実は、8月に「子育て六法」という本を出しました。今回は、その本についてお話ししたいと思います。
出版のお知らせをしたとき、「子育てが法律で解決すると思えない」とちょっと意地悪なことを言われたことがありました。
そんなこと、私自身、自分の経験から痛いほど知っています。だから、子育てが法律で解決するなんて、私もみじんも思っていません。
でも、たしかに、このタイトルだけを見たら、この本が、法律で子育ての問題を解決しようとしている本だと感じる方もいるのかもしれません。
私が本を通じて伝えたかったのは、法の基礎にあるものの見方、考え方を知ることで、子育てを通じて直面する悩みを解決するヒントになることもある、ということでした。
子育てをしていると、毎日、いろいろなことがありますよね。
たとえば、学校から帰ってきた子どもが「今日ね、〇〇ちゃんから〇〇されちゃったの」と言って帰ってきたなんてことありませんか?そんなとき、私は、ついつい、頭にかっと血が昇ってしまい、学校の先生に事態の改善を求めようかとか、相手の親御さんとお話をした方がいいのかとか、そんなことをあれこれ考えてしまいがち。
でも、ここで考えるべきことって「何があったのか」という正確な事実の確認だと思うのです。
何があったのかという事実を正確に把握しないと、その後の対応を誤ってしまったり、トラブルがこじれてしまうことも。
ですから、そんなときは、「わが子は、起きた出来事を記憶どおりに正確に話せているかな」「私は、わが子大事さに事実や偏見をもって認識してしまっていないかな」「その場には状況を見ていた人がいたかな。話を聞いてみたほうがよさそうかな」などと考え、まずは事実を確認する、その姿勢がとても大事なのだと思います。
そして、このような考え方こそが、私がこの本を通じて伝えたかった法の基礎にあるものの見方、考え方の一例です。
本の中では、妊娠中から思春期ころの子育てに至る過程で直面するトラブルを100個ピックアップして、それぞれの問題に直面したときに考えたいことや参考になる法令などを紹介しています。
本でも同種内容を取り上げていますが、たとえば、こんなことがあったらどんなことを考えたらよいでしょうか?
お子さんが、小学校の授業中に、お友達とふざけていて、お友達にけがを負わせてしまったと学校から連絡があったとします。そんなとき、きっと、とても慌ててしまうのではないかと思います。お友達のけがが思いがけず重いもので、後遺症が生じるかもしれないなどと聞いたらなおさら、いてもたってもいられなくなりますよね。
お友達のけがの治療費をちゃんと払わなくては、お詫びに行かなくては、などといろいろなことを考えると思います。
ただ、やはりここでも一番最初に考えるべきは、いったい何が起きたのかということです。「お友達とふざけていて、けがを負わせてしまった」という報告だけでは、いったい何が起きたのか正確な事実関係はわかりません。
何が起きたのだとしても、結果としてお友達がけがをしてしまったなら、その責任は重大だから、治療費は払わなければ、という考えもあると思います。
もちろん、状況によってはそのとおりだと思います。
でも、正確な事実確認をしないままにお詫びやお支払の話になってしまうと、特に、その被害が深刻で、治療費等の金額がかなり高額になることが見込まれたときなどには、結局どこかの時点で、お互いの認識のギャップが浮き彫りになり話し合いがこじれてしまうこともあると思います。
ふざけていて、というのは、それぞれ、どんなことをしていたのか、お互いに手を出すような行為があったとしたら、最初に手を出してきたのはどちらだったのか、実は二人だけの問題ではなく、周りの子の動きなども影響してお友達がけがをしてしまったということはないか、実は、日常的に、お友達がお子さんに意地悪をしていたところ、この日、お子さんのお友達への不満が抑えられなくなって手を出してしまったという背景事情があったりはしないか。
そんないろいろな可能性を念頭に、何が起きてお友達のけがにつながったのかということを明らかにする必要があるはずです。
そして、子どもたちの間で起きたことを明らかにすることは思っている以上に大変なこと。時間が経てば経つほど記憶も薄れてしまうでしょうし、その後に起きたこととの区別がつかなくなってしまうこともあるかもしれません。何らかの事情があって、事実と違うことを話してしまうこともあるかもしれません。
ですから、まずはスピーディに事実確認をすることが何より大事なことです。
そして、必ずしも学校がその役割を十分に果たすことができないような場合は、専門家である弁護士に相談し、代理人として調査、その後の話し合いを依頼することも選択肢として考えたほうがよい場合もあります。
このようなトラブルは、お金の問題にとどまらず、学校生活を送る上でのお子さんのお友達関係にも影響する可能性も。
慎重な対応が必要です。
そんなお話をしている子育て六法。
本の事例などをもとに、保護者のかた向けの講演などもさせていただきます。お気軽にお問い合わせください!
第二東京弁護士会所属。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。
2002年に検察官に任官し、数多くの刑事事件の捜査・公判を担当したのち、検察官退官。
2011年弁護士登録。
刑事事件のみならず、離婚案件の解決実績も豊富。離婚成立のみをゴールと捉えず、依頼者の離婚後の生活を見据えた解決策の提案・交渉に定評がある。
法律のプロフェッショナルとして、依頼者の期待を上回るリーガルサービスを提供することを信条とする。
法律問題を身近なものとして分かりやすく伝えることを目指し、メディア取材に積極的に対応。子どもへの法教育にも意欲を持っている。