いつの間にか暖かい日が増えてきましたね。私は、先日、河津桜を見に行き、その帰りにイチゴ狩りをするという春らしい休日を過ごしました。

でも、そんなほんわかしたことばかりではないのです。

私は、今年初めて、花粉症になってしまったようで、目のかゆみと止まらないくしゃみ、肌荒れやのどのかゆみと戦う日々が始まりました。

これまで、花粉に苦しむ周囲の方に、うわべばかりの「大変ですね」というお声かけをしてきたのですが、自分がその立場に置かれて初めて、春の陽気を心から楽しめない心境、花粉に邪魔され、集中力がそがれることで感じるもどかしさ、目薬や内服薬を買いあさらざるを得ず、本来ならいらぬ出費を強いられる悔しさ…ようやく私も当事者として実感できている気がしております。

そんな日々ではありますが、先日、都内の高校で開かれた、高校1年生の保護者の方向け研修会の講師として呼んで頂く機会がありました。

成年に達する年齢が18歳に引き下がったことに伴い、お子さんが16歳である今のうちから考えておくべきことについて、弁護士として、母としてお話しする機会を頂いたのです。お話をした後で、うれしいフィードバックをたくさん頂いたのですが、その中で、特にお声が集まり、私自身、改めてこれは大事なことだなと実感したことがありましたので、今回は、その中から3つ取り出してお話をしてみたいと思います。

1.親自身が子どもを取り巻く状況を確認すること

成人になったばかりの子どもたちは、悪質な業者からターゲットとして狙われやすく、消費者被害に遭いやすいと言われています。これは、成人になると、未成年者取消権がなくなり、ただ未成年だという理由だけで契約を取り消すことができなくなるため、判断能力が未熟な成人になったばかりの子どもたちが狙われやすいということなのです。

そして、高額な契約を締結してしまった子どもが、その契約を取り消すための法的知識もなく、誰にも相談できないままに足を踏み入れてしまうリスクがあるのが、「パパ活」「闇バイト」などです。

特に、闇バイトは、今、連続強盗事件の実行役がSNS上で募集されていたなどとも報じられています。このような報道を見聞きし、お子さんに「闇バイト、パパ活をしちゃだめよ」とお伝えになっている方はいらっしゃるかもしれません。そのような会話はとても大事になりますよね。

でも、もう一歩踏み込むとより効果的です。保護者の方が、ご自身で、SNS上ではどのようにパパ活や闇バイトに関する投稿がなされているかを見て確認するのです。
  
先日の講演会でお話ししたところ、ご自身でそのような投稿を見たことがあるという方はいらっしゃらなかったのですが、その後、実際にご覧になったところ、あまりにもお子さんから手の届きやすい身近なところにパパ活や闇バイトに足を踏み入れるきっかけが存在していることを初めて知ることができ、恐ろしくなったというお声を頂きました。

一見すると、犯罪やリスクとは無縁のように感じられ、気軽に足を踏み入れてしまう子がいるのも理解できると思います。単に、「闇バイトやパパ活をしちゃだめよ」と伝えるのでなく、それらを勧誘する投稿をお子さんに見せながら、そこに気軽に足を踏み入れてしまった場合に、具体的にどんな危険が待ち受けているかということを話しあうことにより、お子さん自身も、自分事として問題を認識できると考えています。

2.自分以外の相談先を提案すること

子どもがトラブルに直面したときに、そのトラブルがなるべく小さな段階で察知することはとても大事なことだと思っています。そのためには、子どもが、不安に思ったことを保護者の方に相談したくなる体制を整えることが何より大事だと思います。

この観点から、子どもから相談があったときの話の聴き方、言葉の選び方などについて考える必要があります。この点は、どの保護者の方においてもそれぞれ工夫をされているのだろうなと思うのです。

ただ、子どもは、成長するにつれ、親には話したくないという悩みを持つこともあるということまで予測し、その場合に相談することができる親以外の相談先を確保することは意外に忘れられがちです。親にも言えない悩みを抱えた子どもたちの救いを求める気持ちにつけこみ、子どもに家出をさせたり、犯罪に巻き込んだりする者が存在します。

子どもに誤った相談先を選択させないということは親としてとても重要な課題です。

具体的には、普段から、子どもが保護者以外にどんな人を頼ればいいのか、信頼できる相談先(学校の先生、親戚の〇〇、離婚した元夫、〇〇という悩みホットラインなど)を提案し、その連絡先を子どもに共有しておくことが必要になってくると思います。

3.自分を大切にすること

実は、一番多くお声を頂いたのがこの3つ目の「自分を大切にすること」についてでした。

私自身、全く法律と関係ないことをお話しすることに躊躇があり、話す内容から除くかどうか少し迷ったのですが、やはり、このことは、子どもに限らず、トラブルに遭わないための根幹となるとても大事なことだと思っているのでお話しすることにしました。

「自分を大切にする」をもう少し具体的に言うと、自分の中の違和感を無視しないということだと思っています。私が弁護士としていろいろなトラブルのご相談を受けたり、代理人としてお仕事をしたりする中で、「もっと早い段階で、ご自身の心の声に耳を傾けていたら、トラブルのお相手と距離をとることができたかもしれないな」と感じることがあります。

ちょっとした違和感があったのに、「ここで余計な摩擦を起こしたくない」「もし本心を伝えたら、関係が壊れてしまうかもしれない」などと頭で考え、違和感を見なかったことにするという選択をする方がいらっしゃるように思います。

そしてその選択は、ときとして、ご自身の周囲に、ご自身を大事に扱ってくれないお相手を置き続けることにつながり、将来的にトラブルの種になってしまうことがあるように感じるのです。

ですから、私は、子どもには、友達同士のちょっとしたやりとりであっても、自分の本心に沿わないことは言わないこと、違和感があったら、それをはっきり伝え、友達と話し合うことが大事だと思っているという私の考えを伝えたり、それによって崩れてしまうような関係を今後自分の心を抑えながら維持することにどんな意味があるのかを一緒に考えたりすることを大切にしています。

そのように身近なことから、自分の本心を大事にする訓練を続けることが、子どもの笑顔を曇らすようなトラブルを避けるために大事なことだと思っているのです。

そして、このようなことを子どもに伝えるための大前提として、親である私自身が自分の本心を大事にしていることが必要になってくると思います。私が、「子どものため」などと言いながら、自分の違和感を無視して自分をぞんざいに扱っていたら、子どもに伝えたいことが伝えられないと思うからです。
 
私は、人間としてあまりにも未熟で、そんな私が子育てをする中で、これまで私一人であったら直面しなくて済んだ問題に次々に直面しています。その都度、怒ったり、思ったようにいかずに悔しくて泣いたり、もどかしく思ったりしながら、1つ1つ乗り越えてきたことを講演や文章でお届けできたらと思っています。
 
3月は、職場の異動、お子さんの入学、進学等いろいろな環境の変化があり、何かとあわただしく感じることが多いと思います。そのような中、つい予定をスケジュールどおり遂行することに注力してしまいがちですが、そんなときこそ、心の声に耳を傾けながら向き合っていきたいですね。


【著者】高橋麻理
元検察官の経歴。先を見通した戦略プロセスの設計や、依頼者に寄り添い解決に導くことに定評がある。
第二東京弁護士会所属。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。
2002年に検察官に任官し、数多くの刑事事件の捜査・公判を担当したのち、検察官退官。
2011年弁護士登録。
刑事事件のみならず、離婚案件の解決実績も豊富。離婚成立のみをゴールと捉えず、依頼者の離婚後の生活を見据えた解決策の提案・交渉に定評がある。
法律のプロフェッショナルとして、依頼者の期待を上回るリーガルサービスを提供することを信条とする。
法律問題を身近なものとして分かりやすく伝えることを目指し、メディア取材に積極的に対応。子どもへの法教育にも意欲を持っている。