【厳選】ママスマ編集部 おすすめ書籍を紹介

新たな生活に踏み出したシングルマザーの私たち。しかし、足元を見ればお金、教育、仕事、養育費などなど、不安と悩みは尽きません。それらの悩みに対し各方面の専門家、そして先輩たちが、書籍を通してたくさんの知恵を提供してくれています。ママスマ編集部では、そんな知恵とアドバイスの詰まった書籍を厳選、内容を抜粋して紹介してまいります。

「男はよわいよ」

さて、これまで見てきたように、どんなに仕事や家事・育児を頑張っても、別れが来てしまうときがある。すでに述べたが、離婚を言い出すのは女性が多い。

しかし、妻と夫のどちらが離婚を言い出すかということでまったく話は異なるのに、なかなかそのような点に着目した研究は少ないので、旧来離婚についての統計を扱ってきた「司法統計」を用いた分析が今後必要となってくるだろう。

個人や環境によって異なるだろうからそのまま用いることは不可能だが、ライフイベントのストレス量を得点化した研究(Holmes and Rahe, “The social readjustment rating scale”, 1967)によれば、配偶者の死をストレス100とした場合には、離婚は73だという。また、このような考えに基づいて、社会的属性とディストレス(抑うつ)の状況を探った研究(稲葉「結婚とディストレス」、2002年)によれば、離婚を切り出された方だからか、離婚のストレスは男性の方がはるかに大きい。

また、幸福感や抑うつは健康とも関係があり(Brickman et al.,“Lottery winners and accidentvictims”,1978, Lyubomirsky et al.,“What are the differences between happiness and self-esteem?”,2006,Deaton,“Income, health, and well-being around the world”, 2008)、肉体的な健康だけでなく、精神的な健康も幸福度に影響することがわかっている(Lewinsohn et al., “Natural course of adolescentmajor depressive disorder”,1999)。

独身者、既婚者、離婚者のあいだで幸福感がどのように違うのか、その差を調べた場合には既婚者の幸福度が高いことや離婚者の幸福度が低いことがわかっている(Veenhoven,“Is happiness a trait?”,2005, Diener,“Subjective well-being”, 2000, Frey &Stutzer,“What can economists learn from happiness research?, 2002, Frey, Happiness, 2008)。国民性によっても大きな違いが見られるはずだが、アメリカ・イギリス・ドイツ・フランス・日本における各国の国民性を踏まえたうえでの分析において、5ヵ国共通して、結婚していることが幸福度に大きな影響を与えていることを明らかにしている(Tachibanaki & Sakoda,“Comparative Study of Happiness and Inequality in Five Industrialized Countries”,2016)。

近年、疫学的な観点から健康と幸福度の研究が盛んにおこなわれており、離婚は心身の健康にも影響をもたらすし(Amato, The consequences of divorce for adults and children, 2000)、結婚している人とくらべれば、離婚者は幸福感や自尊心が低く、強い抑うつの傾向が見られるという(Amato & Booth, Changes in gender role attitudes and Perceived martial quality, 1995)。

毎週食べる野菜の量は、男女ともに結婚すると増え、離婚もしくは伴侶と死別すると減るし、男性は離婚や死別によって飲酒量が増え、女性は飲酒量が減ることがわかっている(カワチ『命の格差は止められるか』、2013年)。

夫が稼ぎ手だから、妻が夫の心身の健康状態を管理してあげればよいかというと、これもバランスが大事である。

日本の男性の長時間労働者の割合は、女性と比較しても高く、また先進国と比較しても高い。「男は仕事、女は家庭」という規範ゆえに、男性が長時間労働をすると、てきめんに心身の不調や循環器疾患のリスクを上昇させる(岩崎『長時間労働と健康問題』、2008年)。

低賃金で雇用が不安定な非正規労働に就業している男性の精神健康は損なわれ、「男性稼ぎ手モデル」が残存しているために葛藤を招き、精神状態が悪いとも言われている(本庄・神林『ジェンダーと健康』、2015年)。

しかし、残念なことに、これも男女差が大きい。配偶者と死別した女性の死亡リスクは、配偶者と死別していない女性と比較して差が見られないが、男性では、死別者の死亡リスクは、死別していない者とくらべると格段に高いことがわかっている(Ikeda et al., “Martial status and mortality among Japanese men and women” 2007, Moon et al., “The effectsof divorce on children” 2011)。

「2016年人口動態調査データ」のうち、男性45~64歳の「15歳以上の性・年齢・配偶関係・死因(選択死因分類)別死亡数」を用いて、有配偶者と比較して未婚・死別・離別者らの病気罹患による死亡率がどれくらい違うかを示している図8-2を紹介したい(荒川和久「なぜ『離婚男性』の病気死亡率が高いのか」2018年)。これを見ると、ほぼすべての死亡原因について、離別男性の病気罹患による死亡率が高いことがわかる。とりわけ、糖尿病については、有配偶者とくらべて12倍、肝疾患は9倍も死亡率が高い。

あなたの再婚は記憶力の欠如から?

さて、これまで述べてきたように、ひとり親世帯の男性は家事に悩み、女性は金銭問題に悩んでいる。

とりわけ男性は、離婚すれば幸福度は下がり、抑うつ状態になり、食生活はガタガタ、結果として病気になりやすく、早死にする確率まで上がるという、何とも悲惨な話である。

そこで、男性にとっては家事の担い手を得られるし、女性にとっては貧困・低所得から脱却する道となる再婚を望む人は多いのではないだろうか。

フランスの劇作家アルマン・サラクルーは「判断力の欠如によって結婚し、忍耐力の欠如によって離婚し、記憶力の欠如によって再婚する」と述べた。「もうアンタの顔なんて見たくない」と家族をやめたのに、もう一度結婚するのは、どのようなメリットを感じているためだろうか。お金だろうか、心理的な幸せだろうか、はたまた結婚しているという社会的な信用からだろうか。結婚しなくていい時代に、結婚して離婚して、そして再婚する理由とは何だろうか。

アメリカではすでに活発におこなわれている再婚研究であるが、我が国ではデータの制約が大きいために再婚行動について把握することができていなかったが、再婚行動の研究も進みだした。この再婚という行動はじつに興味深い。もう一度パートナーを得たいのはなぜだろうか。結婚同様に、やはり、再婚も経済的なメリットをもたらすのだろうか。

「結婚は2回目から」

永井暁子「未婚化社会における再婚の増加の意味」(2010年)は、再婚の特徴を五つ挙げている。第一に、女性よりも男性のほうが再婚しやすい。これは、第1回、第2回、第3回全国家族調査を用いたS. Tanaka の論文“Gender gap in equivalent householdincome after divorce”(2013)でも同様に、女性の再婚率が29~30%程度であるのに対して、男性は44~59%と男性の再婚率は女性よりも高いことを示している。

第二に、離婚後4年以内に再婚する人は再婚者のうち63.8%であり、離婚から再婚までの期間について男女差は見られない。第三に、再婚時の平均年齢は、初婚年齢の男女の年齢の違いとほぼ同じである。第四に、男女共通して、20代で離婚した者の再婚割合はひじょうに高い。最後に第五として、離婚時に子どもがいる場合の女性の再婚割合は低い。思春期に差し掛かる子どもがいる場合には再婚が控えられることが見られる(余田「再婚からみるライフコースの変容」、2014年)。

しかし、男性では子どもの存在は逆│すなわち、子どもがいれば再婚しやすいということである。離死別時に未成年の子どもがいれば、すなわち前妻との子どもを引き取った場合には、家事や育児をともにおこなうパートナーを得るために再婚する確率が高くなるのである(福田亘孝「配偶者との別れと再びの出会い」、2009年)。

離婚の三つのメカニズムのうち、情報の非対称性が離婚の原因ならば、離婚者同士の再婚は初婚者の結婚よりも、良い相手に合う可能性は低くなるだろう。就活市場での学歴と同様にして、離婚経験がシグナルを持ってしまうためである(初婚年齢が上昇したり、未婚化の進む現在でも、一定年齢以上で未婚であることもシグナルを持つ)。

誰でも再婚して幸せであるならば問題ないだろう。なお、再婚することによって男性はストレスを感じなくなり、女性はストレスを感じているという(稲葉「結婚とディストレス」、2002年)。

しかし、余田翔平「再婚からみるライフコースの変容」(2014年)における分析結果によれば、近年、「離死別者の非再婚化」が進んでいるという。これまで見てきたように、家族を持つ・持たないの選択肢が広がったなかで誰もがその自由を享受できていないように、再婚する・しないにも格差が生じてしまっている。誰の再婚が進んでいないかというと、低学歴の男性である。学歴が低いために、不安定雇用にしか就けず、家族を失い、再婚できないままというわけである。

先ほど、男性にとって結婚はメリットだったと述べたが、さらに言えば、筒井淳也『仕事と家族』(2015年)によって、特に高齢期男性の主観的健康状態の向上にとって再婚が大きな効果を持っていることがわかっている。したがって、男性にとって結婚はメリットがある│もっとも、ここまで未婚化・離婚化した社会であれば「あったのである」の方が適正かもしれない。

女性も働くようになって、それとともに家族の意味が変化して、家族という人間のつくり出したすばらしい文化の一つを享受することができなくなってしまった男性群が生まれた。

家族が不平等を拡大する時代

かつて、家族は世の中の不平等を均等化する機能を持っていたのに、産業構造が変化し、それにともない、家族のあり方も変わった結果として、社会的な立場が弱い人が家族による恩恵を受けられず、家族が不平等を拡大する力さえ持ってしまった。

さまざまなことを考慮するに、以前のような「男性稼ぎ手モデル」を実現する社会を望むのは厳しいだろう。それは「性別役割分業」の終焉を意味することだが、男性はそれを悲観することはない。家事など家庭内の責任について再度考えることによって、家族と職業の新しい関係を構築することが可能となる。

男性稼ぎ手モデルに沿った制度や慣行は、いまだ日本の社会保障制度で有利になるように設計されている。

しかし、これまで述べた通り、男性に任せっぱなしの「男性稼ぎ手モデル」では、│大げさに言えば│男性の心身の健康を損なう。献身的に夫の心身健康状況を気遣ってくれる女性を妻とすればよいのかもしれないが、仕事がなくなれば妻はいなくなり、家庭もなくなるリスクも高いし、家庭がなくなれば病気になるし、早死にするリスクまで高くなるのだ。お金があれば再婚できる確率も高まるが……記憶も新しいままふたたび忍耐力の欠如で離婚してしまったら……?

我々を取り巻く社会制度が、我々の意識に追いついていない面は否めない。結婚制度にまつわる問題は女性の生き方特有の問題だと思わず、男性の心身の問題でもあるとして取り組むべきではないだろうか。

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【著者】橘木 俊詔(たちばなき・としあき)
1943年、兵庫県生まれ。67年、小樽商科大学商学部卒業。69年、大阪大学大学院修士課程修了。73年、ジョンズ・ホプキンス大学大学院博士課程修了(Ph.D)。79年、京都大学経済研究所助教授。86年、同大学同研究所教授。2003年、同大学経済学研究科教授。この間、INSEE、OECD、大阪大学、スタンフォード大学、エセックス大学、London School of Economicsなどで教職と研究職を歴任。07年より、同志社大学経済学部教授、元日本経済学会会長。

【著者】迫田さやか(さこだ・さやか)
1986年、広島県生まれ。2009年、同志社大学経済学部卒業。11年、同大学経済学研究科博士前期課程修了、同後期課程入学。同大学ライフリスク研究センター嘱託研究員も務める。