離婚は、親権、面会交流、財産分与など、複雑かつ多くの事項が争いとなる、非常に難しい問題です。そのため、離婚しようと考えている方や、逆にパートナーから離婚したいと言われた方は、法律の専門家である弁護士に相談したうえで、今後どのように動いていけばよいのかを決定するのがベターです。

しかし、実際に弁護士に相談するといっても、何を話せばよいのか、資料は持参したほうがいいのか、持参する資料は何を持っていけばいいのだろうかなど、悩むことがたくさん出てくると思います。そこで、今回のコラムでは、弁護士に離婚に関する法律相談をする場合に、準備しておくべき点について、解説します。

何を話せばよいのか

離婚を考えている方のなかには、結婚してから今に至るまで起きた様々なことを弁護士に聞いてもらいたいと考える方も多いと思います。しかし、既に述べたとおり、離婚は複雑かつ多くの事項が争点となります。そのため、法律的な争点がどこにあるのかわからず、沢山あるエピソードの中から具体的に何を話せばよいのかわからなくなってしまう方もいるのではないでしょうか。

まず、離婚に関して問題となる点を整理してみましょう。一覧にしてまとめると、次のとおりです。

①離婚原因
②親権
③面会交流
④婚姻費用
⑤養育費
⑥財産分与
⑦年金分割

それぞれ順に、簡潔に説明します。

①離婚原因について

法律上離婚ができる理由は限られており、夫婦間で離婚することにつき合意があるか、民法に定められた事情があることが必要となります。後者の事情を離婚原因といいます。①に関連して弁護士が知りたいのは、

・そもそも離婚について合意できているのか
・民法上定められた離婚原因があるのか

という点です。「民法上定められた離婚原因があるのか」という点については、具体的には、夫婦のどちらかに不貞行為があるか、現在別居しているか、別居している場合はどのくらいの期間別居しているのか、暴力や暴言行為があったか等について、弁護士に伝えるとよいでしょう。

②親権について

②は、離婚後、子の親権をどちらが得るのかという論点です。親権をどちらに帰属させるのかについて裁判所は、

・子の監護状況
・子の年齢が比較的高い場合には子の意思

を重視します。

子の監護状況とは、簡単に言ってしまえば、夫婦のどちらがメインで子育てをしていたのかということに関する事情です。食事はどちらが作っていたのか、洗濯をしたり寝かしつけをしていたのはどちらか、幼稚園や学校、習い事の送迎はどちらが行っていたのかといった事情を弁護士に伝えるとよいでしょう。

また、子どもの年齢が比較的高い場合(子どもの年齢が10歳以上程度であれば、親権について意思を表明する力があるとされています。)には、両親のどちらが親権を持つのが望ましいのかという、子どもの気持ちが重要視される場合もあります。そのため、子どもが親権についてなんらか意見を述べている場合には、その意見の内容や、子どもの年齢を弁護士に伝えるとよいでしょう。

③面会交流について

面会交流とは、離れて暮らす父母の一方が子どもの監護をしている場合に、もう一方の親(非監護親といいます。)が、子どもと会い、交流することをいいます。

まずは、現時点において、面会交流はできているのか、できていないのかを、弁護士に伝えましょう。面会交流ができている場合は、その頻度や場所・1回あたりの時間などについても伝えましょう。面会交流ができていない場合は、なぜできていないのか、もしくはなぜ面会交流の申出を拒否しているのかについて、伝えるとよいでしょう。

④婚姻費用・⑤養育費について

婚姻費用とは、離婚は成立していないが、別居中であるという状況において、夫婦のいずれか収入の多い方から、少ない方に対して支払う、一定の生活費のことです。養育費とは、離婚成立後、非監護親から、監護親に対して支払う、子のためのお金のことをいいます。

婚姻費用も養育費も、夫婦双方の収入を基に、裁判所のホームページにも掲載されている算定表に基づいて計算します。したがって、婚姻費用や養育費の算定のため、夫婦双方の収入(手取りではなく、額面)を弁護士に伝えるとよいでしょう。

⑥財産分与について

財産分与とは、婚姻期間中に形成された、夫婦の実質的共有財産を、離婚にあたって平等に分配するという制度です。預貯金、保険金、退職金等の情報に加えて、結婚後に購入した不動産(土地、自宅)や自動車その他の財産の有無、これらの財産の名義について、弁護士に伝えるとよいでしょう。

なお、婚姻前から所有していた不動産や預貯金や、婚姻後であっても相続により取得した財産は、夫婦の実質的共有財産とはいえないため、いわゆる特有財産として扱われ、財産分与の対象とはなりません。いつ取得した財産なのかなど、財産の取得の経緯についても説明できるようにしておくとよいでしょう。

⑦年金分割について

年金分割とは、年金の支払い実績を夫婦で分割する制度です(実際に支払われる年金を分割するという制度ではありません。)。実務上、夫婦で2分の1ずつに分割することが大半であり、争いになることはほとんどありません。

しかし、厚生年金(または共済年金)にのみ定められた制度ですので、分割を求められる側が会社員(または公務員)か否かという点については、注意が必要です。弁護士に伝える際には、配偶者の職業や受給予定の年金の種類と伝えると良いでしょう。

小括:何を話せばよいのか

離婚の相談の際に話す事実関係は、概ね以上です。上記の点についてスムーズに説明できるように、記憶喚起を事前にしっかりと行っておくことが重要となります。後に説明するとおり、限られた相談時間をどのように使うかという観点からは、記憶喚起に時間を使うのはもったいないといえます。

また、誤った情報を伝えてしまい、弁護士がその誤った情報をもとに相談に応じることも防ぐ必要もあります。以上を参考に、法律相談の前に情報の整理整頓をしてみましょう。

相談時間の使い方

このコラムをご覧になっている方も、「初回1時間無料の法律相談」の広告を見聞きしたことがある方は多いでしょう。上に説明したとおり、離婚においては争いとなり得る事項が非常に多岐にわたるため、この1時間を有効に利用することが重要です。そのためには、上に記載した争点を把握するほか、どのような準備をすればよいのかポイントとなるのは次のような点です。

事前の情報整理

既に説明したように、法律相談の際には、事前の情報整理をしておくとスムーズです。情報整理の際におすすめなのは、今まで起きたことを時系列でまとめた簡単なメモを作っておおくことです。

時系列でまとめると、相談者ご自身が思い出しやすいだけでなく、弁護士としても、どのような経緯で、何が起きたのかを理解しやすいです。このメモには、家族構成や登場してくる人物についても記載しておくとよいでしょう。

他方で、あまり細かく書いて分量が多くなってしまうと、当然1時間では読み切れません。したがって、自分が気になっている点や、上記で説明したような弁護士に伝えるべき事項に絞って、要点を記載してみるとよいでしょう。

証拠の整理

裁判所では、証拠が非常に重要です。相手方に不貞行為があったと主張するだけでなく、不貞行為があったことを立証する証拠が必要となります。自分では有力な証拠と考えているものであっても、裁判所からは有力な証拠ではないと判断されることが往々にしてあります。そのため、弁護士に相談した際に、自分が持っている証拠が、裁判所でどのように取り扱われるのかを質問するのは良いことだと思います。

実際、法律相談において、証拠を見てほしいという方も非常に多いです。もっとも、限られた相談時間の中で、1時間に及ぶ録音を聞いたり、長文のLINEの文面を読んだりすることは、なかなか難しいというのが実情です。

もし証拠として使えるのか否か判断してほしいということであれば、そういった録音やLINEの文面等のうち、ここが決定的であると考える部分をすぐに提示できるようにあらかじめ準備しておくとよいでしょう。例えば、録音については、開始から○分○秒で、「●●」と発言しているということを特定しておいたり、LINEであれば、見やすくプリントアウトしておいたうえで、重要な部分に線を引いて置いたりするということが考えられます。

なお、相談の際に、しばしば「第三者の証人がいる」ということを言われることが多いです。もちろん、証人も裁判で採用される立派な証拠の一つではあるのですが、裁判所は、証人の証言よりも、客観定な証拠に重きを置いています。そのため、証拠を整理するにあたっては、客観的な証拠(例えば、不貞相手の自宅に出入りする様子を収めた写真等)があるかを確認するのがよいでしょう。

話す内容を絞る

弁護士に依頼するか否かを決めるにあたって、料金がどのくらいかかるのかについては、最も関心のある事項の1つだと思います。ただ、せっかくの法律相談の機会ですから、なるべく事件の中身について話せた方が、有益であると考えられます。最近は、ホームページで料金体系について記載してあることが多いですので、事前にホームページを確認して、料金について分からない点を質問するというようにするのが、時間の使い方として有効です。

また、離婚で争点となり得る7つの事項全てを、同じ密度で説明することも難しいことが多いです。そこで、相談したい、もっとも関心があるのはどの事項なのかを考えておいて、その事項について教えてほしいと弁護士に伝えるのもよいでしょう。

まとめ

法律相談の際に事前に準備しておくべき点をまとめると次のとおりとなります。

・重要な事実関係について記憶喚起
・記憶喚起した事実関係を時系列で整理
・事実関係を証明する証拠を整理
・話す内容を絞る

離婚の法律相談を検討している方は、是非以上を参考にしてみてください。


白谷 英恵

【作成者】白谷 英恵
弁護士。神奈川県弁護士会所属。同志社大学商学部卒業、創価大学法科大学院法学研究科修了。離婚・男女問題、相続問題などの家事事件を中心に、交通事故や刑事事件など、身近な法律問題を数多く取り扱う。家事案件をライフワークとして、役所での女性のための相談室の法律相談員や弁護士会での子ども人権相談の相談員、相続セミナーなどにも積極的に取り組む。

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