母子家庭のための援助や制度について調べると、「寡婦」という文字をよく目にします。シングルマザーと同じような意味と捉えている方も多いのではないかと思いますが、特に税制上において大きな違いがあるのをご存知でしょうか。今回は2020年の税制改革を境に変化した「寡婦」の定義と共に、新たに盛り込まれた「ひとり親」という用語についても解説していきたいと思います。
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目次
「寡婦」の税制上の意味
『広辞苑(第七版)』によると、寡婦とは「夫と死別または離婚して再婚していない女。やもめ。未亡人。」とされています。シングルマザーと同じように使われ、その境が曖昧な言葉ですが、税制上の意味は明確に異なります。
2020年の税制改正で、寡婦に対する税制優遇措置「寡婦控除」の対象になる人は、以下に該当する人として定義づけられました。
(1)夫と離婚したあと婚姻をしていない者のうち、次に掲げる要件を満たすもの
・扶養親族を有する
・合計所得金額が 500 万円以下である
・その者と事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる者がいない
(2)夫と死別した後婚姻をしていない者または夫の生死の明らかでない一定の者のうち、次に掲げる要件を満たすもの
・合計所得金額が500万円以下である
・その者と事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる者がいない
【参考】国税庁「ひとり親控除及び寡婦控除に関するFAQ(源泉所得税関係) 」
寡婦に当てはまると、所得から27万円の控除が受けられますが、この要件には「ひとり親に該当しないもの」という大前提があります。
(1)の“扶養親族”には、子どもだけでなく親兄弟を含む広い意味合いがあるものの、生計をともにする子どもがいる場合は、後述する「ひとり親」に該当しうるため、寡婦控除の対象にはなりません。
まとめると、寡婦は「以前に結婚していたことが戸籍で証明でき、現在はシングルで、かつ子どもがいない女性」ということになります。
旧制度では婚姻歴の有無を重視していた
2020年の税制改正前は、控除の適用を受けるには婚姻歴があることが前提となっていたため、シングルマザーでも寡婦に該当する人と該当しない人がいました。
改正前の寡婦に該当しないシングルマザーとは婚姻歴がない人、つまり未婚のシングルマザーのことを指していました。未婚のシングルマザーは寡婦と同じ状況で子育てをしていても、旧制度では寡婦の要件から外れるため、何の優遇措置も受けられていなかったわけです。
そこで婚姻歴の有無だけを重視し、ひとり親とその子どもに対して公平な税制となっていなかった「寡婦控除」を改め、税制改正で新たに生まれたのが「ひとり親控除」です。
未婚のシングルマザーも税制優遇が受けられる「ひとり親控除」
では、ひとり親控除の対象となる「ひとり親」とは、どのような要件に当てはまる人なのでしょうか。
・生計をともにする子どもがいる
(子どもに年齢制限はないが、子ども自身の収入が48万円以下であること)
・合計所得金額が500万円以下
・事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められるものがいない
そして、この要件には「婚姻歴の有無や性別に関わらない」という前提があるため、未婚のシングルマザーでも婚姻歴のあるシングルマザーと変わらない税制優遇が受けられるようになったのです。
さらに付け加えると、旧制度では「寡夫」の控除額は「寡婦」よりも低かったのですが、改正後は同じ「ひとり親」として扱われることになります。これにより、シングルファザーはひとり親控除でシングルマザーと同額の控除が受けられるようになっています。
「ひとり親控除」の内容や誕生背景
ひとり親控除では、離婚・死別のシングルマザー、未婚のシングルマザー、シングルファザーかに関わらず、子どもを扶養するひとり親家庭であれば35万円の控除が受けられます。税金は所得が高いほど納める額が高くなるため、所得からこの35万円を差し引いて税率計算をすることで、所得税や住民税が軽減されるということになります。
未婚のシングルマザーが控除の適用を受けられることになった背景には、2016年の「全国ひとり親世帯等調査」で、未婚のひとり親の割合が死別のひとり親と同水準にまで増加した実態が明らかになったこともあるようです。
ひとり親のための支援制度をくまなく活用し、生活向上を!
以上、寡婦とシングルマザーの違いを説明してきましたが、最後にもう一度簡単に振り返ってみましょう。
寡婦の言葉の意味としては「夫と離別、死別したシングル女性」ですが、税制上の寡婦は「婚姻歴があり、子どもではない扶養親族がいるシングル女性」、ひとり親は「子どもを扶養するシングルの母または父」ということになります。ただし、どちらも所得金額による条件があります。
旧制度では婚姻歴の有無で控除が適応されるかどうかが決まっていましたが、子どもがいるひとり親家庭が一律に税制優遇を受けられるようになったのは、社会全体にとって喜ばしいことといえます。
このように、ひとり親家庭が抱える様々な事情を考慮して、生活の安定と自立を後押しする支援が広がっていますので、くまなく活用して生活向上につなげていきましょう。