今年7月、公益社団法人日本産婦人科医会及び「いのち支える自殺対策推進センター」が発表した資料によると、2020年の妊産婦死亡の原因として最多となるのが、自殺による死亡だということです。

資料には、2022年から2023年の2年間で、118人の妊産婦の方が自殺によりお亡くなりになっており、妊娠中の自殺死亡率では20歳から24歳が、産後の自殺死亡率では40歳から44歳がもっとも高かったとの記載があります。

厚労省では、退院直後の母親らに対する心身のケア、育児サポートを行ったり、生後4か月までの乳児のいるすべての家庭を訪問し、支援が必要な過程を把握して適切な支援に結びつけるなどの対策の必要性を指摘しているようです。

個人的な話ですが、私自身も、産後は本当にしんどかったです。

当時、身近に頼れる人は全くおらず、心身ともに常に「ひとり」でした。当時は、「産後うつ」などという言葉を全く知りませんでした。私は、産後、いつもこんなことを考えていました。

「自分よりずっと若くしてお母さんになった人がたくさんいて、ネットで見ると、みんなすごく楽しそうに赤ちゃんのお世話をしているのに、私は、どうしてみんなが当たり前のようにできていることを当たり前にできないんだろう」

「周囲は、さんざん、私に『早く子どもを産んだほうがいい!』と言っていたけど、どれだけ私が赤ちゃんのお世話で大変な思いをしていても、そう言っていたみんなが手助けしてくれるわけでもない。なんて無責任な人たちなんだろう」

「あんなに必死で勉強してようやく得られた仕事を手放してまで、なんで私だけが朝から晩まで赤ちゃんのお世話に明け暮れなくちゃいけないんだろう」

「『一人で抱え込まないで』なんてみんな無責任に言うけど、結局何もやってくれない。何もできないなら、助けてくれるかもという期待をもたせるようなことを言ってくれるな」

こんなことばかり考えていました。たぶん、すごく怖い顔をしていたと思います。

本当なら、赤ちゃんが産まれてきてくれたことに感謝して、ただただ幸せを感じていなくちゃいけない毎日だと思うのに、こんな風にうつうつとしている自分に嫌気がさしましたし、笑顔を見せてあげることができず子どもにも申し訳ない気持ちでいっぱいでした。

このころは、自分自身が悩んで選択してきた過去の決断について、すべてを周囲のせいにしては、被害者意識の塊になっていたように思います。

もちろん、今思えば、そんな他責思考の考え方自体におおもとの問題があったのだということははっきりわかります。

でも、当時は、そんな簡単なことに気づく余裕が全くなかった。心身ともに、疲れ果てていたなと思います。あのころ、何がどうなっていたら、もう少し自分のしんどさを軽減できたのかなと思うと、いくつか思い当たることがあります。

まず、妊娠、出産、もっというと、結婚という人生の大きなイベントを迎える前に、学んでおくべきことがあったなということです。

具体的には、自分を大切にするとはどういうことか、生きてきた背景が全く違う人とどうやって話し合い、第三の解決策を探れるかということ、自分の凝り固まった価値観に気づき、必要に応じてそれを手放す方法などです。

少し抽象的な話になってしまいますが、私は、このことが何より大事なことだったなと思っています。特に、自分を大切にするということはどういうことか知って、自ら自分を大切にする練習を積み重ねることはとても大事だったと思っています。

私は、かなり最近になるまで、自分を大切にするということがいまいちわかりませんでした。

そこで、今日のお昼ご飯に何を食べるか選択する場面から練習を始めました。

本当にちょっとしたことなのですが、お昼ご飯を適当に済ませるのでなく、「今、私はどんなものが食べたい?」「お昼ご飯に食事をしながらどんな感覚を味わいたい?」「お昼ご飯を食べているとき、それがどんな場所だったら心地よい?」というようなことを細かく細かく自分の心に確認し、自分の欲求を知り、それを実現させてあげる。

そんなことを少しずつ積み重ねていくうちに、自分の心の声に耳を傾け、そこから聞こえる本音を無視しないということが習慣化されていったように思います。このことって、結婚、妊娠、出産などのイベントを乗り越えていくにあたって、とてもとても大事な基本になることなんじゃないかなと思っています。

この練習を積んでいっても、やはり、妊娠、出産の時期は、なかなか余裕をもてないことも。

だから、やはり産後を乗り越えるために次に必要になってくると思うのは、一人の時間を作るためのサポートです。不安なく赤ちゃんを預けることができ、その間、ゆっくり寝たり、考え事をしたり、本を読んだり、マッサージを受けたり、心配事を相談したりして、また元気に赤ちゃんと向き合うエネルギーを満たすための時間。

このような時間をもちたいと思うことは、我慢が足りないわけでもない、当たり前のことなんだという意識をもとに、当たり前のように施されるサポートになればいいなと思います。そんなサポートに手を伸ばすための前提として、やはり最初に挙げた、自分を大切にする練習を積み重ねておくことがとても大事なんだろうなと思っているのです。

そして、私自身がそうだったように、この産後のしんどさは、そのまま、家庭内の問題につながることがあると思います。

弁護士として多くの方のご相談をうかがっていると、産後に抱いたパートナーへの不信感が離婚を考えるきっかけになったというケースはとても多くあるように思います。

一言で産後と言っても、それぞれの方のもともとの性格、周りの環境、年齢、お子さんの状況などいろいろな要素によって、とても一言で語れる話ではないと思います。まだ気持ちもお体もお疲れの状態で、パートナーとの関係などに一人で向き合うのはとても大変なこと。

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