金融商品や保険商品の販売をしていない、「完全に中立な立場のFP」としてご活躍中の井上美鈴さん。お子様が4歳の時に離婚を経験され、養育費の強制執行などもご経験されました。優しい人柄がにじみ出る井上さんですが、離婚を考え始めてからお子様を育て上げるまでどういった苦楽があったのか語っていただきました。

経済的DVという言葉もなかった時代、自分が悪いのではと悩む日々

―まず、井上さん自身の離婚当時の状況について教えてください。

離婚原因は、いろんな要因が絡み合って1つではないのですが、1番大きかったのは金銭的価値観の相違でした。新婚旅行から帰って、新生活を始める時から生活費がもらえない状況でした。結婚生活は、いつもお金のことでケンカをしていました。出産を機に仕事を辞めたあとは、わずかながらもらえるようになりましたが、足りない分は、自分の独身時代の貯金から出していました。「家族で生活していくための先のお金がない」「貯金がない」ということに、ものすごい恐怖を感じました。

―いや、恐怖ですよ。

この先、どうなっちゃうんだろうっていう。

―家計のやりくりはご自身でやられていた、ということですか。

生活費がもらえたりもらえなかったりで、もらえても月10万円を超えたことはありません。その中でやりくりをするようにと言われて、やっていました。

―今で言う「経済的DV」にあたるんですかね?

私の時代はそんな言葉もなかったので、当時は「自分が置かれてるこの状況って一体何なんだろう。私が何したんだろう」と思っていました。元夫の個性というより、私が何かしてしまったからこうなってしまったのではないか、と考えてしまっていました。

―モラハラとかもそうですよね。今でこそモラハラっていう言葉があって、ちょっと浸透してるから、「私が置かれてる状況ってもしかして…」と気付けますけど、 わからないとなかなか気付けないですよね。

気付くチャンスもなく、悶々とした日々を過ごしていました。そういう生活を送っていると、体にも影響が出てくるんですよね。

アナフィラキシーショックが起こるようになりました。たまにじゃなくて、週に何回も起きてしまって。病院に行っても、住んでいるところが高速に近いマンションだから、新築のマンションだから、それがアレルギー源になってるんだろうと言われました。何が原因なのか自分でもわからなくて、もう全てがぐちゃぐちゃでした。

―それ絶対ストレスですよね。

それもあったと思います。

―きっと生活のストレスもあったんでしょうね。

後になって「そういえば、別居してから1回もアナフィラキシーが起こっていないな」と気づきました。

―そうすると結婚当初からモヤモヤをしてたっていうことですよね。

結婚当初から子どもができるまでは共働きでした。生活費が入らなくてモヤモヤしても、自分に収入があったので家計的にはなんとかなっていました。私が出産を機に仕事を辞めた時に「こうなっても、やっぱりもらえないんだ」とわかりました。

―そうすると、この関係厳しいなって、離婚っていう言葉がちらほら浮かんでくる状況だったと思うんですけど、どうしようかなって悩んだ時期が続いた感じですか?

結婚当初からモヤっと違和感を感じていて。それが妊娠、出産を機に、はっきりと分かるようになって。それでも、子どもが産まれたら徐々に変わると期待し続けていました。結局、3年まるまる悩んでるような状態が続いていましたね。

―モヤモヤっとした感じから、もう離婚しかないなって思うまで、離婚に関して1番不安だったことってなんでしたか。

当時は、自己肯定感がものすごく下がっていました。自分が至らないからこういう状況に陥ったんじゃないか、私の我慢が足りないんじゃないかと思ってしまっていて。離婚しても、こんな自分ではうまく生活できるはずがない、仕事と子育てを1人でしていく体力があるのか、と不安でした。

「離婚する」という揺るがない気持ちで乗り越えた2年間の裁判

―井上さんは裁判されたと聞きました。しかも結構長期間でしたよね。

別居から2年半ですね。弁護士さんに入ってもらっていました。

―結構2年って精神的に・・。私たちのお客様でも長期戦に入ってしまって、裁判所へ行ったりと動かなければいけないこともそうですが、そもそもの協議のストレスが多くあるとよく聞きます。井上さんは2年半どうやってモチベーション保ってましたか。

一番暗黒の時代でしたね。調停や裁判では、相手はあることないことを言ってきます。もう離婚することは自分の中ではっきり決めていたので、そこは揺るがないんですが、前を向いて新たな生活をしていこうという気持ちと、裁判でのやり取りで過去に引きずられる気持ちが綱引きしてる感じでした。

また、経済的にもつらい状況でした。裁判が終わるまでの2年半、一度も婚姻費用が支払われませんでした。離婚が成立すれば、ひとり親の手当がもらえますが、離婚前はいただけません。裁判が長期戦になったらと思うと、不安でいっぱいでした。

その当時、私と似たような経緯で離婚されていたシングルマザーの方が、ホームページで日々の生活を発信されていました。離婚後何年か経ち、お子さまと前向きに楽しく生活されている様子に「今を乗り越えれば、こんな生活を送れる日がくるのかな。」と希望が持てました。

―調停などでも、感情的になるのはマイナスだから、できるだけ冷静に、とアドバイスさせてはいただくのですが、現実はちょっと難しく、自分の気持ちを冷静に保つのはなかなか大変ですよね。裁判をして離婚が成立されましたが、井上さんは働かれていたんですか?

別居した2カ月後には仕事をしていました。当時は体調を崩していたので、まずは体調を治すことを最優先に考えました。子どもを保育園に預けるまでは短時間のパートタイムで、預けてからはフルタイムにしました。

―徐々に、という感じですね。元々は何の仕事をされていましたか。

独身時代は新卒で証券会社の窓口営業を5年、その後、証券会社時代の同期が転職していた人材派遣の会社に呼んでいただき、4年ほど正社員で働いていました。

―証券会社にいらっしゃったので、お金の知識とかはあったと思いますが、FPの資格を取ろうと思ったきっかけは何でしたか。

裁判をしていた時期は、元々いた証券会社で非正規職員で働いていました。上司から、会社が指定した資格であれば資格取得のための費用は出しますと言われ、軽い気持ちでFP資格を取りました。当時は、今こうしてFPの仕事をするようになるとは全然思っていませんでした。

FPという仕事を通じて、自分と同じ境遇の人の力になりたい

―FPを仕事としてやろうと思ったきっかけはなんでしたか。

離婚が成立して1年ほどたった頃、やっと気持ちに余裕が出てきました。その時に「いつか、私と同じようなひとり親やこれから離婚する方のために、何か役に立つような活動ができたらいいな。」と漠然と思いました。私がお役に立てる分野は、「離婚前の方やシングルマザーの家計管理」だと思いFPとして独立しようと思いました。

―離婚がきっかけだったってことですよね。

そうですね。今、離婚の情報を得ようとすると、ネット検索が一般的です。私の時代は、ネット検索はまだまだ一般的ではなかったので、図書館で調べていました。また、ひとり親専用の相談窓口がある自治体も少なかったので、どこに相談したらよいかも悩んでいました。離婚経験者やひとり親の方も周囲にいませんでした。ちょっとしたことでも聞ける経験者が傍にいれば安心できたのではと思います。先ほどお話した、シングルマザーの方のホームページに自分が救われていたことも大きなきっかけです。

―相談先がなかったり、情報収集できる術がないのは、離婚にあたって相当不安ですよね。その中で井上さんは、離婚に関するサポートができればと考えたってことですね。

同じ離婚といっても、人によって事情やプロセスはさまざまですが、私は人よりちょっと多くの経験を積んでしまいました。裁判や強制執行についてなど、その時々でいろんなこと調べました。せっかく調べたことが、少しでも皆様のお役に立てればと考えました。

―ずばりそこですね。井上さんは養育費の強制執行をご経験されていますよね。皆さん離婚の時に「万が一の時が怖いからちゃんと書面に残そう」って、公正証書や調停調書を作って、この書面があれば、万が一元夫が養育費を払ってくれなくても、財産の差し押さえができるから大丈夫だって思ってらっしゃる方って、結構多い気がしていて。でもいざ強制執行をする、となった時に、どうしたらいいかわからない。裁判所がやってくれるって思っている方も多いんじゃないかなと思っていて。井上さんご自身が強制執行しようと思ったのは、そういった書面があったからですか。

裁判をしたので書面はもちろんありました。ですが、養育費をあてにしないで生活はしなきゃいけないと思って家計のやりくりをしていました。生活は回っていたので、未払いになった時も催促はしてなかったんですね。そのうちに、1年、1年半と全く払われない状態が続いて、ふと子どもがかわいそうになったんです。全額でなくてもいいから、父親として月5000円でも1万円でもいいから、とにかく子供のために継続的に払ってほしいって思ったんですね。それで、強制執行をしようと思いました。

―そうだと思います。もちろんお金も大事なんですけど、やっぱりそこですよね。

養育費って、子どもと一緒に生活しない父親の大きな愛情表現だと思うんです。だから、継続して払ってほしいと思っていました。

―子どもにとってはお金というより、お父さんが自分のために払い続けてくれるというところですよね。 お子さんのために踏み切ったっていうことですね。実際に強制執行って大変だったと思うんですけど、弁護士に依頼したということでしょうか。

はい。離婚の時にお世話になった弁護士さんにまず相談しましたね。ただ私も元々は好きで結婚した夫です。強制執行することで、夫の会社での立場がどうなってしまうんだろう、って最初は躊躇していました。

―すごい!私なら絶対優しくできない。井上さんいい人すぎます(笑)。強制執行を行う中で何が1番大変でしたか。「すごい大変」と聞きますが、実際に強制執行された方の話ってあまり聞いたことなくて。

書類の準備は、養育費が振り込まれるはずの銀行口座の取引履歴を取り寄せて、払われてない証明を取る、とかですね。書類を準備したあとの手続きはすべて弁護士さん任せですので、そこまで大変ではありませんでした。ただ、お相手にほかに強制執行されている案件があると、会社と弁護士さんの間でのやり取りではなくて、供託所というところも絡んできます。相手の経済状況などを踏まえて配分するので、未払いになっていた養育費を回収するまでにすごい時間かかります。手続きをしても全額をすぐに回収できないケースもあるので、養育費ありきで生活費のやりくりをしていたら大変だと思います。

―なんでも自分でやろうとするのではなくて、離婚時の弁護士さんがいらっしゃるのであれば、一度相談した方がいいかもしれないですね。

シンプルな案件であれば、強制執行は自分でできるのかもしれません。私の場合は複雑だったため、プロの力を借りないと難しかったかもしれないですね。

―いざその未払いが起こった時に、「どうやって対処していけばいいんだろう」って、結構皆さん悩んでいらっしゃいます。その辺の情報も合わせて伝えていけたらいいなと、日々活動はしているのですが、なかなかやっぱり経験した人の話が少ないので伝えるのが難しいですね。お相手もいることなので、経験者も話しづらいところもありますよね。

後編はこちら

離婚時のお気持ちやご自身のキャリアとしてFPを選択された理由について語っていただきました。後編ではさらに、FPという仕事への想いを深堀して聞いていきます!