「裁判離婚」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?離婚は話し合いで合意できるのがもちろん理想ですが、中には話し合いでは解決できず、裁判に発展するケースもあります。本稿では裁判離婚について解説します。裁判と聞くと難しそうに感じるかもしれませんが、本稿ではわかりやすく解説していきますので、ぜひご一読ください。

監修:弁護士 白谷 英恵

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裁判離婚ってなに?

裁判離婚とは、夫婦のどちらか一方が「離婚をしたい」と訴訟を起こし、裁判所がその請求を認めて離婚が成立することです。離婚を求める裁判では、訴訟を起こした人を「原告」、訴えられた人を「被告」とよびます。裁判を起こすと、公開の場で原告と被告がそれぞれの意見を主張し、裁判官があらゆる事情をふまえて判決を下すことになります。

そもそも離婚の方法には、裁判離婚のほかに、協議離婚・調停離婚・審判離婚の3つがあります。離婚をすすめるときには、夫婦での話し合いからはじめることが基本です。つまり、まずは協議離婚をめざすのが第一段階となります。夫婦の話し合いで合意できない場合は、調停、審判へと進みます。それでもおたがいに合意できない場合は、最終手段として離婚のための裁判を起こすことになります。

以下に離婚の方法とその特徴についてまとめます。

決断の方法 シチュエーション 特徴
協議離婚 夫婦間の話し合い 離婚の第一段階 ・夫婦がおたがいに合意すれば離婚できる
調停離婚 調停委員が夫婦の間に立って行う話し合い 協議離婚ができない場合 ・法律上の離婚原因がなくても離婚できる
・非公開で行われる
審判離婚 裁判官による審判 離婚調停が不成立となったものの、裁判所が「離婚を成立させたほうがいい」と判断した場合 ・夫婦のいずれかが異議を申し立てると無効になるため、審判離婚が成立するケースは稀
裁判離婚 裁判官による判決 離婚調停が不成立の場合 ・法律上の離婚原因がないと離婚できない
・原則、公開される

▶相手と離婚についての話し合いがまとまらない場合、調停による離婚(離婚調停)へと進みます。離婚調停について詳しくまとめた記事はこちらです。
離婚調停の期間はどのくらい?生活費や恋愛などの注意点も

裁判離婚はどのように進む?

裁判離婚の進み方をステップに分けて解説します。

ステップ1:裁判の提起

家庭裁判所に訴状(離婚したいと考えている人の言い分を書いた文書)を提出し、裁判を申し立てます。

ステップ2:呼出状の送付

家庭裁判所から夫婦それぞれに呼出状(第1回口頭弁論期日の通知)が届きます。訴えられた人(被告)には訴状の写しも一緒に送られてきます。

ステップ3:答弁書の作成(被告のみ)

被告は訴状の内容を確認し、自分の言い分を「答弁書」にまとめます。答弁書は、呼出状に記載されている期日までに提出します。
※答弁書の書式はこちらの裁判所のWebサイトからダウンロードできます。

ステップ4: 口頭弁論

初回は訴状や答弁書の内容を確認し、2回目以降に原告・被告の主張や証拠の提出などを行います。裁判所が争点を整理できたと判断するまで繰り返し行われます。

ステップ5:尋問

事案によっては、本人尋問(当事者への尋問)が行われます。尋問とは、裁判官の前で質問に答えることです。

ステップ6: 判決

裁判所から「十分な判断材料がそろった」「争点を整理できた」と判断されると、判決が下されます。

ステップ7-1: 【不服がある場合】控訴

判決の内容に不服があれば控訴できます。控訴とは、上級の裁判所に不服を申し立て、あらためて判断してもらうことです。控訴できる期限は、判決書を受け取った日の翌日から2週間以内です。

ステップ7-2: 【控訴しない場合】離婚成立

判決書を受け取った日の翌日から2週間たつと判決が確定して離婚が成立します。離婚成立後、「離婚届」を提出する必要があります。離婚届けの提出期限は判決確定から10日以内です。

裁判離婚のメリット・デメリット

裁判離婚にはメリットがある一方、デメリットもあります。裁判離婚になる前に、具体的なメリット・デメリットについて確認しておきましょう。

裁判離婚のメリット

➀法律に基づき冷静に判断してもらえる
おたがいの言い分が食い違い、話し合いでは解決できない場合でも、裁判なら冷静な判断が可能です。その理由として、以下の2点があげられます。

●裁判官という第三者が判断を下すから
●法律に基づいて判断されるから

裁判所が法律に基づいて離婚を認めると、たとえ相手が拒否したとしても離婚できます。

②判決には強制力がある
お金や子どもに関することが障害となり、スムーズに話し合いがまとまらないこともあります。しかし、裁判離婚で判断された財産分与や養育費、慰謝料などについては、従わざるを得ません。

それに加え判決には強制力があるため、支払いを拒否することもできません。条件面で合意できない場合でも、裁判離婚ならスムーズに調整することができます。

裁判離婚のデメリット

➀夫婦のトラブルを知られてしまう
離婚のための裁判を行うとなると、夫婦間のトラブルを公にすることとなります。裁判は原則公開で行われますので、夫婦間のトラブルを第三者に知られたくない人にとってはデメリットといえるでしょう。

②離婚までに時間がかかる
離婚のための裁判は、主張や立証を繰り返し行うため時間がかかります。特に、争点が多い場合は判決までに数年かかることもめずらしくありません。

裁判離婚をするには「離婚原因」が必要

裁判離婚をするには、法的に認められる離婚原因が必要です。法的に認められる5つの離婚原因について表にまとめます。

内容
不貞行為 配偶者以外と性行為をすること
悪意の遺棄 夫婦に定められた同居や扶助の義務を果たさないこと ・理由なく勝手に家を出て行く
・生活費を渡さない
3年以上の生死不明 最後に消息を確認した時点から3年以上行方不明で生死がわからないこと ・事件
・事故
強度の精神病 精神病が回復する見込みがなく、夫婦としての義務が果たせないこと ・統合失調症
・躁うつ病
・パラノイア
婚姻を継続しがたい重大な事由 婚姻を継続しがたい理由によって、夫婦関係が破綻していること ・DV
・モラハラ
・過度な宗教活動
・ギャンブル
・飲酒
・借金
・犯罪行為

上記の離婚原因のいずれかに当てはまらなければ裁判離婚はできません。ただし、いずれかに当てはまるからといって、すぐに離婚できるとも限りませんので注意が必要です。たとえば、強度の精神病を患ったことを理由に離婚を前向きに認めた事例はほぼありません。そもそも、夫婦にはおたがいに助け合う義務があります。そのため、精神病だけを理由に離婚が認められる可能性は低いといえるのです。

そのほかについても、離婚原因となる事柄が発生した経緯や、その事柄と夫婦関係との関係性、さらには今後婚姻関係を続けることはできないのかといった点を総合的に判断し、離婚できるかどうかが決まります。

ちなみに、もっとも多い離婚原因は「性格の不一致」ですが、それだけで裁判離婚が認められることはありません。そもそも夫婦は別の人間であり性格の不一致は当然のことです。夫婦なら性格のズレを助け合い協調する必要があると考えられているのです。

ただし、程度がひどく、その原因によって夫婦関係が破綻している場合には、「婚姻を継続しがたい重大な事由」として認められることもあります。

裁判離婚で請求することができる内容

裁判離婚では、以下のことを請求できます。

・離婚するかどうか
・お金に関すること
・子どもに関すること

離婚のための裁判では、そもそも離婚するのかどうかの決断を求められます。原告の主張がさきほど紹介した5つの離婚原因に当てはまるかどうか、離婚が妥当なのかどうかについて、被告の主張もふまえて裁判所が判断します。

また、裁判離婚ではお金に関することも請求できます。具体的には以下のような内容です。
・慰謝料を請求できるかどうか、またその慰謝料の金額
・財産分与(夫婦が共有する財産の分割方法)
・年金分割の割合

さらに、裁判離婚では以下のような子どもに関することも求めることができます。
・親権者をどちらにするか
・養育費の金額
・養育費の支払い方法

このように裁判離婚では、離婚そのもののほかに、離婚に伴うさまざまな条件についても判断してもらえます。

いきなり裁判離婚をすることはできない

離婚したいからといっていきなり裁判離婚をすることはできません。記事冒頭でもお伝えしましたが、離婚を進めるときには夫婦間での話し合いからはじめるのが基本です。夫婦間の問題は公の場で争うのではなく、できるだけ当事者同士で自主的に解決するのがよいと考えられているからです。

そのため、たとえ夫婦間で意見が大きく食い違っており、当事者同士では話し合いが成立しないと見込まれるケースであっても、離婚調停を行わなければなりません。このように離婚調停を経ていなければ裁判離婚を行うことができない制度を「調停前置主義」とよびます。

ただし、もし離婚調停を経ずに裁判離婚を申し立てた場合でも、訴え自体が却下されるわけではありません。そのような場合は裁判所が強制的に離婚調停に付し(付調停)、離婚裁判ではなく離婚調停が行われることになります。

なお例外的に、相手が行方不明などの理由で離婚調停を行うことがないと裁判所が判断した場合には、離婚調停を経ずにいきなり裁判離婚になることがあります。

裁判離婚にかかる費用

裁判離婚では以下の項目で費用が必要です。

・収入印紙代
・郵便切手代
・(弁護士に依頼した場合のみ)弁護士費用

1つ目に必要な費用として「収入印紙代」があります。請求する内容によって金額が決められているので、前もって確認しておく必要があるでしょう。収入印紙代について以下にまとめます。

離婚のみ 1万3,000円
離婚と財産分与を求める場合 1万3,000円+1,200円
離婚と年金分割を求める場合 1万3,000円+1,200円
離婚と養育費を求める場合 1万3,000円+子ども1人あたり1,200円
離婚と慰謝料を求める場合(※) 1万3,000円と「慰謝料請求に対する印紙代」を比べて高いほうの印紙代に、財産分与・年金分割・養育費請求分を加算

※「離婚と慰謝料を求める場合」について例をあげて説明します。以下の場合、収入印紙代はいくらになるのか計算してみましょう。

「離婚・財産分与・2人の子どもの養育費・300万円の慰謝料」を請求

「慰謝料請求に対する収入印紙代」とは、こちらの裁判所のWebサイトで公開されています。この表では、慰謝料300万円を請求する際に必要な収入印紙代は2万円だと記載されています。1万3,000円とこの2万円を比べると、2万円のほうが高いことがわかります。

このことから、以下の計算式が作れます。

2万円+1,200円(財産分与)+1,200円×2(子どもの数)=2万3,600円

つまりこの場合、裁判離婚に必要な収入印紙代は2万3,600円と計算できます。

裁判離婚に必要な費用の2つ目に「郵便切手代」があります。これは裁判所からの連絡用に使われるもので、裁判所指定の切手を複数枚用意することが必要です。裁判所によって異なりますが、総額の相場は6,000円前後をみておくと良いでしょう。

それらに加え、弁護士に依頼する場合には、弁護士費用も必要となります。着手金や実費、成功報酬、諸経費など、合計80~100万円程度を想定しておきましょう。依頼内容や依頼先によっても金額は異なりますので、ここで紹介した金額はあくまでも目安としてお考えください。

裁判離婚は話し合いで解決できないときの最終手段!

裁判離婚をするためには法律で認められる離婚原因が必要です。また、夫婦間のトラブルを公開しなければならないことや、離婚までに長期間かかることなどのデメリットもしっかりと確認しておいてください。

離婚は、当事者間の話し合いで解決することが望まれます。裁判離婚は、話し合いではどうしても解決できないときの最終的な方法として頭に入れておきましょう。


白谷 英恵

【監修】白谷 英恵
弁護士。神奈川県弁護士会所属。同志社大学商学部卒業、創価大学法科大学院法学研究科修了。離婚・男女問題、相続問題などの家事事件を中心に、交通事故や刑事事件など、身近な法律問題を数多く取り扱う。家事案件をライフワークとして、役所での女性のための相談室の法律相談員や弁護士会での子ども人権相談の相談員、相続セミナーなどにも積極的に取り組む。

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