離婚の理由はさまざま。そして、その後の人生も、選択と決断の毎日です。先行きに不安を覚えたり、失敗して落ち込んだりすることもあるかもしれません。少し息詰まってしまったら、この企画に相談にいらっしゃいませんか? 自ら5人の子どもを育て上げた日本シングルマザー支援協会代表の江成道子さんが、本音で、真剣に、あなたの悩みに答えます。

今回は一緒に暮らしてきた息子2人から、お父さんと暮らしたいと言われたママからの相談です。子どもの気持ちは尊重したいけれど、元夫に任せるにも不安があり、何より自分の寂しさもある。悩んで結論が出せない相談者さんに江成さんはひとつ屋根の下で暮らすことだけが、親の役割ではないと説いていきます。

今月の相談:子どもに「お父さんと暮らしたい」と言われてしまいました。

子どもが小学生のときに離婚し、親権は母親である私となりました。現在も養育費は継続して受け取っており、子どもと父親の関係は良好で現在も定期的に父親と会っています。

やはり男同士の方が馬が合うのか、最近息子たちに「お父さんと暮らしたい」と言われています。私としては子どもと離れたくない理由が一番ですが、元夫には恋人がいるようで、再婚をする可能性もあるのではと考えると、子どもたちを任すことにも不安があります。

とはいえ、子どもたちももう高校生ですし、彼らの意見を尊重してあげたいという気持ちもあり、悩んでいます。

▽相談者の情報
・離婚/・現在の職業:会社員/・年齢:46歳
・子どもの数(性別・年齢):2人(息子17歳・16歳)

回答:まずは子どもの本音を聞いて。対話をし、最終判断は子どもに任せましょう

ここに相談を寄せてくださっているところを見ると、相談者さんは子ども達と離れたくないと思いながらも、彼らにとって一番良い環境を選ばせてあげたいと考えてらっしゃるのでしょう。

私がまず前提としてお伝えしておきたいのは、親としての役割を果たすことを考えた時、子どもと一緒に暮らしているかそうでないかというのは、あまり大きな問題ではないということです。これはあとで詳しく述べていきましょう。

父親の元へ行きたいと思った理由は何か、本音で話せる場を持って

子ども達はなぜ「お父さんと暮らしたい」と言い始めたのか。その理由を、まず明らかにしましょう。学校が近い、お小遣いがもらえる、口うるさくない、門限が緩い……、そんな高校生らしい理由もあれば、もしかしたら「自分たちがいない方がお母さんは楽なのでは」という気遣いや遠慮、今の経済状況を見て望む進路が選べなさそうだ、という少しシビアな理由もあるかもしれません。相談内容にもある通り「馬が合う、合わない」ということも、親子とはいえあるでしょう。

理由を知るために、お互いに本音で話せる時間をつくってみましょう。そこでどんな理由が出てきても子ども達を責めるのではなく、なぜそう思ったのか根気よく聞いてみてください。

協会の活動でひとり親家庭のお子さんから直接話を聞く機会がありますが、中学生以上の子どもで反抗的な態度が強く親子関係が悪化している家庭は、母親が支配的な態度で子どもに接している場合がほとんどです。一方的に意見は言うけれど、子どもの本音を聞いてあげることができていない。親子の対話の時間が圧倒的に足りていないんです。

相談者さんも子ども達の本音を聞く時間を持つことで、過保護だったり押し付けが過ぎていたり、これまでを省みて修正した方がいい点が見つかるかもしれません。そこを「これから気をつけるよ」と伝えることができたら、今まで通り一緒に暮らすという可能性も出てくるかもしれませんね。

対話の時間をもったうえで、相談者さんは自分の意見は伝えつつ、最終的な判断は子どもに任せればいいと思います。

元夫の再婚の可能性を危惧されていますが、子ども達を迎える環境がつくれないと思っていれば、元夫も「一緒に暮らそう」とは言わないでしょう。ひとまずは、子ども達が過ごせる環境があると考えていいと思います。

愛情を伝え続けるのが親の役割。別居になったら何ができるかを考える

子どもたちが父親の元へ行くとなったら、次に相談者さんが考えるべきことは今後のフォローの仕方。別居親として、どのように子ども達と関わっていくのかということです。

自分たちで決めて出て行ったものの、例えば父親の恋人と馬が合わず「やっぱり嫌だ」と言ってくることがあるかもしれません。そうした問題が起こった時、いつでも子ども達が帰ってこられる環境を整えておくのか、話を聞いてあげる役割を果たすのか。ここが、一緒に暮らしているかそうでないかに関わらず、親としての役割を果たすために子どもと関わり続けることに変わりはないというところです。

離れて暮らす子どもと新たな関係をつくりながら、どんな形でも愛情を伝え続けることが親の役割。別居親が男性の場合はそれが養育費という形になることが多いですが、相談者さんはどんな形で愛情を伝えていくのか、考えてみてください。

事務的なこととして、子ども達は自分の意志で動ける年齢ですし直接連絡も取れると思いますが、面会交流などの決め事は公正証書として残すなど、確実に手続きを踏んでおいた方がいいと思います。また、養育費は別居親が同居親に対して払うものですから、これまでとは逆に相談者さんが元夫へ払う必要が出てくるかもしれません。その場合は裁判所が公表している「養育費算定表」を参考にして額を決めましょう。

喪失感に押しつぶされないよう、楽しみを見つけるのもおすすめ

全員が父親の元へ行くのがいいという判断に至ったとしても、相談者さんには大切な存在がいなくなることへの寂しさや大きな不安があるでしょう。これまで会ってきたお母さんたちにも、子どもが巣立って自由を謳歌する人、寂しさからなかなか立ち直れず泣き暮らしている人の両方がいました。

子どもが成長するにつれて、だんだんと距離が離れていくことを受け入れながら、できることの幅を広げてきている人は立ち直りが早いです。そのために、今のうちから趣味を持っておくことも大切なことなのではないかと思います。

子どもに手がかからなくなると残業や出張ができるようになって収入が増え、趣味に費やせる分も出てくるでしょう。今回子ども達と別居しないことになっても、あと数年で巣立つ時がやってきますから、その時のためにも家庭や職場の他に楽しみや趣味の場を持つことも検討してみてください。

私も子どもが巣立った後に必死に働く意味がわからなくなった時期がありましたが、そんな時に見つけた楽しみが料理でした。義務感に駆られながら台所に立つことも多かったけれど、自分のためだけにちょっといい食材を準備して調理することが、意外にも楽しくなった。ひとりになるとそんな発見もあると思います。

まとめ:離れていても親子は親子。あなたの生き生きとした姿を子ども達に見せてあげて

離婚相談の時に、「子どもから父親を取り上げるようなことをしていいのだろうか」と言うお母さんがいます。でも、親子関係はそう簡単に壊れたり無くなったりするものではありませんし、ましてや片親が一方的に取り上げることなどできないものです。ひとつ屋根の下で暮らしていてもいなくても、親子は親子。離れて暮らすことになったら親子関係の選択肢が増えたと考えればいいですし、そうしてみて関係が良くなる親子だっています。いろいろあるけれども、一番は相談者さんが生き生きと自分の人生を楽しむこと。そうしていれば、子どもとの関係は自然と良くなるものだと思いますよ。

江成道子

江成道子
一般社団法人 日本シングルマザー支援協会 代表理事。シングルマザーサポート株式会社代表取締役社長、一般社団法人グラミン日本顧問、武蔵野学院大学講師。自らシングルマザーとして5人の姉妹を育てながら、シングルマザーの自立支援活動を続ける。講演多数。
一般社団法人 日本シングルマザー支援協会