離婚の理由はさまざま。そして、その後の人生も、選択と決断の毎日です。先行きに不安を覚えたり、失敗して落ち込んだりすることもあるかもしれません。少し息詰まってしまったら、この連載に相談にいらっしゃいませんか? 自ら5人の子どもを育て上げた日本シングルマザー支援協会代表の江成道子さんが、本音で、真剣に、あなたの悩みに答えます。
私たちの生活を一変させた、新型コロナウイルス感染症の大流行。感染拡大の波が繰り返し訪れるたび、子どもの貴重な時間や経験が削られ不安を感じた方も多いのではないでしょうか。今回は、青春を謳歌していたはずの子どもが、自粛期間をきっかけにふさぎ込んでしまったという相談です。再び前を向くため、母親にはどのような声かけができるのでしょうか。
目次
今月の相談:コロナで学校行事が中止や延期に。落ち込む子どもにどのように声をかければいい?
コロナの影響で子どもの行事や部活の規制が続いています。学校行事が中止や延期となり、部活や文化祭など学校生活に欠かせないイベントや活動ができていません。
息子はサッカー部に所属しており、日々楽しみながら練習に励んでいました。しかしもう1年以上思うように練習ができなかったせいか、今年の夏の大会は良い結果が残せず落ち込んでいました。
部活動だけでなく年に一度の文化祭や体育祭なども延期や縮小を余儀なくされ、学校生活の楽しい時を体験できておらず、かわいそうに思ってしまいます。
このような状況は私も経験したことがないので、どのように声をかけてあげたらいいかわからず、悩んでいます。
▽相談者の情報
・離婚/・現在の職業:会社員 営業職/・年齢:42
・子どもの数(性別・年齢): 1人(息子17歳)
回答:辛さを乗り越えるには「語る」ことから。親子で対話の機会を持ってみて
コロナ禍は、高齢者の命を守るという観点で世の中が動いていたように思います。メディアも「若者は重症化しない」という語り口の報道が多く、多くの子どもたちが、経験が少ないゆえに言葉にはできないけれど、違和感や理不尽を感じていたのではないでしょうか。
10代、20代の1年と、若い世代の1年はまったく別の価値を持ちます。私が教える大学の学生を見ていても、若い子への影響は計り知れないと思いました。
ですから、貴重な青春の時を普通に過ごせなかったこの2年が、子どもの人生にどれだけ大きな影響を与えるものだったのか、身近な大人が考えることはとても大切なことです。
相談者へのアドバイス1:今の心情を吐き出させることが、立ち直りへの第一歩
ご相談は落ち込む息子さんにどのように声かけをすればいいかということですが、まず息子さんの気持ちを理解することから始めてみてください。「あなたのこの2年は、私が10代だった頃よりもはるかに大変で、影響が大きいもの」という理解は、伝えてあげるといいと思います。それだけでも、ずいぶん息子さんの気持ちは違うと思います。
そして大切なのは、今息子さんの中で交錯しているであろう苛立ちや悲しさを、吐き出させてあげることです。
今、世界中が直面している危機は新型コロナウイルス感染症ですが、過去をさかのぼれば戦争があり、最近では震災がありました。昨日と今日がまったく別のものになってしまうという経験を、世代は違えど人それぞれに経験しています。
震災で辛い経験をした人たちがどのように立ち直ったかという調査では、自分の経験や震災から得た学びを語り始めた人が、辛さを受け入れ乗り越えることができたという結果が出ているそうです。
コロナ禍と戦争や震災の辛さは比較できることではありませんが、まずは「この歳でこんな経験をしたのはあなたたちしかいない。この状況をどう感じたのか、聞かせてほしい」と問いかけ、語らせてみてください。
このような状況が再度訪れることも予想されていますから、この経験をどう乗り越えて生かしていくか、自分より後の世代にどう伝えていけばいいか、未来を問う形にしていければベストです。
相談者へのアドバイス2:辛さを乗り越えることは幸福感を得るための大切なステップ
この辛さを受け入れ、乗り越える経験は、幸福感を得られることと密接に繋がっています。例えば離婚したことをずっと後悔している人は、その先に進めません。死別も同じく、夫を思って泣き続ける人と、これから先を考えようと切り替えている人の差は、その経験を受け入れられているかどうかです。辛さを受け入れることをしてこなかった人は、幸福度が低い。協会で相談を受けていても、そう感じます。
感染症の世界的な流行は、抗いようのない状況です。受け入れるしかありません。この機会に「受け入れる」ということを知り、学ぶきっかけにできればよいのではないかと思います。
会話の糸口としては、息子さんが興味を持っているものを掘り下げるのが一番です。今は多くの子がゲームや漫画、SNSなどに夢中になっているのではないかと思います。どれも母親がよい印象を持たないものですが、子どもが関心を持っている以上は、少し歩み寄ってみてください。
といっても相談者さんがゲームをやってみるということではなく、「そんなに夢中になるほど、何が面白いの?ちょっと教えてよ」と、子どもがもっとしゃべりたくなるような質問を投げかければOKです。すると、子どもは自分が興味を持っていることを認められたという気持ちになります。
この時はまだ自分の意見は言わず、話の主導権を息子さんに与えて、相談者さんは聞くに徹してください。「そうか、こんな風に楽しいんだ、意外と学びがあるんだね」などと、子どもの気持ちに寄り添うことが大切です。
そうしてある程度本人が満足したら、笑顔で会話を終えると思います。それから本題に入ってみてください。子どもは話を聞いてもらったことで満足を感じるので、親の呼びかけや提案にも聞く耳を持つようになります。
息子さんとの会話でひとつ注意しておきたいのは、「こんな状況よりはマシよ」「お年寄りは命に関わるけど、あなた達は若いんだから大丈夫」など、何かと比較して話すことはしないでください。「みんな我慢してるんだから、しょうがない」もよくありません。突き放されたと感じてしまいます。
母親に共感、理解してもらったということが辛さを受け入れるきっかけになりますから、息子さんの立場で会話を進めてあげてください。
相談者へのアドバイス3:どんな時でも、家は常に子どもの「オアシス」でありたい
自粛期間中に失った友達との関わりや学習機会は、家庭で補えるものではないと思います。せめて家で勉強をフォローしようと思っても、世帯主である相談者さんには相当な負担になるでしょう。
ですから、これまで当たり前のようにあった生活が突然変わってしまったとしても、家の中は本音を話せる環境で、どんな時でもそれだけは失わない「オアシス」であればいいと思います。学校に行けない、友達と話せない、勉強もできなくて不安なうえに、家ではお母さんがイライラしているという状況だと子どもは居場所を失ってしまいます。
子どもの不安定な状態に感情移入するあまり、一緒に不安に陥ってしまう母親も多いのですが、あまり「かわいそう」と同調しすぎないように気をつけましょう。そうなると子どもが自分の力で立ち直るというより、誰かに頼るという方向になってしまいます。
今の状況を受け入れて、乗り越えるという観点で、話をしてみてください。
まとめ:これまでの子育てに自信を持って、この出来事を親子の成長の機会に!
自分が大変だと、他の人の大変さには気づけないものです。相談者さんはコロナ禍でも視野が狭まることなく息子さんの大変さに気づき、対策を考えようとしていますから、それだけで良い親子関係を築けていることがうかがい知れます。
今回のことを機に、相談者さんがお子さんに対して寄り添うコミュニケーションスキルを身につけ、ともに不安な状況を乗り越えることができたなら、親子にとってこのうえない成長の機会になると思います。
ぜひ、今日からでも対話の時間を10分でも5分でも持ってみてください。
江成道子
一般社団法人 日本シングルマザー支援協会 代表理事。シングルマザーサポート株式会社代表取締役社長、一般社団法人グラミン日本顧問、武蔵野学院大学講師。自らシングルマザーとして5人の姉妹を育てながら、シングルマザーの自立支援活動を続ける。講演多数。
一般社団法人 日本シングルマザー支援協会