子どもの養育費を受け取れるかどうかは、離婚後の生活を左右します。養育費の相場や未払いを防ぐ方法を知り、離婚相手としっかり話し合いましょう。養育費は、離婚後しばらく経ってから請求することも可能です。この記事では、養育費を請求したいと考えている方に向けて、養育費の基礎知識や受け取るまでの具体的な手順を紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
離婚するなら知っておきたい養育費のこと

離婚したとしても、親には子どもを養育する義務があります。離婚し、どちらかが親権者となった場合、もう一方は親権者に対して養育費を支払わなければなりません。
養育費は親権者でない方の親の義務であり、同時に子どもにとっての権利でもあります。そのため、養育費の請求に関して遠慮する必要はありません。子どもの権利を守るためにも、しっかり話し合いをし、養育費を受け取りましょう。
離婚後の養育費の相場は?事例つきで解説
離婚後の養育費の金額は、双方の話し合いによって決まります。とはいえ何も基準がないと、どのくらいの金額にすればいいか悩んでしまいます。そこで基準となるのが、裁判所が公表する「養育費・婚姻費用算定表」です。この算定表をもとに養育費を決めることがほとんどです。
【参考】裁判所 – 平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について
続いては、養育費算定表をもとに離婚後の養育費の事例をいくつか紹介します。養育費は、お互いの年収のほか、子どもの人数や年齢によっても変わります。相場を把握するための参考として事例をご活用ください。
養育費の事例1:子ども(8歳)を1人養育している場合
子どもが1人で、0~14歳の場合、年収別の養育費の金額相場は下記の通りです。
▽年収例1
・養育費を受け取る側の年収(給与):125万円
・養育費を支払う側の年収(給与):550万円
→養育費の金額:4~6万円
▽年収例2
・養育費を受け取る側の年収(給与):300万円
・養育費を支払う側の年収(給与):350万円
→養育費の金額:2~4万円
▽年収例3
・養育費を受け取る側の年収(給与):250万円
・養育費を支払う側の年収(給与):1,000万円
→養育費の金額:10~20万円
養育費の事例2:子ども(16歳、13歳)を2人養育している場合
子どもが2人で、第1子が15歳以上、第2子が0~14歳の場合、年収別の養育費の金額相場は下記の通りです。
▽年収例4
・養育費を受け取る側の年収(給与):125万円
・養育費を支払う側の年収(給与):550万円
→養育費の金額:8~10万円
▽年収例5
・養育費を受け取る側の年収(給与):300万円
・養育費を支払う側の年収(給与):350万円
→養育費の金額:2~4万円
▽年収例6
・養育費を受け取る側の年収(給与):250万円
・養育費を支払う側の年収(給与):1,000万円
→養育費の金額:14~16万円
養育費の事例3:子ども(17歳、15歳、10歳)を3人養育している場合
子どもが3人で、第1子と第2子が15歳以上、第3子が0~14歳の場合、年収別の養育費の金額相場は下記の通りです。
▽年収例7
・養育費を受け取る側の年収(給与):125万円
・養育費を支払う側の年収(給与):550万円
→養育費の金額:10~12万円
▽年収例8
・養育費を受け取る側の年収(給与):300万円
・養育費を支払う側の年収(給与):350万円
→養育費の金額:4~6万円
▽年収例9
・養育費を受け取る側の年収(給与):250万円
・養育費を支払う側の年収(給与):1,000万円
→養育費の金額:18~20万円
養育費の決め方とは?内容や流れを解説
養育費算定表を見ると、養育費を受け取る側の年収が低く、養育費を支払う側の年収が高いほど養育費の金額は増えます。また子どもの人数が増えるほど、養育費の金額も高くなります。
では養育費算定表をもとに、どのように離婚相手と話し合い、養育費を決めればいいのでしょうか。続いては、話し合っておくべき内容や養育費を受け取るまでの手順を具体的に解説します。
養育費について離婚相手と話し合うこと
養育費を受け取りたいと思ったら、離婚相手と話し合いをする必要があります。話し合いで決める内容は、次の3つです。
・養育費で話し合うべきこと1:養育費の金額
養育費の金額については、養育費算定表をもとに、子どもの人数や年齢に応じて設定します。ただし、子どもに障がいがあって医療費がかかるなど、特別な事情がある場合は必ずしも養育費算定表の通りにする必要はありません。
・養育費で話し合うべきこと2:養育費を支払う期間
養育費を支払う期間について、子どもが何歳になるまで養育費を支払うかを決めます。養育費の金額と支払う期間が決まれば、トータルでいくら養育費を受け取れるかがわかり、ライフプランを立てやすくなるでしょう。
・養育費で話し合うべきこと3:養育費の支払い方法
養育費の支払い方法について、月払いを選ぶ人が多いですが、特に決まりはありません。双方の合意があれば年払いも可能です。また支払う側に金銭的な余裕があれば、すべての養育費を一括で支払うことも認められています。
離婚相手から養育費を受け取るまでの流れ
話し合いをした結果、お互い合意に至れば、養育費は決定します。あとから「言った・言わない」のトラブルにならないよう、取り決めた内容を公正証書にしておくと安心です。
話し合いだけでは合意に至らなかった場合、養育費を請求するための調停を申し立てます。調停とは、裁判所の調停機関が間に入って話し合うことで、適正・妥当な解決を目指す制度のことです。調停は、家庭裁判所に申し立てます。
調停でも解決できなかった場合、最後に審判に移ります。審判とは、裁判官が当事者から提出された書類や家庭裁判所調査官の調査結果等の資料に基づき、判断をくだす手続きです。お互いが合意しなくても、裁判官が判断を下すことで、養育費が決定されます。
調停や審判に移ると、養育費が決定されるまでに何度も裁判所に赴かなければなりません。また、一定の手数料もかかります。そのため、可能なら話し合いで養育費が決まるのがベストです。
どうしても相手との合意が得られなかったときのために、調停や審判といった制度があることで、最終的には養育費が決定される仕組みになっています。
離婚後の養育費のよくある疑問
ここまで、養育費についての基本的な知識や、受け取るまでの流れを解説してきました。続いては、養育費にまつわるよくある疑問について解説していきます。
養育費はいつまでもらえるの?:原則20歳
養育費を請求できるのは、原則20歳までとされています。しかし、大学進学の可能性が高い場合、大学進学した場合は大学卒業まで養育費を受け取るといった期間設定をすることも可能です。もし高校卒業後に就職を予定している場合、18歳までとするケースもあります。
養育費は増額できる?:状況が変わったら増額できる
養育費を受け取っている最中に状況が変わった場合、養育費の増額交渉をすることも可能です。増額が認められるケースには、次のようなものがあります。
・子どもが病気・ケガをしたことで、継続的な治療費が必要になった
・希望する進路選択をするため、学習塾代や教材費がかかるようになった
・部活動や習い事を始め、金銭的な負担が増えた
・親権者の病気、ケガ、リストラ、勤め先の倒産などで収入が減少した
上記のケースにあてはまるからといって、必ずしも増額が認められるとは限りません。養育費を最初に決めるときと同様に、話し合いでお互いに合意する必要があります。合意に至らなかった場合は、調停を申し立てたり、審判に移行したりすることも可能です。
再婚したら養育費は受け取れない?:養子縁組をしたら受け取れない
養育費を受け取る側が再婚したとしても、養育費を支払う側と子どもの間の親子関係が失われるわけではありません。そのため、養育費を受け取り続けることができます。
しかし、再婚相手と子どもが養子縁組をした場合、子どもの扶養義務者は再婚相手となります。そのため、養育費が減額されたり、受け取れなくなったりします。
再婚や養子縁組といった状況の変化があった場合は、離婚相手にも伝えるようにしましょう。伝えていないと、あとから状況の変化を知った相手に訴えられ、トラブルになってしまう可能性があります。
離婚して時間が経っていても養育費を請求できる?:できるが、さかのぼって受け取ることはできない
「離婚した時は養育費を受け取らなくてもいいと思ったが、今は受け取りたい」
「離婚した時はあわただしくて養育費を請求できなかったが、落ち着いたので請求したい」
こういったケースも多いでしょう。離婚してすぐに話し合いをしなくても、養育費の請求はいつでもできます。時間が経っているからと、遠慮したり泣き寝入りしたりする必要はありません。養育費は子どもの権利でもあるので、離婚相手に連絡をとり、堂々と養育費の請求を行いましょう。
連絡手段は、電話・メール・LINEなど、使い慣れたものでかまいません。連絡する時は、「養育費について話し合いたい」と伝えましょう。話し合いまでに、授業料や部活動にかかる費用、医療費、食費など、どのくらいの教育費・生活費がかかっているかを整理し、根拠資料を準備しておくとスムーズです。
ただし注意したいのが、あくまでも受け取れるのは、請求してからの養育費ということです。たとえば、離婚して2年後に養育費を請求した場合、請求しなかった2年間分の養育費をさかのぼって受け取ることはできません。
そのため養育費を請求したいと考えたら、すぐにでも相手に連絡をとり、養育費を請求しましょう。たった数ヵ月、たった数年の差でも、受け取れる金額は数十万円から数百万円変わってきます。
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離婚後の養育費の未払いを防ぐ方法
養育費の未払いに悩んでいる話をよく耳にするという方も多いでしょう。養育費について取り決めても、時間が経つにつれて離婚相手が養育費を支払わなくなることがあります。このとき口約束だけでは、法的な対処をすることができません。
そのため養育費について取り決めた際には、公正証書を作成しておくことが大切です。公正証書とは、公証人立ち合いのもと公証役場で作る公的な契約書のことです。作成した契約書は公証役場で保管してくれるため、紛失の心配もありません。
公正証書は、裁判においても証拠書類として扱われます。また、どうしても離婚相手が養育費の支払いに応じない場合、強制執行によって給与などの財産を差し押さえることも可能です。いざというときの子どもの権利を守るためにも、きちんと公正証書を作成しておきましょう。
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└養育費を払ってもらえない……もしものときの対処法ステップ1・2・3
また離婚相手の心情面に配慮して、定期的に面会の機会を持つことも未払いを防ぐことにつながります。当然、法律では扶養義務が規定されています。ですが、親子関係が希薄になると、どうしても子どもに対して何かしたいという気持ちが薄れてしまいます。
負担にならない範囲で面会の時間を作ることは、子どもにとってもよい結果を招くこともあります。ケースバイケースなので、一概にはいえませんが、面会時間を確保することも検討してみてください。
離婚するなら早めに養育費について交渉しよう
離婚を控えているなら、早めに養育費の話し合いを始めることで、離婚してからすぐに養育費を受け取れます。
離婚時は引っ越しなどで環境が変化したり、精神的な負担も大きかったりして、つい養育費のことを後回しにしてしまいたくなることもあるでしょう。しかし、養育費を受け取ることは子どもの権利です。将来のわが子の選択肢を狭めてしまうことがないよう、優先的に話し合いの時間を設けましょう。
また、離婚してしばらく経っていても、請求した時点から養育費は受け取れます。請求する時期が遅れるほど受け取れる養育費の総額は少なくなるので、思い立ったらすぐに行動に移すことが大切です。
養育費を受け取れば、子どもの権利を守れることに加え、自分自身の負担も軽減できます。金銭的な余裕が生まれれば、子どもとの時間をより多くとることも可能でしょう。