離婚の理由はさまざま。そして、その後の人生も、選択と決断の毎日です。先行きに不安を覚えたり、失敗して落ち込んだりすることがあるかもしれません。少し息詰まってしまったら、この企画に相談にいらっしゃいませんか? 自ら5人の子どもを育て上げた日本シングルマザー支援協会代表の江成道子さんが、本音で、真剣に、あなたの悩みに答えます。

今回は、娘さんが学校に行きたがらなくなってしまった、というママからの相談です。相談者さん自身、なんとなく原因は自分の接し方にあるのではないか、という気もしているようです。子どもへの対処や向き合う時の心構え、実際にあった事例についても教えていただきました。

今月の相談:最近、子どもが学校に行きたがりません

1年ほど前に離婚しました。離婚後は「ひとり親でも立派に育てないと」というプレッシャーがあり、つい子育てが厳しくなってしまっている自覚があります。

そんななか、最近になって上の娘が「学校に行きたくない」と言うようになりました。理由を聞いても「ただ授業がめんどくさい」と答えるので、叱って行かせていましたが、ここ数週間でついに泣きながら行きたくないと訴えるようになりました。

新学期も始まったばかりのタイミングで休ませてしまうとこのまま不登校になるのでは?と心配です。このまま登校させるべきなのか、少し休ませて様子を見るべきか、どちらがいいのでしょうか。

▽相談者の情報
・離婚/・現在の職業:会社員/・年齢:40歳
・子どもの数(性別・年齢):2人(娘10歳・3歳)

回答:一度学校を休ませてください。そして親子の対話の時間を持ちましょう

結論から言うと、学校を休ませてあげるべきだと思います。一般的に、不登校の原因は大きく次の3つに分けられます。

①発達の問題で学校生活への適応が難しい
②学校教育が合わない
③家庭内コミュニケーションの過不足

ひとり親というプレッシャーからつい厳しくしてしまうということなので、今回は③のコミュニケーションの問題と仮定して、話を進めていこうと思います。

子どもは「迷惑をかけている」という罪悪感を持ちやすい

相談者さんが、どのような厳しさで娘さんに接しているか気になるところです。しつけの厳しさとは違う、「どうしてあなたはそうなの」「こんなこともできないの?」という声かけをしてはいないでしょうか。

このような声かけが続くと、子どもは「自分はお母さんから信用されていない」と感じるようになります。世界で最も信用している大人である母親から信頼を得られないことは、子どもにとってある意味絶望に等しいんですね。自己肯定感を大きく損なう原因にもなります。

自分のことでイライラしている母親の姿を見て、自分は嫌われている、迷惑をかけていると罪悪感を感じてしまうと、子どものメンタルはどんどん削られていく。どうしたらいいかわからなくなって次第にやる気を失い、結果学校にも行けなくなることがあります。

離婚後の1年で急に厳しくするようになったのだとしたら、娘さんの中に整理できない感情が溜まっているのかもしれません。学校を休ませ、相談者さんも丸1日休みを取って、ゆっくり向き合い、対話する機会を持ってもらいたいと思います。

厳しくしすぎたと思うなら、反省としてその気持ちを伝え、娘さんがどのように感じていたのか問いかけてみてください。10歳であれば、「迷惑をかけていると思っていた」「寂しかった」など、何かしらの感情を伝えてくれるでしょう。

その気持ちを「そんなこと」と否定せず、疲れているなら少し学校を休もうか、という話をしてもいいと思います。このまま学校に行けなくなるのでは……という心配もあると思いますが、学校を1週間休むくらいなら大きな問題はないでしょう。これまでの経験からしても、こうした機会を持って休息を取れば、学校に行けるようになる場合が大半です。

目の前の子どもが何を感じているのか、じっくりと聞いて感じ取ってあげれば、親子ですからきっと本音が見えてきます。

「要求」は「本音」ではないことも。向き合い本音を感じ取って

子どもの行動が、要求と直結しているとは限りません。子ども自身も、何が自分の本音なのかわかっていないことの方が多い。現状をどうにかしたいという必死の訴えが、学校に行きたくないという形で表出している可能性があります。

とある事例をお話しましょう。ちょうど同じ年頃の娘さんを持つ母親が、不登校の娘の暴力や自傷行為に悩み相談に来られました。母親が仕事に出ようとすると、「出かけるなら死んでやる!」と刃物で体を傷つけてしまうので、仕事にも行けなくなってしまったとのこと。こうして相談している間も、家で何が起こっているか気が気じゃないという状況でした。

事情をさかのぼって聞いていくと、離婚の際に兄妹と離ればなれになったことがわかってきました。もしかしたら、その子は「お母さんに捨てられる」という不安を抱いているのかもしれない。そう思った私は、家に帰ったらすぐに娘さんをぎゅっと抱きしめて、「あなたのことがすごく大切なの。あなたと一緒に楽しく暮らしたいの」と言ってあげて、とアドバイスし彼女を見送りました。

その2週間後に改めて話を聞くと、なんとその1回で劇的に関係が改善したそうです。娘さんは抱きしめられた後、「どうしてもっと私を信じてくれないの」と言ったといいます。1年経つ頃には仕事はもちろん旅行にも行けるようになり、お母さんは「『家から出るな』という要求に応えた訳ではないのに、どうしてでしょう」と不思議そうにしていました。

おそらく「いつかお母さんも私の前からいなくなってしまうのでは」という娘さんの不安、本音に気づくだけで十分だったのだと思います。

子どもに寄り添い、信じることは、あなただからできること

シングルマザーの子どもが不登校になった場合に一番怖いのは、貧困の可能性です。子どもが心配なあまり母親も家を出られなくなると、収入が断たれてしまいます。

親子で対話をした時に、「学校を休むのは構わないけれど、生活があるから私は仕事に行かなくちゃいけない。ひとりで過ごすためにはどうしたらいいかな」というところまで話ができるといいと思います。安全に過ごせるよう、いくつかのルールを決めて、娘さんを「信用」して家を出ましょう。

かつて、私の娘も一人不登校児でした。保育園の頃から環境変化に適応するのが難しい様子で、世の中のストレスと自分のストレスが違うことに気づいたのが、小学校の高学年くらい。

中学で定期テストと友達とのケンカが引き金になって、1年生の2学期から不登校になりました。2年生では登校しないまま終わり、3年生でも通えたのは3、4日ほど。県立高校の不登校枠で進学したものの、先生が変わった2年生で行きづらくなり、辞めることになりました。

娘が岐路に立つたびに、私はいつも「あなたはどうしたい?」と尋ねてきました。高校を中退した時の娘は「韓国に行きたい」と答えたので、それならお金を稼がないとね、とアルバイトの仕方を教えたところ、娘はコツコツとお金を貯めて、自分の力で語学留学に旅立ちました。

帰国後に勤め先の方と結婚した彼女がよく言うのが、「自由にさせてくれてありがとう」ということばです。娘が学校を休んでいる間も私は毎日仕事に出て、こうするべきだと押し付けることもしませんでしたが、それは娘を信じていたからでもあります。

子どもにはそれぞれの特性がありますが、それを理解し、この先どうしていこうかと寄り添えるのは、一番身近な大人である相談者さんにしかできないことです。

いつかひとりで歩き始める日が来ます。今は一歩ずつ一緒に歩きましょう

娘さんの中で少しずつ積み重なった我慢や無理が今、表面化しているのでしょう。一足飛びに解決できることではないかもしれませんが、子どもには自分で人生を選び取る力が備わっています。相談者さんが娘さんを信じてあげさえすれば、娘さんは自分の道を見つけてまっすぐ前に進んでいきます。今は一つひとつ、向き合っていきましょう。

江成道子

江成道子
一般社団法人 日本シングルマザー支援協会 代表理事。シングルマザーサポート株式会社代表取締役社長、一般社団法人グラミン日本顧問、武蔵野学院大学講師。自らシングルマザーとして5人の姉妹を育てながら、シングルマザーの自立支援活動を続ける。講演多数。
一般社団法人 日本シングルマザー支援協会