未成年の子がいる状態で離婚をした場合、夫婦のどちらかが子の親権を持つこととなります。そのうえで、親権を持たないもう一方の親は、養育費を支払うことによって、親としての責務を果たすこととなるでしょう。

しかし、養育費がきちんと支払われているケースは、さほど多くはないのが現状です。厚生労働省が公表している「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果」によれば、母子家庭のうち養育費を受けている世帯の割合は、24.3%にすぎません。また、父子家庭に至っては、養育費の支払いを受けている世帯はわずか3.2%です。

そこで、今回は「養育費の強制執行」について、詳しく解説していきます。

養育費が継続的に支払われている人はたったの24%。書面を交わしても支払われていない現状があります。

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そもそも「強制執行」とは?

強制執行とは、相手方がお金を支払ってくれなかったり、建物等の明渡しをしてくれなかったりする場合に、判決などの債務名義を得た人(債権者)の申立てに基づいて、相手方(債務者)に対する請求権を、裁判所が強制的に実現する手続きです。例えば、相手方が養育費を支払わない場合、相手方の預貯金や給料を差し押さえて未払い分を回収できる可能性があります。

「差し押さえ」をするための条件

離婚に際して養育費の支払いの約束をしたからといって、どのような場合でも強制執行(差押え)ができるとは限りません。

差押えをするためには、次の条件を満たす必要があります。

⑴ 公正証書、調停調書などの「債務名義」がある

1つ目に、養育費の支払いを約束した「公正証書」や「調停調書」・「判決書」などの「債務名義」が必要です。「債務名義」になるのは以下のようなものです。

・強制執行認諾条項つきの公正証書
・調停調書
・審判書
・判決書
・和解調書

養育費の支払いを口頭のみで約束して書面を作成しなかった場合や、単に当事者間で合意して署名押印しただけの合意書しかない場合には、強制執行ができません。

⑵ 支払期限を過ぎても支払われていない

2つ目に、強制執行をするには、原則、「支払時期を過ぎている」必要があります。一回も養育費が滞納されていない状態であれば、差押えはできません。

ただし、養育費については「将来分の差押え」が認められているので、養育費が滞納された結果、相手方の給料を差し押さえると、将来の養育費についてもその後の給料やボーナスから支払われるようにすることが可能になります。

⑶ 相手方が資産や債権を持っている

3つ目に、差押えの対象になる資産や債権が必要です。例えば以下のようなものが差し押さえ対象になる財産として挙げられます。

・現金
・預貯金
・不動産
・車両
・株式
・投資信託
・給料、ボーナス
・退職金

養育費の強制執行で差し押さえられる代表的なものとして、給与と預貯金債権が挙げられます。

これらについて、改めて差押えのポイントをお伝えしていきましょう。

【給与の差し押さえ】
給与の差押えとは、相手方が勤務先から受け取っている給与を、相手方ではなく債権者に直接支払ってもらう行為のことです。給与の差押えが発生すると、給与を支払っている会社に裁判所から通知がされ、会社は給与の一部を債権者に支払う義務が生じます。

ただし、給与の差押えには上限額が定められており、給与の全額を差し押さえられるわけではありません。

養育費の場合、差押え額の上限は次のとおりです。

・原則:手取額(給料から税金と社会保険料等を引いた額)の2分の1
・手取額が66万円を超える場合:手取額から33万円を控除した金額

なお、相手方は養育費などの滞納を会社に知られたくないと考えるケースが少なくありません。そのため、実際に給料の差押え手続きをする前に、「これ以上滞納を続けた場合には差押え手続きを行う」旨を相手方に通知することで、任意に滞納分の養育費が支払われる場合もあります。

【預貯金差押え】
預貯金の差押えとは、相手方の預貯金から滞納分の養育費を回収する手続きです。裁判所から金融機関へ差押命令を送付してもらい、その命令にもとづいて債権者が支払いを受けることができます。

ただし、預貯金の差押えは、相手方がどの金融機関に口座を持っているのかがわからないと、行うことはできません。また、口座はあっても残高が非常に少ない場合には、希望する額の取り立てがかなわない可能性もあるでしょう。

そのため、あらかじめ相手方がどこの金融機関に多く預金をしているか調査する必要があります。どこの金融機関に口座があるかわからない場合であっても、弁護士に依頼し、各金融機関に対し、弁護士会照会の方法によって、預金口座が見つけられることもあります。

また、民事執行法では、養育費の支払いが滞った際に強制執行をする準備段階の手続きとして、「財産開示手続」を定めています。これは、裁判所が養育費の支払い義務者に対して、保有する財産の状況を報告させる手続きです。2020年4月1日、改正民事執行法が施行され、「財産開示手続」に応じなかったり、嘘の回答をしたりした場合には、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金という刑事罰が科されることとなりましたので、「財産開示手続」の利用も有効です。

さらに、「第三者からの情報取得手続き」を利用し、裁判所を通して、債務者の勤務先や預貯金、不動産などの財産情報を取得することもできるようになりました。

強制執行に必要な書類

強制執行を行うためには、原則として次の書類が必要です。

⑴ 申立書

申立書は、当事者目録、請求債権目録、差押債権目録、物件目録などの目録とあわせて提出します。申立書の様式は、各地の裁判所のホームページに掲載されている場合もあります。

⑵ 債務名義の正本

債務名義とは、強制執行の根拠となる文書のことです。養育費の強制執行をする場合には、養育費について定めた調停調書、審判書、和解調書、判決書または公正証書が債務名義となります。

上記のうち,和解調書、判決書、公正証書の場合には,「執行文」(強制執行ができることを証明するもの)が必要となりますので,これらの書面を作成した家庭裁判所または公証人役場に執行文付与の申請をしてください。

⑶ 送達証明書

債務名義の正本などが債務者(養育費の支払い義務者)に送達されたことの証明書です。この証明書は、債務名義を作成したところ(裁判所や公証役場)で発行してもらいます。

そのほか、差し押さえる財産等により、必要な書類がありますので、申立をする裁判所に確認するようにしましょう。

養育費を強制執行する際の流れ

養育費を滞納された際、強制執行を行うまでの流れは次のようになります。以下、預貯金や給与などの債権を差し押さえることを前提に、ご説明いたします。

⑴ 執行文と送達証明書等を取得する

まずは、強制執行に必要な書類を揃える必要があります。「執行文」や「送達証明書」などを、裁判所や公証役場に申請して取得します。なお、家事審判書の場合は、「執行文」は不要ですが、「確定証明書」が必要になります。

⑵ 「財産開示手続き」や「第三者からの情報取得手続き」等を利用する

相手方の財産や勤務先を特定できていない場合、裁判所で「財産開示手続き」や「第三者からの情報取得手続き」を申し立てたり、弁護士に依頼して、弁護士会照会を利用したりして、情報収集しましょう。これらによって、相手方の財産や勤務先がわかれば、強制執行が空振りになるリスクを減らすことができます。

⑶ 強制執行の申し立てを行う

差押え対象とする財産や勤務先を特定できたら、申立書を作成して強制執行を申し立てます。申立てには必要書類一式が必要ですので、この時点までに用意します。

⑷ 差押命令が発令される

特に不備がなければ、裁判所によって差押命令が発令されます。預貯金や給料などの債権差押えの場合には、当事者だけではなく第三債務者(金融機関や勤務先など)にも差押命令が送達されます。

⑸ 取り立てをする

差押え対象が預貯金、給料などの債権の場合、差押命令が債務者へ送達された日から1週間が経過すると、取り立てができる状態になります。そこで金融機関や勤務先の会社に連絡を入れて、預貯金や給料から支払いをしてもらいましょう。給料を差し押さえた場合には、その後継続的に差押え分を入金してもらうことが可能となり、ボーナスからも入金が行われます。

養育費を滞納されても、強制執行に成功すればきちんと支払いを受けられます。また、差押え後、相手方が「不足分を支払うので差押えを取り下げてほしい」と言って任意に支払いをしてくるケースも少なくありません。

ただ強制執行は比較的複雑な手続きなので、弁護士に依頼した方がスムーズかつ確実に進められるでしょう。

強制執行にかかる費用

強制執行にかかる手数料の収入印紙は、基本的に4,000円ですが、他に数千円分の郵便切手が必要です。さらに不動産や動産などの差押えの際には数万円~数十万円の予納金が必要となります。

強制執行をしても養育費をもらえないケースと対策

強制執行により、養育費を回収するにあたって、次の場合には、注意が必要です。

⑴ 相手方に財産がない場合

相手方に財産がない場合には、強制執行をしても養育費を取り立てることはできません。また、養育費の支払い義務者に預金がほとんどない場合には、預金口座を差し押さえたところで預金残高以上の弁済を受けることはできません。

なお、たとえ相手方が自己破産をしても、養育費の支払い義務は残ります。可能な範囲で今後も支払うよう、交渉をすると良いでしょう。

⑵ 相手方が所在不明となった場合

相手方が所在不明となった場合には、差押命令が送達されないため、預金口座などから取り立てをすることができなくなります。住民票を移して転居している場合には、「戸籍の附票」や「住民票」を取り寄せることなどで、現住所を調べることはできます。

ただし、現住所の調査にも時間と費用がかかりますので、公正証書などで養育費について取り決める際には、住所を変更した場合の通知を約束する条項を入れておくと良いでしょう。

⑶ 相手方が勤務先を退職した場合

養育費の支払い義務者が勤務先を退職しても、新たにどこかへ勤務しているのであれば、新たな勤務先へ給与の差押えをすることが可能です。

しかし、相手方が退職してしまい、新たな勤務先がわからない場合には、取り立てが難航する可能性があります。

ただし、この場合であっても「第三者機関からの情報取得手続き」や「財産開示手続き」を行うことで、勤務先の情報がわかることもあります。

養育費の強制執行に関する事例

実際に養育費の強制執行をした場合、以下のような事例があります。

<成功例>
・「第三者機関からの情報取得手続き」を利用して勤務先を特定し、給料債権の差し押さえができた
・1回の差押で、預金口座の残高から未払い分の全額を回収できた

<失敗例>
・預金口座の差し押さえをしたが、残高が足りず、「回収不能」で差し押さえ手続きが終了した
・給料の差押をしたあと、すぐに会社を退職された
・住民票を調査して申し立てをしたが、相手方がその場所に住んでおらず、差押命令が送達されなかった結果、預金口座から取り立てることができなかった

まとめ

養育費の支払いは親としての義務であり、子にとって重要な権利です。仮に不払いとなった場合には、早期に対処をするべきでしょう。しかし、強制執行をするには広範囲にわたる法的知識が必要であり、自分で行うことは容易ではありません。また、不用意に自分で動いてしまった結果、相手方が財産を隠すなどして強制執行が難しくなってしまうリスクもあります。養育費の不払いで困ったら、弁護士へ相談するなど早期に対応しましょう。