになります。

なお、婚姻費用の目安として、裁判所が作成した「婚姻費用算定表」というものがあります。この算定表では、夫婦それぞれの収入や子どもの人数などによって、支払われるべき婚姻費用の目安がひと目で分かるようになっています。誰でもインターネットで閲覧できますので、婚姻費用を決める際には参考にしてみると良いでしょう。ちなみに、自分が子ども引き取る場合は子どもの分も婚姻費用を請求することができ、子どもの人数が多いほど金額も高額になることが多いです。

相手が支払いに応じない場合

夫婦間で婚姻費用について合意していても、パートナーが支払ってくれなくなることがあります。こういう場合、家庭裁判所に婚姻費用分担調停を申し立てることができます。これは調停委員が間に入って婚姻費用を支払うよう調整してくれるものですが、それでも支払いに応じない場合は審判が行われ、裁判所がパートナーに婚姻費用を支払うよう支払い命令を出します。

ここまでしてもパートナーが支払い命令に反して支払わない場合は、パートナーの給料などを差し押さえる段階に入ることになります。

子どもがいる夫婦が離婚前に別居する場合

夫婦ふたりだけの家庭であれば、別居の決断や行動に移すことなど比較的早くできることもありますが、子どもがいる家庭の場合だと別居の際は慎重に行動する必要があります。

親権を望むなら子どもと一緒に暮らすようにする

子どもの親権をとりたいのであれば、別居するときから子どもと一緒に暮らすことを検討する必要があります。というのも、親権を争うことになった場合、子どもと一緒に暮らしている親のほうが親権を獲得できる可能性が高くなるためです。ただし、後ほど述べる通り、「連れ去り」として違法にならないように別居の際は注意が必要です。

子どもにとって生活環境が大きく変わることは精神的に悪い影響を与えかねないとされていることから、調停や裁判では子どもの置かれた状況をなるべく変えないまま親権を決めることが考えられます。そのため、一緒に住んでいる親が有利になる傾向にありますが、子どもの意思や状況なども考えて、判断は慎重に行う必要があります。

なお、別居する場所によっては子どもの転園や転校を余儀なくされることがあり、事前に手続きをすませておかなくてはなりません。転園の場合は、現在通っている園に退園の連絡をしたり、新しく通う園に入園の手続きをしたりする必要があります。小学校を転校する場合は、同じ市区町村内なのか、それともほかの市区町村なのかで手続き方法が異なりますので、事前に調べておくようにしましょう。

ちなみに、児童手当は子どもと一緒に生活している親が優先して受給できるため、市区町村役所の窓口で受給者変更手続きをとると良いでしょう。

「連れ去り」にならないよう要注意

子どもの親権をとるためには、別居の時点から一緒に住むことが大切ですが、だからといって勝手に子どもを連れ出してしまうことは控えましょう。パートナーの同意を得ずに子どもを連れ去った場合、状況によっては未成年者誘拐罪などの刑事責任を問われる可能性があります。

また、調停や裁判において違法な連れ去りとみなされると、親権者を選ぶ際に不利になる可能性もあります。堂々と親権を主張できるように、パートナーの合意を得てから子どもを連れて別居をすることが望ましいです。

ただし、パートナーからDVを受けていたり子どもが虐待を受けたりしている場合などは、合意を得ずに子どもを連れ出しても違法にはならないことが多いです。判断に迷う場合は家庭裁判所での調停を検討したり、弁護士などに相談したりすることをおすすめします。

離婚に向けた別居|手順や準備しておくこと

離婚に向けて別居するにあたり、あらかじめ別居前に準備しておくことや別居後に準備することをまとめました。ひとつずつ着実にすすめられるよう順番に確認していきましょう。

別居する前

別居する前には、引っ越し費用や当面の生活費の確保、子どもの幼稚園や学校への手続きなど、準備しておくことがたくさんあります。できる限りの準備をしてある程度の見通しがたってから引っ越し業者に依頼すると良いでしょう。

不貞行為があった場合などの証拠集め

パートナーによる不貞行為やパートナーからのDVや虐待などで別居を考えている場合は、その証拠となるものを集めておきましょう。一度別居してしまうと証拠を探しに戻ることは難しくなるためです。また、パートナーが証拠隠滅を図るかもしれません。できれば別居の話を切り出す前に切り札となる証拠を集めておくようにすると良いでしょう。では、どのような証拠を集めておけば良いのか、例をいくつか挙げていきます。

【不貞行為があった場合の証拠例】
・不貞行為の写真(ホテルなどへの出入り場面の写真など)
・パートナーと不貞行為の相手のやりとり(メールやLINEなど)
・パートナーや不貞行為の相手と話し合ったときの録音データ など

【DVや虐待があった場合の証拠例】
・ケガをしたときの写真
・医師の診断書
・暴言や暴力を受けたときの録音データ
・第三者機関に相談したときの記録 など

そのほか、必要だと思われるものは保管しておくことをおすすめします。

引っ越し費用や生活費などを貯める

引っ越しに必要な費用には、新しい住居の敷金や礼金、仲介手数料のほかに、必要な家具や家電などの購入費用も含まれます。また、引っ越し業者に支払う料金も準備しておく必要があります。

婚姻費用については上で説明のとおりですが、これで別居中の生活費を支払ってもらうことはできても、別居に必要な引っ越し費用までは一般的に含まれないことが多いです。パートナーと話し合った結果、費用を出してもらえることもあるかもしれませんが、パートナーが別居を希望していない場合、引っ越し費用などを出してもらうことは難しいでしょう。

そのため、引っ越しに必要な費用や当面の生活費を計算して、別居をするときまでにあらかじめ用意しておくことがおすすめです。

引っ越し先を決める

引っ越しの費用について準備しておくと同時に、引っ越し先についても検討しておきましょう。実家に戻ることができれば、家賃の支払いや家具家電を購入する費用などを節約できますが、実家に戻るのが難しいという人は賃貸物件を探すことになります。

その際、家賃や住居環境などを調べるのはもちろんのこと、この後で解説しますが、仕事先への通勤時間や、子どもの保育園・幼稚園・学校などのことも考える必要があります。

仕事を探す

別居を決めたら、引っ越しを待たずに仕事を始めておくと、引っ越し費用や当面の生活費を準備しやすくなります。引っ越し後だと、慣れない新生活の中で役所などへの手続きなどを行うために慌ただしくなるうえ、自分ひとりで子育てや家のことをしなくてはならず、就職活動がしづらいことが考えられるからです。

時間や気持ちに余裕のあるうちに仕事を探しておくと、別居後の生活もスムーズにすすむでしょう。

子どもの養育環境を整える

子どもを連れて別居する場合は、保育園・幼稚園・学校について確認しておく必要があります。同じ学区内であれば引き続き通学することができますが、別の学区に変更になる場合は、どのような手続きが必要になるのか調べたうえで手続きを済ませておきましょう。

また、上でも説明しましたが、現在、児童手当がパートナーに支払われている場合、別居後は子どもと一緒に暮らす親が受給することができるように変更できます。一般的に児童手当は父母のうち収入の高いほうに支給されますが、別居している場合は子どもと生計を同じくしている親に支払われます。離婚を前提に別居している事実を確認できる書類を市区町村へ提出し、児童手当の認定請求をすると受給者を変更できます。

参考:内閣府 – 児童手当Q&A(配偶者と別居されている場合の取扱いについて)

相手の収入・財産・共有財産の把握

すでに解説したとおり、離婚による財産分与は別居開始前までのものが夫婦の共有財産となります。財産分与をできるだけもめずに行うためには、別居開始前にふたりで築き上げた財産を明確に把握しておくことが大切です。また、パートナーの収入についても書類や通帳などを元に確認しておきましょう。

別居前に把握しておくと良い財産には、次のようなものがあります。
・預貯金残高と預け先金融機関名・支店名など
・株式や債券などの金額や銘柄、預け先証券会社など
・加入している生命保険の保険金額や解約返戻金など
・住宅ローン残高や査定価格など
・パートナーの収入(給与明細や源泉徴収票など)や、退職金の有無、またその金額など

そのほかにも、財産分与の対象になりそうな財産についてもリストに加えておくと良いでしょう。

別居した後

別居する前の準備だけでも大変ですが、別居した後にも必要な手続きがあります。住民票の手続きやパートナーへの婚姻費用請求など、あらかじめ手順を確認しておきましょう。

住民票の手続き

別居を開始したら、住民票を移す必要があります。特に離婚を前提とした別居の場合、いつ別居が開始されたのかが重要になることもあるため、速やかに手続きをとるようにします。ただし、パートナーに転居先を知られたくない場合(DV・子どもへの虐待の場合など)は、あえて住民票を移さないという選択肢をとる人もいます。

また、パートナーから自身がDVを受けている・子どもが虐待を受けているなどで転居先を知られたくない場合、市区町村役所の窓口で事情を説明しておけば、パートナーが転居先を調べられないように閲覧制限をかけてもらうことができます(ただし、閲覧制限は絶対のものではないため、上に書いたようにそもそも住民票を移すかどうかについても慎重な判断が必要です)。

婚姻費用請求

別居後に大切な手続きとして、生活費をパートナーに請求するための婚姻費用請求があります。別居の話し合いの際に金額などの合意を得られていれば、そのとおりに支払ってもらいます。しかし、パートナーと婚姻費用の合意が得られていない場合は、家庭裁判所に婚姻費用分担請求の申し立てをします。

申し立てをすると、調停員が間に入り話し合いがすすめられます。合意に至らない場合は審判手続きに入り、裁判官によって金額が決定され、支払い命令が下されます。

離婚に向けた別居|よくある質問と回答

離婚前の別居に関する質問3つと、その回答をまとめました。

家庭内別居は別居に含まれる?

家庭内別居は「別居」として認められない可能性が高いです。同じ家に住みながらも、お互いに顔を合わせない・食事を共にとらない・会話をしないといった状態を家庭内別居といい、双方が離婚に合意すればもちろん離婚は成立します。しかし、どちらか一方が離婚に合意しない場合は調停や裁判となり、裁判で離婚が認められるためには、すでに解説した「5つの法定離婚理由」のいずれかに当てはまる必要があります。

たとえ家庭内別居状態であっても、家庭内の状況を第三者へ証明することは難しく、夫婦の実態がどのようなものなのか調停や裁判において判断することは困難なケースが多いです。そのため、不貞行為や悪意の遺棄といった明らかな別の離婚の理由がない場合、夫婦関係の破綻として認めてもらうことは難しいといえます。

何年別居を続けたら離婚できる?

離婚に必要な別居期間は法律で明確に定められていませんが、別居期間が長期間であるほど離婚は認められやすい傾向があります。実際には、夫婦の年齢・同居期間(婚姻期間)・別居理由・別居期間などを総合的に考慮して判断するため、一概に「〇年以上の別居期間が必要」とはいえません。

しかし、これまでの判例から、5年以上の別居期間があると比較的離婚が認められやすい傾向にあります。もちろん、必ずしも5年別居していれば離婚が成立するわけではなく、実際には家庭の実態により判断が異なります。

なお、別居の理由が「5つの法定離婚理由」に該当する場合は、5年以内でも離婚が認められるケースは十分にあります。

別居を強行したいと思っているが注意点は?

これ以上パートナーと共に生活をして行けない場合、パートナーからの同意が得られなくても別居を強行したいと思うかもしれません。しかし、パートナーが望んでいない場合は別居を強行することは検討が必要です。なぜならば、勝手に別居を始めることは夫婦の相互扶助義務に違反し、「悪意の遺棄」があったとみなされ、慰謝料を請求されてしまう可能性があるからです。

悪意の遺棄とは、夫婦間の義務に正当な理由なく反することをいいます。民法において、夫婦は同居義務、協力義務、扶助義務・婚姻費用分担義務といったことをお互いに義務付けられているため、一方的に反する行動をとるとパートナーから訴えられる可能性があります。あくまでもパートナーの同意を得てから別居をすることをおすすめします(ただし、パートナーからのDVなど速やかに別居することが必要と思われるケースは別です)。

子どもがいるなら離婚前の別居の準備は慎重に行おう

別居には、「離婚」だけでなく「関係修復」という目的もあります。まだ婚姻関係にはあるため、別居中の生活費をパートナーに請求することが可能ですが、一方的な別居と思われてしまったり、子どもの連れ去りと捉えられてしまったりするような行為には注意が必要です。別居は衝動的にではなく計画的にすすめていくことが大切です。


平沼 夏樹

【監修】平沼 夏樹

弁護士。第二東京弁護士会所属。京都大学総合人間学部卒業、立教大学大学院法務研究科修了。離婚、労働、企業法務分野MGを歴任。横浜オフィス支店長、支店統括としての実績が評価され、現在は、リーガルサポート部GMとして、30名を超えるパラリーガルの業務統括及び、離婚分野MGを兼務する(2020年8月現在)。一般民事(主に離婚事件)に関する解決実績を数多く有する。また、企業法務についても幅広く経験。担当したMBOに関する案件(「会社法判例百選第3版」掲載)をはじめ、企業法務についても幅広い業務実績を持つ。知識、経験に基づく、専門家としての対応のみならず、一人間として、依頼者それぞれの立場・心情を理解し、コミュニケーションを重視した対応を心掛けている。

【取扱分野】離婚・男女問題/企業法務・顧問弁護士/遺産相続/労働問題/インターネット問題/債権回収/詐欺被害・消費者被害

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