元配偶者からの養育費の支払いが止まっていているという人は、お子さんのこれからの日常生活や教育のためにも、本来受け取れていたはずの養育費はしっかりと取り戻したいところですよね。養育費は法的な手段である「強制執行」で取り戻すことができます。本記事では、養育費を強制執行するときに必要な準備、具体的な流れ、費用について説明していきますので、ぜひ参考にしてみてください。

監修:弁護士 白谷 英恵

養育費が継続的に支払われている人はたったの24%。書面を交わしても支払われていない現状があります。

●養育費を確実に受け取りたい
●パートナーと連絡を取りたくない
●未払いが続いた時の手続きが心配

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養育費未払いは「強制執行」で回収できる

離婚のときに養育費の取決めをきちんとしていたにもかかわらず、支払いがとまってしまったというケースは少なくありません。平成28年度の「全国ひとり親世帯等調査結果報告(※)」でも、養育費を受け取っている母子家庭は24.3%という結果となっており、問題なく養育費を受け取ることができているケースは思いのほか少ないことがわかります。

養育費の未払いがある場合、強制執行という法的な手段によって、未払いの養育費を取り戻せる可能性があります。そもそも強制執行とは、決められた日までに債務(お金などを払わなければならない義務)を履行しない相手に対し、裁判所などの公的な機関を通して強制的にお金などを回収する手続きのことです。

未払いの養育費についても、この強制執行の対象になることが決められています。未払いが続く場合や、元パートナーと連絡を取りたくない場合などは強制執行を行います。

なお、裁判所が関与する養育費の支払いを促す制度として、「履行勧告(りこうかんこく)」、「履行命令(りこうめいれい)」があります。履行勧告とは、裁判所から養育費を支払うように催促をすることで、履行命令とは、支払うよう命令をだすことです。履行勧告や履行命令を経ても元パートナーが養育費を支払わない場合は、強制執行によるほかありませんが、履行勧告や履行命令を経ることは強制執行申立ての条件ではないので、これらの制度を経ずにいきなり強制執行を申立てることも可能です。

※参考:厚生労働省 – 全国ひとり親世帯等調査結果報告P56

法改正によって強制執行を行いやすくなった

これまでは強制執行で養育費を取り戻すことは難しいケースがあり、中には泣き寝入りとなってしまった人も少なくありませんでした。強制執行を行うことができなかった理由として、相手がどれだけ財産を持っているか分からないこと、勤務先や預金口座のある銀行の支店が分からないことなどがありました。

しかし、民事執行法という法律が改正されたことで、現在は養育費の強制執行をしやすくなっています。具体的には、民事執行法の改正によって「財産開示手続き」という制度の内容が変わり、以前は実効性が薄いとされていた手続きの内容などが見直されました。財産開示手続きとは、相手を裁判所に呼び出して、どれくらいの財産を持っているか聞く手続きのことで、これに相手方が応じない場合の相手方の罰則が強化された(懲役刑が科される可能性が出た)ため、相手方にかかる心理的圧力が大きくなり、より実効性が期待できる形に変わったのです。

また、「第三者からの情報取得手続き」という制度も新しくできました。判決等の債務名義に基づき裁判所に申立て行うことにより、①市町村や年金事務所等に対して相手方の勤務先に関する情報や②銀行等の金融機関対して相手方の預貯金残高に関する情報をそれぞれ提供するよう命じる決定を裁判所に出してもらうことにより、相手方の勤務先や預貯金残高を把握することが可能となっています。

これまでの法律では把握することが難しかった「どれくらいの財産があるのか」「勤務先や預金口座のある支店はどこなのか」が分かるようになったことで、強制執行を行いやすくなっています。

ただし、強制執行は「だれでも行うことができる」というわけではありません。強制執行を行うには事前の準備が必要です。次章で詳しく説明していきます。

強制執行をする前に準備しておくべき3点

以下の3点を準備していることが、裁判所に強制執行を認めてもらうためには必要です。ひとつずつ説明していきます。

「債務名義」を取得する

まず、強制執行を行うには「債務名義」と呼ばれるものが必要です。債務者(お金などを払わなければならない義務がある人)に対して、裁判所の強制執行を許可する文書のことを債務名義といいます。養育費の強制執行の場合、以下のものを債務名義とすることが一般的です。(いずれの債務名義も養育費の支払給付を認める記載がなされているものが必要となります。)

・公正証書
・離婚調書
・審判書
・和解調書
・判決書

なお、公正証書については、「強制執行認諾文言付き」の公正証書でなければ強制執行を行うことはできません。強制執行認諾文言とは、「支払いをしなかったら、強制執行されることを受け入れます」という文章です。この文章のない公正証書では強制執行を行うことはできません。

元配偶者の現住所を把握する

元配偶者の現在の住所を調べることも必要です。調べる方法としては以下があります。

【戸籍の附票を取る】
戸籍の附票とは、本籍地の市町村役場にあるものです。戸籍に入ってから現在までの住所が書かれていますので、相手方の現在の住所を知ることができます。「結婚していたときの戸籍=自分の前の戸籍でもある」ことから、相手方の戸籍の附票を取得することが認められています。

結婚していたときと、相手方の本籍地が変わっていない場合には戸籍の附票を取ることはひとつの方法です。

【住民票を取る】
住民票から引っ越し先を調べることもできます。住民票は本来、同一世帯の人しか取ることができませんが、「正当な理由」があれば取得できる可能性があります(これを「第三者請求」などといいます)。

ただし、正当な理由を証明するための書類が必要です。結婚していた事実がわかる戸籍謄本や、養育費の請求が可能な根拠資料(上記の「債務名義」)や、未払いがあることを証明するための資料(振込先として指定した通帳の記帳内容等)を準備しておきましょう。

【不動産登記簿を見る】
不動産登記簿は、だれでも見ることができます。もしも相手方が不動産を持っていて、その場所が分かる場合、不動産登記簿を見るのもひとつの方法です。不動産登記簿には所有者の登録住所が記載されていますので、相手方の現在の住所が分かる可能性があります。ただし、登録住所と実際の住所が違う場合もあるため注意が必要です。

不動産登記簿は法務局の窓口で取得できます。そのほか、インターネット上でも登記情報を取得できるサービスが存在します。

元配偶者の財産情報を把握する

強制執行を行うには、元配偶者の財産情報を把握する必要があります。強制執行を行っても、相手方に未払いの養育費を払えるだけの財産がなければ、未払いの分を取り戻すことはできません。その場合、強制執行の費用だけがかかり、マイナスになってしまいます。

また、相手方のどのような財産を未払い分として取立てるかは、自分で決める必要があります。仮に預金口座から取立てることにしても、強制執行した預金口座に現金が入っていない可能性があります。このようなことがあるため、相手方がどのくらいの財産をもっているのかを把握しておくことは必要です。

強制執行によって差押えられる財産

強制執行では、「差押え」という方法で養育費を取立てていきます。ここでは、差押えとはどのようなものかにくわえ、差押えができる財産について詳しく説明していきます。

そもそも「差押え」とは?

差押えとは、国家権力によって、債務者が持っているお金や財産の処分を禁止することです。勝手にお金を使ってしまったり、財産を手放したりすることのないよう、債務者の動きをストップさせます。債権者(お金を受け取る権利のある人)が、裁判所に申立てを行うと、差押えが実行されます。

差押えできるもの

差押えの対象になるものとしては、「債権」「動産」「不動産」があります。それぞれ具体的にみていきましょう。

・債権
債権とは、「第三者に対してもっている権利」です。たとえば、勤務先からの給与や銀行に預けている貯金などが債権にあたります。

・動産
骨とう品、ブランド品、株券のほか、現金も動産のひとつです。

・不動産
相手の名義の家や土地、建物などを指します。

差押えできないものもあるので注意

民事執行法の131条では「差押禁止動産」が決められており、たとえば、生活に欠かせない家電、衣服、寝具などは差押えができないことになっています。工具など、その人が仕事をするときに必要なものも差押えできません。また、66万円までの現金も差押えできない範囲です。

さらに、債権についても「差押禁止債権」があります。債権には給与があると説明しましたが、給与を差押える場合、税金や社会保険料を差し引いた金額のうち、原則として、4分の3は差押え禁止です。ただし、これは通常の差押えの場合で、養育費の未払いのための差し押さえの場合は2分の1までが差押え禁止となり、通常よりも差押えられる金額が多くなります(手取金額が66万円を超える場合には、33万円を超える部分の全額が差し押さえできます)。

強制執行の必要書類と費用

本章では、強制執行を行うために必要な書類、費用について説明してきます。

【強制執行の必要書類】
・債務名義の正本
繰り返しとなりますが、債務名義になる書類が必要です。強制執行認諾文言付きの公正証書のほか、離婚調書や審判書、判決書などがあります。公正証書は作成した役場でもらうことができます。また、公正証書以外の書類は、利用した裁判所でもらえます。

・執行文
債務名義が和解調書、判決書、公正証書の場合は、これらの書面を作成した裁判所または公証人役場(公正証書について)において執行文の付与を受ける必要があります。

・確定証明書
審判書や判決書を債務名義とする場合、「確定証明書」も必要です。確定証明書は、審判や判決をした裁判所に申請をして取得します。

・債務名義正本の送達証明書
債務名義が相手方に送られたことを証明する書類が、「送達証明書」です。債務名義を作った裁判所や公証人役場でもらうことができます。

・法人の資格証明書
給与を差押えるとき、相手方の勤務先が法人の場合だと「法人の資格証明書」が必要です。相手方の勤務先の登記事項証明書、もしくは代表者事項証明書がそれにあたります。最寄りの法務局でもらうことができるので、問い合わせてみてください。発行日から3カ月以内のものを提出します。

・自分の住民票、戸籍謄本
転居して、債務名義に書いてある住所と現在の住所が違う場合は、住民票が必要になります。また、債務名義に書いてある氏名と現在の氏名が変わっている場合は、戸籍謄本が必要です。どちらも市町村役場でもらうことができますが、発行日から1カ月以内のものが必要ですので、日付に注意してください。

参考:裁判所 – 扶養義務(養育費・婚姻費用等)に係る債権差押命令申立ての説明

以上が必要な書類です。次に費用もみていきましょう。

強制執行には、原則、手数料として4,000円分の収入印紙が必要です。

また、裁判所から相手方に書類を送るための切手である、「予納郵便切手」も必要です。裁判所によって異なりますが、第三債務者(相手の勤務先等差押えの対象)が1名の場合は3,000円から4,000円程度が一般的な費用となります。

養育費未払いによる強制執行の流れ

本章では、強制執行をどのように進めていくのか、実際の流れについてみていきましょう。必要な情報や書類が準備できたら、次の流れで強制執行を行うことになります。

強制執行申立書を作成する

まず、強制執行申立書を作成することから始めます。強制執行申立書は自分で作成していきます。以下の内容を記載します。

・債権差押命令申立書表紙
・当事者目録
・請求債権目録
・差押債権目録

裁判所のホームページにそれぞれの記載例がありますので、参考にしてください。

参考:裁判所 – 扶養義務(養育費・婚姻費用等)に係る債権差押命令申立ての説明

強制執行申立書を作成したら、裁判所に必要書類と合わせて提出し、申立てを行います。自分の住所地の裁判所ではなく、相手の住所地を管轄する裁判所になりますので、注意しましょう。

裁判所から差押え命令が出される

それぞれの書類に不備がなく無事に申立てが終わると、裁判所から相手の勤務先や預金口座のある銀行に差押え命令が出されます。差押え命令が出されたあと、ご自身の所には「送達通知書」「陳述書」と呼ばれるものが届きますので、到着を待ちましょう。

送達通知書には、差押え命令が出された日にちが記載されています。この日にちから一週間が経つと、差押え先の相手の勤務先や銀行に取立てを行えるようになります。また、陳述書には差し押さえができた金額などが記載されていますので、合わせて確認をしてください。

自分で取立てを行う

差押え命令が出された日から一週間たったら、実際に取立てを行っていきましょう。初めてのことだと不安になるかもしれませんが、取立てに際してやり取りをするのは差押え先の相手の勤務先や銀行ですので、直接、相手方へ取立てを行うわけではありません。ご自身で連絡を取り、取立てのやり方などについて話し合います。

裁判所へ債権取立届を提出する

養育費の未払い分を取立てできたら、裁判所へ「債権取立届兼取下書」を提出します。おもに次のものを記載します。

・提出する日にち
・債権者である自分の名前と押印
・債務者である相手方の名前
・第三債務者である勤務先や銀行名
・取立てをした日にち
・取立てた金額

強制執行すると、一度に全部の未払い分を回収できることもありますが、給与の場合は継続的に差押えていくことになります。また、すべての金額を回収できずに、一部を回収して残りを取下げる場合も考えられます。

債権取立届には、「全額回収した」「継続している」「残額については取下げる」の3つの項目が用意されています。あてはまるものに〇をつけましょう。また、継続的に給与を差し押さえる場合は、差押えるたびに提出が必要になります。

参考:裁判所 – 債権者の方へ(注意書)

養育費を強制執行で回収できないケース

養育費を強制執行で回収できないケースもあります。どのようなケースだと回収できないのか、確認していきましょう。

差押えたあとに元配偶者が退職した

差押えたあとに、元配偶者が退職してしまった場合、強制執行で給与から回収することができなくなります。退職をしていて相手方の勤務先と雇用関係が切れていれば、差押えの効果はなくなります。最後の給与も払いきっていれば差押えられる給与がありません。

また、相手方が転職している場合、新しい勤務先には差押えの効果はありませんので、新しく転職先に差押えの手続きを行うことになります。

差押えたものの口座にお金がなかった

預金口座を差押えても、そもそも預金口座にお金がなかったら取立てることはできません。差押えを確実に行うためには、預金口座にどれくらいの現金が入っているかを把握しておくことが必要です。上でも説明したように、民事執行法の改正で相手方の財産は把握しやすくなっています。

しっかりと財産情報を把握して、タイミングにも気を付けながら、強制執行の手続きを取っていきましょう。

元配偶者の実際の居場所が不明

強制執行は、相手方の居場所が分かっていないと行うことができません。どうしても調べられないケースもあれば、手間や費用をかけて調べたにもかかわらず、強制執行されることを想定して逃げていなくなってしまう可能性も考えられます。この場合も、強制執行で養育費を取り戻すことは難しいでしょう。

このように、強制執行でも養育費を取り戻せないケースがあることを知っておいてください。

お子さんの権利である養育費は強制執行で取り戻そう

養育費は、お子さんの生活のためにもこれからの教育費のためにも必要なお金です。未払いの養育費については強制執行で取り戻せる可能性があります。法的手続きということで抵抗があるかもしれません。しかし、お子さんの正当な権利ですので、未払いが続いているときは、強制執行で取り戻すことも考えてみましょう。強制執行には、前もって必要な情報や書類があります。強制執行を考える場合は、本記事を参考に、準備を始めてみてください。


白谷 英恵

【監修】白谷 英恵
弁護士。神奈川県弁護士会所属。同志社大学商学部卒業、創価大学法科大学院法学研究科修了。離婚・男女問題、相続問題などの家事事件を中心に、交通事故や刑事事件など、身近な法律問題を数多く取り扱う。家事案件をライフワークとして、役所での女性のための相談室の法律相談員や弁護士会での子ども人権相談の相談員、相続セミナーなどにも積極的に取り組む。

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