【厳選】ママスマ編集部 おすすめ書籍を紹介

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「かすがい」が取れてしまったとき

一生添い遂げたいと思って結婚したのならば、離婚しなければならなくなる状況は辛い。にもかかわらず、離婚件数・離婚率は1970年頃から上昇し、その後2010年までのあいだに、おおよそ2,3倍にまで上昇している。図6-1は離婚件数および普通離婚率の年次推移を表しており、我が国の離婚件数、離婚率はともに1960年代から増加傾向にあることが確認できるだろう。

「人口動態統計」によれば、1960年の婚姻件数が86万6115件、離婚件数が6万9410件、離婚率が0.74%だったのに対して、2018年の婚姻件数は58万6481件、離婚件数は20万8333件で、離婚率は1.68%と、この約50年間に離婚件数は約3倍、離婚率は2.3倍に伸びている。このような、離婚の増加傾向は我が国だけに限らず、多くの先進国に見られる現象であり、多くの研究者が離婚増大の要因、そして離婚が社会にもたらす影響について調査と分析を重ねている。

橘木・迫田『夫婦格差社会』でも触れたが、生活保障機能を果たしてきた結婚は—もちろん結婚していてもいろいろあるのだが—未婚・離婚率の上昇によってその機能は失われつつある。とりわけ、離婚にともなうさまざまな困難としてもっとも深刻となりうるケースの一つは、離婚する夫婦のあいだに子どもが存在する場合である。これまで夫婦、さらにはその家族が面倒を見ていたのが、片方だけになれば、さまざまな問題が生じるだろう。

本章では、離婚する夫婦のあいだに子どもがいる場合に起こる経済的な問題についてみていきたい。

142万のひとり親世帯

離婚とひとり親の貧困問題が大きく取り上げられている現在、多くの資料が存在する。我が国でこの問題に真摯に取り組んでいる厚生労働省による「全国ひとり親世帯等調査」結果を使用して、離婚を取り巻く問題を洗い出したい。

調査結果によると、2016年時点で我が国には母子世帯123万2316世帯、父子世帯18万7000世帯、計約142万世帯のひとり親世帯が存在するとされている。1993年には母子世帯78万9900世帯だったことを考えれば高い増加率である。

なお、我が国のひとり親世帯についての調査ならびに研究は母子家庭に焦点が当てられているものが過去多かったために、父子家庭が抱える問題について取り上げられていないことが多い。これは、我が国における母子世帯施策が、戦争によって夫と死別した「戦争未亡人」の救済を発端としているためである。しかし、近年母子世帯の発生要因は死別から離婚へとシフトした。離婚は男女に起こった問題であるから、本章では、母子世帯に限らず、父子世帯にも資料の許すかぎり焦点を当てる。

さて、「全国ひとり親世帯等調査」による母子・父子世帯の発生要因についての経年変化を見た表6-1を中心に考えてみよう。

ちなみに離婚によって母子世帯となる世帯は1952年には7.6%だった。それが1983年の49.1%から2011年には80.8%に上昇している。なお、2016年には79.5%となっている。「子どものいる離婚件数」は2016年で総離婚件数の約60%を占め、うち84%は母親が親権をとる。1950年代、父親が親権を取る割合が高かったものの、1966年を境として母親が親権を取る割合が増え、現在では母親が親権を取ることが通常だと考えられてさえいる。

母子世帯は賃貸住宅

離婚した後、母子・父子はどのような暮らしぶりなのだろうか。「全国ひとり親世帯等調査」(2016年)による結果にしたがって見ていきたい。母子・父子世帯の子どもの数は、母子世帯1.52人、父子世帯1.50人とどちらも大差がない。

また、世帯人数については、母子世帯の平均世帯人員は3.29人で、父子世帯は3.65人と報告されている。ただ、その世帯構成は異なる。母子世帯では、親子のみが61.5%である一方で、父子世帯では42.0%の比率である。もっとも、平成23(2011)年度調査では、父子世帯でも父子のみで住んでいた世帯は、39.4%であったため、着実に父子のみの世帯が増えているといえる。

また、住居の状況についても、持ち家に住んでいる父子世帯が68.2%であるのに対し、母子世帯はわずか32.9%である。母子世帯については、借家のうち賃貸住宅に住んでいる比率がもっとも多く、34.2%となっている。住環境の観点からひとり親の貧困問題を明らかにする試みは古くからあった。なかでも住生活を軸として、ひとり親世帯施策の再構築を図る研究・活動を精力的に推し進めている葛西リサの一連の研究を中心に紹介する。葛西(2017年)がまとめた表を表6-2として参照したい。

これを見ると、母子世帯の持ち家率にくらべ、父子家庭はひじょうに高い持ち家率であることがわかる。厚生省(当時)「離婚家庭の子ども」(1997年)や、日本労働研究機構『母子世帯の母への就業支援に関する研究』(2003年)、葛西・塩崎賢明・堀田祐三子「母子世帯の住宅確保の実態と問題に関する研究」(2005年)、同「母子世帯の居住実態に関する基礎的研究」(2006年)によって、離婚を機に新たな住まいを求める父子世帯は約3割である一方で、母子世帯では約7割であることが明らかになっている。

さらに、離婚を機に転居した世帯の約半数が離婚直後の住まいとして賃貸住宅へ移ることも明らかになっている。

母子家庭と貧困状況について分析をおこなったShirahase and Raymo(“Single mothers and poverty in Japan”, 2014)では、母子家庭の親子が両親と同居することによって12~20%程度貧困状態が解消されることを明らかにし、両親との同居は経済的に窮地にある母子家庭の親子のみならず、その両親が経済的に苦しい場合にも重要な戦略であると述べた。

しかし、ひとり親世帯を受け入れてくれる賃貸住宅に移れたとしても、その住環境が良いという保証はない。子どものことで近隣住民とトラブルになることもある。仮に実家に戻るとしても、母子・父子が充分に暮らせる住環境に加え、親との関係がうまくいっている家庭がどれほどあるだろうか。葛西が「公営住宅の優先入居や母子生活支援施設などの住まい支援策が機能不全に陥っている」(葛西『母子世帯の居住貧困』、2017年)と指摘しているように、ひとり親に寄り添う保障が急務だと言える。

父子・母子の住環境につづいて、仕事やそれにともなう金銭面も問題となる。母子・父子世帯ともに就業率は80%を超えている。

とりわけ母子世帯の就業率は諸外国とくらべてもひじょうに高いが、その割に所得が低いと言われている。これは、「母子世帯にきわめて特有のものというよりは、一般の女性の持つ問題と類似」(永瀬伸子「母子世帯の母のキャリア形成、その可能性」2003年)していると指摘されている。ひとり親の働き方の問題については、この後の章で詳細に述べる。

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【著者】橘木 俊詔(たちばなき・としあき)
1943年、兵庫県生まれ。67年、小樽商科大学商学部卒業。69年、大阪大学大学院修士課程修了。73年、ジョンズ・ホプキンス大学大学院博士課程修了(Ph.D)。79年、京都大学経済研究所助教授。86年、同大学同研究所教授。2003年、同大学経済学研究科教授。この間、INSEE、OECD、大阪大学、スタンフォード大学、エセックス大学、London School of Economicsなどで教職と研究職を歴任。07年より、同志社大学経済学部教授、元日本経済学会会長。

【著者】迫田さやか(さこだ・さやか)
1986年、広島県生まれ。2009年、同志社大学経済学部卒業。11年、同大学経済学研究科博士前期課程修了、同後期課程入学。同大学ライフリスク研究センター嘱託研究員も務める。