離婚の理由はさまざま。そして、その後の人生も、選択と決断の毎日です。先行きに不安を覚えたり、失敗して落ち込んだりすることもあるかもしれません。少し息詰まってしまったら、この企画に相談にいらっしゃいませんか?自ら5人の子どもを育て上げた日本シングルマザー支援協会代表の江成道子さんが、本音で、真剣に、あなたの悩みに答えます。

今回は、父親の不在を子どもに対して申し訳なく感じてしまうというママからの相談です。「私もそう感じていた時期がありました」と語る江成さんは、どのようにそこから抜け出したのでしょうか?今回のお話のキーワードは、「視点を変えること」です。

今月の相談:父親がいないことに、子どもが嫌な思いをしていないか……毎日不安です

5歳の息子がいるシングルマザーです。息子が3歳の時に離婚し、2人で暮らしています。

最近になって、子ども同士の会話のなかで「〇〇くんちはなんでいつもお母さんなの?」「〇〇くんのお父さん、見たことない」など、息子が父親の存在を友達から聞かれるようです。公園などで遊んでいても、両親揃って遊んでいる子を、息子が楽しそうに見ているように思えます。子どもは平気なフリをしているように見えますが、本心はわかりません。

私も保育園の行事や休日の公園などで、両親が揃っている家庭を見ると息子に申し訳ない気持ちになってしまい、本人が寂しい思いをしていないか心配になってしまいます。この出口がない気持ち、どうしたらいいでしょうか。

▽相談者の情報
・離婚/・現在の職業:会社員/・年齢:33
・子どもの数(性別・年齢): 1人(息子5歳)

回答:あなたが抱く不安や不満が、子どもに投影されています。その正体を見極めて

子どもが小さい時に離婚をされた方なら、多くの方が感じることだと思います。公園だけでなく、買い出しに行く休日のスーパーもそうですよね。両親が揃っている家庭を見ると、自分だけ欠けているような、孤独な気持ちになってしまう。かつて私もそう感じたことがありました。

どの視点から見るかで物事の受け取り方は変わります

そう感じつつ、学校の行事などに夫婦揃って参加している人たちをじっと観察してみたことがあります。すると、会話どころか目も合わせない夫婦もちらほら。あちらはふたり、こちらはひとり、という視点だと孤独を感じるけれど、家族仲という視点で見ると私は孤独ではない。そう強く感じたことがありました。

お子さんがお友達からお父さんについて尋ねられるとのことですが、子どもはちょうどこれくらいの年齢から、自分と他人の違いを少しずつ認識し始めます。

それまでは自分を取り巻く小さな世界がすべてですから、お子さんにとっては、お父さん不在の生活が「当たり前」です。そして、お友達のお家もお父さんとお母さんがいるのが「当たり前」ですから、その違いが疑問となって、ただ単に言葉として出ているだけだと思われます。成長の過程で現れる、自然な行動と捉えた方がいいでしょう。

このように、物事をどんな視点で見るかで起こったことの受け止め方はまったく異なりますが、今の相談者さんは何を見ても「子どもが寂しそう」に見えてしまう視点になっているのではないかと感じます。

自分で離婚を選んだ人は意外とせいせいしているものですが、相談者さんは離婚したことをまだ受け入れられていないのかもしれませんね。離婚しなければ自分が手に入れていたはずのものを思い描いて、それを自分以外の人たちは持っていると錯覚してしまう。その不安や不満によって、お子さんが寂しそうに見える視点をつくっているように見えます。これを機に、相談者さんの不安や不満の正体は何なのか、自分と向き合って感じ取ってみましょう。

思考の深堀りをし、人の視点を借りて自分を客観視する

人はそれぞれ多様な価値観を持っているとともに、こうする「べき」という強い思い込みに囚われていたりもします。

以前協会に相談に来られた方で、一軒家に住んでいるお友達が多く、自分だけアパートに住んでいることが悩みだというお母さんがいらっしゃいました。話を聞くうちに、彼女自身が「家族は一軒家に住まうべき。アパート住まいはみすぼらしい」というイメージを強く持っていることがわかったのです。これが彼女の悩みの原因、不安や不満の正体でした。

悩みの原因が自分の思い込みによるものだと分かれば、それを手放せばよいですし、ゆずれない自分の理想だと思うなら、現実とのギャップを埋めるよう行動に移すこともできます。どちらにしても、出口のない気持ちから抜け出す足がかりになりますね。

具体的な方法としては、以前もこの連載でご紹介した「3度自分に問いかける」という方法と、「身近な人に話を聞く」という2つがあります。前者は、「父親がいないことを申し訳なく思うのはなぜか」という問いに簡単に答えを出してみて、「それはなぜか」を2度繰り返すことで思考を深めていきます。すると、過去に親御さんが「ひとり親の子はかわいそうだ」という話をしていて、いつしかその価値観が刷り込まれていた、ということに気づくかもしれません。

身近な人に話を聞く場合は、できれば相談者さんを昔から知っている信頼できる友人を話し相手に選びましょう。「私、父親がいないことをいけないことと思い込んでいるみたい」と話してみると、「そういえば、昔同じような話をしていたよね」と、会話から自分が抱く思い込みや価値観に気づけることがあります。

自分がどんな言葉をよく口にしているか、口癖も聞いてみてください。「でも」が多い人は、できない理由を探しがちだったりします。意外な答えに思わず否定したい気持ちになるかもしれませんが、そこはぐっと我慢して冷静に受け入れましょう。身近にいる人は、案外本人より的確にあなたの人物像を把握しているものです。

こうした作業を通じて、「なんだ、そんなことに囚われていただけなんだ」と思えればそれでいいですし、手に入れたいものを突き止めることができたら、あとは行動に移すのみ。収入が心もとないという経済的理由が根本にあれば転職を考えてもいいですし、やはりパートナーという存在が必要ということであれば、再婚を考えるのもいいでしょう。

子どもの訴えは、子育てが成功している証と受け止めて

仮にお子さんが寂しさを抱えていたとして、相談者さんに「寂しい」「どうしてうちにはお父さんがいないの?」と訴えてきたら、申し訳なさよりも、今の親子関係がうまくいっている証拠だと思ってください。5歳であれば人の感情を察知し、気遣いができるようになってくる年ごろです。お子さんが「お父さんの話を出すとお母さんが悲しむ」と遠慮していれば、そのような言葉は出てこないでしょう。

「どうして」には、「一緒に暮らせなくなったから、別々に暮らすことにしたんだよ」とありのままを伝えればいいだけです。ややこしい大人の事情は成長とともに自然と理解していきますから、無理に説明する必要もありません。面会交流の予定があれば、「この日にお父さんに会えるね、楽しみだね」と話してもいいですね。

何ごとも隠さずきちんと話すことで、お子さんも「お母さんから信頼されている」と感じることができます。

お母さんの笑顔が子どもの幸せ。できることから一歩踏み出して!

ここまでいろいろお伝えして来ましたが、ただひとつ言えるのは、あなたと一緒にいるだけでお子さんはいつも幸せということ。あなたが笑顔なら、お子さんはそれが一番うれしいのです。

笑顔でいるために、今の自分に何が必要なのか。ぜひ自分と向き合い、信頼できる人との会話の時間を持って、探ってみてくださいね。

江成道子

江成道子
一般社団法人 日本シングルマザー支援協会 代表理事。シングルマザーサポート株式会社代表取締役社長、一般社団法人グラミン日本顧問、武蔵野学院大学講師。自らシングルマザーとして5人の姉妹を育てながら、シングルマザーの自立支援活動を続ける。講演多数。
一般社団法人 日本シングルマザー支援協会