【厳選】ママスマ編集部 おすすめ書籍を紹介

新たな生活に踏み出したシングルマザーの私たち。しかし、足元を見ればお金、教育、仕事、養育費などなど、不安と悩みは尽きません。それらの悩みに対し各方面の専門家、そして先輩たちが、書籍を通してたくさんの知恵を提供してくれています。ママスマ編集部では、そんな知恵とアドバイスの詰まった書籍を厳選、内容を抜粋して紹介してまいります。

養育費を受け取っている母子世帯は24%

離婚によってひとり親世帯になった家族に対してどのように支援すればよいのだろうか。貧困に窮している者に対する政府支出が活発におこなわれていない現況において、家族・市場(職場など)・政府からいかなる施策を講じるべきか考えてみたい。

夫婦のあいだに子どもがいる場合には養育費が、生活保障の基盤の一部として挙げられる。もちろん、これは、子どもに対する生活費であって、別れた妻あるいは夫に対するものではない。また、養育費については、離婚の際に当事者の協議で決めるものの、取り決めは義務づけられていない。

我が国における離婚には4種類存在する。その一つは、「協議離婚」である。夫婦で離婚の意思を確認し、役所に離婚届を提出することを要件にする制度である。協議離婚が成立しない場合に「調停離婚」となる。家庭裁判所に介入してもらい、調停調書に記載される取り決めによって離婚が成立する。

「審判離婚」という家庭裁判所が職権で離婚を認める制度も存在はするが、外国法が関係した離婚のうち、裁判所で当事者が協議して離婚に同意したことを調書にて確認しただけでは離婚が認められず、裁判所が離婚を決定することが必要な場合に利用が可能である。調停離婚や審判離婚でも解決しない場合には通常は裁判により離婚を求めることとなる。

最後の四つ目は、「裁判(判決)離婚」である。不貞行為があった場合や配偶者が生死不明になった場合など、民法七七〇条一項が定める離婚事由が認められる場合に裁判所に離婚の判断を求める方法である。もっとも、離婚の約9割は協議離婚が占めており(厚生労働省「人口動態統計特殊報告」より)、養育費について取り決めないままに離婚する夫婦が多い。

養育費の取り決めについて、口約束や私的な書面で済ませてしまう場合が多いのだろうが、このような場合、養育費の未払いの際には相手に養育費を支払わせる法的な強制力はない。法的強制力を持たせるためには、離婚時の合意について公正証書にしておくことや、調停離婚・審判離婚・裁判離婚などで養育費について、調停調書・審判書・判決書など、きちんと形にしておく必要がある。

表6-3は父子・母子世帯の養育費受給状況についての経年変化を見たものである。離婚後から「現在も養育費を受けている」母子世帯は24.3%、父子世帯は3.2%である(2016年)。しかし、20年ほど前よりは、いくばくか受給状況が改善しているのが見られる。

なお、2011年の民法一部改正によって、第七六六条に、離婚に際して夫婦が決めるべき事項として、面会交流と養育費について明示された。条文には養育費という文言はないものの、養育費と同義とみなすことができる「子の監護に要する費用の分担」と書かれている(宮坂順子「離婚における養育費の現状と問題点」2015年)。また養育費の平均受取金額は月3万~4万円程度であるが、はたしてこの金額で子どもを養育できるのだろうか。

養育費だけでは子ども費の半分程度

日本の女性貧困層について詳しい周燕飛は「離婚と養育費」(2012年)において、2009年度の「司法統計」を用いて調停・審判離婚における養育費の取り決め額を計算したり、離別父親—すなわち離婚後、子どもと離れて暮らしている父親のことである—の支払い能力と養育費の支払い状況の関係を探っている。ここでは、周にならって、母子世帯にとっての「平均子ども費」を計算してみた。

母子・父子家庭ともに、約1.5人の子どもを養育しており、ひとり親世帯の月「平均子ども費」(食料・被服・教育費と月謝)は、約9万2000円である。したがって、きちんと支払いがなされていれば、養育費は子どもにかかる費用の半分程度を賄える。なお、周の論文同様に2016年度の養育費取り決め額を見たところ、38%が月4万円以下で、約9割において養育費の取り決め額が8万円以下である(図6-2)。

養育費算定の基本的な考え方は以下のとおりである。

「義務者」(子を監護していない親)と「権利者」(子を監護している親)、すなわち別れた夫婦の実際の収入金額を基礎として、離婚していなければ子どものために使われていたであろう生活費(周の論文では、「子ども費」と呼んだ)を計算し、これを義務者・権利者で按分し、養育費の額を決める。

もっとも、この元夫婦のどちらかが専業主婦・主夫だった場合には「潜在的稼働能力」と呼ばれる、就労歴や健康状態が考慮され、仮定として収入がある程度得られるだろうとして、専業主婦・主夫の収入を計上する場合もある。

子と離れて住んでいる親は、子に自らの生活と同等程度の生活を保持させる義務があるとする「生活保持義務」という考えが根底にあると考えられている(内田貴『民法Ⅳ』2004年)。したがって、双方が再婚したり、自分の子が養子になったり、どちらかが働けなくなったり、双方の収入が増減したり、あるいは、子どもに何かあったときなどには養育費増額・減額請求ができる。

にもかかわらず、大半のひとり親世帯はなぜ養育費を受給していないのか、あるいは子をじゅうぶんに養育できるほどもらえないのか理由を探りたい。そこで着目したいのは、養育費の取り決め状況と養育費の受給状況の関係である。

取り決めをしない割合

先ほど述べたように、離婚には「協議離婚」「調停離婚」「審判離婚」「裁判離婚」の4種類ある。表6-4、表6-5で母子・父子世帯の離婚の種類別に見た、養育費の取り決め状況と養育費の受給状況を見てみよう。

表6-5を見ると、まず父子家庭はどんな離婚の種類でも、養育費を受給したことがない人が圧倒的に多い。協議離婚の最中、養育費の取り決めをしてもしなくても、裁判所などを介したとしても、養育費をいっさい受給していない場合が多い。

これに対して、表6-4からわかるように母子家庭では、いかなる種類の離婚の場合でも、養育費の受給について取り決めをしている場合には受け取っている傾向が見られる。その一方で、養育費の受給について取り決めをしていなければ養育費を受給していないことがわかる。

なお、裁判所などを介した場合には、取り決めをしている比率は高く、協議離婚の場合には取り決めをしていない比率が高い。

当事者同士で離婚を決めるもっともポピュラーな協議離婚での、母子家庭における養育費の取り決め状況と養育費の受給状況を確認してみよう。協議離婚をした1319人のうち、養育費の取り決めをしていない人は817人と、6割を超える。このとき養育費を「受けたことがない」と答えた人はじつに8割を超え、693名にも及ぶ。

だが、事前に養育費について取り決めをした502人については、274名と5割程度は現在養育費を受給しているのである。もっとも、養育費の取り決めをしたとしても、養育費を現在受給しているのは約半数に過ぎないともいえる。

したがって、養育費の問題には二つの問題があると言えるだろう。一つ目は、養育費の取り決め自体がなされていないこと。二つ目は、養育費の取り決めがあった場合にもきちんと支払いがおこなわれていないことである。

まず、養育費の取り決め自体がなされていないという問題については、同様にして「全国ひとり親世帯等調査」(2016年)において、その理由についての質問がある。母子世帯では「相手と関わりたくない」(31.4%)と答えた者の比率がもっとも高く、これについで「相手に支払う能力がないと思った」(20.8%)となった。父子世帯では「相手に支払う能力がないと思った」(22.3%)についで「相手と関わりたくない」(20.5%)であった。

元配偶者にわざわざ会って、「公正証書」など法的効力のある文書を取り付けられる人がどれだけいるだろうか。離婚届にサインをするので精一杯、どうせ養育費は支払われないだろうとそもそも諦めている、養育費を請求しなければ子どもに会わせなくてもいいのかもと考えたなど、さまざまな原因が考えられる。このことについては、第5章「なぜ女性から言い出すのか」を参考にしてほしい。

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【著者】橘木 俊詔(たちばなき・としあき)
1943年、兵庫県生まれ。67年、小樽商科大学商学部卒業。69年、大阪大学大学院修士課程修了。73年、ジョンズ・ホプキンス大学大学院博士課程修了(Ph.D)。79年、京都大学経済研究所助教授。86年、同大学同研究所教授。2003年、同大学経済学研究科教授。この間、INSEE、OECD、大阪大学、スタンフォード大学、エセックス大学、London School of Economicsなどで教職と研究職を歴任。07年より、同志社大学経済学部教授、元日本経済学会会長。

【著者】迫田さやか(さこだ・さやか)
1986年、広島県生まれ。2009年、同志社大学経済学部卒業。11年、同大学経済学研究科博士前期課程修了、同後期課程入学。同大学ライフリスク研究センター嘱託研究員も務める。