離婚の理由はさまざま。そして、その後の人生も選択と決断の毎日です。先行きに不安を覚えたり、失敗して落ち込んだりすることもあるかもしれません。少し息詰まってしまったら、この企画に相談にいらっしゃいませんか? 自ら5人の子どもを育て上げた日本シングルマザー支援協会代表の江成道子さんが、本音で、真剣に、あなたの悩みに答えます。

今回はローン、養育費、転職、収入減といろんな不安を抱えたママからの相談です。問題が起きる度になんとか収拾をつけてきた相談者さんですが、不安が拭えないところを見ると、どうも根本的な解決には至っていないよう。江成さんが、根底にある問題に鋭く切り込んでいきます。

今月の相談:元夫の再婚により、今後の生活が不安に。今の家は売るべき?

離婚前に元夫名義で購入したマンションに、私がローンを払うことを条件に住まわせてもらっていました。が、昨年元夫から再婚するという連絡があり「新しいローンを組みたいからマンションを売ってほしい」と言われ、さらに「今後の養育費は払えない」とも伝えてきました。

子どもたちの環境変化を少なくしたかったので、マンションは少し背伸びをして私名義でローンを組み直しました。養育費は話し合いの結果、引き続きもらえることになりましたが、またいつ払えないと言われるかわかりません。養育費は全額貯金に回そうとは思うのですが、なかなかうまくいっていません。

仕事は看護師なので職には困りませんが、下の子が小学校に上がるタイミングで夜勤を始めなければならず、子どもを預けられる人もいないので転職も視野に入れています。ただ、その場合は年収が100万ほど下がる可能性があります。

ローンの負担も大きく、今売れば1000万ほどのプラスになりそうなこともあり、売却を考えた方がいいのか悩んでいます。

▽相談者の情報
・離婚/・現在の職業:会社員/・年齢:31歳
・子どもの数(性別・年齢):2人(娘6歳・娘3歳)
・収入:月収37万(賞与込み)、養育費6万

回答:家の売却を決断するのは、今ではありません。長期スパンで物事を考えて

ご相談の内容を見て感じたのですが、相談者さんは物事を考える時、長期的なスパンではなく短期的なスパンで判断しがちというクセがあるかもしれません。先を見据えず直近の状況を切り抜けるという対処を繰り返していると、「こんなはずじゃなかった」という損失が生まれやすくなります。いろいろな問題を抱えていますが、ここがひとつの大きな原因と言えそうです。

ローン完済までのライフプランシミュレーションを専門家とつくる

住宅ローン、養育費、転職について不安はあるものの、今は収入もあり養育費も受け取れている。いい条件が揃っていると思います。一番の問題は、目の前のお子さんが常に最優先であるために、長期的なスパンで物事を考えられなくなっていること。

実は経済的に切羽詰まっているシングルマザーの中には「子どもの環境を変えたくない」という理由で高い家賃の部屋に住み続けていたり、無理をして家を購入したり、という方が一定数います。これも将来の見通しが不十分だったために起きてしまうことですが、それならば、今の相談者さんの状況は長期的な見通しを立てる絶好のチャンスと言えますね。

仮に今家を売って1,000万円手にしたとすると、年収が100万下がっても10年間は100万ずつ補填できますから、生活水準を落とすことなく子ども中心の生活ができるでしょう。夜勤をする必要もありません。しかし、引越し後の家賃は抑えなければなりませんし、もっと長い目で見ると老後は持ち家がなくていいかどうか、という問題もあります。

相談者さんの場合は、住宅ローン完済までのライフプランシミュレーションをつくってみるといいでしょう。相談先としてはファイナンシャルプランナーや弁護士が考えられますが、多少お金がかかっても、2人以上の方に相談することをおすすめします。ひとくちに専門家といっても専門分野は様々で、ひとりの方の意見だと自分の考えや生涯設計に合わない、ということも出てくるからです。ここは先行投資と割り切り、相談してみてください。

医療従事者は夜勤ができた方がいい。子どもの預け先も探してみて

次に、夜勤を避けるため転職も視野に入れている、ということについて考えてみましょう。これまで多くの相談を受けてきた私の経験から言うと、看護や介護職の方はなるべく夜勤をした方がいいと感じています。そして、できる限りブランクもない方がいい。

看護師は安定収入を得られる職業だと思いますが、日勤のみだとパート扱いになることも多く、所得は上がりません。収入がパートナーとの2本柱ならそれでもいいのですが、ひとりで家計を支えなければいけないシングルマザーとしては心もとないでしょう。

また、夜勤のブランクが長いと体力的に夜勤再開が厳しくなると聞きます。特に子どもを預ける環境を整えられず、40代半ばまで夜勤を避けていると、その後の再開は無理に等しいそうなのです。家を売って得たお金で生活費を補填しながら10年間日勤を続け、「さあ、これから稼ぐぞ」と夜勤復帰を考えたとき、相談者さんは41歳。

夜勤が無理という年齢ではありませんが、今後のキャリアと収入のことも考えて、今のうちに夜勤ができる体制をつくるという可能性も考えてみはどうでしょうか。週1回でも実家やお友達の助けを借りて子ども達を預けるとか、泊まり保育のシッターサービスを利用するなど、何かしらの方法があるかもしれません。

一時期は負担になるかもしれませんが、それも上のお子さんが高学年、中学生になって留守番ができるようになる数年のこと。長い目で見て、冷静に判断していきましょう。

支出を全部書き出し自分の消費傾向を把握。必要ない部分は削る

親子3人で月43万の収入は一般的には十分と言えそうですが、ローンが20万円台だと、確かにこの月収でも厳しいかもしれません。が、そうでなければ教育費や食費など、どこかにお金を多くかけている可能性もありますね。もしかしたら、家計を見直すだけで家を売ることを考えなくていいかもしれません。

家計の見直しで大切なのは、「何にどのくらい使っているのか全体を把握する」こと。まず、支出を全部書き出します。すると仕事帰りに寄るコンビニで月に数万使っていたとか、食材はオーガニックにこだわっていて食費が一般的な目安の倍かかっていた、ということが見えてきます。

自分の価値観とそれに使うお金を見える化すると、必要な部分とそうでない部分が分かってきます。その楽しみやこだわりが自分にとって本当に必要ならばそのまま、そうでないと思うなら削っていきましょう。

また、日本シングルマザー支援協会では「養育費=教育費」と考えるよう呼びかけていますが、さらに養育費を「総額」で考えてみてください。6歳のお嬢さんが高校進学するまでに支払われる養育費を計算すると、640万ほどになります。そう考えると、姉妹2人が高校進学するまでの教育費がまかなえる額かどうか、大体のメドは立てられるでしょう。

月々の養育費を子どもの未来のために「使わない」と決めるだけで、将来必要になる進学費用や塾代に悩まなくて済むようになります。元パートナーにも「子どものために養育費はこう使っていく」という計画を提示すれば、今後払いたくないとは言わないのではないでしょうか。

支出の全体を把握することが、今後の安心感につながります。忙しい日々の中では面倒な作業かもしれませんが、ぜひ一度やってみてください。

まとめ:子育てのゴールを思い描きつつ、未来につながる今を大切に過ごしましょう

子どもが小さいうちは子ども中心の生活で、一緒にいられる時間を大切にしたい、という親心はよく分かります。ただ、近い将来、親子一緒の時間よりもお金が必要になる時期が確実にやってきます。その時子どもが望むことを経済的に応援してあげられるには、今からどうしておけばいいのかを考えましょう。

子どもは「今この時」を生きている存在ですから、好き、嫌い、嬉しい、寂しいという気持ちを感じたままに表現しますが、親がそれに翻弄される必要はありません。相談者さんがやるべきことは子どもの一喜一憂に付き合うのではなく、子どもの将来を見通すことです。

そのためにもまずは複数の専門家に相談し、自分でも家計を見直してみる。その後どんな選択をしたとしても、お子さんたちに言葉と行動でしっかり愛情を伝えていけば大丈夫です。親子二人三脚で、歩んでいってくださいね。

江成道子

江成道子
一般社団法人 日本シングルマザー支援協会 代表理事。シングルマザーサポート株式会社代表取締役社長、一般社団法人グラミン日本顧問、武蔵野学院大学講師。自らシングルマザーとして5人の姉妹を育てながら、シングルマザーの自立支援活動を続ける。講演多数。
一般社団法人 日本シングルマザー支援協会