「住宅ローンがあり、離婚になかなか踏み切れない……」という人がいます。確かに、住宅ローンが残っている状態で離婚を優先させてしまうと、後々トラブルになってしまう可能性があります。トラブルを防ぐには、離婚によって住宅ローンがどうなるのかを正しく知っておく必要があります。

この記事では、住宅ローンがある場合の対策方法や離婚前に話し合っておくべきことなどについて解説します。また、住宅ローンが残っている家に妻が住み続けることについてもわかりやすくお伝えしますので、ぜひ参考にしてみてください。

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住宅ローンがあっても離婚することはできる

住宅ローンがあっても離婚することはできます。住宅ローンがあるか・ないかは、離婚に直接影響することではないからです。

とはいっても、「住宅ローンがあると離婚に踏み切りにくい」というのは多くの人が感じていることでしょう。事実、住宅ローンが残っている状態で離婚を急いでしまった結果、後でトラブルが起きてしまったという人は少なくありません。

住宅ローンがトラブルになりやすい理由としては、以下のようなことが考えられます。

・住宅ローンが非常に多額なものだから
・住宅ローンの負担が長期にわたるから

住宅ローンが原因で起こるトラブルを防ぐためには、住宅ローンについて正しく理解しておくことが大切です。加えて、住宅ローンの支払いなどについて夫婦で話し合い、はっきりさせておく必要があります。

離婚後の住宅ローンを支払い続けるのは「名義人」

離婚した後も住宅ローンを支払い続ける義務があるのは、住宅ローンの名義人です。そのため、離婚時に住宅ローンが残っていたとしても、基本的には残債をきっちり折半する必要はありません(※これについては後ほど解説します)。

本章では、住宅ローンの名義人についてくわしく掘り下げます。

ローン名義人のパターン例

住宅ローンの名義人には以下の4パターンがあります。

1.夫(もしくは妻)の単独名義
2.夫(妻)が名義人+妻(夫)が連帯保証人
3.夫(妻)が名義人+妻(夫)が連帯債務者
4.夫婦それぞれが名義人となっている「ペアローン」

それぞれ解説します。

1.夫(もしくは妻)の単独名義
このパターンは、夫(もしくは妻)がひとりで住宅ローンを返済している状態です。夫が住宅ローンを返済できなくなった場合でも、妻が返済する必要はありません。

2.夫(妻)が名義人+妻(夫)が連帯保証人
このパターンは、妻が連帯保証人として、名義人である夫を保証している状態です。夫が住宅ローンを返済できなくなった場合、妻は夫に代わり残債を全額返済することになります。

3.夫(妻)が名義人+妻(夫)が連帯債務者
このパターンは、妻が連帯債務者として、名義人である夫と同じようにその住宅ローンを借りている状態です。同じ住宅ローンを夫婦が一緒に借りているため、妻にも夫と同じように返済義務があります。

4.夫婦それぞれが名義人となっている「ペアローン」
夫婦が別の住宅ローンを組み、それぞれが名義人となる住宅ローンを「ペアローン」といいます。一人ひとりが債務を負い、お互いが相手の連帯保証人になります。

住宅ローンと家の名義は同じとはかぎらない

住宅ローンの名義と家の名義が同じとはかぎりません。そもそも住宅ローンの名義と家の名義では意味が異なります。住宅ローンの名義とは、住宅を購入したときに金融機関からお金を借りた人、つまり、金融機関と金銭消費貸借契約を結び、署名・押印した人のことです。いっぽう、家の名義とは家の所有者のことで、登記簿謄本に記載されている人をさします。

離婚するときに住宅ローンがある場合の、パターン別の対策方法

住宅ローン返済中に離婚するとなると、家と住宅ローンをどうするのかについて悩むケースは多いです。本章では2つのパターンにわけて対策方法をお伝えします。なお、ここからの内容は「住宅ローンの名義が夫となっている場合」を前提にお話ししていきます。

家に住み続けるパターンの場合

はじめに、家を売却せずに、夫婦どちらかが住み続ける場合について考えていきましょう。

1.ローンの名義人が住む場合

夫が住宅ローンを支払いながら住み続ける場合、自分の住居費を自分で支払うということになるため、基本的にあまりトラブルになることはありません。ただし、妻が連帯保証人や連帯債務者となっている場合や、ペアローンで住宅ローンを組んでいる場合には注意が必要です。

妻が連帯保証人や連帯債務者となっている場合、たとえ夫婦間の話し合いで「住宅ローンは夫が支払う」と決めていたとしても、夫が返済できなくなった途端に妻が住宅ローンを支払わなければならなくなります。

また、住宅ローンがペアローンとなっている場合、家を第三者に売却しない限り住宅ローンの支払いは続きます。妻が家に住んでいなくても、今まで通り妻にも支払い義務が残ることになるのはペアローンの注意点といえます。

ペアローンで住宅ローンを組んでいる場合は、夫の単独名義に変更できないか金融機関に相談してみましょう。ペアローンは2人で返済していくことが前提なので、単独名義よりも大きな額を借り入れているケースがほとんどです。そのため、単独名義への変更が難しいことも多いと予想されます。とはいえ、名義変更が可能な場合もありますので、まずは金融機関に相談し、確認してみることが大切です。

連帯保証人や連帯債務者から外れたい場合や、ペアローンから単独名義への変更ができない場合の対策としては、夫に単独名義で住宅ローンを組み替えてもらう方法があります。夫に十分な収入があることなどいくつか条件はありますが、話し合ってみるのもひとつの方法でしょう。

2.ローンの非名義人が住む場合

住宅ローンの非名義人である妻が引き続き住む場合は、トラブルが起きやすいため特に注意が必要です。もし夫の住宅ローン返済が滞ったら、妻は家に住むことができなくなってしまいます。夫が住宅ローン完済まできっちり返済を続けてくれる保証はありません。そのため、離婚前にきちんと対策をしておくことをおすすめします。

対策方法としては、以下4つのパターンが考えられます。

・住宅ローンの支払いについて書面(※)に残す
・妻が夫に家賃として定期的に支払う
・住宅ローンの名義を妻に変える
・住宅ローンを妻の名義で借り換える

上にあげた方法のうち、もっとも現実的なのは「住宅ローンの支払いについて書面に残す」方法です。離婚前に話し合った内容を書面に残し、離婚後はお互いに取り決めを守り続けます。いざというときには書面が証拠となり、トラブルを防げる可能性があります。

また、「妻が夫に家賃として定期的に支払う」方法は、離婚後も定期的に連絡を取り合うことが必要となるため、精神的なハードルが高いと感じる人がいるかもしれませんが、連絡を取り合うことが難しくなければ検討してみる余地はあるでしょう。

なお、「住宅ローンの名義を妻に変える」や「住宅ローンを妻の名義で借り換える」といった方法は、妻に安定した収入があることが前提となっている場合が一般的ですので、現実的には難しいことがあります。これらの方法を検討する場合は、事前に金融機関へ審査基準について確認をとっておくことをおすすめします。

※書面については、最終章「離婚時の住宅ローンのトラブルを避けるには?」で詳しく説明しています。

家を売るパターンの場合

次に、離婚時に家を売る場合についてお伝えします。家を売る場合、家の査定額とローン残高の状況により、家が「アンダーローン」の状態であるのか、「オーバーローン」の状態であるのかに分かれます。それぞれについて説明します。

1.「アンダーローン」の場合

アンダーローンとは、家の売却額が住宅ローンの残債よりも大きい状態をさします。家を売ったお金で住宅ローンを完済し、さらに手元にお金が残る状態です。家がアンダーローンの状態であれば、住宅ローンを完済できるのでスムーズに離婚を進められる可能性が高く、住宅ローン完済後に残ったお金は財産分与の対象となります。

2.「オーバーローン」の場合

オーバーローンとは、家の売却額が住宅ローンの残債よりも少ない状態をさします。家を売ったお金で住宅ローンを完済できない状態です。家を売りたい場合は、原則、住宅ローンを完済して抵当権を抹消しなければなりませんから、オーバーローンのように家の売却額だけで完済できない場合は、手持ちの資金をプラスして住宅ローンの完済を目指すことになります。家の売却額と手持ちの資金を合わせて住宅ローンを完済できるようなら、家を売ることができます。

しかし、中には、家の売却額と手持ちの資金を合わせても住宅ローンを完済できない場合があります。そんなときには「任意売却」という方法があります。任意売却とは、住宅ローンを借り入れている金融機関と相談し、合意できれば、一定の条件のもとで抵当権を抹消できるという仕組みです。任意売却を利用すれば、一般的な不動産売買と同じように家を売ることができます。

住宅ローンがある夫婦が離婚前に話し合うべきこと

住宅ローンは離婚に大きな影響をおよぼすことが考えられます。本章では、住宅ローンが残っている夫婦が、離婚する前に話し合っておくべきことをまとめました。できるだけスムーズに離婚をすすめるためにも、ぜひご一読ください。

家の名義について

離婚前には、家の名義をどうするのかについて、はっきりと決めておきましょう。もし、名義人が夫である家に、名義変更をしないまま妻が住み続けていると、大きなトラブルになりかねません。家の名義人である夫は独自の判断で家を売ることができるので、最悪の場合、妻は知らないうちに住む場所を失うリスクがあります。

また、夫にもしものことがあった場合には、夫の再婚相手などに家が相続されてしまうこともあります。このように、家の名義人でない妻が家に住み続けることは、非常に不安定で、大きな不安を抱えながら生活することになるのです。

家の名義を妻に変更すれば、家の売却や子どもへの相続などが妻の意思でできるようになります。妻が安心して家に住むためにも、家の将来を妻が自由に決めるためにも、家の名義を妻単独のものに変更することをおすすめします。

とはいえ、住宅ローンが残っている状態での名義変更は難しいです。離婚前に「住宅ローン完済後は妻名義に変更する」といった取り決めを行い、書面(※)で残しておくようにしましょう。

※書面については、最終章「離婚時の住宅ローンのトラブルを避けるには?」で詳しく説明しています。

ローンの連帯保証人はどうするか

妻が住宅ローンの連帯保証人になっているケースでは、夫が住宅ローンを支払えなくなった場合に妻側に返済の請求がくるなど、後々トラブルになることがあります。そのため、離婚前には連帯保証人をどうするのかについて必ず話し合っておきましょう。

住宅ローンに関する妻の返済責任をなくすためには、妻が連帯保証人から外れる必要があります。そのためには金融機関との交渉が必要です。現実的には妻が連帯保証人から外れることは難しい場合も多いですが、それでも一度金融機関に住宅ローンの契約内容や連帯保証人の変更の可否などを相談してみると、自分たちでは考えつかない打開策が得られるかもしれません。

また、住宅ローンの借り換えができる場合は、夫単独の名義で住宅ローンの借り換えを行い、妻は連帯保証人を外れるという方法もあります。住宅ローンを借り換えると返済額が増えることがあるため、夫婦でしっかりと話し合うことが必要です。

ローンを支払っていくプランについて

夫の再婚や収入の減少により、住宅ローンの返済が滞る可能性もまったくないとはいえません。このような事態を防ぐためには、離婚前に「住宅ローンの支払いプラン」や「住宅ローンの支払いが滞った場合の対策」などについて話し合い、書面(※)で残しておくことをおすすめします。

住宅ローンを確実に支払ってもらう方法として、住宅ローンの残債を一括で支払ってもらうことが考えられます。この方法は相手との関係を早く断ち切れるところにメリットがありますが、夫側の資力が大きく影響しますので難しいケースもあります。夫婦の資力も頭に入れながら、住宅ローンを支払っていくプランを検討しましょう。

支払いが滞った場合の対策方法は、離婚前にはなかなか考えにくいことかもしれません。しかし、状況を想定して取り決めを行っておくことで、後々のトラブルを防ぐことができます。ぜひ積極的に話し合いの場を設けてみてください。

※書面については、最終章「離婚時の住宅ローンのトラブルを避けるには?」で詳しく説明しています。

ローンを支払う割合について

記事前半で「離婚時に住宅ローンが残っていたとしても、残債をきっちり折半する必要はありません」とお伝えしました。きっちり折半する必要がない理由は、夫婦間で支払い能力に差があったり、住宅ローンが慰謝料や養育費と相殺されたりするケースがあるためです。

住宅ローンは慰謝料や養育費と相殺される可能性があります。住宅ローンの非名義人である妻と子どもが一緒に暮らす場合、夫婦間で合意できていれば、住宅ローンと養育費が相殺されることがあります。そうなると事実上、夫が養育費、妻が住宅ローンを支払うという形になるのです。

もちろん、夫婦の話し合いで「住宅ローンの残債をきっちり折半する」と決めてもまったく問題ありません。住宅ローンを支払う割合は、基本的には夫婦の話し合いで決めるものですから、お互いが納得できるまで話し合うことが大切です。

離婚時の住宅ローンのトラブルを避けるには?

離婚時に住宅ローンが残っている場合、さまざまなトラブルが起きるリスクがあることをこれまでの内容でお伝えしてきました。夫の住宅ローン返済が滞り、連帯保証人である妻が返済義務を負うリスクがあったり、夫名義の家に住み続けることで家を勝手に売却される恐れがあったりなど、不安はつきません。

離婚後のトラブルを防ぎ、少しでも不安を減らすためには、離婚前に話し合った内容を「離婚協議書」や「公正証書」として書面に残すことをおすすめします。

離婚協議書とは、夫婦間で話し合った離婚条件などを記載しておく書面です。決められた書き方はなく、夫婦だけで作成することができます。もちろん弁護士に依頼して作成することもできますので、困った場合は弁護士を頼るのもひとつの方法です。なお、離婚協議書は私的な契約書ですので法的な執行力はありません。しかし、トラブルとなった場合の証拠として役立つものなので、離婚時には作成しておくほうがよいでしょう。

いっぽう、公正証書とは、夫婦間で話し合った内容をもとに公証人が作成する書類です。公正証書の作成には夫婦がともに公証役場に出向く必要があり、時間や費用がかかります。とはいえ、高い証明力が認められていて執行力をもつことから、公正証書を作成するメリットは大きいです。特に金銭的なことに関しては公正証書として残しておくほうがよいでしょう。

公正証書に残す場合、夫が住宅ローンを支払わない場合は強制執行をしてもよいという内容の「強制執行認諾条項」をつけておくのがおすすめです。そうすることで、住宅ローンの滞納が発生した場合に、強制執行によって夫の財産の差し押さえを行うことができます。

▶離婚に関する内容を公正証書で残すメリット、離婚協議書との違い、公正証書を作成する手順などについては、こちらの記事で詳しく紹介しています。
養育費は公正証書で残そう!強制執行ができる等のメリットも

離婚前には住宅ローンについてしっかり話し合おう

離婚することになったら、まず住宅ローンや家の名義を確認しましょう。家を売るのかそのまま住むのか、また、住宅ローンを支払う割合などについても夫婦で話し合います。離婚するときには決めることが多く大変ですが、後でトラブルにならないためにも、住宅ローンについてしっかりと話し合うようにしてくださいね。