昨今、法制審議会の家族法制部会において、離婚後の「共同親権」を認めることの是非について審議が行われており、注目を集めています。
しかし、離婚後に「共同親権」を認められるようになると、何がどう変わるのかがよくわからないため、漠然とした不安を抱えておられる方も多いのではないでしょうか。
そこで、今回は「共同親権」について詳しく解説していきます。

そもそも「親権」とは?

「親権」とは、未成年の子どもを養育するために、親に認められた権利や義務のことをいいます。「親権」には、「身上監護権」と「財産管理権」の2つの要素があるとされています。漢字を見ても、いまいちピンとこないと思いますので、もう少しかみ砕いて説明しましょう。

まず、「身上監護権」ですが、これは、子どもを監護・教育する権利や義務のことをいいます(民法820条)。子どもと一緒に生活をし、子どもの衣食住といった面倒をみながら、子どもの成長のためにしつけや教育を行う権利や義務のことです。

他方、「財産管理権」とは、子どもの財産を管理し、子どもの財産に関する法律行為について代理する権利や義務をいいます(民法824条)。

これら「身上監護権」と「財産管理権」を合わせたものを「親権」と呼び、「親権」を有している親のことを「親権者」と呼びます。

このように、親権のなかには、子どもと一緒に生活をして、世話や教育をする親の権利義務である「監護権」が含まれているので、原則として、親権者が監護権者となります。一般的には、親権者と監護権者は一致させる方が子どもの福祉に適うと考えられています。ただし、父親と母親の協議による場合や種々の事情がある場合には、親権者でない片方が監護権者となって、子と一緒に生活をすることも認められています。

「単独親権」と「共同親権」

現在、日本では、父親と母親が「結婚している間」は、父親と母親の双方ともが親権者となり、父親と母親が共同して親権を行使することとされています(民法818条3項)。

このように父親と母親が共同して親権を行使することを「共同親権」といいます。

他方で、父親と母親が「離婚」した場合、父親と母親のいずれか一方が親権者となることとされており、以後、親権者となった一方の親が「単独」で親権を行使することとなります(民法819条)。

一方の親が単独で親権を行使することを「単独親権」といいます。

要するに、現在の日本の法律では、婚姻中は「共同親権」、離婚後は「単独親権」とされていることになります。

冒頭で少し触れましたが、現在、法制審議会の家族法制部会において、離婚後の「共同親権」を認めることの是非について審議が行われており、将来的には離婚後の「共同親権」を認める方向で法改正が行われるかもしれません。

なぜ「共同親権」が議論されているのか?―「共同親権」を認めるメリット―

それでは、なぜ離婚後の「共同親権」を認めることの是非について現在審議が行われているのでしょうか。このような審議が行われるようになった背景には以下のような事情があります。

参考:離婚後の共同親権について ― 離婚後の子の養育の現状と共同親権に関する議論 ― 石塚 理沙 (法務委員会調査室)

⑴ 両親の共同養育により子どもの健全な人格形成が期待できる

「共同親権」を認めるべき根拠としてよく挙げられるのが、「両親が共同して子どもを養育した方が、子どもの健全な人格形成が期待できる」という見解です。

実際、欧米諸国では、離婚後も両親との関係を維持することが、子どもの健全な人格形成に資するとの実証的なデータも蓄積されているようです。

また、諸外国の制度を見比べた場合も、アメリカをはじめ多くの国では離婚後の共同親権を認めており、下記の法務省民事局の調査で対象となった24か国においては、日本と同様に単独親権しか認めていない国はインドやトルコといった極少数に留まっています。

参考:父母の離婚後の子の養育に関する海外法制調査結果の概要 令和2年4月 法務省民事局

⑵ 離婚に伴う紛争の深刻化を防止できる

日本における現行の「単独親権」制度のもとでは、親権者とならなかった親は、原則、子どもと離れて暮らすことになり、定期的に子どもと面会交流する、養育費を支払うぐらいしか、子どもの養育に関与できないのが一般的です。中には、親権者となった親から面会交流さえも拒否されてしまい、子どもと会うことすらままならないケースも決して珍しくありません。

このように、日本における現行の「単独親権」制度では、親権を得るかどうかによって、子どもの養育に関与できる度合いが大きく異なってしまうため、子どもの親権をめぐる紛争が激しさを増しています。中には、子どもの親権を得るため、子どもを配偶者に無断で連れ去ったり、配偶者による虚偽のDV被害を訴えたりといった深刻な事態にまで発展するケースも少なくなく、このような紛争の深刻化を懸念する声もあげられています。

そこで「共同親権」制度を導入することで、こういった紛争の深刻化を防止することができるのではないかと期待されています。

⑶ 養育費の自発的な履行が期待できる

親権者とならなかった親は、子どもの養育に関する責任がなくなるわけではなく、子どもの監護や教育のために必要な費用(養育費)を、親権者となった親に支払う必要があります。しかし、現状、親権者とならなかった親の中には、養育費の支払いを滞納する人も少なくありません。経済的な事情から滞納するケースも勿論ありますが、子どもの養育から遠ざかることで子どもに対する愛情や責任感が希薄になってしまい滞納に至ってしまうという心理的要因もあるのではないかと考えられています。「共同親権」制度を導入し、子どもと離れて暮らす親にも子どもの養育にしっかりと関わらせることで、子どもに対する愛情や責任感が芽生え、養育費をより自発的に支払わせることができるのではないかと期待されています。

「共同親権」制度を導入することの問題点―「共同親権」を認めるデメリット―

さて、ここまでは離婚後も「共同親権」制度を導入するべきであるという審議が行われるに至った経緯を説明してきましたが、「共同親権」制度を導入することについては様々な問題点も指摘されています。

特に深刻な問題として懸念されているのは、DV被害や児童虐待被害の継続や拡大につながるのではないかという点です。すなわち、「共同親権」制度を導入した場合、教育や住居といった子どもに関する重要事項を決定する際には元配偶者との間で協議する必要が生じる可能性があるため、離婚をしても元配偶者との繋がりを完全に断つことができなくなってしまいます。その結果、元配偶者によるDV被害や児童虐待被害が再燃してしまう危険性があることが指摘されており、DV被害者や児童虐待被害者を支援する団体からは不安の声があがっています。

また、「共同親権」制度を導入している諸外国の中には、DV被害や児童虐待被害から子どもの安全を確保するために「共同親権」制度の見直しを検討している国もあり、日本において「共同親権」制度の導入を判断する際には、子どもの安全をどのように確保するかといった措置についても慎重な議論を行う必要があるでしょう。

現在の審議の状況と今後の展望

法制審議会の家族法制部会は、令和4年8月現在、親権制度の見直し案のたたき台を公開しています。ただ、公開された資料には「単独親権」か「共同親権」かの選択の余地を認める【甲案】と「単独親権」制度(現行法)を維持する【乙案】の双方を提示されており、「共同親権」を認めるべきか否かについて明確な方向性は定まっておりません。
また、「共同親権」の選択の余地を認める【甲案】の中にも、さらに論点ごとに枝分かれした複数の案が提示されており、「共同親権」制度の具体的な中身についても、まだまだ詰めなければならない論点が複数残されているようです。
〈【甲案】の枝分かれした複数案の例〉
・原則「共同親権」とする【甲①案】と原則「単独親権」とする【甲②案】
・監護者の指定を必須とする【甲A案】と監護者の指定を任意とする【甲B案】
・監護者は単独で親権を行使できるとする【甲α案】と父母の協議が整わない場合に限り監護者による単独の親権行使を認めるとする【甲β案】、父母の協議が整わない場合にも監護者による単独の親権行使を認めない【甲γ案】など

今後、法制審議会の家族法制部会は、近いうちに上記中間試案をまとめて、パブリックコメントで国民の意見を募ることとしており、今後は国民の意見も踏まえたうえで、さらに具体的な方向性を審議していくものと考えられます。
参考:家族法制の見直しに関する中間試案のたたき台(修正版)

まとめ

今回は、「共同親権」の意味や、「共同親権」制度の導入が議論されるようになった経緯、「共同親権」制度の懸念点、そして「共同親権」制度の導入に関する審議状況について解説しました。
「共同親権」制度の導入に関する審議においては、まだまだ具体的な方向性や中身について明確に定まっていないため、今後も法制審議会の家族法制部会での審議状況を注視していく必要がありそうです。