今回は、家庭内別居について取り上げてみたいと思います。

離婚問題のご相談をいただく中で、「今、ご夫婦はご一緒に住まわれていますか?」と質問します。同居中か別居中かにより生じる問題も違ってくるからです。

そう質問したときに返ってくるお答えの中に「うちは家庭内別居中です」というものがあります。

家庭内別居に、法律上の定義づけがあるわけではないのですが、一般的には、それぞれ独立した生活をしていて会話もなく、夫婦としての実態がないものの、何らかの理由があって同じ家に住み続けている状態のことを指すといえるでしょう。

そして、一言で家庭内別居といっても、2つにわけられるように思っています。

1つ目は、たとえば、夫婦の間で将来的な離婚は前提になっているものの、子どもが〇歳になるまでは同じ家で暮らそうと決めているなど、何らかの意図をもって家庭内別居を選択しているというケース。2つ目は、何ら意図はなく、また夫婦間での話し合いもないままに、ただ、別居などという形で現状を動かす余裕などがなく、何となく家庭内別居の状態が継続しているというケース。

これから、このような家庭内別居に関して相談されることの多い内容を3つお話しします。

1つ目は、生活費の問題です。

「夫が生活費を家計に入れなくなったのですが、婚姻費用の請求はできますか」と相談されることがあります。

お話を聞くと、これまでは、普段の食費のお買い物などは、家族カードで支払いをしていて、そのカードの引き落とし口座は夫の給与振り込み口座になっていたものの、家族カード自体が解約されてしまったとか、引き落とし口座を外されてしまったなどということもあるようです。

そのような状況になり、お子さんの医療費や食費などをご自身の結婚前からの貯金を切り崩しているなどというお話を聞くこともあります。

婚姻費用は、一般的に、すでに別居しているケースで支払われるものというイメージがありますよね。

でも、結論として、同居中でも婚姻費用の請求をすることが可能です。婚姻費用というのは、家族が、収入や財産などに応じて生活するのに必要な費用のこと。形式的に同居か別居かで支払われるか否かが決まるものではありません。

ただ、注意しなくてはいけない点もあります。

それは、通常別居中であれば算定の基礎とする算定表をそのまま適用できるとは限らないことです。裁判所が公表している婚姻費用の算定表は、夫婦が別居していることを前提としています。

同居しているとなると、たとえば、家のローン、水道光熱費については夫の給与振込口座から引き落とされていたり、家族の使う携帯電話料金はすべて夫の給与振込口座から引き落とされていたりすることもあるかもしれません。もしそのような事実が認められるのであれば、算定表をもとに計算した婚姻費用から、それら既に支払われている分を一部控除するなどして金額を調整する必要があるでしょう。

そのように計算してみたら、実は、別途請求できる婚姻費用はごくわずかであるというケースもあるかもしれず、にもかかわらず、あえて請求するのがよいのかどうか個別事情に照らして検討を要することもあるかもしれません。

2つ目は、家庭内別居が、裁判上の離婚原因としての「婚姻を継続し難い重大な事由」と評価されるかという点です。

相手が離婚に応じる意思がないという場合、調停を経て、最終的には裁判で、法律が定める離婚原因があるかどうかが判断されることになります。ですから、弁護士として、離婚原因の有無を聞いて確認するのですが、その際「もう数年にわたり家庭内別居状態にあるから、『婚姻を継続し難い重大な事由』があるといえると思います」とおっしゃるかたがいます。

たしかに、状況によっては、そのような離婚原因があると認められることもあるでしょう。

でも、「家庭内別居」と一言で言っても、その状況はさまざまです。生活費の分担状況、夫婦間で積み重ねられた話し合いの状況、家事や育児へのかかわり方、生活状況など具体的にどのような個別事情が認められるかにより、果たして、婚姻を継続し難い重大な事由があるといえるのかどうかという評価は変わってくるはず。

しかも、夫婦間で、たとえば「会話は普通にしていた」「いや、会話は存在しなかった」「家事については互いに分担しながら協力し合っていた」「いや、家事はすべて自分がやっていた」などとその主張に食い違いが生じ、そもそも、「家庭内別居」を主張する側の前提とする事実関係がそのまま認められるとも限りません。家庭の中での出来事なので、後にその状態を立証することは非常に難しい側面があるでしょう。

3つ目は、家庭内別居状態のときに夫婦以外の第三者と肉体関係を持つなどした場合、それが不貞にあたるのかという点です。

不貞をした側は、「すでに家庭内別居状態が何年も続いていたのだから、夫婦関係は破たんしていたといえ、他の人と肉体関係を持っても不貞にあたらない」と主張するでしょう。

でも、これは、2つ目でお話しした点と重複しますが、「家庭内別居」は多義的で、必ずしも、その状態が婚姻関係が破たんしていたと評価されるとは限りませんし、さらに、それを後に立証することは非常に困難です。

その間、離婚についての話し合いがどの程度具体的に進んでいたかなどという話とも関係してくると思います。形式的には同居していながら、「家庭内別居だったからその間の行為は不貞でない」という主張はなかなか通りにくいケースもあるものと考えた方がよいかもしれません。

家庭内別居に関してよく相談を受けることのあるお話を3つ挙げました。

いろいろな考え方があると思いますが、私は、家庭内別居について思うところがあります。それは、そこに積極的な意図を入れたほうがよいのではないかということです。

お仕事をしていたり、子どものお世話をしていたりすると、とにかく1日1日があっという間に過ぎていくと思います。1日1日を乗り越えていくことで精いっぱいなはずです。特に、夫との関係があまりうまくいっておらず、さまざまな家のことがすべてご自身に降りかかってきていたりすると、現状から一歩踏み出すかどうか考える時間的余裕も気持ちの余裕もないと思うのです。

だから、夫との間で交わされる言葉は、互いの文句ばかり、そんな会話すらも減り、同じ家で相手の存在を感じることが強烈なストレスになるという状態であっても、現状を変える余裕はないから・・とずるずる1年、2年と時間が経っていき、気づいたら、家庭内別居といえる状態がすでに何年も続いている、ということもあるかもしれません。

家庭内別居が、何らかの積極的な意図のものとしての選択であればそれもひとつの選択肢だと思います。

また、特に意図せず続いている家庭内別居生活が何かのきっかけにより修復に向かうこともあるかもしれず、一概に、家庭内別居はよくないなどと否定するつもりもありません。

でも、もし、そこに「選択」がないままに、ただただ家庭内別居の期間が続いてしまっており、そのような状態がご自身のストレスになったり、何より、その家で一緒に暮らす子どもの心に不安を生じさせていたりするとしたら、一度立ち止まって、現状を見つめ、ご自身や子どもの今後について考えてみることも必要なのかもしれません。

子どもの夏休みも目前です。夏休みは、私たち親にとって、実は、子どもの昼食の準備やお出かけしたいという子どものリクエスト対応など、普段以上に忙しくなる試練のとき。私も、今からいろいろ戦略を練って、私自身が疲れすぎないように、でも、子どもの笑顔をたくさん見ることができて、子どもの成長につながるような夏休みにしていきたいと思っています。

この機会に、ご家族で時間を作って、ご家族がいい方向に向かっていくための話し合いができないか探ってみることも大切かもしれませんね。その結果、やはり離婚準備をしていきたいとお考えになることもあるかもしれません。

弁護士のお手伝いが必要であれば、いつでもお気軽にご相談ください。


【著者】高橋麻理
元検察官の経歴。先を見通した戦略プロセスの設計や、依頼者に寄り添い解決に導くことに定評がある。
第二東京弁護士会所属。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。
2002年に検察官に任官し、数多くの刑事事件の捜査・公判を担当したのち、検察官退官。
2011年弁護士登録。
刑事事件のみならず、離婚案件の解決実績も豊富。離婚成立のみをゴールと捉えず、依頼者の離婚後の生活を見据えた解決策の提案・交渉に定評がある。
法律のプロフェッショナルとして、依頼者の期待を上回るリーガルサービスを提供することを信条とする。
法律問題を身近なものとして分かりやすく伝えることを目指し、メディア取材に積極的に対応。子どもへの法教育にも意欲を持っている。