皆さん、こんにちは。弁護士の高橋麻理(たかはし・まり)です。

今年は、梅雨明けがとても早かったこともあり、なんだか、「夏が来た」という実感がないままに夏休みの時期を迎えた感じがしませんか?

先日、親が離婚した後の子どもの養育をめぐる制度の見直しに向けて、法制審議会の部会が8月末に中間的な案をまとめると報じられました。この「養育をめぐる制度」のひとつとして、離婚後の親権の在り方に関し、共同親権が大きな焦点となっています。このニュースを聞いて、皆さま、どう思われましたか?実は、この共同親権に関する報道がされるたびに、知人やお客様から「いったいどうなってしまうの?」というご相談をいただきます。

今回は、この共同親権の話をとりあげてみます。

まだ何も決まっていない

まず、最初にはっきりさせておきたいのは、今は、まだ何も決まっていないということです。

そもそも、この報道を見たとき、「法制審議会の部会ってなんだろう?」と思いませんか?そこで案をまとめるということがいかなる意味を持つのかということは、イメージしにくいですよね。

法制審議会というのは、法務大臣から「こういう点について意見を聞かせてください」と頼まれて、民事法、刑事法その他法務に関する基本的な事項を調査審議することを目的とする機関です。審議会の中には、分野に応じて、いくつかの部会というチームが存在します。

今回の養育をめぐる制度の見直しに関する審議をするのは、家事法制部会です。法制審議会で調査審議した結果は、法務大臣への「答申」という形で提出することになっており、政府は、その答申を尊重して法案を作成し、提出するのです。つまり、法制審議会の部会がまとめた案というのは、専門家チームが調査、審議して作り上げた一つの提案のこと。それをもとに、法律の案が作られるということになります。

そう考えると、8月にまとめられる中間の案というものは、法案のもととなる大事な位置づけにはなるでしょう。でも、今、まだ、その案を、どのような方針でまとめるか、ということが少なくともひとつに絞られているわけではないのです。

報じられているところによると、大きく①共同親権と単独親権の選択制②単独親権のみの2つの案があり、①についてはさらに、共同親権を原則とするのか、単独親権を原則とするのか、という2つの案があるとのことです。少なくとも、「例外なく共同親権」という案は公表されていないですよね。今後、これらの中のどのような内容をもとに案がまとめられていくのかはわかりませんが、はっきり言えるのは、現時点では、決まっていないということ。そして、これから決まろうとしているのは、法案の参考となる、専門家による案であるということ。今の時点で、あたかも、ご自身のお子さんに関し共同親権の制度のもとでどんな大変な事態が待ち受けているのか、ということを不安に思う必要はありません。今いろいろ不安に思ったとしても、どうにもならないことだともいえるかもしれません。

まずは、目の前の現実に集中するのがよいのではないかと思います。まだはっきりしていないことを想定してあれこれご不安に思うのはとてもしんどいことですよね。現状、自分の力でコントロールできることに集中することをお勧めしたいと思います。そして、いざ制度が定まったら、その現実を踏まえ、どうしたら、ご自身とお子さんが離婚後に幸せな毎日を送れるか、そのために何をすべきか、ひとつひとつできることを実践していきましょう!

共同親権について思うところ

以下は、共同親権について、私が思うところを少しだけお話ししてみたいと思います。

先にお話ししたように、具体的に、どんな制度になるのか、定まっていないので、想像の上であれこれと意見を言うことは難しいところです。ただ、この共同親権のメリットとして挙げられている点について、少し疑問に思うことがあります。

単独親権の制度下では、親権をいずれが持つかということをめぐり熾烈な争いが繰り広げられてしまうところ、共同親権とすることで、その紛争が多少でも少なくなるかのように論じられることがあります。ただ、この点は、必ずしもそうは言えないように感じます。

今論じられている共同親権は、例外なく全件共同親権ということではなく、何らかの形で選択の余地が残り得るものです。だとすれば、その選択をめぐり、結局、紛争は生じるといえるでしょう。紛争の形が「いずれが親権者になるか」ではなく「共同親権にするかどうか」という内容に変わるだけなのではないか?と思えます。また、非監護親である非親権者が、子どもと一緒に住む方の親から面会を拒否されるケースがあることを踏まえ、共同親権とすることで、その拒否がしづらくなるのではないかともいわれているようです。この点、たしかに、問題意識は感じています。

ただ、解決方法が共同親権制度の導入なのかというと、そこは、必ずしも結び付くものではないように思うのです。共同親権制度を導入すれば、面会交流問題が解決する、ということでもないと思うのです。面会交流が実現しないことの原因にはいろいろな要素が絡み合っています。

面会を希望している側が、同居していたころ、もう一方の親や子に対し暴力、暴言を吐いていたために面会を実現すべきでないというケースもあれば、離婚に至る経緯の中で夫婦間の感情がこじれ、そのこじれが、子どもの面会に影響してしまっているケースもあるでしょう。

暴力や暴言がないケースでの面会拒否と言っても、その拒否に至る経緯を丁寧に見ていくと、拒否に至ったいきさつにはいろいろなものがあり、ただただ「会わせない親が悪い」などとは言えないケースも多く見られます。そもそも、子どもの気持ち、長期的に見て、何が子どものためになるか、ということこそが大事なはずです。そこを丁寧に分析せず、単に、「面会を実現することこそが子どものためになる」と考えられがちな現状にも違和感があります。

考えるべきは、「離婚後の子どもが、より幸せになるために」

離婚問題は、夫婦にとってはもちろん、子どもにとっても大きな問題です。

夫婦にとっては、自分たちで選択してきたことの結果であることが多いとはいえますが、子どもの立場から見ると、両親の離婚により自分の生活はいったいどうなるのだろう、どうして両親は別々に生きることを選択したのだろう、などと自分ではどうにもできない不安を感じることもあると思います。

夫婦が離婚を選択すること自体は仕方のないことです。私自身も、わが子に親の離婚による不安を抱かせてしまうこと自体は避けられないと割り切るようにしています。ただ、私は、家族の形は変わっても、子どもには、離婚後は、これまで以上に幸せな毎日だと実感しながら生きてほしいといつもいつも思っています。選択に迷う場面が出てきたら、「子どもがもっと幸せになるために親としてどうすべきか」と考えるようにしています。

そのための手段が共同親権であればその選択肢を採用すればいいし、そうではなく、ほかに、もっと適切な方法があるのであればそちらを採用することもできる。そんな制度ができればいいですよね。

私は、離婚後の子どもの幸せのために、現状の制度下でもできることはたくさんあると思っています。ですので、弁護士として、お子さんのいる女性の離婚問題に関わらせて頂くときは、「どうしたら離婚後の親と子どもがもっと幸せになれるのか」という視点を常に中心に据えてお話し合いを進めていきたいと思っています。

ニュースを聞いていろいろご不安を抱くこともあるかもしれません。ご自身の離婚に関し、ご不安がありましたら、いつでもお気軽に弁護士にご相談ください。


【著者】高橋麻理
元検察官の経歴。先を見通した戦略プロセスの設計や、依頼者に寄り添い解決に導くことに定評がある。
第二東京弁護士会所属。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。
2002年に検察官に任官し、数多くの刑事事件の捜査・公判を担当したのち、検察官退官。
2011年弁護士登録。
刑事事件のみならず、離婚案件の解決実績も豊富。離婚成立のみをゴールと捉えず、依頼者の離婚後の生活を見据えた解決策の提案・交渉に定評がある。
法律のプロフェッショナルとして、依頼者の期待を上回るリーガルサービスを提供することを信条とする。
法律問題を身近なものとして分かりやすく伝えることを目指し、メディア取材に積極的に対応。子どもへの法教育にも意欲を持っている。