あなたは「選択的シングルマザー」という言葉を聞いたことがありますか。結婚をせずに母親になることを選んだ女性を指す言葉で、近年スポーツ界や芸能界で選択的シングルマザーとして出産する著名人が増え、一般にも知られるようになりました。彼女たちがあえて独身を貫く理由は何なのか、その背景や現状を調べてみました。

結婚制度や夫を必要とせず、出産と子育てをする女性像

選択的シングルマザーの広がりは、1981年にアメリカの心理療法士ジェーン・マテスが “Single Mother by Choice(SMC)”という支援団体を設立したことに端を発します。マテスが定義する選択的シングルマザーは「“自分の意思でシングルマザーになることを決意した人” であり、未婚のカップルや事実婚カップルは該当しない」としています。

日本にも「SMCネット」という選択的シングルマザーの交流サイトがあり、そこでは妊娠前からシングルマザーになることを計画していた女性を選択的シングルマザーと定義し、妊娠してからシングルマザーを選んだ女性を「授かりシングルマザー」と分類しています。いずれにしても、不可抗力でなく強い意志で母になることを望み、独身を選んだ女性のことを指すようです。

選択的シングルマザーを選ぶ理由やバックグラウンドとは

女性にとって結婚とは、想いが通じた男性と、より安定した生活を送れるという面がある一方、日本国内では現状、夫婦別姓が認められていないことから苗字を変えなければならず、出産すると家事育児の負担が男性よりも大きくなりがちという面もあります。キャリアを積み経済力を持った女性にとっては、結婚が生活の質を落とすことにつながる可能性があるのです。

しかし結婚に前向きになれなくても、出産にはリミットがあります。年齢を重ねるごとに自然妊娠率が下がり、母体や赤ちゃんへのリスクは高くなります。しかし、出産するには結婚が先となると、限られた時間の中で恋愛や婚活に時間を割かなければいけません。自分が希望するタイミングで出産できるということも、選択的シングルマザーのメリットのひとつなのです。

シングルマザーを選択する理由には「恋愛に対して自由でいたい」「離婚経験があり結婚に希望を見出せない」「過去に父親からDVを受け男性と関わりを持ちたくない」「他者に性的欲求を感じないアセクシャルである」などに加えて、「自分の母親がシングルマザーで、母と同じような子育てがしたい」というシングルマザー泣かせな意見もありました。

選択的シングルマザーは経済的自立と精神的自立が必須

選択的シングルマザーは男性に子どもの認知を求めず、子育てに関する資金援助や養育費の請求を前提としません。基本的に自分の収入だけで子育てをするため、経済的に自立していることが必須になります。さらに育児に関わる人手不足を解消するため、シッターやメイドサービスなどを利用できるだけの経済力も必要です。

収入が高くなかったとしても、周囲の人たち が選択的シングルマザーとなった女性を受け入れ、子育てに手を貸してくれる信頼関係を築けることが条件になります。どのような生き方を選んでも自由と責任は表裏一体であることを早くから覚悟し、必要な時に必要な援助を得られる精神的に自立した人とも言えるでしょう。

婚外子出生が社会的に認められる世界、いまだ容認されない日本

選択的夫婦別姓の法制化に反発があり、戸籍制度を重んじる向きがある日本では、選択的シングルマザーに対して偏見も多いのが現状です。子どもが成長した時、自分の父親の情報開示を求める権利の整備も、今後課題になることが予想されています。

しかし、日本も加盟するOECD(経済協力開発機構)諸国の中で「婚外子(非嫡出子)出生」の割合を調査したデータを見てみると、婚外子出生は加盟国全体の平均で41%、EU主要国に絞ると50%を超すという結果になっています。データ中に含まれる選択的シングルマザーの割合は不明ですが、未婚・非婚の母が世界標準であることをはっきりと示しています。

日本は韓国やトルコに並びわずか2~3%と低い値ですが、海外諸国の流れを受けて、今後はこの値も増加していくことが予想されます。

賛否両論あれど、女性として学び取れる部分も多い選択的シングルマザー

選択的シングルマザーについて調べてみると、自分の生き方を人に委ねず、パートナーに依存しない強い意志を持った女性像が見えてきました。

周囲の反応がポジティブなものばかりでなくても、自分の人生に必要なものを選び、かつ自立して生きる姿から学べることは、少なからずあるように思います。

子育ては未来の社会をつくることといわれますが、わたしたち 母親がこうしたさまざま な生き方を知って子育てに当たることが、多様な生き方を尊重し誰もが生きやすい社会の土壌を作ることにつながるのかもしれません。