夫婦が離婚すると、子どもはどちらか一方の親と生活することになります。もう片方の親は子どもと別々に暮らすことになりますが、「面会交流」という制度が設けられており、子どもと定期的に会うことができます。では、子どもと一緒に暮らす親がこの面会交流を拒否することはできるのでしょうか?この記事では、面会交流の拒否について分かりやすく解説していきます。

監修:平沼 夏樹

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面会交流の拒否は原則としてできない

結論からいうと、原則として面会交流を拒否することはできません。面会交流は子どものための制度であり、いくら親同士の仲が険悪であるとしても、それを理由に子どもの面会交流の機会を奪うということは認められないからです。

そもそも「面会交流」の意味とは?

そもそも面会交流とは、離婚によって子どもと離れて暮らすことになった親が、子どもと定期的に会い、一緒に遊んだり食事をしたりすることをさします。「面会」とついていますが、電話や手紙などでの交流も含まれます。

基本的に、離婚で子どもと離れて暮らすことになった親には「面会交流権(面接交渉権)」が認められています。面会交流権(面接交渉権)とは、子どもに会って一緒に時間を過ごすなどして交流することができる権利です。たとえ離婚して親権がなくなったとしても、子どもの親であることは変わらないため、この面会交流権がなくなることはありません。子どもが離婚でつらい思いをせずに済むよう、別れたあとも父、母として子どものために協力していくことが必要になります。

法務省は、両親が離婚する際に「面会交流のルール」として、どれくらいの頻度で・どうやって・どこで会うのかといったことを話し合って決めておくように求めています。法務省が作成する手引書では、離婚合意の際に以下のようなポイントを取り決めておくよう推奨しています。

・面会交流の内容:宿泊の有無、手紙や電話、LINEやSNSなどのやりとりを認めるかなど
・面会交流の頻度:週1回、月1回などどんなタイミングで何回会うか
・その他、待ち合わせ場所やプレゼントに関する取り決めなど

また、離婚届にも「面会交流や養育費の分担について」という記載があり、それぞれのルールを決めたかどうかチェックを付ける欄があります。このように、面会交流の条件は離婚する時に細かく決めておく必要があり、あいまいな内容であるために後々でトラブルに発展することは防がなくてはなりません。

面会交流は親のためではなく「子どもの幸せのため」にある

面会交流は「子どもの幸せのため」の制度です。親が離婚したことで、それまでとはまったく違う生活を送ることになった子どもは、たとえ表に出さなくても大きなショックやストレスを抱えている可能性があります。ある程度の年齢であれば、「親が離婚した原因は自分かも」「(離れて暮らす)親に嫌われたのかも」と不安になって悩んでしまう子どもがいるかもしれません。

面会交流は、こうした不安定で落ち着かない精神状態の子どもが安心できるようにするためにあります。子どもが離れて暮らす親と定期的に会って話すことは、愛情を感じて不安を解消することにつながったり、自己肯定感が身について自信を持てるようになったりと、子どもの健やかな成長のためになると考えられています。

父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。

出典:e-gov法令検索(民法第七百六十六条)

民法766条ではこのように定められています。中には、離婚時の状況によってはとても話し合いができるような状況ではなく、相手の顔も見たくなかったり子どもに会ってほしくないと思ったりするケースがあるでしょう。しかし、民法でも「子の利益を最も優先して考慮」とあるように、あくまでも子どもが健やかに成長して幸せに暮らしていけるよう、父と母は最大限努力する必要があるのです。

面会交流の拒否にあたって「正当な理由」になるケース

これまでのように、たとえ関係が良くない間柄であっても、決して親の意向で子どもの面会交流を拒否することはできないということは分かりましたが、唯一、その面会交流が「子どものためにならない」ときは拒否することができます。たとえば以下のような場合です。

元配偶者による連れ去りや暴力の恐れがある

過去に子どもを虐待していた事実がある、あるいは面会交流時に虐待する恐れがある場合、面会交流を拒否する正当な理由にできることがあります。同様に、過去に元配偶者が子どもを連れ去ったことがあるなど、具体的に連れ去りのリスクが高い場合には面会交流を拒否することができます。

子ども自身が会うことを嫌がっている

子ども自身が会うことを嫌がっている場合、面会交流を拒否できる可能性があります。面会交流は子どもの幸せのための制度ですから、子どもが「会いたくない」と言っている以上は当然のことだといえます。ただし、子どもの年齢によっては判断能力が十分ではなく、子どもと一緒に暮らす親に対して気を遣っている可能性があります。そのため、判断能力をもつ一定以上の年齢の子どもではない場合、子どもの意思が考慮されない可能性もあります。

元配偶者の精神状態が不安定・正常な判断が難しい状態である

元配偶者が薬物使用やアルコール依存症などから正常に判断することができない場合、面会交流を拒否できる可能性があります。また、子どもの健全な発育に相応しくないような場所へ何度も連れていく、子どもに違法行為や犯罪行為をさせるといった場合も面会交流を拒否できる可能性があります。

面会交流を拒否するとどうなる?

正当な理由なく「どうしても会わせたくない」という理由で拒み続けると、相手が法的な手段によって面会交流を要求してくる場合があります。

面会交流調停を申し立てられる可能性

面会交流のルールを決めておらず、話し合いがうまくいっていない中で面会交流を拒否している状態だと、元配偶者が調停や審判を申立ててくる可能性があります。

調停(ちょうてい)とは、裁判所で調停委員という第三者を交えて話し合うことで問題解決を図る方法のことです。調停委員が双方の話を聞き、お互いが納得いく結論を出せるよう提案や助言をしてくれます。通常だと話し合いができない、話し合ってもお互いが納得いく結論が出ない場合に利用することになります。

相手が裁判所へ調停を申し立てると、裁判所から調停の日時などが書かれた呼び出し状が届きます。指定された日に指定された裁判所へ出向き、自分の主張を調停委員に伝えて話し合いで結論を出します。調停では、子どもが面会交流することでどのような影響を受けるのか家庭裁判所の調査官が調査したり、離れて暮らす親と会うときの子どもの反応を確認するために「試行的面会交流」として裁判所内で親子で過ごさせたりすることがあります。

調停に欠席したために話し合いができない、調停で話し合っても合意できないという場合は、審判(しんぱん)に発展する場合があります。審判になると、双方の意見を聞いた裁判官の判断によって結論が出されることになります。審判で「面会交流をさせること」という判決が出れば、その後はルールを守って面会交流を行なっていく必要が出てきます。

面会ルールを破ると慰謝料などの請求

面会交流調停や審判で面会交流について決まっていた内容を守らなかった場合、元配偶者は以下のような行動をとってくる可能性があります。

➀履行勧告をされる
家庭裁判所は子どもと一緒に暮らす親に対し、決められたルールを守るように説得や勧告を行います。ただし、履行勧告には法的な強制力はありません。

②間接強制の申立てが行われる
家庭裁判所からの説得や勧告を受けても拒否し続ける場合、取り決めを守らせるために、子どもと一緒に暮らす親に対して金銭の支払いを命じる制度が「間接強制」です。1回面会交流を拒否すると〇万円を支払わなければならないというように、心理的プレッシャーを与えることで自発的に面会をさせるようにするのが特徴です。

③慰謝料を請求される
面会交流を拒否していると、子どもに会わせてもらえない精神的苦痛に対する損害賠償として慰謝料を請求される可能性もあります。慰謝料は1つ上で紹介した間接強制とは別です。過去には、悪質なケースや面会交流を拒否している期間が長期間に及ぶようなケースにおいて面会交流を拒否した側に100万円を超える金額の支払い命じた判決が出たこともあります。

拒否し続けると親権者変更のリスクも

正当な理由なく面会交流を拒否し続けていると、元配偶者から親権者変更の申立てが行われる可能性もあります。万が一、親権者変更の調停や審判を申立てられ「親権者を変更すべきである」と認められれば、面会交流どころの話ではなくなり、これまでのように子どもと一緒に暮らすことができなくなる可能性があります。

以上で見てきたとおり、面会交流の拒否は基本的に認められていません。それでも拒否した場合、上で説明したような法的措置と合わせ、たとえば以下の事態が起こる可能性があると知っておきましょう。

・子どもが、離れて暮らす親に会えず悲しむ
・元配偶者から何度も話し合いを求められる
・ある日突然、裁判所に呼ばれて行く手間が発生する
・裁判所からの呼び出しを無視することで、法廷での争いが不利になる
・裁判を起こされ「面会交流をさせなければならない」という審判が出る
・慰謝料を請求される

むやみに面会交流を拒否すると、争いが激化して時間も手間も労力もかかり、心身を消耗する事態になりかねません。このようなリスクがあるため、元配偶者が子どもに危害を加えるなど、面会交流をしても明らかに子どもの利益にならない場合を除いては、ずっと面会交流を拒否し続けることは難しいといえるでしょう。

面会交流の拒否に関するQ&A

面会交流に関してよくある質問と回答を紹介していきます。

養育費を払ってもらっていないから、面会交流を拒否したい

面会交流のことにくわえ、離婚前に話し合っておきたいものに「養育費」のことがあります。養育費は、子どもと離れて暮らす親から、引き取って育てていく親に対し、子どもの成長のために必要な費用として支払われるお金です。

養育費を受け取ることは子どもの権利であり、支払うのは離れて暮らす親の義務です。養育費のことと面会交流のことは別の問題として考える必要があり、たとえば「面会交流をさせないなら養育費を支払いたくない」といった主張や、「養育費の支払いがないから面会交流は拒否したい」といった主張は当然には認められません。

再婚したので、元配偶者には会わせたくない

新しい父親と早くなじんでほしいといった理由から元配偶者と会わせたくないという意見もよくありますが、単に再婚したというだけでは面会交流を拒否することはできません。

元配偶者の父母に会わせたくない

元配偶者には面会交流の権利がありますが、元配偶者の父母(子どもの祖父母)には面会交流の権利はありません。しかし、面会交流のルールを取り決める際、特にそういった旨を定めているわけではないならば、元配偶者がどのようにして面会交流を行うのかは自由に決められるといえます。どうしても会わせたくないならば、元配偶者と話し合いルールを定めることで対処しましょう。

面会交流を拒否するなら「子どものためになるか」で判断を

面会交流は、単に元配偶者のことが嫌だから、(自分が)会いたくないから、子どもが嫌がっているように見えるからといった理由では基本的に拒否することはできませんが、子どもが虐待される可能性や連れ去りの危険性など、その理由によっては拒否できる場合があります。大切なお子さんの健やかな成長と幸せのために、できるだけ冷静になって決めていくようにしましょう。


平沼 夏樹

【監修】平沼 夏樹
弁護士。第二東京弁護士会所属。京都大学総合人間学部卒業、立教大学大学院法務研究科修了。離婚、労働、企業法務分野MGを歴任。横浜オフィス支店長、支店統括としての実績が評価され、現在は、リーガルサポート部GMとして、30名を超えるパラリーガルの業務統括及び、離婚分野MGを兼務する(2020年8月現在)。一般民事(主に離婚事件)に関する解決実績を数多く有する。また、企業法務についても幅広く経験。担当したMBOに関する案件(「会社法判例百選第3版」掲載)をはじめ、企業法務についても幅広い業務実績を持つ。知識、経験に基づく、専門家としての対応のみならず、一人間として、依頼者それぞれの立場・心情を理解し、コミュニケーションを重視した対応を心掛けている。

【取扱分野】離婚・男女問題/企業法務・顧問弁護士/遺産相続/労働問題/インターネット問題/債権回収/詐欺被害・消費者被害

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