未婚で出産したシングルマザーの中には、「子どもを認知してもらえないと、子どもの父親に養育費を請求できない?」など、養育費や認知のことで悩んでいる人も多いのではないでしょうか。本稿では、養育費を請求できるケースや認知してもらう方法などをわかりやすく解説します。加えて、認知を拒否する父親への対応方法や、認知させる法的な手続きも紹介します。養育費と認知に関する知識を整理し、今後に活かしていただけますと幸いです。

監修:弁護士 白谷 英恵

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認知とは?

認知とは、結婚していない男女の間に生まれた子どもを、男性側が「自分の子どもである」と認めることです。認知されることによって、父親と子どもの間に法的な親子関係が生じます。

親子関係が生じるメリットには、以下のようなことがあげられます。

・養育費を請求できる
・子どものためになる
・子どもが相続権を得られる

子どもが認知され法的に親子関係が成立すると、父親に子どもを扶養する義務が発生します。そうなると母親は、子どもの養育費を父親に請求できるようになります。もし父親が養育費の支払いを拒否した場合でも、法的手段により強制的に支払わせることが可能です。父親から養育費を受け取れると、子どもに十分な教育や安定した生活を与えやすくなるでしょう。

また、認知されることは子どもの精神面にも良い影響があります。ある程度の年齢になり、自分のルーツを知りたいと感じる子どもに父親を明かしてあげられることは、子どもの健全な成長にとって大切なことでしょう。

さらに、法的な親子関係が存在していれば、父親が死亡した場合に、子どもが相続権を得られます。父親に新たな家庭があり、別の子どもがいる場合であっても、相続権は発生します。認知された子どもであっても相続の場面で法律上不利になることはありません。

養育費と認知の関係について

未婚のシングルマザーが子どもの父親から養育費をもらう方法は、以下のいずれかです。

➀相手と交渉し、認知なしで養育費の支払いを約束してもらう
②相手に認知してもらい、養育費を支払ってもらう

それぞれのケースについて解説します。

相手と交渉し、認知なしで養育費の支払いを約束してもらう

「認知されなければ養育費をもらえないのでは?」と考えている人もいるでしょう。しかし、父親が養育費の支払いを約束し、金額的にも合意している場合は、認知なしで養育費を支払ってもらえます。ただし法的な扶養義務に基づく養育費ではないため、支払いが滞ったとしても強制的に支払わせることはできません。

認知なしで養育費が支払われるのは、決して珍しいケースではありません。しかし、「できれば払いたくない」と感じる父親も一定数みられます。認知なしで養育費を支払ってもらえるかどうかはケースバイケースでしょう。

中には、「認知しなくてもいいから養育費を支払ってほしい」と、認知しないことと養育費を交換条件にしてしまうシングルマザーもいるようです。しかし、認知請求権は個人が自由に放棄することはできないと決められているため、このような交渉はそもそも法的には成り立ちません。

父親が生きている限り、子どもには認知を請求する権利があるため、母親が、子を認知しないことと引き換えに養育費の支払いを求めるということはできないのです。

相手に認知してもらい、養育費を支払ってもらう

父親が養育費の支払いに応じてくれない場合、まず認知によって父親と子どもに法的な親子関係を生じさせます。そのうえで、父親に発生する子どもに対する扶養義務に基づいて、養育費を請求することになります。父親が養育費の支払いに応じてくれない場合に必要となる「認知」に関しては、次章で詳しくお伝えします。

父親に子どもを認知してもらう手続き

子どもを認知する方法には以下の2つがあります。

➀任意認知
②強制認知

まずは任意認知してもらえるか交渉し、難しい場合は調停や訴訟という法的な手続きをへて強制認知してもらうことになります。それぞれについて、詳しくみていきましょう。

任意認知

任意認知とは、父親がみずからの意思で子どもを認知することです。子どもが未成年の場合は、子どもや母親の同意も不要で、父親の意思だけで認知できます。ちなみに、父親はまだ生まれていない胎児を認知することも可能です。その場合は胎児の母親の承諾が必要になります。

任意認知をするには、父親もしくは子どもの本籍地・住所地のいずれかの役場へ、認知届などの必要書類を提出します。

強制認知

父親が任意認知しない場合、母親は調停を申し立てることができます。認知の訴えは、裁判を起こす前にまず調停をおこなわなければならないという「調停前置主義」が適用されます。まずは、父親の住所地を管轄する家庭裁判所などに認知調停を申し立てましょう。

認知調停では調停委員を介して話し合いを行い、以下のいずれかに行きつきます。

➀父親が「自分の子どもである」と認め、認知届を提出する
 →この場合は認知調停を取り下げることになります。

②父親が「自分の子どもである」と認めるものの、認知届を提出しない
 →家庭裁判所による調査がおこなわれ、親子関係の正当性が認められると、認知の審判が下されます。審判によって認知が確定したら、確定した日から10日以内に認知届を提出することが必要です。

③話し合いを重ねても、父親が「自分の子どもである」と認めようとしない
 →認知訴訟を起こすことができます。父親と子どもの親子関係が成立するかどうかを裁判で争うことになります。父親・母親双方の主張や、調査によって明らかとなった証拠などから親子関係が成立すると判断されると、父親が拒否していたとしても、強制的に認知が成立します。判決によって認知が確定する場合も認知届の提出が必要です。認知が確定したら、確定した日から10日以内に認知届を提出しなければなりません。

養育費について取り決めたことは公正証書にしよう

養育費について合意した内容は、公正証書で残しておきましょう。公正証書とは、法律の専門家である公証人が法律に基づいて作成する公文書です。

養育費のようにお金がからむ事項に関しては、「強制執行認諾文言」のついた公正証書にしておくと安心です。

「強制執行認諾文言」とは、「金銭債務の履行を遅滞したときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した。」というような文言のことで、わかりやすく言い換えると、「お金を支払わなかった場合、強制執行を受けることを了承します」という意味です。

この文言を公正証書にしておくことで、相手が養育費を支払わない場合でも、裁判を行うことなく早急に相手の財産を差し押さえることができます。特に、認知なしで養育費を支払う約束をする場合は、その旨を公正証書に残し、法的な拘束力をもたせておくことをおすすめします。

公正証書について、詳しくはこちらの記事も参考にしてみてください。
公正証書の作成方法|作成のメリットと流れを弁護士が解説!

養育費と認知に関するQ&A

ここからは養育費と認知に関してよく聞かれる質問に回答します。

相手が認知に否定的。認知調停では何が証拠になりますか?

認知調停や認知訴訟などで、親子関係を証明する有力な方法が「DNA鑑定」です。DNA鑑定はほぼ100%の精度があり、今の世の中で親子関係を判断する証拠としてはもっとも信頼性が高いとされています。

ただし父親がDNA鑑定を拒否する場合、強制することはできません。父親の合意を得られない場合は、妊娠時期にその男性と性交渉をおこなったことや、その男性以外と性交渉がなかったことなどを証明する必要があります。過去のメッセージやメモなどが証拠になり得ますが、これだけでは親子関係がある証拠にはなりません。

とはいえ、DNA鑑定を拒否する男性側のスタンスは、審判や判決をくだす裁判官の心証を悪くする可能性があります。DNA鑑定を拒否することで「暗に親子関係を認めているのでは?」と判断されかねないからです。

そのため、父親にDNA鑑定を拒否された場合でも、できるだけたくさんの状況証拠を提出することで、親子関係を認めてもらえる望みはあるでしょう。

どのくらいの額を相手に請求したらいいのかわからない。目安はありますか?

養育費を請求する際は、その額を決める必要があります。どのくらいの額を請求できるのかわからない場合は、家庭裁判所がWebサイトで公開している「養育費算定表」を参考にしてみるとよいでしょう。

養育費算定表には、養育費の目安が記載されています。なお養育費は、養育する子どもの年齢や人数、父親・母親の職業、父親・母親の年収によって異なります。一般的に、子どもの年齢が高く人数が多いほど、また父親の年収が多いほど、多くの養育費を請求することが可能です。

詳しくはこちらのページでご確認ください。
裁判所 – 平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について

養育費は過去の分も請求できますか?

認知されると、出生時からの親子関係が認められます。しかし、出生時からの養育費を請求できるかというと、そうとも限りません。過去には出生時にさかのぼって養育費を認めた例もありますが、養育費の請求時以降しか認められないケースもあります。

過去にさかのぼって養育費を請求できるかどうかは、個々の事情によって判断が異なります。養育費を多く支払ってほしい場合は、できるだけ早めに請求の手続きを行いましょう。その際、養育費を請求したことがわかるよう、配達証明付の内容証明郵便を送るなど、証拠となり得る方法で請求することをおすすめします。

養育費の請求や認知の依頼について前向きに検討しよう

養育費は、子どもとの安定した生活や子どもの健全な成長のために役立つ正当なお金です。父親に認知してもらえると、養育費の支払いも父親の義務となります。中には「認知してもらわなくてもいいや」と思っているシングルマザーもいるでしょう。しかし、養育費をもらいやすくするためだけではなく、子どもの将来のためにも、認知について改めて検討してみることをおすすめします。


白谷 英恵

【監修】白谷 英恵
弁護士。神奈川県弁護士会所属。同志社大学商学部卒業、創価大学法科大学院法学研究科修了。離婚・男女問題、相続問題などの家事事件を中心に、交通事故や刑事事件など、身近な法律問題を数多く取り扱う。家事案件をライフワークとして、役所での女性のための相談室の法律相談員や弁護士会での子ども人権相談の相談員、相続セミナーなどにも積極的に取り組む。

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