離婚の理由はさまざま。そして、その後の人生も、選択と決断の毎日です。先行きに不安を覚えたり、失敗して落ち込んだりすることもあるかもしれません。少し息詰まってしまったら、この企画に相談しにいらっしゃいませんか? 自ら5人の子どもを育て上げた日本シングルマザー支援協会代表の江成道子さんが、本音で、真剣に、あなたの悩みに答えます。

今回は人生の永遠の問題、マイホーム。賃貸の良いところは、家族の状況に応じて部屋を借り換えられる点ですが、何度も引っ越すなら、いっそ買ってしまった方が良いのでは?とも思いますよね。しかしマイホームは人生最大のお買い物。購入が自分にとって本当に良い決断かどうかは、非常に悩みどころです。人生の大きな決断にあたり、押さえておくべき大切なことを江成さんにお聞きしました。

今月の相談:40歳、マイホームを買うか決めきれない。支払いはどう考えればいい?

40歳、正社員で働いています。中学生の子ども2人と、2LDK、月11万円の賃貸マンションに住んでいます。子どもたちが大きくなってきたので、そろそろマイホームを購入しようかと考えていました。

住みたいと考えているエリアの中古住宅の相場は3,000万円前後で、自分自身の貯金は500万円程度、子どもたちの教育資金は別に貯めています。ローンを組むので早めに購入にしたいと考えていたのですが、65歳の定年までの支払いや、老後のことを考えるとなかなか購入に踏み切ることができず、本当に家を買うべきなのか分からなくなってしまいました……。

そもそも、マイホームは持つべきなのでしょうか? 購入する場合のお金のシミュレーションなどは、どのように考えればいいのでしょうか。

▽相談者の情報
・離婚/・現在の職業:会社員 営業職/・年齢:40
・子どもの数(性別・年齢): 2人(息子15歳・13歳)
・経緯:自身の年収は500万円

回答:後悔のない選択のために、家を買う目的を明確にし、情報収集に努めましょう

住む地域や暮らしのあり方がそれぞれあるように、マイホームを買った方がいいかどうかは、本当に人それぞれです。シングルマザーだから買った方がいい、ということもありません。シングルマザーで家を購入される方もたくさんいますし、私自身は小さくまとまった暮らしは大きく困ることもないという考えから、賃貸を選んでいます。

相談者さんは貯蓄もしっかりあり、収入もシングルマザーの平均年収の倍と高い水準ですから、努力家で堅実な方なのでしょう。家を買うかどうか決めきれないのは、おそらく判断材料となる情報が不足していて、考えをまとめきれないのではないかと思います。

そこで私からのアドバイスは、まず「家を買う目的」をはっきりさせ、目的に沿った情報集収をし、専門家の力を借りてお金の不安をなくすことです。順に説明していきましょう。

相談者へのアドバイス1:目的が定まったら、期限を決めて情報収集を

まず始めにやるべきなのは、家を買う目的を明確にすることです。協会に大家業を営む会員さんがいらっしゃいますが、家を投資物件として持つことを決めると、必然的に選び方も決まると言います。相談者さんが買う家は「子どもに残すための財産」なのか、「投資対象」としてなのか、「安定の象徴」として手に入れたいのか、どんな目的があるのでしょうか。

それがはっきりしたら、大きな意思決定をするにはたくさんの情報に触れることが大切ですから、期限を決めて情報収集し、自分でも勉強してみましょう。仮に投資目的だとしたら、リスクとリターンなど投資の勉強をする必要があります。そうでなければ住宅購入の考え方について書かれた本を2、3冊読めば、大体のところはつかめると思います。

子どもに財産として渡したいと思うなら、住みたいエリアの地価と、ここ数年の価格の推移、10年後にどれくらいの価値になるかを把握しておけばいいと思います。新築は買った瞬間から価値が下がってオーバーローンになりがちですから、資産価値を考えるなら検討されている通り、中古住宅を買う方が良いでしょう。

支払いのシミュレーションは、月々払っている家賃がローン返済に替わるだけですから、これまでと同じように考えておけばいいと思います。今の家賃を定年の65歳まで払い続けるなら、3,000万円前後のローンは完済できる計算になりますね。

相談者へのアドバイス2:お金の専門家に相談し、老後費用を算出しておく

お金の管理ができても不安が拭えない、という方におすすめしているのが、FP(ファイナンシャルプランナー)などお金の専門家に相談することです。相談料として数万円程度の出費はあると思いますが、それは必要経費と捉えて、30年先くらいのシミュレーションと老後費用の算出をお願いしてみましょう。

老後費用は、今の生活を基準に見通すことができます。簡単に、子どもが独立した後の月々の生活費を算出し、女性の平均寿命と言われる87歳までいくら必要かを計算してみます。家を買った場合の修繕費や維持費も、忘れずに計上しましょう。そこに、予測不能な出費に備えて予備費を200〜500万円ほどプラスします。

数字が出たら、この額を貯金と年金でカバーできるか見比べましょう。足りないなら、個人年金などで補填する必要も出てきます。プロに相談すれば、精度の高い詳細な予測を出してくれるはずです。

専門家に相談する時にひとつ注意しておきたいのは、その人が信頼に足るかどうかです。不安につけ込み、不必要な保険などを売りつけようとする人もいますから、可能であれば知り合いから紹介してもらうのがベストです。

つてがなければ、問題解決のためではなく「FPを見る」ために、無料相談をいくつか活用してみてもいいですね。無料という条件でも親身になって話を聞いてくれたり、詳細な説明をしてくれたりと、「この人なら信用できそうだ」という人が見つかったら、個人的にお金を払って相談に乗ってもらってもいいと思います。これで、大きなお金の契約をすることへの不安は、多少なりとも解消できるのではないでしょうか。

相談者へのアドバイス3:自分がマイホームに抱いている価値観を見直す

「マイホーム=幸せの象徴」というイメージが今も強くあるように、家を手に入れることは、その人しか持ち得ない思いや価値観が大きく現れることなのだと思います。

相談者さんにも、「雨風をしのげて寝食できる場所」という以上の、マイホームに抱く特別な価値観や理想があるのではないでしょうか。最後に、買う買わないの判断材料のひとつとして、自分が家を買うことにどんな価値を見出しているのかも確認してみましょう。

価値観を見直すには自分を俯瞰して見ることが必要ですが、協会では簡単にできる方法として「自分に3度問いかける」ことをお伝えしています。

まず、「家が欲しいのはなぜだろう」と自分に問いかけてみて、「安心できる場所が欲しいから」という回答が出てきたら、再び「安心できる場所ってなんだろう」と問いかけてみます。すると、その場所が、お母さんがにこやかに料理を作っていた実家の台所の記憶に結びついていたことなどに気づくかもしれません。

問いを進める過程で「実家で感じた安心感は母親の存在によるもので、家を買うこととは関係ない」となるかもしれませんし、「子どもたちが安心を感じられる、いつまでも変わらない場所として所有したい」となるかもしれません。

このように問いを3回くらい繰り返すと、普段は気持ちの表層に出て来ない、奥底にある価値観が必ずひとつは出てきます。今までと違う視点でものを見ることができますから、一度試してみてください。

大きな意思決定にはたくさんの情報が必要だと言いましたが、いろんなケースを調べて人の話を聞いたところで、自分の価値観を知らなければ結論は出ません。自分の価値観と向き合って出した結論なら、買っても買わなくても、後悔はしないと思います。

まとめ:実情と自分の気持ちを見つめた上で、「夢」なら叶えましょう

協会の会員さんの中には、買った家の30年先の修繕費まで計算し、準備している方もいます。将来のシミュレーションは安心につながりますが、計画通りにいかないのも人生。何かが起きても対応できる柔軟性は保っておきましょう。

目的と価値観を見直した結果、マイホームを持つことが相談者さんの憧れだったとしたなら、「夢を叶えるために購入する」という選択も、もちろんあってしかるべきだと思います。マイホームを手に入れられるところまで頑張ってこられたわけですから、他者からも自分からもしっかりと情報収集をして、最後の一歩を踏み出してください。応援しています。

江成道子

江成道子
一般社団法人 日本シングルマザー支援協会 代表理事。シングルマザーサポート株式会社代表取締役社長、一般社団法人グラミン日本顧問、武蔵野学院大学講師。自らシングルマザーとして5人の姉妹を育てながら、シングルマザーの自立支援活動を続ける。講演多数。
一般社団法人 日本シングルマザー支援協会