調停や審判等で一度決まった養育費の増額をすることができるのでしょうか?今回は、養育費の増額が認められるための条件と手順、どのくらい増額することができるのかについて、詳しく解説します。

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養育費とは?

養育費とは、両親が離婚した後、子どもが社会人となって自立するまでの間の、子どもの生活にかかるお金のことをいいます。

民法は、両親に子どもを扶養する義務を定めています(民法877条1項、820条)。両親が離婚をしたとしても、子どもの両親であることに変わりはありませんから、子どもを扶養する義務はなくなりません。

通常は、離婚して子どもと離れて暮らす親が、子どもと同居している親に養育費を渡すという形式になります。養育費の額は、両親の収入や子どもの生活にかかる金額等に基づいて、話し合いや調停、審判において定められます。

養育費の増額が認められるための条件は?

調停や審判等で一度決まった養育費を、両親のどちらかが一方的に増額することはできません。

しかし、特に子どもが小さい場合、養育費の支払いは長期間にわたることが多く、一度決まった養育費を一切増額することができないとなると、様々な不都合が生じてしまいます。そこで、一定の条件を満たした場合には、養育費の増額が認められています(民法880条準用ないし類推適用)。

養育費の増額が認められるための条件は、原則として次の3つです。

1.合意時点から事情が変化したこと
2.合意した時点で、事情の変化の予測ができなかったこと
3.増額の必要性があること

たとえば、以下の場合には上記の3つの条件を満たすとして、養育費の増額が認められる可能性があります。

子どもの進学・留学により教育費が増加した場合

子どもが当初の予定よりも学費の高い私立学校へ進学することになった等の事情によって、養育費を決めた時点で想定していたより多額の学費が必要となった場合には、養育費の増額請求が認められる可能性があります。審判においては、当初の養育費の取り決め時の経緯、養育費を支払う親の同意の有無、両親の教育歴などの諸般の事情に照らして、増額を認めるか否かが判断されます。

子どもの病気・怪我により医療費が増加した場合

子どもが病気になった、怪我をした等の事情によって、養育費を決めた時点で想定していたより多額の医療費が必要となった場合には、養育費の増額請求が認められる可能性があります。

養育費を受け取る親の収入が大幅に減少した場合

養育費を受け取る親の収入がリストラ、急病による休職等やむを得ない事情により大幅に減った場合には、養育費の増額請求が認められる可能性があります。

養育費を支払う親の収入が大幅に増加した場合

養育費を支払う親の収入が転職、昇進等により大幅に増えた場合には、養育費の増額請求が認められる可能性があります。

養育費の増額を求めるための手続きは?

養育費の増額を求めるための手続きは、次のとおりです。

話し合いにより合意を得る

まず相手に対し、「養育費の増額」についての話し合いがしたいという要望を伝えます。

養育費の増額は、相手にとってみれば支出の増加に関わることなので、今後の生活にも影響を及ぼす重大事項です。現在の自分の資力や、増額が必要な事情をしっかりと説明し、当事者間で話し合いを行います。話し合いによって両者が合意に至った場合は、その内容で今後の養育費が変更となります。

合意ができたら、養育費を増額したことを公正証書等の書面に残しておくとよいでしょう。書面がないと、合意したはずの内容が覆される、合意内容に沿った支払いをしてくれない等、後々相手とトラブルになることがあるので注意が必要です。

養育費増額調停

相手と話し合いでの合意ができず、増額を拒否された場合には、養育費増額調停を申し立てることを検討しましょう。養育費増額調停とは、調停委員の立ち合いのもと、家庭裁判所で行う養育費増額についての話し合いのことです。話し合いですので、増額をするには相手の合意が必要となります。

養育費増額審判

調停での合意ができずに調停が不成立になった場合には、調停の申し立ての時に審判の申し立てがあったものとみなされ、審判に移行することになります(家事手続法272条4項)。

審判では、養育費を増額することができる条件が満たされているかどうかを裁判官が判断します。

養育費の算定方法は?

養育費を算定するにあたって基準になるのは、裁判所がホームページで公表している「養育費算定表」です。子どもが何人いるか、何歳なのかによって用いる算定表が異なりますので、ご自身の状況に合った算定表を確認する必要があります。

表は、横軸が権利者、つまり養育費を請求する側の年収、縦軸が義務者、つまり養育費を支払う側の年収となっています。自営業の方は内側に並んでいる数字を、給与所得者の方は外側に並んでいる数字を見ます。そして、両者の年収が交わる部分に記載されている金額が養育費です。

事情変化後の収入を表に当てはめて、新たな養育費の相場を確認しましょう。このように算定表を確認することで、養育費がおおむねどの程度増額するのかの目安がわかります。

なお、調停や審判で養育費を決める際にはこの算定表を基準にしつつ、他の事情も考慮して総合的に判断されます。一般的に、義務者の年収が高いほど、養育費が高くなります。

養育費はどれくらい増額できるの?

養育費の増額をする場合、変更後の事情を前提に養育費を再度算定することになります。

既に述べた通り、養育費の算定基準として、家庭裁判所等が採用する「養育費・婚姻費用算定表」があります。しかし、この算定表だけで養育費の額が決まるわけではありません。事情変更の内容や支払義務者の収入等様々な事情をもとに決定されることになります。

参考までに、以下養育費の増額が認められた事例をご紹介します。

▪子どもの大学進学に伴い養育費支払い期間延長が認められた事例(東京高判平29.11.9)
この事例では、平成26年に下された家事審判により、AがBに対し、養育費として、子どもが成人に達する日の属する月まで、毎月5 万 5000 円ずつ支払うことが定められていました。この審判の半年後、BがAに対し、子どもが平成 28 年4月に私立大学に進学して学納金等の負担が必要になったと主張して、①双方の収入に応じて大学の学納金を分担すること、②養育費支払の終期を 22 歳に達した後の最初の3月までに延長することを求め、認められました。

この事例は、毎月の養育費の金額自体に変更はないものの、支払期間の延長が認められた結果として、もらえる養育費の総額が増加しています。

▪物価上昇等に伴い増額が認められた事例(東京家審昭37.8.14)
この事例では、昭和33年に下された審判により、AがBに対し、養育費を含む婚姻費用として、毎月1万2000円ずつ支払うことが定められていました。この審判の3年後、BがAに対し、物価の上昇、需要の増大、俸給の増加等の事情が変更したものとして、養育費の増額請求を求め、認められました。

昭和33年の事例ではありますが、物価上昇が問題となっている昨今、養育費の増額を求めるにあたり、一つの参考事例になると言えます。

養育費が増額されるのはいつから?

養育費等の増額が可能となるのは、当初の養育費の取決めの際に考慮された事情、取り決めの前提や基準とされた事情に変更が生じたときです。

そして、いつから養育費の支払い額を変更するかは、当事者の協議によって決定することができます。ただし、養育費増額の時期について調停を含めて当事者間で協議が調わない場合には、最終的には、審判によることになります。

理論上は、養育費の増額を事情変更時まで遡って清算することも可能ですが、このような方法を採用すると事情変更時の状況が把握しづらくなる、清算すべき養育費が高額となるなどの問題が生じます。

そのため、実務上は、一般的に、事情変更時まで遡らずに、養育費の増額を請求したとき、すなわち調停や審判の申立月を養育費の増額の基準時とすることが多いです。ただし、中には、養育費増減額の意思が客観的に明確になった時や相手方が事情を知った時まで遡るとした事例もあります(婚姻費用分担支払いの時期について、東京家審平27.8.13判時2315・96)。

まとめ

以上に説明したとおり、養育費の増額が認められるには、原則として、事情の変更があること、事情変更が予測できないこと、増額の必要性があること、の3点が必要となる上、相手方と合意できなければ調停や審判といった手続きを経る必要があり、時間がかかってしまうなどのハードルがあります。

しかし、養育費は先ほども述べた通り、算定表を基準に、様々な事情を考慮することになります。これらのハードルがあるからといって養育費の増額を諦めてしまうのではなく、なぜ増額してほしいのかをしっかり説明すれば、その主張が認められるかもしれません。そのような説明のもととなる資料・証拠を集めておくことが重要となりますから、養育費の増額を求める前に入念に準備をしておきましょう。