養育費の支払いは法律上の義務であり、支払者と同レベルの生活を子どもにさせるための重要な手段です。しかし、支払者が養育費をきちんと支払わなくなるケースもあります。そのような場合、養育費を回収するための対策にはいくつかの方法があります。回収できる方法をあらかじめ知っておけば、養育費を支払わなくなった場合のリスクに備えることが可能です。

この記事を読めば、養育費を支払うことは法的な義務であることや、養育費を支払わなくなった場合の対策方法がわかるので、ぜひ最後までご覧ください。

法律上の養育費の支払義務とは?

養育費の基本や、法律において養育費の支払い義務があることなどを解説します。

支払義務は民法を根拠とする

養育費の支払対象になる子どものことを「未成熟子」といい、社会的・経済的に自立していない子どもをさします。養育費を簡潔にいえば、まだ経済的に自立していない子どもの監護・教育のために支払われるお金です。

養育費は、支払うか支払わないかを自由に決められる単なる施しではありません。子どもと離れて暮らす親である支払者には、養育費の法的な支払義務があるのです。養育費の支払義務は、民法第877条第1項の扶養義務をその根拠とすると考えられていたり、あるいは民法766条を根拠とすると考えられたりしていますが、基本的には子どものための「生活保持義務」という種類の義務だと解釈されています。

生活保持義務とは、たとえ支払者の生活に余裕がなくても、支払者と同じレベルの生活を子どもに保障しなければならない、という強い義務です。

養育費を支払う期間と金額について

養育費を何歳まで支払わなければならないか、という具体的な支払期間について法律に規定はありません。子どもが経済的に自立するまでは支払義務があるので、「子どもが満20歳になるまで」という取り決めをする場合が少なくありません。

もっとも、「大学に進学した場合は卒業するまで」など、それ以外の取り決めをすることも可能です。

また、養育費をいくら支払わなければならない、という法律の規定もありませんので、話し合いによって金額を決めることができます。そのため、裁判所が養育費の額を決定する場合は「養育費算定表」という基準が用いられています。養育費算定表は、養育費の対象となる子どもの人数や年齢、支払者と受取者の年収などを基準として、養育費の金額の目安を定めたものです。
    

養育費の取り決め方法

養育費の取り決め方法は、一次的には夫婦間の話し合いで決めます。それでも決まらない場合は、調停や審判で決めることになります。

夫婦間の話し合い

離婚する場合、養育費について以下の項目は必ず取り決めをしておくことをおすすめします。

・養育費の金額(毎月5万円を支払うなど)
・養育費を支払う期間(いつからいつまで支払うか)
・支払方法(指定口座に振り込むなど)
・支払期限(毎月25日に支払うなど)

まずは離婚をして、その後ゆっくり養育費について取り決めをしようと考えていると、後になって相手から「再婚したから養育費を支払う余裕はない」などと、養育費についての取り決めを断られてしまう可能性があります。ですので、できるだけ、離婚する際に養育費についても取り決めをするようにしましょう。

また、養育費について取り決めをした場合には、取り決めの内容を必ず書面にしておきましょう。口頭だけで養育費の取り決めをすると、あとになってから支払者に「そんな約束はしていない」と断られてしまう可能性があるからです。

書面にする場合、できれば公正証書化して作成しておくことをおすすめします。公正証書とは、「公証役場」へ行き、公証人という特別な職員に依頼して作成してもらう書類です。

公正証書は公証人が作成して公証役場で保管するので、養育費についてどのような取り決めをしたのか、客観的に証明しやすくなることが特徴です。加えて、公正証書に強制執行に服する旨の記載があれば、仮に支払者が養育費の支払いを怠った場合に、裁判などをしなくてもすぐに強制執行が可能になります。

家庭裁判所の調停、審判

養育費について夫婦で話し合っても内容がまとまらない場合や、そもそも話し合いにならない場合は、家庭裁判所に調停という手続を申し立てて、養育費の取り決めを求めることができます。

調停とは、裁判のように勝ち負けを決めるのではなく、調停委員などの第三者を交えて話し合いをして、お互いに合意を目指す手続です。調停でも合意がまとまらずに解決できないときは、審判という手続によって、裁判官に判断してもらう方法があります。

支払者が養育費の支払義務を守らない場合

支払者が合意した養育費を支払わなくなった場合、きちんと支払わせるための対策方法は、その合意の取り決め方によって異なります。

裁判所の手続や公正証書による合意ではない場合

養育費についての当事者間の合意は成立しているものの、裁判所の手続(調停や審判等)や公正証書による合意ではない場合、まずは家庭裁判所に「養育費調停」を申し立てたり、合意に基づいて民事訴訟を提起して債務名義を取得してから、強制執行等の手続に移行したりする必要があります。

強制執行とは、債務を履行しない(養育費を支払わない)相手の財産を差し押さえて、強制的に養育費の金額を回収するための手続きです。強制執行の主な方法として、以下のものがあります。

・支払者の債権(給料や預貯金)を差し押さえて、そこから養育費の金額を回収する
・支払者の不動産を差し押さえて競売にかけ、その売却代金から養育費の金額を回収する

公正証書ありの場合

養育費の公正証書があり、かつ「強制執行に服する」旨の記載がある場合、調停や裁判を経ずとも支払者の財産に対して強制執行ができます。

家庭裁判所で決まっている場合

養育費の取り決めが調停や審判で決まっているのに、養育費が支払われない場合にも強制執行ができます。それ以外にも、裁判所に申し立てて履行勧告を行うことができます。

履行勧告とは、家庭裁判所が支払者に連絡をして、「調停や審判で決めたとおりに養育費を支払ってください」と促す手続です。ただし、履行勧告はあくまで支払いを促すだけなので、相手が履行勧告を無視すれば何もできません。

養育費の支払期間が変わるケースとは

養育費の支払期間について取り決めをしても、後の事情によって支払期間が途中で変わることがあります。代表的なケースとして、子どもの大学進学や高校卒業後の就職が当てはまります。

子どもが四年制大学へ進学する場合

養育費の支払期間について取り決めをする場合、繰り返しとなりますが、一旦「子どもが満20歳になるまで」という内容で取り決めをする場合が少なくありません。

しかし、子どもが四年制大学へ進学する場合、最短でも大学を卒業するのは22歳ですから、それまでの間は子どもの学費などで養育費の支払いが必要となります。このような場合は、仮に子どもが満20歳になるまでという内容で取り決めをしているとしても、子どもの四年制大学への進学が決まった段階で、養育費の支払時期を延長する取り決めを再度行うことがあります。

そのような合意がない場合に、養育費の支払時期の延長(または短縮)をするには、改めて支払者と受取者が話し合いをして合意することが必要です。話し合いがまとまらない場合、支払時期の変更を請求したい側が調停・審判を申し立てる方法があります。

高校卒業後に子どもが就職する場合

養育費は、基本的には子どもが経済的に自立した生活を送ることができない場合に、生活を保障するために支払われるものです。したがって、取り決めをした養育費の支払時期よりも前に子どもが経済的に自立した場合は、その時点で養育費の支払いの打ち切りが認められる可能性があります。

子どもが経済的に自立した例としては、高校を卒業して就職し、子どもが自分で収入を得るようになった場合です。

ただし、子どもが就職しただけで必ず養育費の打ち切りが認められるわけではありません。養育費は子どもが経済的に自立していない場合に受け取るものなので、働いていても収入が自立するのに十分でないなどの特別な事情がある場合には、養育費が継続される可能性があります。

養育費の未払いリスクを回避するためには

養育費の未払いリスクを回避する方法として、公正証書に「執行受諾文言」を含める方法について解説します。

公正証書に「強制執行認諾文言」を含める

養育費について公正証書にする場合、公正証書の中に「強制執行認諾文言」を含めることが重要です。この文言があると、調停の申立てや訴訟提起を経ずにいきなり強制執行をすることができるからです。

逆に言えば、せっかく公正証書を作成しても、この文言が含まれていなければすぐに強制執行をすることができません。

強制執行認諾文言とは、「公正証書正本に記載された債務を債務者が履行しない場合は,直ちに強制執行に服する」という旨が記載されていることです。

なお、強制執行をするには公正証書正本が必要です。執行受諾文言が含まれる正本の末尾には、「債権者は,債務者に対して,この公正証書によって強制執行をすることができる」という旨の記載があります。

正本とは異なる書類として、公正証書謄本(「これは謄本である」という旨の記載のある書類)がありますが、謄本では差し押さえができません。公証人役場に対して正本の交付を請求する必要があります。

養育費は子どものためのお金!未払いの場合は正しく対処しよう

養育費は未成熟子の監護や教育のためのお金で、子どもと同居していない親の法的な義務です。支払者が養育費を支払わなくなった場合、強制執行認諾文言のある公正証書があれば、調停や審判をせずに強制執行ができます。養育費を支払わなくなることが心配な場合は、必ず強制執行認諾文言を含めた公正証書を作成しておくようにしましょう。