夫婦としての関係性は破綻しているものの、子どもがいることや経済的な不安があることなどを理由に、別居や離婚をせず家庭内別居を選ぶケースがあります。本稿では、家庭内別居の具体的な特徴やメリット・デメリットのほか、家庭内別居をはじめる際に知っておくべきポイントや、家庭内別居のその後についても解説します。子どもがいる人は、家庭内別居が子どもに与える影響についてもご確認ください。
監修:弁護士 白谷 英恵
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目次
家庭内別居とは?
家庭内別居とは、夫婦としての関係性は失われているのに離婚をせず、同居を続けている状態をいいます。子どもがいたり経済的な不安があったりするなど、さまざまな理由で家庭内別居を選ぶケースがみられます。
では、家庭内別居にはどのような特徴があるのでしょうか。また、似たニュアンスの言葉に「仮面夫婦」もありますが、家庭内別居とどのような点が違うのでしょうか。本章では、家庭内別居の特徴と、仮面夫婦との違いについてお伝えします。
家庭内別居の特徴
家庭内別居になると、以下のような特徴がみられます。
・コミュニケーションをとらない
・別々に洗濯などの家事をする
・別々に食事をとる
・別の寝室で休む
・生活費を別々に管理する
・子どもがいる場合、子どもはどちらか一方の親につきっきりになる
上記からもわかるように、家庭内別居は「夫婦ではない赤の他人と同居しているような状態」です。しかし中には、生活費をある程度共有する、子どもに関することは話すといった状態で家庭内別居を続けている人もいます。明確な定義はないため、ケースによって家庭内別居の実情はさまざまです。
「仮面夫婦」との違い
家庭内別居と仮面夫婦はどちらも、夫婦としての関係性はなくなっているのに離婚をしない状態を意味して使われる言葉です。しかし、この2つの言葉は、人前での振る舞いかたの違いから異なるニュアンスをもっています。
家庭内別居の場合、人前であっても夫婦のように振る舞わず、そもそも夫婦として人前に出ることもほとんどない状態をさすことが多いです。一方、仮面夫婦の場合、どんなに家庭が冷え切っていても、人前では仲がよさそうな夫婦として振る舞うような2人をさすことが多いです。
家庭内別居にはどのようなメリット・デメリットがある?
本章では家庭内別居のメリット・デメリットについて深掘りします。
家庭内別居のメリット
家庭内別居のメリットには以下の3点があります。
・別居に比べて経済的な負担が少ない
・通勤や通学に影響しない
・周囲に夫婦の不仲を気づかれない
家庭内別居の場合、家賃や水道代、電気代などをひとりで負担しなくてよいため、別居に比べて経済的な負担が少ないでしょう。別居となると住む場所を確保し、引っ越すことになります。家庭内別居の場合、引っ越しの必要はありませんので、引っ越し費用も不要です。
また家庭内別居なら、通勤や通学に影響を与えることがないため、周りの人から変化に気づかれにくいです。現実には同居しているため、周囲に夫婦の不仲を気づかれるリスクも少ないでしょう。職場や学校、近所でうわさになりにくいので、家庭外では今まで通りの生活を続けられます。
家庭内別居のデメリット
家庭内別居のデメリットには以下の3点があります。
・ストレスがたまる
・不倫されるリスクが高くなる
・子どもに悪影響を与えてしまう
関係が冷めきった相手と同じ家で生活するのは、想像以上にストレスがたまるものです。相手の足音や咳払い、部屋の汚れ、ゴミの分別といったささいなことで、イライラはたまってしまいます。
また家庭内に居場所がなくなったことがきっかけで、相手が不倫をしてしまうかもしれません。通常、婚姻中に不倫があった場合、不倫された側は慰謝料を請求できます。しかし、家庭内別居で夫婦としての関係性が破綻している状態だったとみなされると、慰謝料が認められないこともあります。
自分の精神状態が不安定なときに、相手は好き勝手やっていた、しかも慰謝料は取れないとなると、精神的な負担はかなりのものになるでしょう。
さらに子どもがいる場合は、子どもに悪影響を与えてしまいます。こちらについては次章で詳しくお伝えします。
家庭内別居が子どもに与える影響は大きい
家庭内別居は子どもに少なからず影響を与えうるものです。子どもは親が想像する以上に、親の顔色や家庭内の雰囲気に敏感です。両親が話さない、顔を合わせない、別々に食事をするといった状況は、子どもにとって大きなストレスとなってしまうでしょう。
ある程度大きい子どもの場合、両親の空気感を察知し、自分なりの対処ができるかもしれません。話せばわかってくれる子どももいるでしょう。とはいえ、家庭内の雰囲気が不穏だと、家庭が安心できる居場所ではなくなってしまいます。問題行動につながったり、ストレスをため込んでしまったりすることも懸念されます。
小さい子どもの場合、不穏な空気感に自分で対処することはできません。中には、「自分のせいでパパとママは仲良くないのかな?」などと自分自身を責めてしまうこともあるでしょう。子どもの成長や人格形成にも大きな影響を与えてしまうかもしれません。また、大きな不安を抱えながら成長することで、トラウマとなってしまうことも考えられます。
このように、家庭内別居は子どもに悪影響となるリスクが大きいです。このような点からは、「別居や離婚するよりもまだいいだろう」などと安易に考え、家庭内別居を選ぶのは避けたほうがいいと言えるでしょう。
家庭内別居を始めるにあたり知っておくべきポイント
家庭内別居をはじめることに決めたら、以下の3点について理解しておきましょう。
・最低限のルールを決める
・子どもに配慮した生活をする
・どのような形で終わりにするのか決める
それぞれみていきましょう。
最低限のルールを決める
家庭内別居をする際、お互いに過度なストレスを感じないためにも、最低限のルールを決めておくとよいでしょう。
生活費の負担についても最低限のものは決めておくことをおすすめします。ルールを決めておけば、相手の行動に敏感になってイライラする必要もありません。とくに、お金に関してはトラブルにつながりやすいです。家賃や光熱費などについて、どのように負担するのか決めておくとよいでしょう。
最低限のルールによって適度な距離感を作ることは、お互いの精神状態と関係性を悪化させないために大切です。
子どもに配慮した生活をする
前述のとおり、家庭内別居は少なからず子どもに悪影響を与えうるものです。そのため、子どもがいる夫婦が家庭内別居をはじめる場合は、子どもに配慮した生活を送ることが大切です。
子どもへの影響を考え、「子どもの前でお互いの悪口を言わない」「子どもの前でケンカしない」といったことは徹底しましょう。
加えて、子どもとの接し方についても決めておきます。子どもが小さいなら家庭内別居に気づかれないようにしたり、子どもがある程度大きいなら事情を説明したりするのもよいでしょう。いずれにせよ、子どもの気持ちを第一に考え、子どもの気持ちによりそった判断をしましょう。
どのような形で終わりにするのか決める
家庭内別居をする際は、どのような形で終わりにするのかという着地点を決めておくことをおすすめします。なぜなら、家庭内別居は習慣化すると、その状態がズルズルと続いてしまいやすいからです。
ある調査によると、家庭内別居から離婚にいたった夫婦のうち、家庭内別居を1年以上経験したというケースは半数にのぼりました。5年近く家庭内別居をしていたケースも多くみられるなど、家庭内別居は長引く傾向があるようです。ズルズルと長引かないようにするためにも、離婚するのか、夫婦関係の修復をめざすのかについて考えておきましょう。
家庭内別居から別居する場合に気をつけたいこと
同居のストレスに耐えられない場合や本格的に離婚に踏み切る場合は、家庭内別居をやめて別居をはじめるケースが多いです。別居前には以下の3つの行動をすませておきましょう。
・別居理由を相手に伝えておく
・共有財産を把握しておく
・引っ越し先や仕事を決めておく
そもそも夫婦が別居する際には、正当な理由が必要です。家庭内別居をしている場合は、夫婦としての関係性がすでに破綻していると考えられるため、「別居をはじめる正当な理由」に該当すると考えられます。
ただし、相手に何も言わずに家を出ていくと「悪意の遺棄(※)」にあたる場合があります。そのように判断されると、離婚において不利になることもありますので、何らかの方法で別居することを相手に伝えてから家を出るようにしましょう。
また、別居をすると共有財産の把握が難しくなります。共有財産とは、婚姻中に夫婦で築き上げた財産のこと。預貯金や不動産、家具といったプラスの財産だけでなく、住宅ローンのようなマイナスの財産も含まれます。共有財産を正しく把握できていないと、離婚時の財産分与で損をしてしまうこともありますので、別居前に把握しておくようにしましょう。
そのほか、別居をするには住まいが必要です。引っ越し先を探したり、引っ越し費用を作ったりといったこともすすめておく必要があります。
相手の収入が自分の収入よりも多い場合は、婚姻費用(別居中の生活費)を支払ってもらえます。しかしそれだけに頼っていると、相手の支払いが滞った場合に自分の生活が不安定になってしまいます。とくに専業主婦が家を出て別居する場合は、別居前に仕事を決めておくほうが安心でしょう。
▶こちらの記事では別居する際に知っておくべきことをまとめていますので、ぜひ参考にしてみてください。
離婚に向けた別居は必要?生活費や手順、子どもはどうする?
※悪意の遺棄については、こちらの記事をご覧ください。
弁護士が解説|悪意の遺棄とは?
家庭内別居から離婚する場合について
家庭内別居から別居を経ることなく離婚をするケースもあります。本章では、家庭内別居から離婚をする場合についてお伝えします。
一般的な離婚のすすめ方とは
一般的に離婚は、まず当事者同士の話し合いによる解決をめざします。話し合いで成立する離婚を「協議離婚」といいます。協議離婚の場合は、当事者同士が納得していれば、どのような理由であっても離婚可能です。
話し合いでの合意ができない場合は「離婚調停」にすすみます。離婚調停とは、調停委員が夫婦の間に入って行われる話し合い(調停)で成立する離婚のことです。
▶離婚調停については、こちらの記事をご覧ください。
離婚調停の期間はどのくらい?生活費や恋愛などの注意点も
調停の場でも合意できない場合は「裁判離婚」へすすむことになります。裁判離婚では裁判官が離婚請求を認めるべきかどうかを判断します。裁判離婚が認められるためには、不貞行為や暴力等といった法的な離婚原因が必要です。
▶裁判離婚に関しては、こちらの記事で詳しく紹介しています。
裁判離婚はほかの離婚とどう違う?メリット・デメリット解説
離婚するときに夫婦で決めるべき条件と公正証書について
離婚する際は、以下の6つの条件を決めておきましょう。
条件 | 概要 |
---|---|
財産分与 | ・婚姻中に夫婦で築き上げた財産を平等にわけること ・共有財産の正確な把握が重要 |
年金分割 | ・婚姻中に納めた年金を分割し、自分の年金として受け取れること ・対象は、厚生年金と旧共済年金のみ |
慰謝料 | ・DVや不貞行為、悪意の遺棄のような違法行為があった場合のみ請求可能 ・性格の不一致が離婚原因である場合は請求不可 |
子どもの親権者 ※未成年の子どもがいる場合 |
・親権者が決まっていないと離婚できない ・子どもが小さい場合、母親が親権者となることが多い |
養育費 ※子どもがいる場合 |
・金額や支払い方法などを決める ・時期をさかのぼっての請求は原則できない |
面会交流 ※子どもがいる場合 |
・面会は子どもの健全な成長のために必要な機会 ・頻度や方法、事前の連絡手段を決める |
▶離婚するときに夫婦で決めるべき条件については、こちらの記事をご覧ください。
離婚するときの条件とは?夫婦で決めておきたい6項目も紹介
離婚の条件が決まったら、公正証書に残しておくのがおすすめです。公正証書は、公証人が当事者の意思を法的な文書にまとめたもので、公証役場に原則20年間保存されます。そのため、紛失や偽造、当事者同士のトラブルを防ぐことが可能です。また、養育費の不払いが起きた場合に公正証書があれば、強制的に不払い分を回収することも可能となります。
▶公正証書の特徴や作成方法については、こちらの記事を参考にしてみてください。
公正証書の作成方法|作成のメリットと流れを弁護士が解説!
家庭内別居に至った理由によっては離婚が認められることがある
家庭内別居の場合も、一般的な離婚と同じように、当事者同士の話し合いで合意できれば問題なく離婚できます。
しかし協議離婚が成立せず、調停・裁判へとすすんだ場合、家庭内別居は法的な離婚原因として認められにくい傾向があります。なぜなら、一緒に住んでいるため、夫婦関係が破綻していると判断するのが難しいからです。そのような場合、法的に認められる5つの離婚原因(民法770条1項)のうち、「悪意で遺棄された」か「その他婚姻を継続し難い重大な事由」で訴えることになります。
家庭内別居が離婚原因として認められにくいのは事実です。しかし家庭内別居に至った理由によっては、調停での話し合いや裁判で離婚が認められることも十分考えられます。
家庭内別居の着地点を冷静に考えてみよう
家庭内別居は着地点がみえにくい状態です。この先離婚をするのか、夫婦関係を修復するのかについて、お互いが冷静に考えてみる必要があるでしょう。とくに子どもがいる場合は、子どもへの影響も考え、できるだけ早めにお互いが納得できる方向にすすんでいきましょう。