夫婦の話し合いで合意できれば、どのような理由であれ離婚できます。しかし話し合いで合意に至らず、裁判所に離婚を判断してもらうことになると、法的に認められる離婚条件が必要です。本稿では、離婚を成立させるための法的な条件に加え、離婚前に夫婦で決めておくべき項目についても解説します。

監修:弁護士 白谷 英恵

養育費が継続的に支払われている人はたったの24%。書面を交わしても支払われていない現状があります。

●養育費を確実に受け取りたい
●パートナーと連絡を取りたくない
●未払いが続いた時の手続きが心配

こうした養育費の未払い問題を解決する方法に「養育費保証サービス」があります。
養育費保証PLUSでは、業界最安(*)の料金で最大36か月の保証を提供しています。その他、連帯保証人がいなくても住まいや仕事探しのサポートも充実していますので、ぜひご検討ください。*2023年4月時点

夫婦が話し合って合意すれば離婚することはできる

夫婦で離婚について合意できれば、それだけで離婚できます。夫婦で話し合って裁判所を介さずに離婚することを「協議離婚」といい、多くの場合、離婚がこの方法で成立しています。

けれども中には、どちらか一方が「離婚したい」と思っていても、もう一方が「離婚したくない」と思っており、対立するケースもあるでしょう。このような場合、どれほど強く「離婚したい」と思っていても、一方のみの判断では離婚できません。

夫婦で話し合っても合意に至らない場合は、離婚調停を行った後、離婚を認めるか否かを裁判所に判断してもらうことになります。裁判所は、法律で決められている離婚の条件に合致するかどうかを検討し、判断をくだします。

もし一方が離婚を拒否していても、法律で定められている離婚条件に合致すれば離婚することはできます。反対に、一方がどれほど強く離婚を望んでいたとしても、法律上の離婚条件にあてはまらない場合は離婚できません。

法律で定められている離婚条件については次章で解説します。

法的に認められる「離婚の条件」とは

法的に認められている離婚の条件は、以下の5つです。

・不貞行為
・悪意の遺棄
・3年以上の生死不明
・重度の精神病
・その他

裁判所に離婚の判断を求める場合は、この5つのいずれかにあてはまるかどうかがポイントになります。ひとつずつ解説しましょう。

不貞行為

不貞行為とはいわゆる不倫のことで、自分の意思で配偶者以外の異性と性的な関係をもつことをいいます。一時的なものか継続的なものかといったことは問題にはなりません。

また不貞行為は性的関係をもつことをさすため、メールやチャットツールで頻繁に連絡を取っていたり、異性と2人で出かけたりといった行動だけでは、不貞行為と認められないこともあります。

不貞行為を証明したい場合は、以下のような証拠を集めて裁判所に提出します。

・ラブホテルや不倫相手の家に出入りしている2人の写真、動画
・明らかに肉体関係があったことがわかるメール
・配偶者が不倫を認める動画・音声
・ラブホテルの領収書
・配偶者と不倫相手が旅行している写真・動画

悪意の遺棄

そもそも民法には「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と規定されており、夫婦には同居・協力・扶助の義務があります。それらの義務を正当な理由なく果たさないことを「悪意の遺棄」といいます。

具体的には以下のような事情が考慮要素となり、複合的に判断されます。

・正当な理由なく家を出る
・配偶者を家から閉め出して入れないようにする
・健康状態に問題がなく、働ける状況にあるのに働かない
・生活費を入れない
・病気で働けない配偶者に対し医療費などを渡さない

悪意の遺棄があったことを裁判所に認めてもらうには、正当な理由なく、夫婦としての義務を怠っているという証明が必要です。ケースによって証明できる方法は異なりますが、メールやチャットツールの履歴や、通帳の記録などが有効な場合があります。

たとえば、メールなどで「帰ってきて」などと伝えているにもかかわらず返信がなかったり、「もう帰らない」の一点張りだったりといった履歴は証拠になり得ます。また、生活費が振り込まれなくなったケースでは、通帳の入金記録が証拠になり得るでしょう。

▶悪意の遺棄について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
弁護士が解説|悪意の遺棄とは?

3年以上の生死不明

配偶者が3年以上もの間生死不明の状態であれば、法的に離婚が認められます。ここでいう「生死不明」とは、行方不明になって生きているのか死んでいるのかまったくわからない状態です。

単に連絡が取れないといった状態ではありません。つまり、どこにいるのかわからないし自分には連絡がないけれど自分以外の人とは連絡を取っている、連絡はとれないが住民票などから居住地がわかるといった場合は、このケースには該当しません。

3年以上の生死不明で離婚が認められるのは、以下のようなケースです。

・津波の被害にあった
・沈没した船に乗っていた
・紛争地域に出向いていた
・突然行方不明になり、さまざまな方法で探したが見つからなかった

上記の例からもわかるとおり、生死不明になっている理由は問われません。

このケースでも、裁判所に現状を証明することが必要です。証拠としては以下のようなものが考えられます。

・捜索願を受理したという証明書
・親族や友人、職場の人たちへの聞き取りメモ

「捜索願を受理したという証明書」があれば、捜索願を出すなどして懸命に探していたことが証明できます。また、親族や友人、職場の人たちに、配偶者の消息を聞いたメモなども証拠になります。

重度の精神病

配偶者が重度の精神病を患い、夫婦としての義務を果たせない場合も離婚が認められます。ただし夫婦には扶助義務がありますので、精神病を患ったとしても支え合って生活していくことが原則です。

とはいえ、重度の精神病でコミュニケーションが難しくなってしまったり、回復する見込みがなかったりする場合は、婚姻の継続を強制させることはできないと判断され、離婚が認められます。

重度の精神病が離婚原因として認められるポイントは「回復の見込み」です。ですので、躁うつ病や統合失調症、偏執病のような疾患は、離婚原因として認められやすい傾向があります。一方、アルコール依存症や神経症など回復が見込める疾患は認められにくいようです。

もっとも、回復の見込みがないということがポイントとなっており、精神病の種類が限定されているわけではありません。重度の精神病を理由に離婚を申し立てる際は、以下のようなものが証拠となり得ます。

・医師の診断書
・長期かつ継続的に治療を続けていることがわかる書類
・生活やコミュニケーションにどれほど支障があるのかを推測できる日記・知人などへの聞き取りメモ

配偶者が回復見込みのない重度な精神病を患っていることを理由に離婚する場合は、離婚後の元配偶者の生活が守られていることを示さなければなりません。誰が世話をするのか、生活費や治療費をどうするのかといった具体的な目処が立たなければ、離婚は認められないと判断された例もあります。

その他

今まで紹介してきた4つの条件にはあてはまらないものが「その他」です。たとえば以下のようなことが挙げられます。

・DV
・モラハラ
・性格の不一致
・アルコール中毒・薬物依存
・犯罪による服役
・過度の宗教活動
・ギャンブル、浪費
・配偶者の両親、親族との不和

このようなことが一概に離婚原因として認められるわけではありません。裁判所があらゆる事情を考慮し、総合的に判断することになります。

自分が原因を作った側だと離婚は認められない

自分が離婚原因を作ってしまった場合、離婚請求をおこなっても法的に認められることは原則としてほぼありません。たとえば自分が不倫をし、不倫相手と一緒に暮らしたいといった理由で離婚を求めるケースなどです。どうしても離婚したいなら、配偶者と話し合い合意してもらう必要があります。

けれども、以下のような場合では例外的に、原因を作った側の離婚請求が認められることもあります。

・別居が相当長期間続いている
・子どもがいない
・すでに子どもが独立しており、自分で生計を立てている
・離婚しても元配偶者が負担なく生活できる

裁判所はさまざまな事情を考慮しながら慎重に判断するため、上記の条件を満たしている場合であっても離婚が認められないケースは多くあります。自分が離婚原因を作ってしまった場合は、自らの希望で離婚することは難しいのが現実です。

離婚するときに夫婦で決めておきたい6つの条件

どのような方法で離婚するにしても、離婚後の生活に見通しを立てておくことが大切です。そうすることでスムーズに生活をスタートできるからです。本章では、離婚するときに夫婦間で決めておきたい条件を6つ紹介します。

子どもの親権者

未成年の子どもがいる場合は「どちらが親権をもつのか」を決めておく必要があります。親権とは、未成年の子どもの養育や財産管理、子どもに関する法的な行為を代行する権利のことです。

婚姻中は両親が親権者となっていますが、離婚をするといずれか一方が親権をもつことになります。子どもが小さい場合は母親が親権者となることが多く、15歳を超えると子どもが親権者について意見を述べられます。

未成年の子どもがいる場合は、親権者を決めていないと離婚できません。親権者は夫婦の話し合いで決めます。話し合いで決められない場合は、調停や審判、裁判など法的な手段をとり、裁判所の判断を仰ぐことになります。

養育費

子どもがいる場合は「養育費」についても決めておきます。養育費とは、生活費や教育費、医療費など子どもにかかわる費用のことです。離婚するか否かにかかわらず、親の義務として支払わなければなりません。

養育費の金額は夫婦で話し合って決めるのが原則です。具体的な金額は夫婦それぞれの収入や子どもの数、年齢などによって異なります。裁判所から「養育費算定表」が公開されていますので、目安にしてみてもよいでしょう。

また、養育費の支払いは原則として子どもが20歳になるまでとされています。ただし、大学進学を見越し、支払いの期間を延長して指定することも可能です。

養育費については、決めていなくても離婚できます。しかし、離婚後は相手と連絡を取りにくくなってしまい、うやむやになってしまうこともあるでしょう。また、養育費は、原則として請求した時点から支払い義務が生じるため、期間をさかのぼって請求することはできません。子どもの生活を守るためにも、養育費について具体的に決めてから離婚するほうがよいでしょう。

参考:裁判所- 平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について

面会交流

子どもがいる場合には「面会交流」についても決めておきましょう。面会交流とは、子どもと一緒に暮らしていない親が子どもと会うことをいいます。

本来子どもにとっては、親と自由に会えるのが理想です。しかし、親が離婚した場合、なかなかそうもいきません。そこで面会交流の頻度や方法、事前の連絡手段などを、あらかじめ具体的に決めておくことをおすすめします。

面会交流についても夫婦で話し合って決めることになります。話し合いがうまく進まない場合などは調停で決めることも可能です。その場合は、子どもの年齢や性別、性格などに加え、子ども本人の意思も聞きながら話し合うことになります。

財産分与

離婚するときには「財産分与」についても明確にしておきましょう。財産分与とは、婚姻中に得た財産を公平にわけることをいいます。名義にかかわらず、結婚後に築き上げた財産が分与の対象です。

ですので、専業主婦の人で収入がなくても、結婚後に夫の給料で積み立てた貯蓄の分与が受けられます。ただし、独身時代のお金や相続した財産はその人個人の財産とみなされるため、財産分与の対象にはなりません。

あらかじめどの財産が分与の対象となるのか、把握しておきましょう。なお、財産分与ではマイナスの財産、つまり借金やローンなども対象となる場合がありますので頭に入れておいてください。

年金分割

離婚するときには「年金分割」についても話し合っておく必要があります。年金分割とは、婚姻中に納めた年金を分割し、分割した分をそれぞれ自分の年金にできるという仕組みです。

厚生年金や旧共済年金のみが対象となっており、国民年金や国民年金基金、iDeCoなどの確定拠出年金などは対象外となっています。婚姻中に夫婦で自営業者だった場合は、国民年金のみ支払っていたことになりますので、年金分割の対象とはなりません。

年金分割には「合意分割」と「3号分割」の2種類の方法があります。それぞれに条件がありますので、どちらの方法を利用できるのか確認しておきましょう。

慰謝料

離婚の際、原因を作った側に「慰謝料」を請求できます。慰謝料を請求するかどうか、請求する場合どのくらいの金額にするのかといったことは、夫婦の話し合いで決めるのが一般的です。話し合いで合意に至れば、慰謝料の金額に規定はありません。

意見がすれ違い合意できない場合は、調停や審判、裁判で決めることになります。この場合、慰謝料の金額は離婚原因や婚姻期間の長さ、苦痛の大きさなどから総合的に判断されます。場合によって異なりますが、おおよその相場は50万~300万円くらいです。

なお、慰謝料が請求できるのは不貞行為やDV、悪意の遺棄など、違法な行為があった場合に限られています。性格の不一致といったケースでは、基本的に慰謝料の請求はできません。

離婚する際の条件を整理しておこう

離婚について夫婦で話がまとまらない場合、離婚するには本稿で紹介した5つの条件のいずれかにあてはまる必要があります。相手が離婚を拒否しそうな場合は、法的に離婚が認められそうかどうか確認しておくとよいでしょう。また、離婚後の生活をスムーズにはじめるには、離婚時にいろいろなことを決めておく必要があります。本稿で紹介した6項目についてしっかりと理解しておいてくださいね。


白谷 英恵

【監修】白谷 英恵
弁護士。神奈川県弁護士会所属。同志社大学商学部卒業、創価大学法科大学院法学研究科修了。離婚・男女問題、相続問題などの家事事件を中心に、交通事故や刑事事件など、身近な法律問題を数多く取り扱う。家事案件をライフワークとして、役所での女性のための相談室の法律相談員や弁護士会での子ども人権相談の相談員、相続セミナーなどにも積極的に取り組む。

>>所属団体のサイトを見る