一昔前であれば、離婚を検討する際、弁護士といった法律の専門家に相談される方が多かったように思われますが、最近ではインターネット等で情報を収集し、ご自身で離婚手続を行おうと考えている方が少なくないのではないでしょうか。

実際、昨今は様々な情報をインターネットで収集できるようになっています。例えば、協議離婚の方法について解説するサイトなどを調べてみると、「離婚協議書は公正証書にした方がいい」というアドバイスが書かれているのをよく目にします。

しかし、「公正証書」とは一体何なのか、どうして「公正証書」にした方がいいのか、どうすれば「公正証書」にできるのかについて、サイトを見てもよくわからないと感じている方もおられるのではないでしょうか。そこで、今回は、離婚協議書を公正証書にした方がいい理由や公正証書にする方法等についてわかりやすく解説いたします。

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そもそも「離婚協議書」とは?

離婚をするにあたり、夫婦は、“子どものこと”や“お金のこと”など、離婚後の生活に関する様々なことについて話し合う必要があります。

例えば、
・どちらが子どもの親権者となるのか
・養育費はいくら支払うのか
・財産はどのように分けるのか
・慰謝料はいくら支払うのか
・年金分割はどうするのか

等々、夫婦で話し合わなければならない事項は多岐にわたります(これを「離婚条件」といいます。)。

そして、離婚条件に関して話し合いがまとまった暁には、後々「言った、言わない」「合意した、合意していない」といったトラブルが起こらないよう、話し合いで決まった内容を書面に残しておくケースが少なくありません。こういった離婚の条件について合意した内容をまとめた書面のことを「離婚協議書」といいます。

それでは「公正証書」とは?

「公正証書」とは、“公証役場”において、“公証人”が作成した文書のことを言います。

“公証役場”や“公証人”という言葉自体、あまり耳慣れない言葉かもしれませんが、全国には約300か所の公証役場があり、契約書であったり、遺言や遺産分割協議書といった重要な書面を作成する際などに広く利用されています。もちろん、離婚協議書を公正役場で公証人に作成してもらうこともできます。

ただし、公正証書の作成には所定の手数料がかかります。具体的な手数料は、財産分与や慰謝料、養育費の金額に応じて異なりますが、数千円から数万円程度になることが一般的です。

離婚協議書を「公正証書」にするメリットとは?

それでは、手数料を払ってでも、わざわざ離婚協議書を「公正証書」にするメリットとは何なのでしょうか?一般的には、以下のようなものが、離婚協議書を「公正証書」にするメリットとして考えられます。

⑴ 紛失や偽造のおそれがなく「言った、言わない」のトラブルを防止できる

離婚協議書を公正証書にした場合、その原本を公証役場が長期間保存することになります(保存期間は原則20年とされています。)。そのため、万が一公正証書の正本や謄本を紛失してしまったとしても、公証役場に対して、その再交付を求めることができますし、相手方が、離婚協議書の内容を偽造するリスクを防ぐこともできます。

また、公正証書は、公証人が両当事者の身元や意思をしっかり確認したうえで作成されるため、「こんな書面を作成した記憶はない。相手が自分のハンコを勝手に使って作ったに違いない。」とか「脅されて無理やり署名押印させられた。」といった言い逃れをされるリスクも抑えることができます。

⑵ スムーズな強制執行が可能になる

例えば、「相手方は、養育費として、毎月10万円を支払う」という条件で離婚が成立した場合を想定してみてください。養育費は、将来に亘って継続的な支払が続くものです。

単に離婚協議書を作成しただけの場合(公正証書としなかった場合)、相手方が養育費を支払わなくなってしまったときには、相手方に対して、調停や審判または裁判手続を経なければ、相手方の財産を差し押さえる等して、養育費を強制的に回収(強制執行)することはできません。

しかし、独力でこれらの手続きを行うことは決して容易ではありませんので、弁護士に依頼することになるケースがほとんどかと思いますが、当然弁護士費用を負担しなければならなくなってしまいます。また、たとえ調停や審判または裁判をしたとしても、実際に強制執行ができるまでには短くても数か月、長ければ1年以上の期間を要することもあるため、その間、養育費を支払ってもらうことができず、日々の生活がままならなくなってしまう可能性もあります。

他方、離婚協議書を公正証書(※)にしておけば、相手方が養育費を支払わなくなってしまったときには、これらの手続を経ることなく、相手方の財産を差し押さえて養育費を強制的に回収(強制執行)することができるのです。

※厳密にいうと、「支払いを遅滞した際は直ちに強制執行ができる」旨を債務者が承諾したことを示した公正証書(「執行受諾文言付き公正証書」と言います。)である必要があります。

相手方としても、支払いを滞った場合には、給与などを差し押さえられると仕事に影響が出る可能性があるため、公正証書にしておくことによって、そもそも支払いを遅滞させないようにプレッシャーをかけることができるというメリットもあります。

さらに、差し押さえるべき相手方の財産等が分からない場合であっても、(執行受諾文言付き)公正証書であれば、「財産開示手続」や「第三者からの情報取得手続」を利用して、財産の内容や勤務先等を明らかにすることができます。

⑶ 年金分割の手続を一人で行うことができる

年金分割とは、離婚した場合に、夫婦が婚姻期間中に納付した保険料に対応する厚生年金を分割して、それぞれ自分の年金とすることができる制度のことです。

単に、年金分割に関する条件について記載した離婚協議書を作成しただけの場合(公正証書にしていない場合)、原則として、離婚後に、両当事者が年金事務所に赴いて年金分割の手続を行う必要があります。

しかし、離婚した途端に、相手方と連絡が取れなくなったり、相手方が非協力的になるケースも少なくありませんし、離婚後に相手方と連絡を取ることに抵抗を感じる方もおられるかと思います。

この点、年金分割に関する条件について記載した離婚協議書を公正証書にしておくことで、離婚後の年金分割の手続を単独で行うことができるようになるというメリットがあります。

離婚協議書を「公正証書」にするデメリットとは?

ここまで、離婚協議書を「公正証書」にするメリットについて説明しましたが、それでは「公正証書」にするデメリットとしてはどのようなものが考えられるでしょうか。一般的には、以下のようなものが、離婚協議書を「公正証書」にするデメリットとして考えられます。

⑴ 手数料がかかる

上述のとおり、公正証書の作成には所定の手数料がかかります。財産分与や慰謝料、養育費の金額によって手数料は異なってきますが、数千円から数万円程度の手数料となることが一般的です。さらに、公正証書の作成を専門家に依頼することになれば、専門家に対して報酬を支払う必要も生じます。

⑵ 作成するために労力と時間を要する

公正証書を作成するためには、必要書類を準備したり、公証役場に赴いたりするなど、一定の労力と時間を要します。慣れない手続のため必要以上の時間を要してしまう可能性もあります。公正証書の作成を弁護士に依頼すれば、こういったデメリットを回避することは可能ですが、その分費用負担も大きくなってしまうため注意が必要です。

「公正証書」の作成方法

次に、ご自身で公正証書を作成する場合の作成方法について説明いたします。

STEP1 夫婦で話し合って離婚条件を決める

公証役場は、どのような条件を定めた方がよいかについては相談に応じてくれません。そのため、公証役場に申込む前に、夫婦で離婚条件について話し合って決めましょう。また、話し合いで決まった内容については、書面にまとめておきましょう。

STEP2 公証役場に申込みをする

次に公証役場に申込みを行いましょう。基本的にどこの公証役場でも構わないですが、夫婦で公証役場を訪れる必要がありますので、近場の公証役場を探して申込むといいでしょう。
参照:公証役場一覧(日本公証人連合)

公証役場に申込みを行い「離婚条件について公正証書にしたい」旨を伝えると、担当してくれる公証人が決まります。その後、公証人からどのような条件で離婚したいのか尋ねられますので、STEP1で決めた内容を伝えましょう。離婚協議書の案文のようなものを作成している場合は、案文の共有をすると話がスムーズに進みます。

STEP3 必要書類を揃える

離婚条件を伝えると、公証人から「必要書類」を揃えるよう指示されます。本人確認書類や夫婦の戸籍謄本などが必要となりますが、離婚条件によってはその他にも必要となる書類があるので、適宜ご対応ください。

STEP4 夫婦で公証役場に行く

必要書類がそろったら、公証人の予定が空いている日に夫婦で公証役場に赴く必要があります。当日は身分証明書や印鑑、手数料などを忘れないように注意してください。公証人が作成した公正証書をその場で読み上げて内容を確認し、内容に間違いがなければその場で署名捺印を行い、当日中に公正証書の作成が完了します。公証役場は公正証書の原本を保管し、夫婦には正本や謄本が交付されますので、失くさないように大切に保管しましょう。

「公正証書」の作成を弁護士に依頼することもできる

ご自身で公正証書を作成する場合の作成方法について説明いたしましたが、「公正証書」の作成を、弁護士や司法書士、行政書士といった法律の専門家に依頼することもできます。当然、専門家に対して報酬を支払わなければなりませんが、以下のようなメリットがあります。

⑴ 専門家に依頼するメリット

① 公正証書を作成する手間から解放される
まず、公正証書を作成する手間から解放されるというメリットがあります。この点は、どの専門家に依頼しても然程違いはありません。

② 離婚条件で揉めた際にアドバイスがもらえる/代理人として交渉してもらえる
STEP1でも説明いたしましたとおり、公証役場は、どのような条件とすればいいかについては相談に応じてくれませんので、離婚条件について夫婦で話し合って決める必要があります。もし、夫婦の話し合いがうまくまとまらない場合、「弁護士」に依頼すれば、法的なアドバイスをもらうことができますし、また、本人に代わって相手方と交渉してもらうこともできます。
(「行政書士」や「司法書士」は上記のような相手方との交渉を行うことは基本的にはできません。)

⑵ 専門家に対する報酬の違い

一般的には、弁護士>司法書士>行政書士の順で報酬が高額となる傾向があると言われますが、弁護士の中でも割安の報酬を設定している場合や、行政書士の中でも割高の報酬を設定している場合があるので一概には言えませんので、ホームページで費用を確認してどの専門家に依頼するか判断しましょう。相場としては10万円前後となることが多いように思われます。

まとめ

今回は離婚協議書を公正証書にした方がいい理由やその作成方法について詳しく解説いたしました。離婚協議書を公正証書にするには費用や労力がかかりますが、万が一、相手方が約束を反故にして支払いが滞った場合には迅速な強制執行が可能になるといった大きなメリットもありますので、財産分与や慰謝料の支払いについて分割払いの合意をした場合や、将来に亘って継続的な支払が続く養育費について合意した場合、年金分割の合意をした場合等には、ぜひ公正証書にすることをお勧めします。