妻が「離婚したい」と伝えても、夫はなかなか離婚してくれないケースがあります。1日でも早く離婚したいと思って話し合っても、自分も相手も感情的になって話が進まないという場面もあるでしょう。離婚に応じてくれない相手を納得させるにはどのようにしたらよいでしょうか。話し合いで納得させるためのポイントと、相手の同意なしに離婚が成立する“法律上認められている離婚理由”について解説します。

離婚に同意しようとしない代表的な理由

妻が離婚したいと思っていても、夫はまったく離婚する気がないというときは、どのような理由からなのでしょうか。夫が離婚を拒む代表的な理由は次の5つです。

・理由1:やり直せると思っている
夫には夫婦、家族としての愛情があるので、別れて別の人生を送るということは考えられないのでしょう。表面的には感情的な態度をとっていても、本心は「よく話し合いたい」と思っている場合があります。

・理由2:世間体を気にしている
離婚すると、親せきや友人、同僚などの目が気になるという男性もいます。世間では離婚する夫婦が増えているといっても、離婚は世間体が悪く、職業や会社での信用を下げてしまうと思っていることが背景にあります。

・理由3:子どものため
夫婦仲が悪くなっていても、母子家庭・父子家庭になると子どもが不憫だという理由で離婚しないケースもあります。親権を失うと一緒に暮らせない、会いたいと思うときに会えないという状況になることが予想され、また離婚後の経済的な面でも、子どもの将来が気がかりでしょう。

・理由4:妻に財産を渡たくない
離婚の際には、結婚していた期間に夫婦で築いた財産は分け合うことになります。夫が浮気などの不法行為をしていた場合なら、慰謝料も支払わなければなりません。財産を妻に渡さなければならないという問題は、離婚に応じない理由となります。

・理由5:離婚するほどの理由はない
夫にとっては、離婚するほどの問題はないと考えているので、離婚を切り出しても応じてくれない場合があります。性格の不一致、夫の親族との関係、モラハラなど、妻のつらい気持ちが夫に伝わっていないのです。

話し合いで説得し同意させる方法

夫婦の話し合いによって離婚することを、協議離婚といいます。日本では約8割が協議離婚です。話し合いを重ねるうえでは、感情的にならず、冷静さを保ちながら慎重に進めていきましょう。自分の言い分を伝えるとともに、相手の考えもよく聞いて理解しようと心がけることが大切です。

それでも離婚したくないという相手に、話し合いで離婚を納得、決意させるにはどのようにしたらよいのでしょうか。夫が離婚に応じない理由をふまえて、それぞれの対処方法を紹介します。

・相手がやり直せると思っている場合の対処方法
妻には傷つけたくないなどの気持ちがあるかもしれませんが、はっきりとした態度を取り、まず夫婦関係の修復はできないということを伝えるようにしましょう。

・世間体を気にしている場合の対処方法
離婚してくれないなら離婚調停や離婚裁判をすると伝えましょう。離婚トラブルになると解決するまでの期間が長くなり、いっそう世間体が悪くなるかもしれません。話し合って離婚するほうが得であると、納得させるように進めるとよいでしょう。

・子どもがいる場合の対処方法
求人、養育費、住居など、離婚後の生活を想定したシミュレーションを行い、費用も書き出しておき、離婚しても子どもを育てながら暮らしていけるということがわかるように夫に伝えましょう。養育費や子どもとの面会交流など、相手の不安についても話し合いの中で解決し、決めておく必要があります。

・離婚するほどの理由はないと考えられている場合
離婚したい自分の気持ちを伝え、離婚の意志が固いことを理解させる必要があります。別居して、離婚について真剣に考えてもらう時間をつくることが必要な場合もあるでしょう。

話し合いでも相手が応じない場合の対処法

以上のような方法を試しても、夫が頑なに話し合いに応じず離婚に向けて進まない場合、次のような対処法を検討するとよいでしょう。

法律相談を受けて判断をあおぐ

離婚のプロに相談することを考えましょう。たとえば、弁護士や司法書士などに相談すれば、第三者としてのアドバイスはもちろん、法律判断をあおぐことができます。

最寄りの「法テラス」では、オペレーターによる法制度の案内や、相談窓口の紹介を行っています。経済的な余裕のない方は、無料で相談を受けることもできます。

別居を提案する

一時的に別居することを提案してみましょう。話し合いのペースを落とすことで、ゆっくりと現実を考えてくれる可能性があります。

また、別居は夫婦関係が破綻していることが客観的にわかるため、離婚理由にもなりえます。一般に、別居期間が長くなるほど離婚が認められやすくなります。ただし、民法752条では「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と定められているため、別居には正当な理由が必要です。

ここまで紹介してきた方法を試してみて、相手が話し合いに応じて離婚に同意し、協議離婚が成立したら、財産分与や養育費など金銭面の取り決めを必ず書面に残しておきましょう。公正証書を作成する場合は、最寄りの公証役場に依頼します。離婚に際して定める内容や金額に応じて数万円ほどの公証人手数料を納める必要がありますが、法的効力が強く、場合によって相手の財産を差し押さえること(強制執行)も可能になります。

離婚に同意してもらえないときの対処法、離婚調停を申し立てる

相手が話し合いに応じないからといって、離婚ができないわけではありません。

離婚の方法には、夫婦による話し合いをもって離婚する「協議離婚」のほかに、「調停離婚」「審判離婚」「裁判離婚」の3種類があります。相手が協議離婚を拒み続ける場合には、家庭裁判所に離婚調停を申し立て、調停手続きを利用することができます。

申立てには、手数料として1,200円の収入印紙代、連絡用の郵便切手代が必要です。別居期間中にかかった生活費などを請求する婚姻費用分担請求の調停を一緒に申し立てる場合は、別に1,200円かかります。そのほか戸籍謄本(全部事項証明書)を取り寄せる費用の450円、交通費などが必要になりますが、調停は比較的安価に利用できます。

申立て書、申立て書のコピー、夫婦の戸籍謄本、年金分割のための情報通知書、その他に審査のために必要な書類などを準備のうえ、定められた調停期日に裁判所に出向いて交互に調停室に入ります。男女1名ずつの調停委員をはさんで、ひとりずつ自分の言い分を伝え調停委員を通じて話し合いを続けます。

話し合いは1ヵ月から1ヵ月半に1度くらいのペースで行われます。調停が始まってから終了するまでにかかる期間は平均で半年ほど、ほとんどの場合1年以内に終了していますが、中には3年を超える場合もあります。

離婚の話し合いがまとまると、調停が成立します。家庭裁判所から調停調書が届いたら離婚届を提出しましょう。相手が出席しない場合や何度か調停を行っても話し合いはまとまらない場合は不成立となり終了し、審判や裁判などの手続きに進みます。

相手が拒んでも離婚が認められる「法律上の離婚理由」

相手が同意してくれない場合でも、一方が離婚を望んでいるなら離婚が認められる、法律的な理由のことを「法定離婚理由」といいます。法定離婚理由は5種類あり、民法に定められています。確認しておきましょう。

1. 配偶者に不貞な行為があったとき
不貞行為とは、不倫や浮気と呼ばれているものです。既婚者が配偶者以外の異性と、男女関係になることは、離婚理由として認められています。

2. 配偶者から悪意で遺棄されたとき
悪意の遺棄とは、配偶者や子どもを追い出したり、出て行って同居しないなど、相手が同居や協力、扶養義務を放棄することです。

3. 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
相手の行方が3年以上わからず、生きているかどうかもわからないときは離婚理由となります。

4. 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
相手が程度の強い精神病にかかり、それまで献身的に看病してきたけれど、回復の見込みがないという場合などは、離婚理由と認められます。

5. その他婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき
上記の4つ以外で、婚姻を継続しがたい重大な事由であると立証できれば、離婚理由として認められます。

以上、5つのいずれかに該当する事由があり、そのことが原因で夫婦関係が破綻していることが、離婚理由として認められる要因になります。

協議・調停・審判で決着がつかない場合は「離婚裁判」へ

親権、財産分与、養育費などについて、お互いが離婚について合意できない理由が大きく食い違う場合は、審判離婚を利用することができません。どうしても離婚したいという場合は裁判離婚の手続きへ進みます。

離婚裁判は、相手の意志に反して離婚しようとする手続きですから、裁判所が、法定離婚理由がないと判断すると離婚は認められません。裁判所の判決は、証拠に基づいて行われますので、事前に法定離婚理由にあたる証拠を集めて準備しておくことが大切になります。

離婚理由の証拠になる記録を探したり、記録する、録音するなどをして証拠を残しておきましょう。特に不貞行為などは慰謝料を請求する上でも有利に話を進めることができるため、非常に効果があります。

離婚裁判にかかる費用と審理期間

訴訟費用は、離婚のみの場合で収入印紙代が1万3,000円ほどです。離婚と合わせて財産分与や養育費なども申し立てる場合は、各事項につき1,200円が上乗せになります、慰謝料の判断を求める場合には金額に応じた手数料が必要です。

訴状やその他の書面の提出などの手続きが自分では難しいと思われる場合は、弁護士に依頼することができます。ただし、別途、弁護士費用が80~100万円くらい必要です。

裁判所が公表している離婚裁判の平均審理理期間は、平均18.1カ月で、相手が上訴するとさらに長くなり、離婚調停より長い期間が必要になっています。和解の見込みがない場合は、離婚裁判のうちに判決が下され、相手が離婚しないと主張したとしても法的に離婚が認められます。

離婚は急ぎすぎず慎重に進める

離婚したいと伝えてもなかなか離婚してくれないことは、つらい状況が長く続いているということです。しかし、離婚を急ぎすぎると将来ご自身やお子さんにとって、困ることが起こるかもしれません。離婚するときは、いろいろな事柄を話し合い細かい取り決めをしておきましょう。離婚後は新たな生活が始まり、より幸せな暮らしを築いていくのです。

ご自身だけで対応することが難しい場合は、法律相談などを利用し協力してもらいましょう。必ず対処する方法はあるので慎重に行動し、離婚へと進めることが大切です。