離婚するときには、婚姻期間中に築いた財産を夫婦で分割する話し合いを持つのが一般的ですが、「年金分割制度」により年金も分割することができます。婚姻期間中に納めた保険料に応じた厚生保険を分割し、将来的にそれぞれが受給できます。この記事では、年金分割の具体的な内容、請求の流れ、年金分割の計算例について紹介します。

監修:弁護士 白谷 英恵

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年金分割制度とは

本章では、年金分割制度の具体的な内容や、分割対象になる年金の種類、請求期限について確認していきましょう。

年金分割制度の基本

年金分割制度とは、夫婦が離婚するときに、婚姻中に納めた厚生年金の保険料に応じ、厚生年金を分割して自分の年金にできる制度のことです。年金も夫婦の共有財産としてみなされ、財産分与の対象になります。

ただし、離婚すれば自動的に年金分割が行われるわけではないため、分割するには請求の手続きをする必要があります。

年金分割の対象となる年金

年金には大きく分けて国民年金と厚生年金がありますが、年金分割の対象になるのは厚生年金のみです。

一般的に、国民年金には自営業者や個人事業主などが加入しており、厚生年金には会社員や公務員などが加入しています。そのため、配偶者が会社員や公務員などで厚生年金に加入していれば年金分割ができますが、配偶者が自営業などで国民年金のみに加入している場合は年金分割の対象外です。

また、分割の対象となる期間は、厚生年金に加入した時から現在までの期間ではなく、婚姻期間中に保険料を納めた期間のみである点に注意が必要です。そのうえ、毎月の給与から天引きされている厚生年金保険料には、実は国民年金の分も含まれています。国民年金の部分は対象外となり、あくまでも分割対象になるのは厚生年金の部分のみとなります。

さらに、少し細かい話になりますが、分割されるのは将来受け取る直接の年金額ではなく、婚姻中に納めた保険料の納付記録(将来受け取る厚生年金額の計算のもとになる記録)です。この点は誤解されやすいので注意しましょう。

年金分割には期限がある

年金分割請求の手続きは、原則として「離婚をした日の翌日から2年」とされています。期限を過ぎると請求できなくなってしまうため、すみやかに手続きをとることが大切です。

中には、年金分割についての夫婦間の合意が得られないまま2年を超えてしまうケースもあるでしょう。その場合は、分割割合を定める調停や審判を申し立てることで、たとえ2年を過ぎてしまっても、結果が出た日の翌日から6カ月の間に年金分割請求をすることができます。

また、すでに離婚が成立した後に相手方が死亡した場合、死亡日から1カ月を過ぎると請求ができなくなります。

離婚時に年金分割が必要な理由

離婚時に話し合うべきことはたくさんあるため、できるだけ話し合う事柄を増やしたくないと思う人もいるかもしれません。しかし、離婚の際に年金分割を行うことは、将来受け取る年金額に影響が出ることになるため、忘れずに話し合いをしておくことが大切です。

一般的に、年金は老後の生活費のメインとなるお金です。年金が少なく生活費が足りないと、高齢になっても働き続けたり貯蓄を切り崩したりしなければならず、経済的な不安を感じながら生活することになるでしょう。安心して老後を迎えるためにも、年金分割は大切な手続きであることを忘れないでください。

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年金分割制度の種類

年金分割制度には、「合意分割」と「3号分割」のふたつの制度があります。それぞれ請求できる条件や分割割合などが異なりますので、詳しい内容を確認していきましょう。

合意分割制度

合意分割とは、婚姻期間中の厚生年金記録を夫婦間の合意に基づいて分割する制度のことです。按分割合は、婚姻期間中の厚生年金記録の2分の1を上限として、お互いが納得できる割合に決めます。

合意分割ができるのは、次の3つの条件すべてに該当した場合です。

・婚姻期間中の厚生年金記録がある
・夫婦間の合意または裁判手続により按分割合を決定済である
・請求期限(原則、離婚をした日の翌日から2年以内)を経過していない

合意がまとまらない場合は、夫婦どちらかが請求することで、裁判所によって按分割合を決めてもらうことができます。ちなみに、夫婦ともに厚生年金記録がある場合は、必ずしも「夫から妻へ」ではなく、厚生年金記録の合計が多いほうから少ないほうへ分割します。

3号分割制度

3号分割とは、会社員や公務員などに扶養されていた人(「第3号被保険者」といいます)が対象の制度です。分割の対象となる期間は2008年(平成20年)4月1日以後の婚姻期間で、第3号被保険者であった期間(扶養されていた期間)の相手の厚生年金記録を2分の1ずつに分割することができます。

3号分割は、請求する際に双方の合意が必要ないものの、次の3つの条件すべてを満たす必要があります。

・2008年(平成20年)5月1日以後に離婚した
・2008年(平成20年)4月1日以後に、国民年金の第3号被保険者期間中の厚生年金記録がある
・請求期限(原則、離婚をした日の翌日から2年以内)を経過していない

ただし、相手が障害厚生年金を受けている場合で、2008年4月1日以降に障害年金認定日がある場合は、3号分割制度は利用できないので注意しましょう。

どちらの制度を利用するべきか

「合意分割」と「3号分割」の内容を解説しましたが、「どちらを選べばいいのか分からない」という人もいるでしょう。どちらの制度を利用できるかは、婚姻期間中に専業主婦(夫)だったか働いていたかで異なるため、自身の状況に合わせて選ぶことになります。

➀専業主婦(夫)の場合
婚姻期間中に専業主婦(夫)だった場合は、3号分割と合意分割の両方を利用することができます。2008年(平成20年)4月1日以後の専業主婦(夫)期間については3号分割が利用でき、それ以前となる2008年(平成20年)3月までの専業主婦(夫)だった期間については、合意分割が利用できます。

②扶養の範囲内でパート勤務の場合
配偶者の扶養の範囲内(パートなど)で働いていた場合も、第3号被保険者に該当するため3号分割と合意分割が利用できます。専業主婦(夫)の場合と同様に、2008年(平成20年)4月1日以後は3号分割、2008年(平成20年)3月までは合意分割となります。

ただし、扶養の範囲を超えてしまった期間は3号分割の対象外となるため注意しましょう。

③フルタイム勤務の場合
夫婦ともに婚姻期間中を通してフルタイムで働いていた場合は、合意分割のみが利用できます。夫婦のうち厚生年金保険料の納付記録の多いほうから少ないほうへ、年金分割が行われます。妻のほうが収入の多かった(年金記録が多かった)場合、夫へ年金分割するケースも出てきます。

合意分割で請求する流れ

合意分割は、その名の通り、夫婦で合意をしたうえで手続きがとれる制度です。原則として夫婦間の話し合いで分割割合などを決めますが、合意が得られない場合は調停や裁判で決定されることになります。

合意分割の一般的な流れは以下のとおりです。

ステップ1:情報提供請求書を記入し、必要書類を添えて年金事務所に提出する
まずは情報提供請求書を記入します。記入方法についてはこちらのページを参考にしてみてください。

ステップ2:「年金分割のための情報通知書」を年金事務所から受け取る
どのような割合で分割するか、按分割合を決めるための情報が記載されています。

ステップ3:年金分割をすることや、分割の按分割合について話し合う
分割の割合は夫婦間の話し合いで決めますが、合意が得られないときは家庭裁判所の審判、調停、裁判で決めることになります。

ステップ4:按分割合が決定したら、離婚後に「標準報酬改定請求書」と必要書類を年金事務所に提出する
3号分割の対象となる期間がある場合は、合意分割と3号分割が同時に行われます。

3号分割で請求する流れ

先に説明しましたが、3号分割は第3号被保険者であったほうが請求することで分割できるため、お互いの合意は必要ありません。離婚後に「年金分割のための情報提供請求書」に必要書類を添えて年金事務所に提出します。

事例別|年金分割の計算シミュレーション

年金分割はどのように計算するのかイメージをつかむために、ふたつの事例をもとにシミュレーション(概算)していきましょう。夫婦共働きだった場合と、妻が専業主婦だった場合を例に計算していきます。

婚姻期間中に「共働き」だった場合

以下の条件でシミュレーションしていきます。

婚姻期間:2010年4月~2021年3月(11年)
婚姻期間中の年収:夫600万円、妻200万円
夫の対象期間標準報酬総額:6,600万円、妻の対象期間標準報酬総額:2,200万円、按分割合50%

➀夫と妻の対象期間標準報酬総額の合計額を計算します。すると、
6,600万円+2,200万円=8,800万円
と算出されます。

②按分割合50%で、分割後の夫と妻の対象期間標準報酬総額を計算します。すると、
夫:8,800万円÷2=4,400万円
妻:8,800万円÷2=4,400万円
となります。

③対象期間の夫と妻の老齢厚生年金額を計算します。すると、
4,400万円×5.481/1,000=24万1,164円(年額)

年金分割後の老齢厚生年金は、2人とも24万1,164円になります。妻の婚姻期間中の標準報酬総額は、年金分割によって2,200万円から4,400万円になり、年金額は12万582円増えるということです。

婚姻期間中に妻が「専業主婦」だった場合

以下の条件でシミュレーションしてきます。

婚姻期間:2010年4月~2021年3月(11年)
婚姻期間中の年収:夫600万円 妻60万円
夫の対象期間標準報酬総額:660万円、妻の対象期間標準報酬総額:0円、按分割合50%

➀夫と妻の対象期間標準報酬総額の合計額を計算します。すると、
6,600万円+0円=6,600万円
となります。

②按分割合50%で、分割後のそれぞれの対象期間標準報酬総額を計算します。すると、
夫:6,600万円÷2=3,300万円
妻:6,600万円÷2=3,300万円
と算出されます。

③対象期間の夫と妻の老齢厚生年金額を計算します。すると、
3,300万円×5.481/1,000=18万873円(年額)

年金分割後の老齢厚生年金は、夫と妻それぞれで18万873円です。妻の婚姻期間中の標準報酬総額は、年金分割によって0円から3,300万円に、年金額は18万873円増えることになります。

離婚時の年金分割はいつからもらえる?

離婚の際に年金分割の合意を得ても、すぐに年金が受け取れるわけではありません。受給開始は、自身の生年月日に応じた受給開始年齢に達したときからです。2023年8月時点では、年金の受給開始年齢は原則として65歳からです。

すでに年金を受給している場合は、分割が行われた翌月から年金額が変更されます。

なお、分割後に年金をどのくらい受給できるのか、見込額を知りたいケースがあります。50歳以上の人や障害年金を受給している人であれば、情報提供の請求をする際に分割後の年金見込額を希望すると教えてもらうことができます。

離婚時の年金分割は拒否できる?

離婚時の年金分割は、「国民年金法等の一部を改正する法律」により決められた制度であるため、原則として拒否することはできません。しかし、例外として以下のようなケースでは拒否できることもあります。

請求期限が過ぎている場合

すでに説明のとおり、年金分割の請求は離婚日の翌日から2年以内と決められています。そのため、期限が過ぎている場合は請求することができず、分割もできません。

「分割しない」ことに合意している場合

年金分割を希望する配偶者が第3号被保険者ではない場合、選択肢は合意分割一択になります。夫婦間の話し合いで「年金は分割しない」ことに合意している場合、あとで年金分割請求をしても拒否される可能性があります。

離婚後に年金額を増やすなら厚生年金に加入しよう

離婚後に厚生年金に加入することで、老後に受け取る年金額を増やすことができます。というのも、厚生年金に加入すると国民年金(老齢基礎年金)に厚生年金(老齢厚生年金)を上乗せした金額を受給できるからです。

厚生年金保険料は「労使折半」といって勤務先で半分を納付してもらえるので、保険料支払い負担が抑えられるというメリットがあります。また、病気やケガ、死亡などの事態が起こった場合には、障害厚生年金や遺族厚生年金の対象になります。

離婚後に厚生年金に加入するには?

離婚後に正社員・契約社員・派遣社員として働く場合は、厚生年金に加入することができます。また、パートでも、1週間の労働時間や1カ月の労働日数が一般社員の4分の3以上の場合は、厚生年金へ加入することになります。

さらに、それ以外のパートの場合でも、以下の条件を満たす場合は厚生年金の加入対象者になります。

・従業員数101人以上(2024年10月以降であれば51人以上)の企業で働いている
・1週間の所定労働時間が20時間以上
・月額賃金が8万8000円以上
・学生ではない
・雇用期間が2カ月以上見込まれている

社会保険料は勤務先が半額を負担してくれるので、現在支払っている国民年金保険料や国民健康保険料よりも保険料が安くなる可能性があります。現在、パートやアルバイトで働いている人は、勤務先の担当者に社会保険に加入できるかどうか確認してみると良いでしょう。

将来の年金額を増やすためにも年金分割請求は忘れずに

婚姻期間中に配偶者が納めた年金保険料は共有財産になるため、離婚時に分割することができます。年金分割をして年金保険料の納付実績を積むことは、老後に受け取る年金額に有利に働きます。老後の生活費の不安をなくすためにも、離婚時には年金分割請求を忘れずに行いましょう。


白谷 英恵

【監修】白谷 英恵
弁護士。神奈川県弁護士会所属。同志社大学商学部卒業、創価大学法科大学院法学研究科修了。離婚・男女問題、相続問題などの家事事件を中心に、交通事故や刑事事件など、身近な法律問題を数多く取り扱う。家事案件をライフワークとして、役所での女性のための相談室の法律相談員や弁護士会での子ども人権相談の相談員、相続セミナーなどにも積極的に取り組む。

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