【厳選】ママスマ編集部 おすすめ書籍を紹介

新たな生活に踏み出したシングルマザーの私たち。しかし、足元を見ればお金、教育、仕事、養育費などなど、不安と悩みは尽きません。それらの悩みに対し各方面の専門家、そして先輩たちが、書籍を通してたくさんの知恵を提供してくれています。ママスマ編集部では、そんな知恵とアドバイスの詰まった書籍を厳選、内容を抜粋して紹介してまいります。

ケース:死別の父子家庭×母子家庭の山本さん一家の場合

山本由美子さん
[家族歴] 3年
[家族構成] 夫 (37歳)、夫実子 (9歳♂)、妻 (37歳)、妻実子 (8歳♀)、夫婦の実子(2歳♂,1歳♀)
[現在の家族の問題点]
・元の家族のことはタブーなのに、学校の授業や行事で生い立ちについて調べたり、発表したりする場があること(2分の1成人式や命の授業など)。
・墓参りや将来のお墓の問題。

引っ越し先の夫の家には「開かずの間」が

今回、取材で彼女のお宅を訪れたとき、きれいな庭のあるすてきなご自宅を見て、私は思わず「すてきな家だね」と言ってしまいました。口にしたあとすぐに、言ってはいけないひと言だったということに気がついて「そう言われたくないよね?」とつけ加えました。夫がまえの結婚のときに建てた家は、亡くなった妻の思い出がたくさん見え隠れしていて、結婚から3年たったいまでも自分の家という気がしないといいます。

山本由美子さんは、3年間のシングルマザー生活のあと、長女が五歳になるまえにいまの夫と出会い、1年の交際期間を経て再婚しました。彼は同年齢の子どもを育てる死別のシングルファーザー。おたがいがひとり親として苦労してきたことや、彼の誠実そうな物腰に、迷うことなく再婚を決めました。

私が彼女と会うのは2回目で、はじめて会ったのはちょうど1年前。現在1歳のセメントベビーを妊娠中でした。ブログ仲間つながりの継母さんとして出会ったので、どちらかというと継子に対するストレスを聞くほうがさきで、それは多くの継母さんに共通している、継子に対する嫌悪感や愛せないというストレスでした。

でも、今回はそこには焦点は当てずに、離別再婚が多いなか、死別再婚されている彼女に死別ならではの苦労をお聞きすることにしました。というのも、前回お会いしたときに彼女が口にした、「家には『開かずの間』があるんです」というひと言の印象が強くて忘れられなかったからです。

「開かずの間」……そこは夫しか立ち入りが許されない部屋です。なかに仏壇があることは彼女は知っているけれど、あとは見たことがないとのこと。夫が子どもたちにさえ立ち入りを禁止している部屋だそうです。「たぶん元嫁の部屋だったんじゃないかな?」と。

結婚するまえの交際期間には何度か娘を連れて泊りにいったことがあるけれど、広いご自宅のリビング部分しか見せてもらっていなくて、2階にも上がったことがなかったそうです。亡くなった元妻と建てた家。彼の子ども(継子)が「パパの寝室にはベッドがふたつあるんだよ」とうれしそうに教えてくれたときに、ぜったいに見たくないと思ったそうです。

ふと不思議に思って「死別ということを知っていて、元の奥さんの話をどのくらいまで聞いていたの?」と質問したら、おたがいにまえのパートナーの話はいわゆるタブーになっていて、くわしくは聞いていないとのこと。なぜ亡くなったのか?名前は?どんな人だったのか?などはまったく聞かされてなく、死別ということのみが彼女のもっている元嫁情報なのだそうです。

「どうして?知りたくないの?」という私の質問に「ぜったいに知りたくない。知らないことで心の平静が保たれているような気がするから」と由美子さん。相手が亡くなった人だと、知ったところで悪口は言えないし、思い出は美化されているだろうし、太刀打ちできない相手の情報なんかないほうがいいと彼女は言います。

いつまでも消えない元妻の残像

そんな思いから、恋愛中は彼の家について無駄に気にすることもありませんでした。ふたつあると聞いていたベッドも再婚時にひとつは処分されていたし、気になるところがあれば直してもいいからここに住もうと言われて、もともと彼が生まれ育った土地に建っている家ということもあり、彼の思い出やご近所づきあいなどを尊重しようと、この家に住むことを決めたそうです。

前妻は背の高い人だったようで、キッチンの調理台の高さはさすがに気になったので直してもらったけれど、カーテン、家具、リビングの飾り、食器棚の食器などはそのまま使うことになりました。

「この再婚のいちばんの失敗は、この家に引っ越してきたことです。どうして新しい家を借りて新スタートをしなかったんだろうかと、いまは後悔しています」

自宅に届く元妻宛ての郵便物。ブランドものが好きだったようでブランドショップからの案内が多く、家のなかにもブランド品の手提げ、リボン、包装紙などが残されていて、ぜんぶ処分したといいます。クッキーの型、夫のための弁当箱、あきらかにまえに住んでいた女性が買いそろえたとしか思えない品々に元嫁をイメージさせられて苦しめられる毎日です。

さらに、夫が子どものときから暮らしていた土地ということもあって、ご近所には亡くなった妻のことや再婚したことなどを隠しようもなく、知られすぎています。あるとき、庭で実子と遊んでいる継子に、近所の年配のおばさんが「お庭のお花、きれいだね。きっと〇〇くん(継子)のことを亡くなったお母さんが見守ってくれているんだね」と言ったのを耳にし、とてもいやな気持ちになったといいます。

「私にとって実母に見張られているような、いまでも亡くなった元嫁の魂がこの家に住みついていると言われているような気持ちがしました」。また、「先妻さんもさぞかし喜んでいるんでしょうね。お子さんの面倒もよく見てくれる後妻さんが来て」などと言われると、「後妻=2番手」と言われた気がして落ち込むのだそうです。

元妻といっしょのお墓に入るという堪えがたい現実

さらに最近の彼女は将来のお墓の問題で大きなストレスをかかえています。前妻が夫の先祖のお墓に入っているということ。ふつうに考えたら、妻として亡くなったのだから、自分の実家のお墓に入るわけはなく、夫のお墓に入るのはあたりまえのことです。でも、それは冷静に考えてみると、自分が亡くなったときに元妻といっしょのお墓に入るという現実を突きつけられて、彼女はいま苦しんでいます。

「再婚前には考えてみなかったことが、ステップファミリーとしての実生活がはじまって突きつけられる現実に直面することになりました。いままではふれないでいることで平和を守っていたけれど、見なきゃいけないものを見てしまったことで、考えなくてはいけないことがたくさん出てきました」。ステップファミリー3年目にして死別再婚ならではの問題を突きつけられているといいます。

死別シングルファーザーと再婚されている何人かの継母さんのお話を聞く機会がこれまでにもありましたが、仏壇、お墓、元妻の弔いごとの問題は多くの人がかかえています。しかし、どの人も再婚前には大きな問題とは思っていなかったようです。あたりまえのことなのにまえもって考えられないこと、それは経験していないとわからないことで、じつは私たちが思うほどあたりまえのことではないのかもしれません。

お墓の問題については、私も再婚していたときに相手の家の墓参りにいき、現実風景を見たときにゾッとした経験があります。私は死別の相手と再婚したわけではないけれど、知らない先祖ばかりのそのお墓にぜったいに入りたくないと思いました。「私はよそ者」—そんな感じだったからだと思います。

では、そうしたらいいのかということを、やはり再婚前に話し合っておくべきなのです。たとえば新しい家族のお墓を別に設ける、夫の骨は分骨するなんてことを事前に話し合っていれば、あとからストレスになることもないのではないでしょうか?元妻の墓参り、弔いごと、無理していっしょにやる必要があるでしょうか?
 

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【著者】新川てるえ(しんかわ・てるえ)
作家、家庭問題カウンセラー、NPO法人M-STEP理事長。1964年生まれ。離婚・再婚経験を生かし97年にシングルマザーのための情報サイト「母子家庭共和国」を立ち上げる。家庭問題カウンセラーとして雑誌やテレビなどで活躍。著書に『シングルマザー生活便利帳』(太郎次郎社エディタス)、『子連れ離婚を考えたときに読む本』(日本実業出版)など。