離婚の理由はさまざま。そして、その後の人生も、選択と決断の毎日です。先行きに不安を覚えたり、失敗して落ち込んだりすることもあるかもしれません。少し息詰まってしまったら、この企画に相談しにいらっしゃいませんか?自ら5人の子どもを育て上げた日本シングルマザー支援協会代表の江成道子さんが、本音で、真剣に、あなたの悩みに答えます。
今回は、ついにこの時が来た、とシングルマザーなら誰もが思うであろう「お父さんってどんな人?」という質問がテーマです。今回の相談者さんは元夫の浮気が原因で離婚に至ったという経緯もあり、思春期を迎えた2人の子どもに何をどう伝えるべきか悩んでいらっしゃるよう。そんな相談者さんに、今回も江成さんが元気の出るアドバイスを贈ります。
目次
今月の相談:「お父さんってどんな人?」という子どもの疑問にどう答えればいい?
上の子どもが3歳のときに、相手の浮気が原因で離婚をしました。離婚してから、元夫とは一度も会っておりません。父親の記憶はわずかに2人の中にあるようですが、ほとんど覚えていないようです。
今まで父親について、私から子ども達に話すことはほとんどありませんでした。しかし最近、学校で「自分の生い立ち」についての授業があり、子ども達が父親はどういう人なのか聞いてくるようになりました。
相手の浮気が原因で離婚したため、私としては思い出したくもない相手です。でも子ども達にとってはたった1人の父親ですから、良い人であったと伝えてあげたいのですが、うまく伝えられる自信がありません。
どのように、子ども達に伝えてあげるのが一番良いのでしょうか。
▽相談者の情報
・離婚/・現在の職業:会社員 営業職/・年齢:38
・子どもの数(性別・年齢): 2人(娘11歳・息子10歳)
・その他情報:養育費を毎月7万円、滞りなく受け取っている。
回答:否定的な言葉を避け事実を述べて。愛情の確認が、子どもの生きる力になります
学校の授業がきっかけだったとのことですが、お子さん達の年齢を見ると、別れて暮らす父親のことが気になってくる自然なタイミングだと思います。これは私の経験に基づいたあくまで肌感覚の話ですが、男の子は特に自分のルーツを知りたいという欲求が強いように思います。本能に近いと言っていいかもしれません。
父親の性格や離婚の経緯がどうであれ、子どもが実の親のことを知ることは悪いことではありませんし、この年齢まで父親との交流なしに育ってきて、父親に対して悪いイメージを持っていないことはプラスと捉えて良いと思います。では、どのように子ども達に答えればよいか解説していきましょう。
相談者へのアドバイス1:月々の養育費が、父親からの愛情の形と説明する
私は可能な限り、離婚する時には「別居親」との面会交流の機会を確保することが望ましいと考えています。離婚は夫婦仲が破綻した結果ですから、子どもと一切関わりを持ってもらいたくないという感情があるのは当然のことですが、子どもの立場からすると、それまで2人の親から注がれていた愛情が半分になってしまうという不都合もあるのです。
それを補う意味でも、「同居親」である相談者さんが「お父さんはあなた達のことをちゃんと考えてくれているよ」ということをしっかりと伝える必要があります。これは、同居親の責務と言ってもいいでしょう。
そして、事実として元夫から月7万円の養育費を滞りなく受け取れていますよね。7万円は決して少なくない額ですし、働いて子ども達を養うという意識はある方なのだと思いますから、「ずっと養育費を払ってくれているということは、子ども達を大切に思う気持ちを変わらず持っている証拠」ということを相談者さんが認識し、子ども達に伝えてください。
相談者へのアドバイス2:幼少期に愛された記憶が、子どもの人生に大きく影響します
別居親の愛情を伝えることがなぜ大切かというと、幼少期に愛情を受けたという記憶は子どものアイデンティティに直結し、その後の人生や自己肯定感に大きな影響を及ぼすからです。
両親が揃って子どもに愛情を注いだとしても、表現方法と子どもの受け取り方がずれていれば、子どもがそれを愛情と感じられないこともあります。だからこそ、子どもの心情を察知しながら、言葉でわかりやすく伝えていくことが大切。元夫のためでなく、子ども達のために「養育費という形で愛情を受けている」ことを伝え、安心させてあげてください。
すべての人間が「自分を認めてもらいたい」という承認欲求を持っていますが、職場で認めてもらえない、相手にわかってもらえないと感じやすいタイプの人は、幼少期に承認欲求を満たしてもらえなかったことが大きく影響していると感じます。
自分の誕生の瞬間が親に大きな幸福感を与え、笑ったり歩いたり、できることが増えるたびに親が喜んでくれることを感じながら育つ。そういった経験を通して子どもは「自分は誰かを幸せにできている」「誰かの役に立っている」と思うことができ、承認欲求が満たされていくのです。この感覚を子どものうちに得られていれば、社会に出てから他人に対して過剰に承認を求めることはあまりなくなります。
「自分は両親に愛されていた。生まれてきて良かったんだ」と感じることは人格の基礎となるところですから、しっかりと別居親の愛情を伝えてあげることが、子ども達の健やかな成長にもつながるのです。
相談者へのアドバイス3:父親を否定する言葉は使わない。伝え方には気遣いを
父親のことを話すときは、否定的な言葉で語らないよう注意が必要です。なぜなら相談者さんにとって元夫は他人ですが、子どもにとって父親はアイデンティティの一部だからです。自分で自分の親のことを悪く言うのは良いけれど、ほかの人に悪く言われるのは気持ち良いものではないですよね。子どもの自己肯定感にも関わってくるところですから、伝え方には気を遣いましょう。
基本的には、子ども達の誕生を喜んでいた、こんなところに一緒に行った、という事実を伝えてあげれば良いと思います。家事育児に無関心だったということもあるもしれませんが、一生懸命働いて稼ぐことも家族のためですから、「真面目で仕事熱心だったよ」と伝えるなど、良い点を評価する気持ちで話をしましょう。
離婚理由の浮気については、夫婦間の問題なので伝える必要はないと思います。日本の離婚の原因の1位は「性格の不一致」で、浮気などの具体的な出来事があって離婚するより、5年や10年という我慢の期間を経て離婚するケースが圧倒的に多いんです。
直接的な離婚理由が元夫の浮気だったとしても、浮気した理由となるとほとんどの場合において先に夫婦間の問題がありますから、「この先一緒に生きていくと考えたときに、仲良くやっていけなさそうという判断をしたんだよ」と伝えれば充分。大人になって浮気の事実を知る機会があれば、それでいいことです。
もし子ども達が「お父さんに会いたい」と言ってきたら、その時は機会をつくってあげるのが良いと思います。元夫に直接連絡を取ることは抵抗があるでしょうから、義理の親御さんに連絡を取ってみてはいかがでしょうか。孫が息子に会いたがっていると知れば喜んでくれるかもしれませんし、再婚したばかりだから今連絡を取るのは控えてほしいという話が出てくるかも知れません。それぞれに事情がありますから、その時は相談者さんがフォローに回りましょう。
まとめ:子どもがルーツを知りたがるのは、子育てが成功している証です!
別れた夫に対する子どもの質問にどう答えたら、という相談は協会にも多く寄せられます。そういう方々に私達が強くお伝えしているのは、「子どもが父親のことを聞ける家庭環境を作れているあなたはすごい!」ということです。言い出しづらいであろう父親の話を、子どもが切り出せるということは、良好な親子関係が築けている証拠。相談者さんが、これまで子育てを頑張ってこられた証なのです。
子どもが気を遣って父親の話題を避けていたなら、こうして悩む機会もなく、子どもの思いに気づくこともなかったでしょう。子どもが自分のルーツを知りたいと思った時に答えてあげられる機会を得たことに、誇りを持ってくださいね。
江成道子
一般社団法人 日本シングルマザー支援協会 代表理事。シングルマザーサポート株式会社代表取締役社長、一般社団法人グラミン日本顧問、武蔵野学院大学講師。自らシングルマザーとして5人の姉妹を育てながら、シングルマザーの自立支援活動を続ける。講演多数。
一般社団法人 日本シングルマザー支援協会