皆さん、こんにちは。弁護士の高橋麻理(たかはし・まり)です。

今年になって、もう5か月が過ぎようとしています。1月に年が明け、3月は年度末で職場もお子さんの春休みなどもあってバタバタ、4月は新年度を迎え、職場もお子さんの入園・入学や進学等でバタバタ。そうこうしているうちに、ゴールデンウィークも終わり、梅雨入りだなんて思っていたら、もう夏休みが見えてくる時期。

ひと月ひと月があっという間に過ぎていくことを実感するタイミングということもあり、今年こそは新しい一歩を踏み出そうと思っていたかたの中には、もしかしたら、夏休みの長期休暇に合わせて、離婚を見据えた別居に踏み切ろうかしらなどとお考えのかたもいるのではないでしょうか。そうなると、そろそろ、別居について、少しずつ計画を立てていきたいなと思うかもしれませんね。今回は、別居について取り上げてみたいと思います。

離婚を見据えて別居するかたは多い

離婚を考えているかたの中でも、「まずは別居」とお考えのかたは多いように思います。たしかに、同じ屋根の下で生活しながら、離婚の話し合いを続けるのは、精神的になかなかきついですよね。

スムーズに話ができれば問題ないですが、スムーズに話ができないからこそ、離婚の話し合いになっていることが多いと思うので、子どももいる同じ家の中で、タイミングを見計らって話を切り出したりすることも難しいでしょうし、お互いの意見が折り合わずに、同じ食卓を囲まなければならないのも気まずいこともあるかもしれません。

特に、直接の話し合いができず、調停に移行するという場合は、なおさら、同じ家に住みながら、お互い裁判所に行って話し合いをするということに違和感を持たれるかたも。なにより、関係がうまくいっていないパートナーとの生活は、毎日息が詰まるようで、気持ちが休まる暇がないというかたもいらっしゃるかもしれません。

以前、別居前のご相談者様から、「毎日、相手が仕事を終えて帰宅して玄関ドアのカギを開ける音を聞くと心臓がどきどきして呼吸ができなくなる」などというお話を伺ったこともあります。

別居をスタートさせる前に考えておきたいこと

我慢の限界が来て、勢いで家を出る、ということもあるかもしれません。でも、もし状況が許すのであれば、事前に考えておきたいことがあります。

❶ 当面の生活費確保はできていますか?
別居中の生活費は、相手に支払わせることができるらしいから、とりあえず、家を出てから考えればいい、と考えて、ひとまず家を飛び出す、ということになると、すぐに毎日の生活費に困ってしまうこともあるかもしれません。

たしかに、別居中の生活費を一部相手に負担させることは(もちろん状況にはよりますが)可能な場合が多いです。この生活費を、「婚姻費用」と言います。

そして、相手が、すんなり、こちらが希望した金額を払ってくれるとか、これまでどおり、相手名義の口座から生活費を引き出すことが可能な状況であるとかであれば問題はないのです。でも、離婚の話し合いがスムーズにいかないケースでは、この生活費の支払に関しても思い通りにいかないことは多いのが実情です。

そんなときは、婚姻費用の負担を求める調停を申し立てればいいのですが、その手続きを経て相手に生活費を支払ってもらうに至るまでには時間がかかるのが通常です。結論が出ない状態が数か月に及ぶこともしばしばあります。

そう考えますと、当面の生活費として、半年程度の生活費が確保できていると、気持ちの余裕が生まれると思います。相手からはいくらくらいの生活費が支払われるのか、相手が応じないときの調停の手続きとはどのようなものか、ご不安がありましたら、ぜひ、別居前に、一度弁護士に相談することをお勧めします。

❷ ご自身の必要な物は手元にそろっていますか?
いったん家を出てしまうと、その後、何か足りないものがあってとりに戻りたくても、もしそのタイミングで相手が在宅していたら・・・などと考えるとなかなかそれもできず、困る事態になることがあります。

ご自身やお子さんの保険証、受給券、印鑑、年金手帳、銀行預金通帳、その他必要な場面を具体的にイメージしながら、漏れがないよう、持ち出すべき物をしっかり手元に置くようにするのがよいでしょう。

❸ 無理なく確保したい情報はありませんか?
別居してしまうと、相手に関する情報を収集する機会も少なくなります。同居しているからこそ知ることのできる情報もあるかもしれません。

たとえば、ご自宅に、相手の名前あてに、どこか銀行、証券会社等からはがきが来ていたら、それがどの会社からのはがきなのか、記録しておくことだけでも、後々、そこに相手は何らかの財産を保有しているのではないかと見当をつけるきっかけになることがあります。無理のない範囲で、普通に生活している中で見聞きする内容に、少しだけ注意を払ってみると、そのようにして得られた情報が後々役立つこともあります。

なるべく早く別居について考えたほう良いケース

今お話ししてきたとおり、本来であれば、別居を勢いでスタートさせてしまうのでなく、事前に、弁護士に相談したり、その他いろいろな準備を経てから別居したほうが後々のことを考えるとよいと考えています。

ただ、例外もあります。つまり、あまり時間をかけずに、早めに別居を検討したほうが良い場合もあるということです。

それは、相手が、暴力的な傾向がある場合です。あなたやお子さんに暴力を振るってきたりする場合はもちろん、肉体的な暴力でなくとも、ひどい暴言を吐かれ続けることで、気持ちが傷つけられ、日常の判断ができないくらいの状態になってしまうと、その後、別居や離婚についてひとつひとつ判断を積み重ねることも難しくなることがあるからです。

状況によりますが、警察、弁護士へ相談し、その後の対応を考えることをお勧めします。

別居の先を見る

「とにかく今のこの状況から抜け出したい」という思いで、逃げるように家を出てしまいたくなる気持ち、あると思います。

でも、別居は、それ自体がゴールではないことが多いです。

離婚までの手続き、その後の人生、と先に続くものがあります。そう考えたとき、ゴールである、離婚後の人生をよりよいものにするためには、今どうしたらいいか、という逆算が必要になると思うのです。

別居するかどうか、するとしてそのタイミングをどうするか、別居までにどのような準備をしたらいいか、一度、弁護士にご相談ください。個別のご事情を詳しくお伺いし、おひとりおひとりに合った方法を考え、選択肢をお伝えします。


【著者】高橋麻理
元検察官の経歴。先を見通した戦略プロセスの設計や、依頼者に寄り添い解決に導くことに定評がある。
第二東京弁護士会所属。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。
2002年に検察官に任官し、数多くの刑事事件の捜査・公判を担当したのち、検察官退官。
2011年弁護士登録。
刑事事件のみならず、離婚案件の解決実績も豊富。離婚成立のみをゴールと捉えず、依頼者の離婚後の生活を見据えた解決策の提案・交渉に定評がある。
法律のプロフェッショナルとして、依頼者の期待を上回るリーガルサービスを提供することを信条とする。
法律問題を身近なものとして分かりやすく伝えることを目指し、メディア取材に積極的に対応。子どもへの法教育にも意欲を持っている。